魔法使えますけど何か……?
八剱蒼弓
第1章 高校生魔法使い
第1話 高校生時々魔法使い
俺は
ここ、神魔町は護が暮らしている街。いつもの様に朝を迎え、いつもの様に夜を迎える、一部を除いては。
護は何故か小学生の頃から、魔法が使えた。何故? 何故なんだ? そんな疑問を持った事もあったが、今はどうでも良くなっている。何で? って、それは考えるのを止めた。考えてもしょうがない、なるようになれ……。だって、他の人は魔法が使えないから、当たり前の事だが。俺は天才か? それとも神か? そんな事も考えた事もあった。それも、考えるのを止めた。護が使えるのは炎系の魔法。日常生活に役に立っているし、アウトドアには持ってこい。
「ただいま……」
「あら、護お帰りなさい」
家に帰り、早速母親が出迎えてくれたのだが…………。
「護、今日オーブンの調子悪いのよ・・今日鶏肉が安かったから、ローストチキン作ろうて思ったから」
「はいはいわかりましたよ、母上。何故ローストチキン?」
「うふふ、今日は結婚記念日だから」
「あーはいはい」
護の指先から、炎が鶏肉に向かってほど走り、キッチンには丁度良く焦げた香ばしい香りが広がる。不思議に思わないのか? と、疑問を持ちたくなるが、護が魔法を使える事は家族は既に知っているし、家族内の秘密でもある。むしろ、自分の息子を生活用品の一部と思っている。ちなみに神里家は、父、母、妹と暮らしている、当然父や妹も時折護を生活用品扱いする。
翌日の朝、登校中に異様な光景を目の当たりにする。それは、人ではない、ロールプレイングゲームで言うなら魔物。なのに普通の人には見えておらず、護だけが見えている。
「おい、お前」
目が合ってしまった。魔物が突然喋りだし、護に指を指す。自分に呼び掛けているだろうが、敢えて見えないふりをするが。
「おい、そこのお前、見えているんだろ?」
????
まだ、知らないふりをしてやり過ごすが、魔物が徐々に護との距離を縮めていく。その魔物は、羽としっぽが生えており、長い爪と鋭い牙を持ち合わせているガーゴイルだ。
どうする? 逃げるか、戦うか、護の脳内にロールプレイングゲームの様に、コマンドが発生している。考え込んでいる内に、ガーゴイルとの距離がもう目の前、冷や汗が出始め、考える余地がなくなり出した。
「お前、俺が見えるんだよな?」
もう、なるようになれと、護は決心した。
「スイマセン…………イセカイゴ………ワカリマセン」
「ふざけるなーテメー、俺達魔族はな人間の生気を少しずつ頂いて生きているのさ。まっいずれは俺達魔族が人間界を制圧し、お前ら人間は魔族の家畜となるのさ」
「てゆーかさ、あんたどうやってここに来たの? 普通なら来れないよな?」
「お、俺だって好きでここに来たわけじゃねー。気がついたら人間界に居たんだよ」
ガーゴイルが人間界に来た経緯を語り始める。逃げようと思えば逃げられるのだが、涙ながらに語りだすものだから、逃げ遅れてしまった。ガーゴイルは魔界で昼寝をしていたら、空間が歪み、勢いよく吸い込まれ、気がついたら人間界にいた初めて来た異界の地にて、餓えに困り果てたが人間の数の多さに驚愕し、思い付いたのが人間は魔族にとっては格好の餌だが、ガーゴイルは人間界の食べ物や、文明にどっぷり浸かっていたのだ。
「あっさり、殺そうと思えば殺せたよね? 何でみみっちい事しているの?」
「それはな、魔界にはない文明、ゲームやらスマホやら、人間達の食べる食い物が美味いわ…………あっさり殺すの勿体ないじゃんよー」
「人間界の食べ物食ってればいいじゃん。何で人間の生気を吸い取る……」
「それと、これとは話は別だ、人間の生気がないと生きて行けない………てのはウソだけどな。俺は時折人間に伏して食事をする、当然金など払わんが、奪う時は姿を消しているからな」
人間界の食べ物が美味いのに、人間の生気を吸い取る理由がわからない、しかも、ウソまでつかれた。とは言え、この魔族は普通に食事して生きていける事はわかったが。
