第8話 吸血鬼カーミラ4

霧が邪魔して、カーミラの攻撃が見えない。それを良いことに、カーミラが護を素手で痛めつけ始める。


「あはははっ、見えないでしょう? 怖いでしょ?」


 姿が見えない事を良い事に、護を前から後ろから、交互に痛めつけ、立っているのがやっとであった。


「ちくしょう、さっきから、ボコボコ叩きやがって……」


防御魔法プロテクト、神里君、防御魔法かけたから、もう少し耐えて、莉央ちゃんは私が助けるから」


「宮本さんありがとー、てか、この霧……湿気たっぷりだな……何か暑いな」


 伊織の放ったプロテクトにより、護は鎧の肌を手に入れた。ちょっとやそっとじゃ痛くもかゆくもない。


 霧の中異様な暑さを感じた護、氷魔法を発生させ、辺りを冷気で包み込ませる。護の周りに発生した冷気を感じ取ったカーミラが、護への攻撃を躊躇し始めた。


「ん? もしかして………」


 カーミラの行動に、疑問が生じた。冷気を作りだした途端、何もして来ないカーミラ、疑問が確信に変わり出した。


「アイスジャべリン!」


 護がアイスジャベリンを、縦横無尽に放ち出すと、周囲の霧が晴れ始め、カーミラと伊織の姿が見え始め、護との距離を完全に置いていたカーミラ、こいつは冷気に弱いと確信したのであった。


「神里君、莉央ちゃんは無事よ」


「宮本さん、視界が悪い中どうやったの?」


「私は、視界が悪くても気配を読む事には、長けているの、神社でお祓いとかしているからかな?」


 形成が逆転し、護がアイスジャベリンを、伊織は手に光を集め出し、詠唱し始める。


「聖なる光よ、魔を祓いたまえ、ホーリーボール!」


「きいぃぃぃーーーそこのメガネっ子、あなたも魔法使いだったのね。完全に誤算だわ」


 カーミラを倒すには、何かもう一手欲しい所、氷魔法と光魔法でも二人の魔力はそこまで強力でもないし、カーミラはかなりの強力な魔族だからだ。


「しぶといオバサンだな、全く」


「このままだと、私達がガス欠になっちゃうよ」


 これこそが、カーミラの狙いであった。耐えに耐え続ければ、二人の魔力は尽きると判断し、魔力が尽きた所を一気に攻めかかろうと考えているのだから。


「さぁ、あなた達の魔力が尽きるか、私が朽ちるの先か勝負よ」


 護の氷魔法を警戒しているので、迂闊に動けないカーミラ、しきりに伊織が光魔法ホーリーボールを放つ。


「あっぶなーい、残念ね、ハズレよ」


 伊織のホーリーボールも虚しく空振り。このままでは、何も動けない。


「神里君、良い知らせと悪い知らせよ、良い知らせは、莉央ちゃんは瞬間移動魔法テレポートで家に返したわ、悪い知らせはね……テレポートの魔法は魔力消費が半端ないの………つまり、私の魔力にも限界が来たのよ」


 伊織のテレポート魔法、便利な魔法だが、熟練者でないと扱うのが難しい。慣れない者が使うと、体力と魔力消費が半端ない。前に護の尾行したのも、委員会が終わった後にテレポート魔法を使用していたからだ。


「こうなったら………最後の手段……」


「土下座はなしだからね」


 …………ビデオの一時停止の様に、時が止まった。護の頭には、漫画で絵に描いた様な冷や汗が。


「じゃあどうするの?」


「知らないわよー」


 二人が言い争い、その場を固唾に見守るカーミラ、今なら殺れると判断し護達に襲い掛かる。


「夫婦漫才、面白かったわよ」


「「誰が、夫婦だー!!」」


 二人の息が合ったかの様に、無意識に護がファイヤーボールを、伊織がホーリーボールを同時に放った。放たれた魔法がイレギュラーを起こし、炎と光が合わさり、銀色の炎となりだした。


「ぐっ……」


 間一髪避けたが、ダメージを負ったカーミラ、今ので、何かが護と伊織の中に閃きが浮かんだ。


「神里君、もしかしてだけど、」


「奇遇だね、宮本さん、俺も同じ事を考えた」


 二人がなにを思い付いたのか、何故か二人は照れてしまい、中々実行に移せないでいる。

 何か特別したわけでもないが、二人のシンクロが合わさり、さっきのイレギュラーで合体魔法が二人の脳内に流込んだ。


「宮本さん、1+1は?」


「2だけど………やるしかないわね」


 お互いに手を差し出し、手と手が重なり合う。まるで、恋人の様にしっかりと手を握る。

 妹以外の、女子の手を人生で初めて握る護、柔らかく温かい熱が伝わってきた。


「神里君、魔力を手に集中させて」


「わかっているよ」


 二人の手に合わさった魔力が一気に解放、目標をロックし、魔法が放たれた。


「合体魔法、セイクリッドフレイム!!」


 二人から放たれた魔法、光と炎が合わさったセイクリッドフレイム。


 その炎は白銀の輝きを放ち、魔を打ち払うかの様な眩い輝きを見せる。螺旋を描いた白銀の炎は、カーミラに勢いよく向かい、カーミラに命中した。


「そ、そんな……聞いてないわよ……」


 カーミラはその場に倒れ、立たなくなった。


「やったの?」


「み、宮本さん………そろそろ………手を」


 我に返った伊織、お互い赤面し目も合わせられない。帰ろうとしたその時、背後から伊織が押さえつけられた。

 倒れたはずのカーミラが、伊織の背後に、伊織の危機が迫っている。


「はぁい、動かないでね……動いたらこの子の血を骨までしゃぶり尽くすから」


「神里君………逃げて………」


「宮本さん……」


 逃げようにも逃げられなかった、今ここで逃げたら、何か失いそうな予感がしたから。


「おいっ目的は俺だろ?その子を放せよ」


「私ね……もう……アタマに来ちゃった……だ・か・ら……あなた達二人まとめて殺す……先ずはこのお嬢ちゃんの処女の血を頂いてから、坊やはじっくりいたぶってあげるわ」


 伊織に噛みつこうとしたその時、地面全体が氷に覆われ出すと、カーミラが一歩も動かなくなり始める。


「何かあると思って、仕掛けといて良かった」


「このぉ……何をした?」


 咄嗟に手が放れ、伊織は危機を脱し、護は、このままでは終わるわけがないと睨み、セイクリッドフレイムを放った後、ガーゴイルと戦った事を応用し、地面に冷気を送り続けていた。


「オバサン、あんた冷気苦手だよな?これだけ広範囲なら逃げようないぜ」


 この一言で、完全に焦りだすカーミラ、体が冷気により血の巡りが段々と悪くなって行く。

 次第にカーミラの足が動かなくなり、足に凍傷が起き始めた。


「あのサキュバスにも言ったけどさー……俺の日常を返せーーー」


「うぎゃーーーー………様………申し訳ありません………」


 カーミラを仕切る黒幕がいるのだろうか? 護のアイスジャベリンを受けて、誰かの名前を告げ体は消えて行った。


「神里君」


 護に駆け寄る伊織だが、その時護は既に疲れて眠りに落ち、何事もなかった様に眠り続ける。


「もしもし……彼はもしかしたら、戦力になりますね……ええ……わかりました……彼をお願いします」


 護が寝たのを確認し、伊織は救援を呼ぶかの様にスマホを取り出し誰かに連絡していた。


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