第46話 ドレインボイス2

 護と伊織はガブリエルを待っていた。


 近くのファーストフード店で、ドリンクとポテトのハンバーガーセットを注文し、学校で溜まりに溜まった宿題と、ジブリールの魔法の書き取りノートをこなしていたのだが。


「神里君、疑問に思っていたんだけど……」


「何かな? 宮本さん」


「何で他の勉強は並以下で、数学だけずば抜けて成績がいいのかな?」


「さぁ……」


「いいから、言いなさい!」


「いててッ! わかったからやめて。数学てパズルみたいだから、何か面白いかなと」


 護の腕をつねくりながら、伊織は問い詰めた。護は赤点ギリギリの成績ではあるが、何故か数学だけは学年では上位にいる。しかも、数学はパズルだと言い放つ。伊織よりも成績が良くて、伊織は護に嫉妬していたのと、普段から影の薄い存在だった護の意外な一面がまた現れた事に、肩透かしを食らった気分であった。


「じゃあ、神里君、この公式教えて」


「ここはね……こうして、ああして、ここに、この値を挿入すると」


「………合っている」


 試す様に護に問題を教えて貰う伊織。一分もかからずに、問題を解いた護。一瞬目を疑った伊織だが………本物だ。


「君ねぇ……そんな得意分野があったなんて何で話さないの?」


「えっ!? だって掲示板に掲示されるし、別に言う必要あった?」


「うっ……」


 迂闊だった。自分の順位しか見てないから、他人の順位に目をやらなかった伊織。


「おいっ聞いたか? ネウロが俺達魔族だけの世界を作るって話」


「あぁ。聞いた聞いた、本当なら俺達人間界で好き放題だな」


 二人の席の向かい側から、何やら怪しい会話をしている二人組の男がいた。見た目は人間だが、二人はわかった……明らかに魔族だ。


「神里君聞いた?」


「うん。嫌な気配だね」


 小声で護に耳打つ伊織、二人の魔族の会話を盗み聞きする。


「さて、行くか」


 二人の魔族は席を立ち、店を後にする。


「神里君、追うわよ!」


「ち、ちょっと待ってー! じ、持病の尺がぁ」


「あるわけないでしょ! ほら、行くよ!」


 強引に護の腕を引っ張り、後を追う二人。正直護は、乗り気がしない。


「さて、腹が減ったし、人間共を食らうか」


「だな、ネウロから貰ったこのドレインボイスでな。しかもこの辺りは人間達の目に付かないしな!」


 アリサだけでなく、二人の魔族にドレインボイスを渡していたネウロ。相当量産し、ネウロに組みする魔族に渡していていたのだろう。当然、伊織と護はそんな事は全く知らない。


「神里君、私作戦を思いついたんだけど……」


「それで、何で照れてるの? 顔赤いよ」


 作戦を思いついたと言い、中々話を切り出さない伊織。護には何が何だかさっぱりである。


「はいっ」


 そっと手を出し、護に何かを要求する伊織。


「ん?」


「鈍いなぁもう! 恋人のふりをしてあいつらを誘きだすの」


 伊織の発言に耳を疑った。


 確かに、恋人のふりとかなんたらと……。てっきり腕を組んで来るかと思ったら手を繋げと言ってくる。そっと護も手を出し、伊織の手を取る………合体魔法以外で、女の子と手を繋ぐのは人生初めてのイベント。頭の中が真っ白になってしまう。


「やべぇ、ドキドキする……」


 小声で呟きながら伊織と手を繋ぎ、魔族誘きだし作戦開始。人気のない地下道をひたひたと歩く足音、誰か一人くらい居てもいいのに、壁の落書きと冷たい風が二人を包む。


「神里君、ほら、もう少しこっちに寄って、じゃないと恋人に見えないよ」


「そんな事言われましても……」


 しびれを切らし、伊織が護に肩を寄せる。むにゅっ……と柔らかい物が護の腕に。


「おや? ねぇ君達、カップルなの?」


 不意を突くかの様に、魔族の二人組が壁をすり抜け現れた。神出鬼没でいきなりだったから、二人は一杯食わされたかのような表情を見せる。何はともあれ、伊織の作戦通りに事が動き出す。


「まぁ、お兄さん達、そう見えるんですか?」


「当たり前よ! こんな可愛い彼女連れて憎いなこの!」


 こいつら、何を言ってやがる? わざとか? わざとなのか? だが、伊織は可愛いとおだてられノリノリに。


「じゃぁ、二人仲良く死んでみよう」


「「なっ!!」」


「俺達の姿を見た。それは死に値するぜ! 


「きゃあーーっ!! こわーい……ダーリン、助けてー」


「て、うおぉーい」


 急にぶりっ子になり、護の背中に隠れる伊織。なんて、白々しい演技。


「もしもし、伊織様?」


「時間差で魔法仕掛けたから、時間稼いで」


 小声で護に囁く伊織。既に魔法を発動していたとは。それならと、納得し伊織を信じて二人の魔族に立ち向かう。ふと、護の脳裏に紫音ちゃんとの恋愛イベントを思い出してしまった


「おいっ、お前ら! かかってこいよ! 十秒でかたをつけてやるよ」


 親指を立て、そのまま下へ向ける。完全にやる気スイッチが入った護。

 全ては二次元嫁の紫音のため。護は勇気を出して立ち向かう。


「人間の分際で、上等だコラァ!」


 怒り狂った魔族が、二人ががりで護に襲いかかる。

 ……やはり、こうなったか。

 護の手からファイヤーボールが放たれ、二人の魔族を翻弄する。


「「げっ!! お前ジブリールの手先かよ!!」」


 ヤバいと感じ、焦り出す二人の魔族。ジブリールに知れ渡ったらネウロの存在がバレて、二人の魔族も魔界へ強制送還され、魔界の監獄送りになってしまう。


「おいっやべーよ。どうするよ?」


「くっ………」


「おいっどうした? 来ねーのか? やっちゃうよ? やっちゃっていいですか?」


 躊躇しだし、攻撃の手を止めた二人の魔族。それを良いことに、調子に乗り出した護。


 完全に、俺の勝ちだと思い込んだ。


「構わねーこいつらを葬り去ればなんて事はねー!!」


「げっ!!」


 迷いを捨て、二人がかりで再び護に襲いかかる。


「うわぁぁあぁーこっち来んなー!!」


 間髪入れずに、ファイヤーボールとアイスジャベリンを乱射。お構い無しに護まで突っ込んで来る。残り数センチ、護危うし………。


「うぎゃぁぁぁー!!」


「神里君離れて!!」


 間一髪、頭上から光の雨が魔族に直撃。時間差で魔法を仕掛けた、つまり、セイクリッドレインを発動させる時間稼ぎだった。急ぎ魔族から距離を取り、すかさず伊織がセイントアローを解き放ち、二人の魔族を串刺しに。


「終わったね。さっ、ガブリエルちゃんを迎えに行こ」


 涼しい顔して、恐るべし伊織。正直腰を抜かすところであった。


 ライブ終了後、ガブリエルとアリサは途方に暮れていた。


「アリサちゃん……」


「ガブリエルちゃん、巻き込んでごめんなさい」


 ネウロが去った後、何事もなかったかの様に、人間達は会場を片付け始めていた。自分に出来る事はないのか? 何も解決策がないまま、苛立ちばかりが募るばかり。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る