No.8 家のご事情

「エナがまさか侯爵令嬢だったとはな……」




シエンナとは別の馬車に乗っていたデニスは窓から見える景色をながめながら向かい座る相手に話しかける。

相手は呆れながら「殿下は分からなかったんですか??」と逆に質問していた。




「彼女のあの髪色はアルマンディン家のことでは話題ではありませんか??」


「髪色??」


「そうです。髪色です」




「はて??」とデニスは首を傾げる。

向かいにいるデニスの側近ステファンはそんな主君の様子に呆れてため息をついた。

主君に目の前で溜息など言語道断ではあるが、彼らの彼らなりの関係が許しているものであった。




「エナのオレンジ髪が何かあるのか??」


「殿下、アルマンディン家の方々は何色の髪でした??」


「えーと。何色だったか……」




デニスは向かいのステファンの方に体を向け、腕を組み考えているがその様子はどうもうさんくさい。

絶対に分かっていない様子である。




「殿下、このことは常識ですからしっかり頭に入れといてくださいよ」


「敵国のことだろう。別に覚えておく必要はないじゃないか」


「アルマンディン侯爵令嬢をお迎えしたんです。そうもいきません」


「……分かったよ。で、そのアルマンディン家の者は何色の髪なんだ??」














































「全員赤ですよ。綺麗な赤です。シエンナ様・・・・・以外は」




「エナ以外赤?? まさか、エナは……」

























「妾の子でもございません。そのような噂はありますが、シエンナ様は正真正銘のアルマンディン家のご令嬢です」





「じゃあ、話題になるようなことは何もないじゃないか」




「あるから話題になっているのですよ」






























「確かに、シエンナ様はアルマンディン家のご令嬢。しかし、ご家族からどうも髪色のせいか距離を置かれていたようです」


「オレンジの髪か……。家の者が全員赤なのにオレンジなのだもんな」




デニスはシエンナのオレンジ髪を思い出す。




「それに加えてどうも御兄妹の仲もそこまで良いとは言えなかったようです」


「まぁ、それはそうか」




すると、ステファンはチッチッと軽い舌打ちをしつつ人差し指を立てて横に振る。

本当に分かっていませんねと言いたいのか、整えられた顔も横に振っていた。




「シエンナ様には兄君と妹君がいらっしゃったのです。その兄君と妹君はとても仲が良かったらしいのですが……。兄君はシエンナ様のことが気に食わず冷たくあしらわれていたらしいのです」


「なるほど。だから、あんな場所にいたのか」


「殿下の話によるとシエンナ様は森の中に建ててあった家にいらっしゃったのでしたよね……。でも、あの場所はコーラル国でしたよね??」


「ああ。それがどうかしたのか??」


「あ、いえ……。単に私が疑問に思っただけなのですが、我が国に入れば、さらに安心して過ごせたのではないかと……。こう言ってはなんですがアルマンディン家の者は嫌っていると言えども決してシエンナ様を追い出すようなことはしないと思うので。追い出してもデメリットが大きくなるだけですから」




疑問を持ったそのステファンの話にデニスは首を傾げる。




「ん?? エナは追い出されたのではなかったのか??」


「まさか。シエンナ様は自ら家を出たのですよ。これも有名な話です」




「そうなのか……」と何も知らなかったデニスは現実に目をそらすごとく、また窓の方を向いた。

すると、「殿下、もう少し周りのことに目を向けてください」とステファンに追い打ちをかけられ、デニスは帰ったらもっとそっちの方向も勉強しようと誓ったのだった。

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