夜十時半に私は「アサリのぶっかけ」を作った

隅田 天美

料理の素人(一般人)が架空の料理を再現してみた実話 その8

 人は様々に『結界イメージ』を持っている。

 例えば、アニメでカッコいい声をしていた人が実は六十のおじさまだった……とか。(サンプリング、私。でも、その俳優さん、今でも私好きです)

 その料理は、私にとっての『結界』であった。


 料理の名前は「浅蜊のぶっかけ飯」。

 この『作った』シリーズ(でいいのかな?)の第一回『深夜二時に私は根深汁を作った』で作った根深汁(葱の味噌汁)以上に私の胃を刺激したのが「浅蜊のぶっかけ」であった。

 元々私は貝類が好きだし、行儀良い料理より丼飯のほうが好きだったりする(洗うの楽だし)。

 材料も浅蜊のむき身と長葱、あとは調味料少々である。

 ただ、私の住まう土地は海なし群馬県である。

 私は海辺に住んだことはないので海近郊のスーパーで生の浅蜊のむき身があるかどうかわからないが、少なくとも海なし県(群馬)において浅蜊のむき身というのは大量で冷凍されているものというイメージだ(私個人)。

――はたして、それでいいのか?

 この浅蜊のむき身が引っ掛かった。

――殻付きのを買ってむき身にすれば?

 ものぐさに私にそれは無理だ。

 後、食い意地も張っているので途中で数が減るだろう。

 ただ、ただ、私は小説の中の「浅蜊のぶっかけ」を羨望の眼差しで見ていた。


 が、ある日。

 近所のスーパーで『圧力釜仕上げ 殻なしアサリ』と『特売』のシールが目に入ってきた。

 思わず手に取った。

 生ではない。

 ボイルである。

――お、半値近くに下がっている

――でも、生じゃないから再現率低くないか?

――そもそも、どういう料理手順だったっけ?

 脳内会議が起こる(所要時間三十秒)。

 私は「殻なしアサリ」のパックを二つ、浅蜊の水煮缶を二つ買った。

 それから長葱も買った。 


 帰宅。

 まずは『剣客商売 包丁ごよみ』(レシピ本)を読む。

 材料は書いてあるが分量は書いてない。

 ただし、今回はヒントがあった。

 調味料の配合が書いてあった。

『濃い口醤油(3)水(5)酒(1)みりん(1)』

 今回出汁はない。


 戦歴の強敵ともであるフライパンに醤油五十㏄(貝など塩分を考慮して)、水百㏄、酒とみりんは共に二十㏄をいれて沸騰させる。(アルコール分を飛ばす。腕に自信がる人はフランベすると炎が綺麗だと思います)

 そこに浅蜊のパックと缶詰を投入(缶の汁も入れる)。

(素人考察ですが)たぶん、ここで浅蜊に火を通し浅蜊の味を汁(でいいの?)に移すのだと思う。

 浅蜊の身もぷっくりする。(まあ、元々火が通っているものですが)

 一度、身と汁をざるで分ける(濾す)。

 汁を同じくこのシリーズの戦歴の強敵ともの雪平鍋に入れてぶつ切り(五分切り)にした長葱を軟らかくなるまで煮る。

 長葱が柔らかくなったら、浅蜊の身を再び入れて完成。

 これを炊き立てのご飯によそって食べる。

(もっとも、夜も遅く「今夜、夢で逢いましょう」の更新もあったのでタイマー炊飯で食べたのは寝て起きて朝六時でしたが)


 感想。

 正直、不安でした。(実は毎回そうなんだけど)

 でも、今回は池波正太郎先生(または、剣客商売の主人公、秋山小兵衛さん)にハイタッチして言いたい。

「美味かったです‼」

 具材や調味料が少ない分、素材の味が存分に楽しめる。

 しかも、思いのほか手軽。

(柄付きざると鍋は必須だけど)

 大量に作って朝に食べるのが最高だと思う。


 ぜひ、おためしを。

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