とあるゲームの物語

@ticaro

とあるゲームの物語



数多の種族が暮らす電脳世界 イノセンツワールド


この世界は電子機器の中にある目的で作られ、そして放置された架空の世界である。


何度でも始まる奇跡を約束され、戦いを目的としたこの世界。

陣地を求めた争いを繰り返す「戦乱の民」、エリアを肥やし、自然を味方につける「天地の民」、情報の解析と武器の生産、科学力に秀でた「知識の民」。

他にも多くの民が住み着き、独自の暮らしを続けている。

ある時、異常な災異が降り注いだ。世界を震撼する天変地異。


この災異に均衡は崩れ、繋ぎとめられた奇跡の理は不履行となった。ひたすら荒廃が進む天地と減り続ける民に、誰もが「世界は終わりに向かっているのだ」と悟り、恐怖と不安に苛まれる。襲い掛かる災異に立ち向かう種族と逃げ惑う種族、そして滅亡を受け入れる種族達。


狂いだした世界の中で、ある種族の少女は原因を突き止めようと動き始めた。

これは電子機器の中に作られた、架空の世界に起こる奇跡の物語である。



プロローグー



この世界は過去の偉人の高尚な英知と、技術の積み重ねによって成り立っている。

栄華を極めた古の時代は、やがて訪れる天変地異に見舞われ、衰退し、終末の惨禍に朽ち果てた。古の英知は密かに受け継がれ、長い空白の歴史を挟み、始まりの夜明けから再び歩き出した。過去の遺産は少数の選ばれし者達に引き継がれ、現在は光族が務める神官達によって大切に護られている。


古の民の残した遺産の一つに「時空儀」が挙げられる。


時空儀は時間を発生させる為に、数多の天体を誕生、活動と運動、そして消滅する現象を設け、世界を継承する者達に時間の感覚を与えた。



ここは科学の発展した街クローンシティ。

現代の学者達は数ある天体の中の2つ、月と太陽の動きを基準に時刻を設けた。

光と闇の往来を示す日周時計を造り、住民達に昼と夜が認識され、民の暮らしに大きく影響を与えた。


ある日のこと。夜空に発生した謎の力が全てをかき乱し、光と闇の時間に混乱が巻き起こった。時が狂い、次第に長くなっていく闇の時間に、いずれは光を失い、滅亡へ向かうと誰もが悟り、学会は原因の究明と対策に追われている。





第1章 機械の女の子サーチア




科学の街クローンシティ。

街の広場の中央の高台にはシンボルとも言える「天体運動モデル」が設置され讃えられている。天体を球体で表しリングを設け、自転と公転、軌道を現し、常時回転しながら宇宙の成り立ちを現しているそうだ。芸術性を感じさせるシンボルは今、動きを止めている。時間に異常が起きた現在では存在そのものが皮肉な程に忌まわしい。


その異常から気を紛らわせる為、また時の乱れによる、突如訪れる光と闇を防ぐ為に、街の上空を「セキュリティ」と呼ばれる半円形の「電流障壁」が覆っていた。そして「人工太陽」が設けられ、偽りの時間、仮時計を基準に住民は暮らしていた。電流が走る固いガードが成した、不自然な青い宙の下に高層ビルが立ち並んだ街が広がる。


ここは学生寮の一室。部屋の中には常に点滅している自作したマシン達。

本棚にぎゅうぎゅうに詰められ、入りきらない分は重ねてある大量の分厚い本の山。絨毯の上には読みかけの本や、資料が散乱して、一体いつから掃除をしていないのか足の踏み場もない程だ。

この部屋には研究員を目指す、学生の1人である機械族の女の子「サーチア」が住んでいる。学校へ行きたいところだが、事の対策に追われ現在休校中だ。

自室に籠り、過去の文献と研究資料、自作マシンで学校のシステムに侵入。情報を集め、独自で調査し原因を探っていた。彼女はソファに腰かけ読書中。両手に開いた本を交互に目を配り、頭をフル回転させて原因を考えていた。が途中で気力が尽き


「やーめたっ」


本を放り投げてしまった。机の上のすっかり冷めた紅茶を飲み、足を交差してくつろいでいる。暫くの間天井を見ているうちに居眠りしてしまい、目が覚めたら片手で足元の本を手に取った。本の上部をつかんだまま見上げて、ページをパラパラと流しやるせなく見てると手を止め、


「今の平和な世界は古の民の崇高な技術で成り立っています・・・

栄華を極めた古の時代はある時、闇に覆われて滅び、英知は失われた。我々は過去の遺産に支えられて繁栄しており、今日に至ります・・・か。」


本を閉じて机の上の紅茶を飲み干し


「甘っ」


底に砂糖が沈んだ紅茶のカップを机に置き、室内を見渡した。小型の天体運動モデルの模型や、三脚で支えられた天体望遠鏡を見て、


「こんな物必要無いわ」


そう言って無造作に、物置と化したクローゼットの中に閉まった。

室内に散らかった本や資料をどけ、ほんの少しだけできた足場を渡り、壁際によって窓を開けて空を見上げた。少しも入ってこない風と、外を照らす偽物の陽光を見てなんとなくイライラし、足元に落ちてるクッションをソファの上に投げた。


