第4話 暖かさ



 そういうわけで検証を始めよう。




 …数日後…



 結果?



 結果は…微妙としか言えない。



 確かに俺の口の維持にも魔力を使っていることがわかった。しかも口の中にあるものの時間を止めたり出来るから、前世のファンタジー知識では恐らく時空魔法ってヤツで、色んな魔法の中でかなりレアで強力なやつだ。多分。


 調べ方はとても単純で、火炎メガファイアを使って気絶してる間に母さんに魔力の変化を見てもらった。すると当分空っぽになってるはずの魔力が、少し残っていた。恐らく完全に空にはならないように口の維持に使ってる魔力を減らして回復に回したんだと思う。ミミックは状態異常からの回復は早いんだが、それも同じ感じで魔力を分けてるんだと思えば辻褄が合う。


 ただ、この配分は体が勝手にやっているため、意識してするのはかなり難しい。


 人間で例えれば、呼吸を常に意識してするのぐらいか?いや、心拍数を自分でコントロールするくらいかもしれない。


 ま、つまりはめっちゃむずいってこと。


 この仮説を立ててから毎日訓練しているが、ちょっと気を抜くと残しておいた魔力はすぐに使われてしまう。うまくいって次の大会までに火炎を一発気絶せずに撃てるだけ残せるようになるかならないかってくらいで、驚かせることぐらいにしかならないと思う。


 あと時空魔法を使えるのでは?と思ったが、現状ではそもそも出し方がよく分からないのでどうしようも無い。


 キツイ。キツすぎる!


 周りのモンスターは息するように魔法使えたり、俺なんかとは比べものにならないくらい体が強いのに!


「ふぅ」


 ここで一度意識を外に向けた。

 狭い押し入れの中で、母さんと目が合った。


「ミミちゃん、大丈夫?最近いつもそんな感じじゃない。悩んでるなら相談して?大会に出るのはいいけど、無理はしちゃダメよ?」


「そうだぞ。力にはなれないが、話しを聞くことならできるぞ」


 母さんの隣にいた父さんも、いつもの調子で気を使ってくれた。


「そこは力になる!って言ってくれよ…ちゃん付けやめないし…」


「はっはっは!父さんは自分に出来ることと出来ないことがちゃんと分かってるからな!あ、ちょっと今夜のご飯を買い忘れてしまっていた。ハニー!行くぞ!」


 そういって動き出す。

 忙しのない父である。


「もう!何やってるのあなた。仕方ないわねミミちゃん、ちょっと留守番してて?」


「へいへい、分かりました〜」


 親がぴょんぴょん跳ねながら押入れの戸に向かう。


 そして口の端からニュっと影のような黒く平たい手を出した。


 戸を開けて、外に出るとしっかりと閉めて、親は出て行った。


 因みにミミックは影の手を出せる。


 ものを掴んだり出来るし、戸を開け閉め出来るから手のないミミックにとってはかなり便利なのだ。


 ただかなり強度が低いので、戦闘には使えない。だから手札に入れていなかった。


 この手を出しても魔力が減った気はしないが、一体どんな仕組みなのだろうか。



 …ちょっと待て。



 口から鏡を取り出して見る。口の中は…真っ黒だ。


「この手は…魔法なのか?だとしたら、使っている魔力は……?」


 考えを遮るように、戸が開く音がした。


「ん?」


 親が帰ってきた。それにしても帰りが早くないか?

 忘れ物でもしたのかと思っていると、


「「おめでと〜う!!!」」


「へ?」


「いやいや、今日はミミちゃんの17歳の誕生日だぞ!」


「ミミちゃんはカレンダー見てないのね。私たち、しっかり店主さんに確認してたのよ」


 今日だったのか…全然分からなかった。


 そして父さんは、口の中から大事そうにそれを取り出した。


「これは…」


 香ばしい香りが漂ってくる。

 見るだけで、出来立てアツアツなのが分かる。


「オークのステーキだ。ここにくるまで何度食べようと思ったことか」


「もう、あなたったら!これは私達からミミちゃんへの誕生日プレゼントよ。」


 そう言って母さんはステーキが乗った木の皿を差し出してきた。


 オークのステーキ。


 普段俺たちは蒸した芋か、味の薄いスープしか食べない。辺鄙な村の一番弱いモンスターの食事はそんなもんだ。


 涎を飲み込む。


「ほらほら、ミミちゃん、食べてみて?」


「早く食えっ!俺の理性があるうちにっ!早くしないと…食うぞ?」


「…」


 オークのステーキなんて、俺は食べた事なんて一度もないし、この感じ多分親もないんじゃなかろうか。


 食うぞなんて言いながら、優しい目でこっちを見る二人を見て俺は笑った。


「父さん、母さん。皆で分けて食べよう?」


「え、いいのかい?」


「これはもうミミちゃんのよ。好きにして良いのよ?」


 ウチの優しい親は、食べようなんて思っちゃいなかったようだ。


「俺の好きにして良いんでしょ?俺が好きで分けたいんだ。」


 俺は手をニュっと出し、口からナイフを取って切り分けた。


 人間の口で一口の大きさになったオークステーキを前に、


「それじゃあ、いただきます!」


「「いただきます!!」」


 前世で食事の前にやっていた習慣だ。

 俺がやっていたら親も真似するようになった。


「ペロペロペロペロペロペロペロ」


「うわ!父さんきったねぇ!!」


「美味しー!ほっぺた落ちちゃう!」


「いや、俺たちほっぺたねぇから!…って別に突っ込まなくて良いとこツッコんじゃったじゃねぇか!」


「これが、ボケているように見せてボケない、ツッコミを引き出す奥義、裏の裏フェイク・フェイク…」


「いや、そんなのねぇし!俺のミスだから!」


「ペロペロペロペロペロペロ」


「それで父さんいつまで舐めてんだよ!俺まだ食えて無いんですけど!」


 今日、不思議と店主の声は聞こえなかった。


 そして、この日の食事は、前世を含めた俺の人生で一番暖かくて美味しかった。






 次の大会、絶対勝つ






 その夜、俺はこんな事を考えていた。



 何回もあった誕生日で、なぜこの日だけここまで豪華だったんだ?



 その疑問の解は、今は出そうになかった。


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