「人間の生気を吸い取る魔族は、いない事もないが、俺は違う」
もう、何が真実かわからなくなってきたが、わかった事は、こいつに関わるとろくな事がない。
「そんなわけで、俺を見た以上は殺す。死ねぇーー」
やはり、こうなったか……。選択肢は一つ。
「逃げるんだよぉーー」
「あっ、待てこらっ」
「誰が待つかーー」
人間追い詰められると、潜在能力が発揮されるのか、走り出した護のスピードが世界記録を塗り替える程に速い。ガーゴイルも負けじと後を追うのだが、追いつけない。当然ガーゴイルは羽を羽ばたかせ空中から護を追走。
「はぁはぁ」
流石に体力の限界が近づいてきている。ガーゴイルがついに護の射程圏内に入る。
「小僧、人間の分際で……だが、もう追い詰めたぞ」
逃げるに夢中で気がつかなかったが、いつの間にか公園に来ていた。幸い人の気配はないが万が一居たら、こいつは何をやっているんだ? と変な目で見られるから。
「覚悟は良いか?」
「あっ、アイドルのまゆちゃんだ」
「えっどこ?」
古典的な騙しに引っ掛かった。しかも、アイドルの存在まで知っていたとは……護が思った事それは………こいつ、バカだ………。
「おいっ、居ねーじゃんかよ……あれ?」
注意を反らしている内に護は公園内のトイレに隠れるが、とにかくやり過ごすしかない。
「おーい、クソガキ、どこ行った?」
トイレの中までガーゴイルの声が響き渡る。願わくば早く諦めてどこか行って欲しい。
「十秒待ってやる、早く出て来い。さもなくば辺りを破壊する」
ガーゴイルは本気だ、考える余地が全くない、一か八か戦うしかないか。護が使える魔法は炎系の魔法。果たして効くのかどうかわからない。普段家族に日用品扱いされていたから、戦闘に向いているのかすらわからない。
「念じてみるか……」
……念じてみた。大きい火の玉をイメージして念じてみた。
「出た……マジで、出た」
「十秒経ったぞ、今からお前を探すからな」
「くらえ! 化け物! ファイヤーボール」
ガーゴイルの不意を突き、護の手から魔法が解き放たれる。
「アチッアチッ、熱いじゃねーか」
放たれたファイヤーボールが、ガーゴイルのしっぽに命中。お尻から火が出るとはこういう事なのか。たまらずにガーゴイルが公園の水道で火を消した。
「て、テメー、良くも俺のしっぽを………」
怒るのも無理はない、焼けたしっぽは短くなってしまったのだから。完全に頭に来たガーゴイルが爪を光らせ、護に襲い掛かる。
「おいっ待て、お前牛丼は好きか?」
「大好きだ、それがどうした?」
「しっぽを焼いたお詫びに、この無料券を進呈しよう」
ポケットから牛丼屋の無料券を差し出すと、嬉しそうに護から取り上げる。護の事など忘れて、人間に扮して真っ先に牛丼屋に直行。今の内に逃げる準備をしたのだが………。
「オイッコラ」
物の数分で、護の前に再び現れたがガーゴイルの怒りが更に増している。怒るのも無理はない。護があげた無料券は期限切れの物だったから。
「チッ……バレたか」
「何、舌打ちしてるの? こんな期限切れた物まで寄越された俺の気持ちがわからんのか?」
「オーソレハ、シツレイシタネ、ワタシ、コノクニノ、ヒトジャナイ、アルヨ、ダカラ、コノクニノ、ルールワカラナイアルヨ」
「ふざけるなーこのやろー」
「チッ……」
無駄なあがきであった。そして、下手な演技でもあった。怒り狂ったガーゴイルが護に突進しだすが……。地面から火の玉が、ガーゴイルの前に飛び出てきた。
「うげっ」
トイレに隠れ不意打ちを仕掛ける前に、護がファイヤーボールを地面に隠していた。例えるなら、地雷を仕掛ける様に、それを遠隔操作で操っていたのだ。
「引っ掛かったな! このバーカ」
「な、何だとー」
再び護が逃げ後を追うガーゴイルだが、護が仕掛けた地雷式ファイヤーボールが、ことごとくガーゴイルにヒット。空を飛べば良いのに、我を忘れて飛ぶのを忘れている。完全に護の術中にハマってしまった。
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