No.3 合言葉と言えばこれですわ

「おい、国に戻るって言ってもどうするんだよ??」


私とデニスはあのいい匂いのする(デニスはひたすら臭いって呟いていたけれど)部屋から出て、家の外に出ていた。

家の裏には車、原付バイク、中型バイク、大型バイク、魔力で動く発電機など私が作った大量の機械があった。

その中のあるものに私はそっと触る。


「これで行くのよ」

「なにこれ??」


デニスは私が作った大型バイクを物珍しそうに見る。

デニスの反応は当然である。

この世界において、バイクなんてものはない。

長距離移動はなぜか馬車か転送魔法が基本。

それなりに車とか作る技術はあると思うのだけれど。

中世の西洋が舞台というゲーム設定のせいか??

こっちの世界の人間のことを考えてくれよ、公式さんよ。


公式に心の中で文句を言いつつも、私はデニスにバイクのことを説明する。


「これバイクっていう乗り物なの。バイクにはいろいろ種類があって小さなものもあるけれど、2人いるからこの大きい方に乗っていくわよ」

「なんでこれに乗らないといけないんだよ。転送魔法でいいじゃないか?? 転送できる機械はないのか??」


デニスは肩をすくめ、他にはないのかと訴えてくる。

あのね……。


「私、魔法使えないのよ」

「でも、魔法石があれば魔法機械は作れるだろ??」

「そうだけど……」


確かに魔法石という魔力が詰まった石を使えば、魔法使いじゃなくとも魔法は使用可能だ。

しかし、私はその魔法石を別の開発で大量消費してしまい……。


「移動機械に魔法石を使用できなかったのか……」

「そうです……だから、これで行くしかないんです」

「まぁ仕方ないか」


時間がないデニスは仕方なく了承した。

でも、なんだか嫌そうな顔をしていた。

さてはこのバイクが地上を走るとでも思っているな。

チッチッチッ。

想像力がないですな、王子さん。


乗っていくバイクを家の表へ動かし、セレスタイン国へ行く準備をし始めた。

必要なものを椅子の下の収納場所に入れていく。

エナが大きな袋を入れていると、「それはなんだ」とデニスは気になっていたが、「使う機会がきっとあるんで、あとで紹介します」と答えてそっと入れた。

そして、あのお気に入りの部屋からヘルメットを取ってきた。

デニスは初めてヘルメットを見たため、渡された時は『一体、何に使うんだ』とでも言いたげな顔をしていたが、私が被ったのを見て理解し被っていた。

そして、ヘルメットを間違えて先に被ってしまった私はまた外し、家の前に立つ。


一時、お別れね……

って思いたいけれど、もしかしたらもうここには帰ってこないかもしれない。

あっちに4回も行って死んでるのだからね。

でも、帰りたいわ。

だから、それまで眠っていてね。


「3分間待ってやる!!!!」


私がそう叫ぶと、目の前に石碑が現れる。

地面から生えてきたその石碑はまだキレイで少し輝いていた。

そりゃ、そうだよね。

最近作ったんだもん。

この装置。

え?

なんでこの合言葉にしているかって??

そりゃあ、この世界の人たちはこのネタが分からないからよ。

それに私はジブリファン。

これを使わずにはいられない。

エナはその文字が書いてある石碑に触れ、すっと家の方を向く。


「ちょっとだけ待っていてね」


そういうと私は深呼吸をして、さよならをする家を見つめる。

そして、合言葉を叫んだ。














「見ろ!! 人がゴミのようだ!! ハッハッハッハッハッハ…」


ゴゴオォォーーーーーー。


すると、家は地面に沈んでいった。


「なんて言葉を合言葉にしてんだ」


後ろからバイクの近くに立っていたはずのデニスの声が聞こえる。

私は振り向き、『仕方ないじゃない』とでも言いたげに肩をすくめた。


「だって、この合言葉を『バルス』にしちゃったら、家が破裂するじゃない」

「意味が分からんぞ」


最初は確かに憧れの『バルス』しようとしていた。

でも、よく考えたら『バルス』は自爆コードみたいなもんじゃない??

だから、仕方なく大佐のお言葉をお借りすることにしたの。

もっといい言葉があったはずなのだけれど、これしか思いつかなくてね。


家が地上の下に隠れ、穴が芝生の地面によって隠されると、私とデニスはバイクに乗った。

運転する私が前、彼が後ろ。

彼は初め恥ずかしいのか私に抱き着くことを拒んでいたが、


『あら、バイクに乗るために抱き着くこともできないなんて、お可愛いこと……』


と私が言ってやるとすんなり抱き着いた。


ホントガキ。


そして、私がバイクのエンジンを入れると、バイクが浮いた。

そう、このバイクはただの地上を走るバイクではなく、空中を走るバイクなのだ。

縦だったタイヤは横になっており、そのバイクの姿はまるで近未来の乗り物だった。

デニスは急に浮いたバイクに驚きキョロキョロと周囲を見渡す。

因みに私はこのバイクに乗るのはこれで200回目。

ええ、驚くことなんてないんですよ。

驚いたのは、1回目とバイクから落ちそうになった時ぐらい。

落ちたときは幸い死にはしなかったけれど。

さぁ、王子様。

まずはバイクから落ちないことが一番ですわ。


「戦場に行くのでかなりの高さの所で走ります。落ちないでくださいね」

「ああ、分かってる」


私は豪快にエンジンを鳴らすと、近くにいた鳥たちが飛んで行った。

ここからが勝負。

もうこの人生5回目なんですから、できればもう死にたくありません。

死んだとしても別の人生がいいです、神様。

ほんとループは嫌です、神様。


「さ、生きましょ」

「??」

「あ、間違えたわ。行きましょ」


待っててね。

ハンナちゃん。

あなたに絶対この王子を送り届けるわ。


エナとデニスが乗ったバイクは風のように空へと飛んで行った。

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