No.9 取り戻すの
やはり道が整っていないせいか、出発時はかなり体を揺らされた。
久しぶりに馬車に乗る私の体は慣れない揺れに悲鳴を一時上げていたが、徐々に揺れは収まり、いつの間にか消えていた。
それとは反対に外から聞こえる音が徐々に大きくなっていく。
シエンナの馬車は窓のカーテンが閉まっているが、自分で開けることはいつだって可能だった。
しかし、開けることはしない。
いつ誰に見られるか分からない。
そんな状況で開けれはしない。
絶対にバレたくはないのだから。
外から聞こえる声。
そんな外の様子が気になって仕方なかったが、私は好奇心を抑え、我が子のことを考える。
「ソフィー……」
シエンナが作ったバイクとそのバイクに搭載したAI ソフィー。
彼女が戦場に向かう際、別れ逃げるように指示をしたが、その後のことは一切指示は出していない。
私は愛する自分の子が心配で心配でたまらなかった。
ソフィーたちならきっと自分たちで考えて動いているのだろうけど。
彼女らのことを信じてはいたのだが、それでもやはり心配なのは心配。
シエンナは誰もいない1人の馬車でごろりと上体を横に倒す。
そして、そのままシエンナは目を閉じたのだった。
★★★★★★★★★★
「アルマンディン侯爵令嬢。アルマンディン侯爵令嬢」
そう声を掛けられながら、肩を揺らされる。
「ん??」
シエンナは眠たさと葛藤の末勝利し目を開け、座席の上で横にしていた上体を起こす。
目をこすり、やっと起こしてくれた女性の方を見ると、女性は笑っていた。
「アルマンディン侯爵令嬢。お目覚めのところを失礼します。
メイと名乗った女性は馬車の入り口でお辞儀をする。
彼女は私よりうんと年が上で、見知ったメイドの格好をしていた。
私にメイドだなんて。
「ご到着したのでお声を掛けさせていただきました。大変失礼いたしました」
「え、ええ。ありがとう。あと、私はもう侯爵令嬢ではないのでどうかエナとお呼びください。敬称もいりません」
そう言うとメイは横に首を振った。
「そうもいきません。ですが、ご令嬢のご命令ですので、エナ様と呼ばせていただきます」
私は敬称がつけられるのも嫌ではあったが、彼女は彼女なりのポリシーがありそうなのでこれ以上とやかくは言わないと決めた。
「エナ様。ではこちらに」
豪華な馬車を降りようと、踏み台に足をやる。
すると、冷たい風が少々出ている肌に当たった。
降りて、空に目をやるともう暗くなっており、月が顔を出していた。
そして、正面に目線を戻すと、そこにはあっと息を飲むような城があった。
残念ながら、自分が見えている位置は後ろ側っぽいのだが、それでも城の美しさは伝わってきた。
……。
さすが、乙女ゲーム。
弱小国でもこんな綺麗なお城が持てるのね。
本当に公式はやることなすことぶっ飛んでいるわね。
考えても仕方ないと最終的判断し、私は首を振って目の前のことに目を向ける。
死にたくない。
でも、ハンナちゃんに幸せになってほしい。
だから、できるだけ私がアルマンディン侯爵令嬢であることを知られないように学園に通うようにしないと。
そんでもって、
私はそう決意し、メイに案内され、王城の中に入っていった。
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