第4話 サキュバスから吸血鬼
あれから何事もなく登校しているが、護はほとんど学校ではボッチである。それは、護が魔法を使えるから、他の人にこの事は知られたくない。だが、そんな護に話しかける女子生徒がいた。
「神里君、今日、日直忘れないでね」
「宮本さん? 大丈夫だよ」
「ならいいけど、じゃ放課後忘れないでね」
女子生徒の名前は、
休み時間、クラスの女子の会話が聞こえた。それは、あり得ないくらい恐ろしい会話。最近、女子ばかりを狙う吸血鬼事件が、ここ神魔町で起きている。吸血鬼に捕まった女性は神隠しに遭い、行方をくらませていると言う。警察は誘拐事件と判断し、捜査を進めているが、護の脳裏に浮かんだ者、それは魔族。何事もなく、放課後を迎え伊織と共に今日の日直を終わらせる。
「じゃあ、先生にこれ提出して帰るから神里君はもういいよ」
「はい、さようなら。また明日」
「また、明日ね」
伊織と別れ下駄箱に向かうが、何か怪しい視線を感じる。さっきから後をつけられてる様に感じてならない。
「あのさ、さっきから何? 俺に何か用?」
たまらずに立ち止まり、後ろから視線を感じる何者かに話しかける。視線を送っていた相手が、見た目が完全ギャルの女子生徒だった。
「別にぃ、用てわけじゃけどぉ。アタシさぁ、アンタが気になるわけよー、だから、視線を送っちゃたわけ。気にさわったなら謝るしぃ」
嬉しい事を言ってくれるのだが、上から目線の言い方に腹が立ってしょうがない。第一に、一個三十円の飴を加えながら、偉そうに喋っている所が。相手にすると、面倒になりかねないから、取り敢えず適当にあしらう。
「こんなイケメンでもない、自分に声をかけて頂き恐縮ですが、急いでるので」
「はぁ? アタシが気になるって言ってるんだから感謝しなさいよ。てゆーかアンタ何様? 童貞のくせに」
お前が何様だ? と言いたいが、何か臭う、魔族の臭いがする。護の第六感がそう伝えている。
「何が目的?」
護の得意の、いや、得意でもないが相手の心理を読む作戦。魔族に二度も殺されかけたから、自然と警戒心が涌き出て来る。
「てゆーかさぁ、アタシはアンタに気があるんだよ」
ギャルが護に歩み寄り、自分の胸の谷間をわざと見せびらかす様に押し付けては、護の耳元に息を吹きかける。心臓の音がバクバクと加速し、8ビートから16ビートを刻む。更には護の首に手を掛けて、首筋をペロリと舐めだした。
「もぅ、鈍いなぁ。アタシがここまでしてるんだから気づけよ、童貞」
完全に固まった……。
年頃の思春期には刺激が強い、護の下にいるもう一人の護がハウリングしそうだ。
「アタシと付き合えば良い事だらけだよ」
追い討ちをかけるように、耳元で囁くギャル。警告ランプが黄色から赤に変わる様に、護の理性にも限界が近づきだしている。
「あはは、アンタ、マジ固まってるんですけどぉ。うけるー」
完全に
「ねぇ、最近起きている吸血鬼事件知ってる?」
「…………」
「若い女性ばかり、狙う吸血鬼。アタシはさぁ、その吸血鬼に手を貸してるんだよねー」
確信した、このギャルは魔族だ。しかし、色目を使われ、身動きが取れない。幸い手は動かせるのだが。
「逃げようたってムダだから。アタシに骨抜きにされたんだから」
ギャルの正体が次第にあらわとなる。ムチムチのボディに、しっぽと翼を生やした悪魔。
「アタシはサキュバス、男の生気を吸って生きているのさ」
ガーゴイルが言っていた、人間の生気を吸い取る魔族がいると……まさに、それはサキュバスの事であった。そして、護の動きが固まったのは、サキュバスが護の首筋を舐めたのが原因だから。
「ねぇ、俺は人気のない場所が好きなんだが、あそこの裏に行こうよ」
「あはは、なぁに、観念したの? いいよ、裏でい・い・こ・と・し・よ」
護の表情が、うつろになり観念したのか、サキュバスの言いなりになるが、このまま終わる護とは思えない。 終いには、護を下僕と書いて、カレシと呼ぶ始末。
