第2話 ガーゴイルのち幽霊

「しかし、こんなに上手く行くとはな」


 初めて戦いに魔法を使ってみたが、念じてみたら火の玉が出た。それを応用し、地雷式ファイヤーボールを作り出したのだ。この僅かな時間で、ここまで思い付くのは頭がキレる証拠なのか、はたまた、窮地に落とされ破れかぶれになっただけなのか。


「この、ガキィただのガキじゃねーなお前」


「何か、小学生の頃に使えるようになりました。ま・ほ・うが」


「ただの人間が何で魔法を使えるんだよ!? あり得ねーだろ」


「知らねーよ、神様に聞いてくれ」


 本当に、何で魔法が使えるのだろうか。考えるのを止めているから。そんな風に質問されても答えようがない。それよりも、地雷式ファイヤーボールが弾切れの為、この状況を何とかしないといけない。


「俺はダメージは負ったが。お前は万策尽きた様だな?」


「バカの癖に、勘は鋭いな」


「テメーはただじゃ殺さねー。じわじわとなぶり殺して二度と魔族に逆らえねー様にしてやる」


 指をパキポキと鳴らしながら、護を殴る準備をし始めるガーゴイル。彼女も出来ずに童貞のまま死ぬのか……。つまらない人生だったな……。


 ピロピロン。


 諦めかけた時、ガーゴイルのスマホが鳴り出した。


「おっと、救援依頼か。ちょっと待ってろゲームやるから」


 人を殺すとか言っておいて、余裕の現れか突如スマホを片手にゲームをやり出すガーゴイル。今流行りの協力プレイ型RPGである。どこまで間抜けな魔族なんだと呆れる護。


「おっ? それ俺もやってるゲームじゃん」


「マジで? このモンスターの攻略わかるか?」


さっきまで戦っていたのに、ゲームの話で意気投合。


「こいつはね、ここをこうして……」


「ふむふむ」


「そして、このスキルをここで使う」


「おぉーすげぇ大ダメージ与えたぞ」


「そして、止めは……」


 ゲームの攻略方をレクチャーする護、自分は今、ゲームを教えている相手と戦っている、はずなのだが。


「止めは?」


「死にさらせー、この化け物」


 至近距離に居たので、護のファイヤーボールがガーゴイルの口の中に、更に追い討ちをかけるように、もう一発ファイヤーボールを放ち、男のたしなみである清汗スプレーを取りだして、ファイヤーボールに目掛けてスプレーを噴射。炎が物凄い勢いで吹き上がり、ガーゴイルの体が焼け出した。


「うぎゃあぁぁぁぁー! 熱い」



 見るに耐えられなくなり、やむを得ず鎮火。ガーゴイルの体は、段々と透けて最後は消えてなくなった。


「勝った……勝ったのか……」


 護のズル賢い戦略により、ガーゴイルを追い払う事に成功したが、ここまで間抜けな魔族は居るのだろうか。


「もう、学校サボろう……」


 適当に理由をつけて律儀に学校へ連絡し、気分爽快足早にゲームセンターへ向かう護。だが、何かが引っ掛かる。魔族の姿が見えるなら、幽霊も見えるのだろうか。

……試してみるか。冒険心が心を揺さぶり、いつの間にか廃墟と化したホテルに足を運んでしまう。このホテルは神魔町で有名な心霊スポットで、昼間でも不気味さが漂っている。


「ちょいと、お邪魔しますよ……」


 朽ち果てたコンクリートの壁と、ボロボロのドア、ミシミシと足音だけがなり響く。護の前に、フーッと何かが通り過ぎる。


「何? ま、まさか……」


 嫌な予感しか頭に浮かばない、霊感があるわけじゃないのに体に寒気と身震いが起きている。


「うふふ、遊ぼ」


「うぎゃあぁぁぁぁー」


 目の前に女の子の霊が護の服を掴んでいる。本当に見えてしまった。霊感があるわけではないのに。これも魔法が使える影響なのかはわからないが、確かに目の前にいる。


「ねぇ、遊ぼうよ」


 恐怖のあまり、全力で走り出した。ひたすら出口まで走った。ガーゴイルとの戦闘で、体力が消耗している事すら忘れている。出口が見えたのだが、扉が勝手に閉まり出し完全に閉じ込められた。 


