魔法使えますけど何か……?

八剱蒼弓

第1章 高校生魔法使い

第1話 高校生時々魔法使い

 俺は神里護かみさとまもる。普通の高校生十六歳ですが俺には秘密がある………。秘密ってのは、俺は魔法が使える……何故だか知らないが。


 ここ、神魔町は護が暮らしている街。いつもの様に朝を迎え、いつもの様に夜を迎える、一部を除いては。


 護は何故か小学生の頃から、魔法が使えた。何故? 何故なんだ? そんな疑問を持った事もあったが、今はどうでも良くなっている。何で? って、それは考えるのを止めた。考えてもしょうがない、なるようになれ……。だって、他の人は魔法が使えないから、当たり前の事だが。俺は天才か? それとも神か? そんな事も考えた事もあった。それも、考えるのを止めた。護が使えるのは炎系の魔法。日常生活に役に立っているし、アウトドアには持ってこい。


「ただいま……」


「あら、護お帰りなさい」


 家に帰り、早速母親が出迎えてくれたのだが…………。


「護、今日オーブンの調子悪いのよ・・今日鶏肉が安かったから、ローストチキン作ろうて思ったから」


「はいはいわかりましたよ、母上。何故ローストチキン?」


「うふふ、今日は結婚記念日だから」


「あーはいはい」


 護の指先から、炎が鶏肉に向かってほど走り、キッチンには丁度良く焦げた香ばしい香りが広がる。不思議に思わないのか? と、疑問を持ちたくなるが、護が魔法を使える事は家族は既に知っているし、家族内の秘密でもある。むしろ、自分の息子を生活用品の一部と思っている。ちなみに神里家は、父、母、妹と暮らしている、当然父や妹も時折護を生活用品扱いする。


 翌日の朝、登校中に異様な光景を目の当たりにする。それは、人ではない、ロールプレイングゲームで言うなら魔物。なのに普通の人には見えておらず、護だけが見えている。


「おい、お前」


 目が合ってしまった。魔物が突然喋りだし、護に指を指す。自分に呼び掛けているだろうが、敢えて見えないふりをするが。


「おい、そこのお前、見えているんだろ?」


 ????


 まだ、知らないふりをしてやり過ごすが、魔物が徐々に護との距離を縮めていく。その魔物は、羽としっぽが生えており、長い爪と鋭い牙を持ち合わせているガーゴイルだ。


 どうする? 逃げるか、戦うか、護の脳内にロールプレイングゲームの様に、コマンドが発生している。考え込んでいる内に、ガーゴイルとの距離がもう目の前、冷や汗が出始め、考える余地がなくなり出した。


「お前、俺が見えるんだよな?」


 もう、なるようになれと、護は決心した。


「スイマセン…………イセカイゴ………ワカリマセン」


「ふざけるなーテメー、俺達魔族はな人間の生気を少しずつ頂いて生きているのさ。まっいずれは俺達魔族が人間界を制圧し、お前ら人間は魔族の家畜となるのさ」


「てゆーかさ、あんたどうやってここに来たの? 普通なら来れないよな?」


「お、俺だって好きでここに来たわけじゃねー。気がついたら人間界に居たんだよ」


 ガーゴイルが人間界に来た経緯を語り始める。逃げようと思えば逃げられるのだが、涙ながらに語りだすものだから、逃げ遅れてしまった。ガーゴイルは魔界で昼寝をしていたら、空間が歪み、勢いよく吸い込まれ、気がついたら人間界にいた初めて来た異界の地にて、餓えに困り果てたが人間の数の多さに驚愕し、思い付いたのが人間は魔族にとっては格好の餌だが、ガーゴイルは人間界の食べ物や、文明にどっぷり浸かっていたのだ。


「あっさり、殺そうと思えば殺せたよね? 何でみみっちい事しているの?」


「それはな、魔界にはない文明、ゲームやらスマホやら、人間達の食べる食い物が美味いわ…………あっさり殺すの勿体ないじゃんよー」


「人間界の食べ物食ってればいいじゃん。何で人間の生気を吸い取る……」


「それと、これとは話は別だ、人間の生気がないと生きて行けない………てのはウソだけどな。俺は時折人間に伏して食事をする、当然金など払わんが、奪う時は姿を消しているからな」


