No.4 あんた、戦闘能力バリ高いわよ
「あそこね」
「ああ」
私たちが乗るバイクの下には残酷な戦場が広がっていた。
焼けた野原。
爆発や剣などで殺されたであろう死体。
この光景を見るのはこれで3回目。
ん?? いや、4回目か?
多分、4回目。
そして、この戦場はだいたい私とデニスが死んでいた場所。
ちらりと横を見ると彼は悲しそうな目で地上を見つめていた。
状況は正直言うと最悪。
強国コーラルが圧倒し津波のごとく侵入しており、セレスタインの兵士は後退していた。
両国、魔導士はいるが、技術はコーラルの方が上。
セレスタインにとって手も足も出ない状況だった。
でも、私はこの、セレスタイン国を勝たせる。
じゃないと、どの道私が死ぬのよ、ったく。
「王子さん、ここから降りるわよ」
「えっ!?」
私は近くに椅子の下にある収納箱からリュックと大きな袋を取り出す。
そして、リュックの中に入っていたミニリュックを2つ取り出し、デニスに片方を渡した。
「はい、パラシュート」
「パラシュートって……用意がいいな」
「どーも」
私はそのミニリュックを後ろに背負う。
そして、さっきミニリュックを取り出した大きなリュックの方に例の大きな袋を入れ、前に提げていた。
ミニリュックを背負ったデニスがあることを聞いてきた。
「おい、ここから降りるといってもこのバイクはどうするんだ?? 無人になるぞ??」
「ええ、そうね。だから……」
私はハンドルの中央にある小さな画面にタッチをする。
画面には顔文字の「(・∀・)」や「(^ω^)」などが交互に表示されていた。
「ソフィー、私たちが飛び降りたら安全な場所に移動をお願いできるかしら??」
エナがそういうと、「ピコーン」という音が鳴り、
画面には「(-ω-ゞラジャ⌒☆」。
そして、
『了解です。いってらっしゃいませ』
という音声。
そうこれは私が作ったAI、ソフィーちゃん。
マイパソコンで開発していたのだが、バイクを作っている最中、コイツも乗せたら無人運転できるのでは?? ということで乗っけたもの。
なかなかの代物なのよ??
反応は基本音声と画面に映る顔文字。
私が作ったせいか、表現も豊かで最近では冗談も言ってくる。
「ありがとう、ソフィー」
『いえいえ』
私が軽くソフィーと話しているとデニスが画面を指さしていた。
「誰かそこにいるのか??」
「ふっ……」
あらあら、いけない。
何も知らない王子のド天然な発言に思わず吹きそうだったわ。
「いないわよ。しゃべっているのはあの画面内にいるAIよ」
「AI??」
「ええ。AI、人工知能のことよ」
「人工知能か……。お前、1人で作っのか??」
「ええ。ソフィーというのよ。仲良くしてやって」
「ああ、分かった」
デニスは返事をすると、画面の方に顔を向ける。
「俺はデニス。ソフィーよろしくな」
すると、画面には「(*^▽^*)」と表示され、ソフィーは「よろしくお願いします、デニス様」と言った。
さてと……。
私は戦場が広がる地上を見つめる。
いよいよね……。
横をちらりと目をやるとやはりデニスも緊張しているようだった。
2回目だものね。
この前は瀕死状態になってたし、当たり前か……。
と私がデニスを心配していると、デニスはつぶやいた。
「ん? なに??」
「ここから降りるのか……??」
「ええ、そうだけど??」
「……高いな」
デニスはさっきより何だか顔を青くさせている。
まさか、あんた……。
高所恐怖症じゃないでしょうね……??
