第9話 魔法の国です、コンニチワ

確か、カーミラとの戦いの後、その場で寝てしまったのだが……。


 目が覚めたら、全く知らない部屋に居た。見知らぬ天井、自分の部屋のゲーム機や、パソコンやら、漫画がない。


「どこだここは?うん夢だ……良し……寝るか……」


 ……………寝れるわけがない。


「いやぁぁぁーっ誰か、俺を現実に帰して」


「何騒いでいるの? 神里君」


 夢の中のはずなのに、伊織が護の前に現れた。


 夢なら早く覚めて欲しいと、願うばかりの護。それにしても、伊織の私服姿がまた初々しい。


「もう大丈夫ね、ついてきて、ここがどこか教えてあげるから」


 伊織に連れられ、着いた先は大広間、そこに一人の女性がいた。その女性は、高貴な雰囲気を出し、やたらと巨乳を強調した女性であった。


「ジールさん、神里君を連れて参りました」


「伊織、お疲れ様、神里護君初めまして、この国の女王ジールよ」


「誰?」


「この国の女王様よ、頭が高いわよ、神里君」


 伊織に頭を抑えつけられ、しゃがまされた。


「ここはね、魔法の国ジブリールよ、君達人間界とは違う世界」


「夢なら早く、覚まして下さい」


 まだ現実を認めない護。やりかけのゲームしたり、今日発売の漫画雑誌を買わなきゃいけないのに。


「まだ、現実を認めないのね、いいわ、話してあげましょう、あなたが魔法を使えた理由を、後ね、これまでの戦い見てたわよ、弱いなりに頑張ったわね」


 その誉め言葉に、裏で貶けなした笑いを浮かべるジール。本題に入り、何故護が魔法を使えるのか話しが始まった。


先ずは何故伊織が魔法を使えて今に至る所から始まった。


 さかのぼる事、伊織がまだ保育園児だった頃、神社の境内で遊んでいた幼き伊織。


 魔女ッ子いおりんなどと名乗り、その辺に落ちてた棒を使い、スティック変わりに遊んでいた所、人間界に来ていたジールが声をかけた。


「お嬢ちゃん魔女なの?」


「そうよ、大きくなったら、魔法少女になるの」


 何て可愛らしいんだとジールは思い、幼き伊織に話を切り詰めた。


「お嬢ちゃんが、もう少し大きくなったら、悪者退治手伝ってくれる?」


「うん、いいよ」


 そう言ってジールが手から光を出し、伊織に光を浴びせ、その場を去った。当然幼き伊織は、何されたかわけがわからない。


「どんな魔法使いになるか、楽しみね」


 そして、十年後、ジールの使いが迎えに来て今に至る。


 最初は、記憶になかったがジールの顔を見て、全てを思い出したらしい。


「宮本さん、夢叶ったね」


 護が笑いをこらえながら、伊織に言った言葉に、伊織は私の黒歴史に足を踏み入れるなと、ボディーブローが。


 護の本題に入るが、これがまた酷い話だった。


 それは、護がまだ小学一年の時、車に気につけ、元気に登校と言った矢先、車に跳ねられ重体、病院に運ばれ、生死をさ迷っていた。医者からは、助かる見込みはないと残酷な告知をされ、幼き護は死んだ………。


 泣きじゃくる母、落胆する父の前にジールが現れ、救いの手を差しのべる。


「この先この子に、大きな試練を与えます、それでも良かったら助けますよ」


「お願いします、護が助かるなら」


 両親が深々頭を下げ、ジールにお願いする。


「この先危険な目に合う事もあるでしょう、一億円で、この子を私に預けて貰える? 勿論、日常生活はあなた達と普通に暮らして貰って構わないわ」


「お願いしまーす」


 そして、護が魔法を使える事を、両親は快諾し、護は急死に一生を得た。


 護が一度は死んでいた事より、両親が、軽々一億円の話しに乗らされた事に腹が立ったと同時に悲しくなってきた。


「俺は………一億円で……売られたのね……どうりで最近、我が家の家電が、最新式が出るとすぐ新しくなるわけだ……」


 それはさておき、魔族が何故人間界にいるのか? ジールがどこからともなく、ホワイトボードを持ち出し説明する。


「あなた達が住む人間界、死後あの世と呼ばれる死者が住む冥界、そして、私達が住む魔法の国、神々が住む天界、魔族が住む魔界に別れているのだけれど、ここテストに出るから覚えておきなさい」


 冗談混じりで長々と説明するジール。


「魔族が何故人間界にいるか? それは、先代の魔界の王が人間界の文化にハマり、人間界に行きたがっていたの、そこで、魔界の王は天界に掛け合ったの、今はもう死んでるけど」


 そして、ジブリール側はその立ち会いとして、交渉に出席し、異世界交流法が設立されたと言う。次の条件として、本当の姿を人間達に晒さない事。万が一、人間達に被害を及ぼす行為をしたら、ジブリール側が成敗する約束となっていた、だから、魔法が使える者は魔族の姿が見えていたのだ。


「人間に混じって、普通に暮らしている魔族もいるのよ、全ての魔族が悪い訳ではないわ、しかも、魔族が暮らすに最適な場所があなた達が住む町だったのよ」


 最初に戦ったガーゴイルが、こっちに来た理由も頷けた、ただガーゴイルの場合はドジを踏んでなった結果だが。


「それで、宮本さんは、この女王の手下となったわけですか………」


「ちょっと人聞きの悪い事を言わないで」


 伊織を人間界で悪事を働く魔族対策として抜てきし、伊織だけでは不安だったので、護を候補にあげ、高校で一緒になったのもジールの情報を元に動き、護を監視していたと言う。


 今回のカーミラの事件も、ジールが伊織に指令を出していたのだった。


「神里君ごめんなさい、騙すつもりはなかったけど、協力してくれるかな?」


 天使の様な眼差しで、護の手を握り訴えかける伊織、その瞳の奥に隠された真意が怖い。


「協力してくれたら、伊織の全てを神里君に捧げても、い・い・よ」


「勝手に人の脳内で遊ぶのやめて下さい」


 そんな戸惑う護に、護の脳内を勝手に弄ぶジール。


 魔族さえ、何もしなければ普通に暮らせるし、断ったら、一億円返せとも言い兼ねない。


 一度は死んでいる身、自分の存在をなかった事にされる可能性も。


「勿論危険な事をやらせるわけだし、きちんと報酬は払うわよ」


「やらせて頂きます」


 欲に目が眩み、あっさり交渉成立。


「魔族と戦うなら、あなた達もレベルアップしないとね」


 一冊の分厚い本と、ノートを取り出すジール。


「これは、魔法大全集、一日、一ページ魔法の書き取りしてね、ちなみに、伊織は毎日やってるわよ」


 小学生じゃあるまいし、何故こんな事をしなきゃならんのだ? と、不満げな顔をする護。


「いいから、やれよ!! だから、お前は弱いままなんだよ」


 ジールの目付きと態度が豹変し、護を睨み付ける。


「わ、わかりました……」


「わかればよろしい、ノートは部下が毎朝回収に来るから、ちゃんとやるように」


 学校の宿題だけでも、てんやわんやなのに、魔法の書き取りまでやらさられる、憂鬱ばかりが募るばかりだった。


 今日はこれで解散となり、人間界へのゲートがある場所まで足を運ぶ。


 ゲートはジールの住む城の外にあり、空は護達の住んでいる澄んだ青とは違い、ピンク色をした空が護達を包み込んだ。




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