第6話 吸血鬼カーミラ2
貴婦人の姿が徐々に崩れ、本性を剥き出しにする。
「あの子達は、私のコレクションなのよ、若い女の血は最高よ」
巷を騒がす、吸血鬼はこの貴婦人であった。鋭く光る牙を尖らせ、伊織を標的にしようとし始める。
「神里君、あれが吸血鬼カーミラよ」
「ただの厚化粧オバサンじゃん」
護の一言がカーミラの耳に入るが、護の余裕の表情が気に入らない様子。
「そこの坊や、聞こえたわよ」
「気にしてたの? てゆーか男に興味ないよね? オバサン」
失礼な発言をし、余裕を見せているが内心恐怖で足がすくんで動かない。
いくら、若い女性しか興味なくても男は容赦しないと言い出すカーミラ。
「そこの、坊や……殺して差し上げますわ! そこのお嬢ちゃんは後でたっぷり可愛がってあげるわ」
予想外に伊織を標的にし始めるや否や、爪を尖らせ護に向かってくる。
スマホを取り出し、アイドルの写真を見せびらかす。
「俺は、このアイドルと友達だ、助けてくれるならこのアイドルの居場所を教えよう」
「神里君、何て卑怯な……しかも、そのアイドルが狙われたらどうするの?」
人として最低な事をした護、伊織も呆れて護を軽蔑する。
「はぁはぁ……何て可愛らしいのかしら……ヨダレが止まらないわ」
効いている様だが、護は次なる手を模索中。
墓場とは言え回りは木々に囲まれている、下手をすると魔法により、火事を起こしかねない。
「ねぇ、このアイドルの居場所どこかしら?」
興奮仕切ったカーミラ、アイドルの血を吸わせろと言わんばかりの興奮度。
「待っててね、今案内してあげるから」
護にくっついて離れないカーミラ、此こそが護の狙い。護の手がカーミラの体に密着し、そこからファイヤーボールを放ち出す。
「まんまと乗せられたな、ババァ、このアイドルは昨年病気で亡くなって、この世には居ないんだよ」
「キイィィッよくも、やったわね」
護に不意討ちを食らったが、それほどダメージは負っていないカーミラ。服の腹部辺りは焼け焦げていた。
「こ、このガキィィ、しかし、残念、私ね炎耐性があるのよ」
「マジですか………」
「あらっ、貴方良く見たらサキュバスに提供した男の子じゃない。貴方が此処にいるって事は、サキュバスは倒されたわけね」
護の使える魔法は、炎系。しかも、カーミラには炎耐性がある。
完全に不利な状況に陥ってしまった。
「とりあえず逃げます……宮本さん後は任せる」
「あっ、コラッ! 神里君」
伊織には目もくれず、護を追いかけ回すカーミラ。今の内に被害者救出を決行する。
一先ず被害者の回りに、魔方陣を描く様に小石を設置。
「聖なる光よ、邪を祓い悪しきを清めたまえ、破邪封印魔法セイクリッド!!」
伊織が呪文を唱えると、小石を設置した場所から温かい光が包みだし被害者の女性達が正気を取り戻し、避難した所を見送り急ぎ、護を探し出す。
護は走っていた。カーミラに追われ炎魔法が効かない今、完全に打つ手がない手詰まり状態。
「逃げても無駄よ。私をオバサンと言った事、服を焼いた事、許さないからねーさぁ、お逃げなさい、私の前で激しく踊りなさい」
「血が足りないなら、鉄分取れークソババァー!! トマトジュースでも飲んでろー」
追い詰められても、悪態をつく元気はある護。
墓場の中を逃げ回り、ついに小路に追い詰められた。
「お姉さん、鬼ごっこはもう飽きたわ」
何かないか、辺りを見渡すが……何もない。ポケットのスマホを手に取り、何か閃いた、時間帯稼ぎにはなるだろうと。
「さっきは、悪かったな……お詫びに美女攻略法を教えてやろう」
スマホを取り出し何をやるかと思えば、美少女恋愛ゲームをやり始める。
「いいか、美女の血が欲しいなら、このゲームに登場する女の子を全て攻略しろ」
「えぇ、わかったわ」
「そうすれば、どんな美女もイチコロ……
言われるがまま、美少女恋愛ゲームをやり出すカーミラ、後ろから護の殺気にも気付いてない。
「んなわけあるかー! 世の中そんなに甘くねーんだよ! リアルにゲーム通りに攻略出来たら俺だって彼女の一人や二人いるっつーの!」
護の蹴りがカーミラの後頭部に直撃。蹴りを食らったカーミラが地面に叩きつけられ、顔面を強打する。
今の内に逃げようとしたが動けない。
「このガキィー、何かあると思って、用心して正解だったわ」
カーミラは用心深く、護に影縛りを仕掛けていたのだ。夜なのに、月の明かりを利用したカーミラの技。
「ギッタギッタにして殺してあげるわよ」
「鼻血出しながら言われてもねー」
「美女の血を好む私だけど、特別に貴方の血を吸ってあげる」
動けない護の肩に手をかけ、噛みつこうとするのだが……護の脳内に何かが、コンピューターのプログラムを読み取る様に流れ出す。
「………アイス………ジャベリン………」
窮地に立たされた護に新たな魔法が発動した、氷魔法、アイスジャベリン、氷の矢がカーミラを狙うが、かすり傷程度でしかなかった。
「想定外だわ……」
冷気を嫌うかの様に、護から離れたカーミラ。護の氷魔法により、足に凍傷を負っていた、当然護はまだ気付いていない。
「今日は調子出ないわね……今日の所は引いてあげるけど……貴方を殺さなきゃ気が済まないわ、だから、標的は貴方にして、あ・げ・る」
霧を発生させ、同時に姿を眩ましたカーミラ。次なる標的は護とだけ言い残し。
「神里君無事?」
「宮本さーん、伊織様ぁーどうしよう、今度は俺が狙われるんですけどぉ」
「わかったから落ち着きなさい、後、鼻水拭け」
半べそかいて伊織にしがみつく護。よほど怖かったのだろう。しかも、カーミラにロックオンされて尚更だから。
帰り道、歩きながら事情を話す護。何故氷魔法が発動したのか? 護が放った氷魔法を見て逃げ出したカーミラ。
伊織は考えた、もしかしてカーミラは冷気を嫌っているのでは? しかし、確証はない。
「カーミラを退治するまで、神里君は私から離れない事! つまりは目の届く場所に居て、これ私の連絡先」
生まれて十六年、連絡先は家族しか居ない護のスマホに伊織の連絡先が護のスマホに登録された。
「出来るだけ、私と行動を共にした方が無難かもしれないしね」
「まさかの、交際宣言ですか? ふつつか者ですがよろしくお願いいたします」
「はぁ? 何で私が神里君の彼女になるのかしら?」
「すんません……」
会って間もないのに、勝手に交際申し込まれたと思った護。恥ずかしい………穴があったら入りたい。それでも伊織に、一瞬月明かりに照らされた笑顔が目に入った。
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