「王子さん、さっきまで高いところ平気そうだったじゃない?? どうしたのよ??」
「……さっきはなるべく意識しないようにしていたんだ。空の景色きれいだなとか、このバイク凄いなとか考えていた。でも、いざここから降りるとなると怖さの方が勝ってきて……」
無理やり笑おうとするデニスは苦しそうに見えた。
はぁ……。
先に言っておいてくれたら対応したのに。
もう……。
無理するところはゲーム内の
少し微笑むエナはデニスに向かって左手を出す。
「手を繋いで一緒に行きましょ。そうすれば、怖さは減るでしょ??」
私がこう言うとデニスは少し落ち着くことができたのか、無理のない笑みを浮かべる。
「ああ、悪いな」
デニスは私の左手を右手でぎゅっと握った。
そして、目を合わすと私たちは頷き、そっと下を覗く。
「さぁ、行くわよ。いち、にの……さんっ!!!」
そして、エナの合図とともに、2人は戦場へと飛び降りた。
★★★★★★★★★★
「降りてくる途中で撃たれなくてよかったな」
「ええ、ほんとね」
私とデニスは無事地上におり、ちょっとした岩のかげに隠れていた。
良かった。
近くに森があって。
元々前線の近くに行くつもりだったけれど、途中で思った以上に隠れ場所がないことが気づいた。
私はどうしようかと考えていたところ、丁度目に森が入り、急遽その近くで降りることに決めた。
パラシュートは地味目な色で曇と被っていたせいか誰もこちらには気づいておらず、今無事に私たちは着地することができたの。
ほんと良かった。
「で、エナ。お前、武器持っているだろ。貸してくれないか??」
「何言ってるんですか、王子さん。武器持っているから必要ないじゃないですか??」
「はぁ??」
そう、彼には武器なんか必要ない。
そんなもの持っていたって役立たずの荷物になるだけ。
だって、彼はサイボーグ。
彼自身が武器なのだ。
「だから、戦場に行ってらっしゃい」
あんた、戦闘能力バリ高いわよ。
「お前なぁ……」
デニスははぁと呆れたようにため息をつく。
「どうすれば、攻撃できるんだ??」
「腕を意識して敵に手のひらを見せてください。そしたら、とっておきの物が出るんで。あ、ここでは放つのはやめてくださいよ??」
「……お前を信じていいんだな??」
デニスは訝し気にこちらを見つめる。
そんな心配症デニスに対し、私は満面の笑みを向けた。
「ええ!! 私を信じてください!!」
大丈夫よ。
何度も検査したのだから。
森の中で。
おかげさまで多くの動物たちに迷惑かけたけれど。
「で、鎧は??」
「はぁ?? あんたサイボーグなんだから鎧も何もいらないでしょ」
防御力最高ランクよ。
「でも、機械じゃないところもあるだろ??」
「大丈夫ですよ。魔法防御も付けてあるんで。あ、それで多くの魔法石を消費しましたよ」
「……後で魔法石返してやるよ」
そういうとデニスは岩かげから前線を覗き確認すると、歩き始めた。
「あ、王子さん。あなたの足にローラーが付いてんで一気に
「え??」
「あと、私も後から行きますが、それまではマイクで指示出しますね」
「あ、ああ。分かった。でも、どうやってローラーを動かすんだ」
「意識してください。その体はあなたの意思で動くので」
「分かった。行ってくる」
「行ってらっしゃい」
今回はステータスがホント高いからなんともないと思うけれど、
死なないでね、デニス。
デニスはローラーを使って前線に向かって走り出す。
その様子を途中まで見届けると、私は大きな袋から無線マイク付きヘッドフォン、そして、とっておきの自分の武器を取り出す。
ヘッドフォンを付けるとデニスの方がオンになっているのか爆発音が聞こえる。
「王子さん、聞こえますか??」
『ああ』
「前線まで来ちゃったら、さっき言ったようにガンガン攻撃しちゃってください」
『……了解』
そして、前線に行く準備をしていると、ヘッドフォンから『へ??』素っ頓狂なデニスの声が聞こえた。
すると、さっきまで豪快に聞こえていた爆発音は弱まり、逆に敵の叫び声が大きくなっていた。
「なんじゃこりゃあぁーーーーーー!!!」
「ひえぇーーーーーー!!!」
おまぬけな声である。
私が敵の声をそんな風に思っていると、ヘッドフォンからデニスの声が聞こえた。
「おい、エナ。お前の言った通り打ちまくったんだが……これはなんだ??」
きっと放ったであろうデニスは混乱しているようだった。
きっと、それは敵も同じ。
いや、違うわね。
大大大混乱なはずね。
「フフフ……」
『怖っ』
私が不気味な笑いをすると、デニスはそう言った。
作戦通りだわ。
そして、私はとっておきの武器を持って前線へと走り出した。
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