「開かない! クソッ」


 強引に扉をこじ開けようとファイヤーボールを放つが……。


「あれ? 出ない…何で?」


 魔力が尽きた。いわゆるガス欠。そんな事は当然、護は知らない。さっきの戦闘ですっかり魔力を使い果たし赤子同然。もはやこれまで。


「うふふ。捕まえた」


 女の子の霊が再び護の前に現れ、護に抱きついた。さようなら、我が人生、さようならお父さん、お母さん、妹よ。頭が真っ白になり、その場に倒れ込んだ。


 ………あれ? 生きている………護が目が覚めた先は、ホテルの一室。


「あら、目が覚めました?」


「うげっ!? ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」


「こちらこそ、ごめんなさい娘が迷惑をかけて」


「幽霊ですよね?」


「はいっ幽霊です、佐藤と申します。こちらは娘の愛理あいりです」


「お兄ちゃん、さっきはごめんね」


 護を介抱したのは幽霊の佐藤さん。護を驚かせたのがその娘愛理。何か訳ありな親子の幽霊。幽霊なのに、涙を流しながら廃墟となったホテルの過去を話し出す佐藤さん。助けてくれたし、親身に耳を貸す護。


 佐藤さんの話によれば、約5年前にこのホテルに大きな火災があり、宿泊客の大半は逃げ遅れて死亡した。佐藤さん親子もその中に含まれている。その後、未練が残り成仏出来ない霊達の巣窟となり、月日は流れ、心霊スポットとして有名になり出す。その後メディアに取り上げられ、霊媒師が供養に来るのだが、一見成仏されたかに思えたが、強力な地縛霊が再び現れ、二度と霊媒師が来れない様に結界を張り出していた。佐藤さん親子は強力な地縛霊から逃れひっそり暮らしている。なぜなら、その地縛霊は弱い地縛霊を食べてしまったからだ。




「事情はわかったけど、俺にはどうする事も出来ないよ……」




 魔族ならまだしも、幽霊相手に魔法が通じるのか? そもそも現状は魔力が尽きて何も出来ないのだが。


「あなたからは、不思議なオーラを感じますね。幽霊の勘てやつかしら?」


 正体を明かした訳でもないのに、鋭い佐藤さん。更には護の肩に手を乗せ、耳元で囁く。


「もし、霊を追い払う事が出来たら、私の全てをあげても良いですわ」


 幽霊なのに妙に色っぽい佐藤さん。護の初めてが人間でなく、幽霊に奪われるのか? どのみち、霊を追い払わないと家に帰れない。泣きたい、もう、泣きたい、護に拒否権などなかった。


「つまり、あなたは強力な霊に邪魔されて、成仏出来ないわけですね? そいつはどこですか?」


「そろそろ、お昼時ですから間もなく来ますよ。私達は隠れてますからよろしくー」


 勝手に押しつけられ、佐藤さんは姿をくらますと同時に、ドスンドスンと大きな物音が聞こえてきた。


「グヘヘ、ランチの時間だぜ。やはり、人間界の霊魂はうめーぜ」


 ドアの鍵穴からそっと覗くと、身の丈2メートルはある、ガイコツの化け物が死んで浮かばれない人間の魂を食らっている。このホテルに住まう地縛霊を閉じ込め、自分の餌にする、結界を張った理由がそこにあった。


「ん? 何か生身の人間の臭いがするぞ」


 気付かれた、隠れるにも隠れる場所がない。ドアノブに手をかける音が鳴り、護がいる扉を開けた。ギイィッと扉が開くと、辺りをキョロキョロし出すと、横に護が立っていた。


「ハーイ、ボクハ、マリオネットノ、チャッピーダヨ」


 苦し紛れに、また下手くそな演技をする護。当然ガイコツの化け物に通じるわけがない。


「なんだ、人間かと思ったぜ。にしてはお前人間臭いな」


「オー、ソレハ、ボクガ、ニンゲン二、ナリスマシタカラサ」


 何か馬鹿らしく思ったから、乗ってあげる事にしたガイコツの化け物。ガイコツの化け物が護をおもちゃにし始める。


「はいっ、右上げて、左上げて」


 護もこの場をやり過ごす為、必死で言う事を聞くのだが。


「んじゃ、首を一回転してみようか」


 ………………………………。


「すんませんでしたーーー」


「待ちやがれ、このやろー!」


 良い様に遊ばれてしまい、猛ダッシュで逃げるのだが、やはり、追いかけてきた。しかし、スピードは護の方が上だが、相手は臭いで居場所がわかる。


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