指定した場所に到着し、サキュバスは早速護の生気を吸い取る準備を始める。先ずは護の手足を木にロープで縛り付け、逃げられないように拘束する。
「さぁてと、せっかくだし、アタシが吸血鬼と関係を教えてあ・げ・る」
どうせ生きては帰さない、だから、サキュバスと吸血鬼の関係を話し始める。
「アタシは若い女を紹介する変わりに、吸血鬼はアタシに男を提供する。まだ表沙汰になってないから、動きやすくて助かるわ」
護をつけ狙ったのは、全ては吸血鬼の仕業だった。話して行く内に、サキュバスが更なる興奮を見せだす。
「アタシは、童貞の生気が大好きなのぉ。新鮮でとろけちゃうのよねぇ。イケメンもいいけどぉ、やぱ童貞君の生気が、さ・い・こ・う」
舌を出し、興奮しきったサキュバスがついに護に襲いかかり始める。
「いただきまぁす……………ん? 何か焦げ臭い」
護危うし、と思われたが、わずかに指先だけ動かす事が出来何をしたかと言うと、指先からロウソクの炎位の火を出し、徐々にロープを焼き切っていた。
「やぁ……おはよう」
「おはよう………じゃないわよ、てゆーかさぁ、アンタどうやったの? てか、アタシの
護にした首筋を舐めた行為は、テンプテーションで、精神の弱い男は大体イチコロになるらしいが。
「はいっ? 何かしたの? ちなみに、ロープをどうやって切ったのか? それはね、こうやったんだよー」
護の手から炎が飛び出しサキュバスに見せつける。護は、骨抜きになどされていなかった。全てはサキュバスと戦う為、下手くそなりな演技を演じきった。サキュバスめがけ、ファイヤーボールを放つが、サキュバスは宙を舞い間一髪回避。
「ちょっとぉ、聞いてないんですけどぉ。アンタ何者?」
「魔法使えますけど、な・に・か?」
何で、人間ごときが魔法を使えるのか? と言わんばかりの肩透かしを食らった様な顔をするサキュバス。 逃げても逃げても、護のファイヤーボールは遠隔操作により、どこまでも追尾していく。
「くっ、こうなったら…」
突然スマホを取り出し、誰かに電話をするサキュバス。
「もしもしけんじぃ? アタシエリー。今チョーヤバイ事になっててさぁ、アタシの事好きなら助けに来てよ」
このサキュバスエリーと言う名前だったのか……しかも、スマホで彼氏に救援依頼するなんて。物の数分でサキュバスの彼氏登場、サキュバスに骨抜きにされたイケメン彼氏であった。
「あはは、アンタそいつは人間だよ、倒せるの? しかも、アタシの一番のお気に入り」
「テメー、俺の女に手を出すとは良い度胸だな」
彼氏と言うか、お前の餌だろ……とツッコミたいのだが、彼氏が完全にお怒りモード。
「リア充は………死ね」
リア充に対する憎悪が膨らみ、護の拳がイケメンけんじ君の腹にボディーブローが炸裂し、けんじ君は一発KOとなりその場に倒れ込む。
「ちょっとぉ、アンタ、マジですか? あり得ないんですけどぉ」
「さっきの続きの答え合わせだ。俺はハナから誘惑にはかかってない。何故なら俺はほとんどボッチが多かったからな、免疫が出来たのさ」
自慢げに話すが、悲しくて同情もしたくなるサキュバスであったが。
「更にはお前が誘惑する時に、俺は既に二次元のお嫁さんが居るからな。誘惑したって無駄だ」
護がスマホを取り出し、恋愛ゲームのキャラをサキュバスに見せびらかす。でも、護はちゃんとした三次元の女の子が好きである。
「キモ、キモイ、アンタキモイから、殺してあ・げ・る」
「黙れ、この淫乱悪魔。全く、次から次へと、何なんだ………俺の日常を返せーー」
今度は護の両手から、二つの炎を出して、サキュバスめがけ解き放つ。サキュバスも華麗に回避しているが、横から光の球体がサキュバスに直撃。
「くっ……仲間が居たか…」
「ん?」
誰が放ったかわからないが、光の球体の直撃を受けたサキュバスは力尽き、体は魂となり、天に上っていった。一体誰がやったのか? 辺りを見渡すと、そこには伊織の姿があった。
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