 人間界の食べ物が美味いのに、人間の生気を吸い取る理由がわからない、しかも、ウソまでつかれた。とは言え、この魔族は普通に食事して生きていける事はわかったが。


「人間の生気を吸い取る魔族は、いない事もないが、俺は違う」


 もう、何が真実かわからなくなってきたが、わかった事は、こいつに関わるとろくな事がない。


「そんなわけで、俺を見た以上は殺す。死ねぇーー」


 やはり、こうなったか……。選択肢は一つ。


「逃げるんだよぉーー」


「あっ、待てこらっ」


「誰が待つかーー」


 人間追い詰められると、潜在能力が発揮されるのか、走り出した護のスピードが世界記録を塗り替える程に速い。ガーゴイルも負けじと後を追うのだが、追いつけない。当然ガーゴイルは羽を羽ばたかせ空中から護を追走。


「はぁはぁ」


 流石に体力の限界が近づいてきている。ガーゴイルがついに護の射程圏内に入る。


「小僧、人間の分際で……だが、もう追い詰めたぞ」


 逃げるに夢中で気がつかなかったが、いつの間にか公園に来ていた。幸い人の気配はないが万が一居たら、こいつは何をやっているんだ? と変な目で見られるから。


「覚悟は良いか?」


「あっ、アイドルのまゆちゃんだ」


「えっどこ?」


 古典的な騙しに引っ掛かった。しかも、アイドルの存在まで知っていたとは……護が思った事それは………こいつ、バカだ………。


「おいっ、居ねーじゃんかよ……あれ?」


 注意を反らしている内に護は公園内のトイレに隠れるが、とにかくやり過ごすしかない。


「おーい、クソガキ、どこ行った?」


 トイレの中までガーゴイルの声が響き渡る。願わくば早く諦めてどこか行って欲しい。


「十秒待ってやる、早く出て来い。さもなくば辺りを破壊する」


 ガーゴイルは本気だ、考える余地が全くない、一か八か戦うしかないか。護が使える魔法は炎系の魔法。果たして効くのかどうかわからない。普段家族に日用品扱いされていたから、戦闘に向いているのかすらわからない。


「念じてみるか……」


 ……念じてみた。大きい火の玉をイメージして念じてみた。


「出た……マジで、出た」


「十秒経ったぞ、今からお前を探すからな」


「くらえ! 化け物! ファイヤーボール」


 ガーゴイルの不意を突き、護の手から魔法が解き放たれる。


「アチッアチッ、熱いじゃねーか」


 放たれたファイヤーボールが、ガーゴイルのしっぽに命中。お尻から火が出るとはこういう事なのか。たまらずにガーゴイルが公園の水道で火を消した。


「て、テメー、良くも俺のしっぽを………」


 怒るのも無理はない、焼けたしっぽは短くなってしまったのだから。完全に頭に来たガーゴイルが爪を光らせ、護に襲い掛かる。


「おいっ待て、お前牛丼は好きか?」


「大好きだ、それがどうした?」


「しっぽを焼いたお詫びに、この無料券を進呈しよう」


 ポケットから牛丼屋の無料券を差し出すと、嬉しそうに護から取り上げる。護の事など忘れて、人間に扮して真っ先に牛丼屋に直行。今の内に逃げる準備をしたのだが………。


「オイッコラ」


 物の数分で、護の前に再び現れたがガーゴイルの怒りが更に増している。怒るのも無理はない。護があげた無料券は期限切れの物だったから。


「チッ……バレたか」


「何、舌打ちしてるの? こんな期限切れた物まで寄越された俺の気持ちがわからんのか?」


「オーソレハ、シツレイシタネ、ワタシ、コノクニノ、ヒトジャナイ、アルヨ、ダカラ、コノクニノ、ルールワカラナイアルヨ」


「ふざけるなーこのやろー」


「チッ……」


 無駄なあがきであった。そして、下手な演技でもあった。怒り狂ったガーゴイルが護に突進しだすが……。地面から火の玉が、ガーゴイルの前に飛び出てきた。


「うげっ」


 トイレに隠れ不意打ちを仕掛ける前に、護がファイヤーボールを地面に隠していた。例えるなら、地雷を仕掛ける様に、それを遠隔操作で操っていたのだ。


「引っ掛かったな! このバーカ」


「な、何だとー」


 再び護が逃げ後を追うガーゴイルだが、護が仕掛けた地雷式ファイヤーボールが、ことごとくガーゴイルにヒット。空を飛べば良いのに、我を忘れて飛ぶのを忘れている。完全に護の術中にハマってしまった。


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