「夜空に何かあったんだわ…」


夜空の住民は基本的に地上の民とは決して交わらない。

幾重にも重ねて張られた大気の結界が地上と分離し、光と強力な勢いで駆ける星彩石だけが一方通行できた。分厚い層には幾つかの門が設けられ、隧道は星屑ヶ原へと繋がり、特別な許可を得た者だけが夜空の国へ入国できる。

街全体をプロテクトするなんてただごとじゃない、そんなことは誰にでも解る。しかし…


「学会は何を考えてるんだかまどろっこしいったらありゃしない…」


茶器をかたづけ、クローゼットを開け、衣服を整えた。調査、戦闘用の防護服の上に私服を着用。足元に散らばったの本の中の1つを手に取り、もう一度頭の中に叩き込んだ。


「誰も行かないなら私が調べに行くわ!」


戸棚を開き、授業で街の外を調査する際に渡される調査探索ツールセットをコアに閉まった。本来は回収されるものだが、緊急事態に急遽学校閉鎖した為、手元にある。他にも必要なツールを胸のコアの中に入れ、桃色のケープを羽織り、街へ出た。街は今住民の外出を禁じている。住民の不安を和らげる為に、外の惨劇を一切知らせていない。城壁に囲まれたこの街には四方に門があり、警備員が交代で昼夜見張りをしている。

サーチアは街を囲う城壁の中の1つ、東の門へ向かいました。外へ出るには、警備の目を盗んで門をくぐり、最奥の電流が迸る防塞を破るしかない。

よろよろ歩きながら、門前に立つ2人の門番に困った様子で話しかけ


「すみません、この辺りでネックレスを落としたんですけど届いてませんか?」


門番の二人は目を見合わせ首を傾け


「ネックレス?届いてませんが、どのような物でしたか?」


サーチアは泣きそうな顔で俯いて


「銀のチェーンに星のチャームが付いた、このキーホルダーとお揃いの・・」


そう言ってケープの中に手を入れた瞬間、両脇に仕込んだスタンガンを2人の警備員に当てた。彼らが痺れて倒れた隙に、街の外へ続くトンネルを駆け抜けた。

そして最奥に待ち構える緑の半透明の電流が走る防壁へ辿り着く。

電流壁の四隅にある機器を、コアから取り出したプラズマハンマーで破壊し、電流を止め、街の外へ飛び出した。

一体何か月ぶりの外の空気だろう。まるで新世界に飛び込んだ気分だ。

街の外に起きた事象を知りたくてたまらずに、危険を承知で街の外へ出た。


そこから始まる未知との遭遇が彼女の運命を変えていくことも知らずに。





第2章  改ざんの嵐                     




力づくで押し通り、そのままの勢いで街の外へと続く石畳の道を駆け抜け、石畳が疎らになってきたところで足を緩めた。


街の外に広がっている風景に言葉を無くした。


「これ・・一体・・・」


見慣れていた筈の風の駆け抜ける草原が、緑を1つも残さず赤い大地と化していた。街から続く石畳が砂塵に覆われ途切れている。砂埃が舞い、視界が悪く、その都度体に小石がぶつかって素肌に小さな痛みを感じていた。


「何が起こったの・・まさかこれ、全部・・・?」


否、流石に全部は大袈裟か。しかし・・・セキュリティに護られている間にこんなことが起きていたとは・・・。知識だけで知っていた惨状を初めて目の当たりにし、絶望的な気分だ。

シティの東に広がる「風そよぎの丘」、そこは天地の恩恵を求めて自然の民がやってくる緑豊かなエリアだった。


見慣れていた風の駆け抜ける草原が緑を1つも残さず赤い大地と化していた。街から続いていた石畳が吹きすさぶ砂嵐に覆われ途切れている。


砂埃が舞い視界が悪くその都度体に小石がぶつかって素肌に小さな痛みを感じていた。


「地表が荒れてる・・・大きな戦争があったんだわ・・・!」


本来この世界にはどのエリアにも天地からの恵みがある。しかし一つだけ例外があり、戦場と化したエリアは天の恩寵から切り離される。争いはいつでも対等でエリアの恩恵は領土を勝ち取った者にのみ与えられる。


「でも・・・どうして誰もいないの・・?」


戦争が去ったのならすぐにでも領土を確保し、地を肥やし、民の安全を確保する。なのに肝心な民が見当たらない。戦争が起きた痕跡があるのに、戦士の一人も見当たらない。ましてや荒くれ者のエネミー族の気配も感じない。

エリアそのものが再生しなくなっては住める場所はどんどん減っていく。

サーチアには眼前に広がっている光景に心当たりがあり、脳裏の中にその言葉を思い当てた。


「 これが・・・改ざんの嵐 ・・?!  」 


彼女が独自に調べた情報によると、各地で地の再生が追い付かない程の荒廃を巻き起こす嵐が発生してるという。何が原因でおきたか、全く想像がつかず、本来あり得ないことなので「改ざんの嵐」と呼ばれる、謎の多い現象だ。学会でも回避方法を未だ特定できず、セキュリティを強化してやり過ごすのが精一杯らしい。


サーチアは右手でコアに触れ、掌に球体型浮遊ナビを取り出した。


「 ー 風そよぎの丘 ー  人口密度#&%”$%・・・」


「・・・駄目だこりゃ」


ナビの音声にはノイズが混じり、まともに機能していない。

砂煙が入って故障しては困るのですぐにコアに閉まい、ロックをかけた。

サーチアは深いため息をつく。


資料室で調べたが、過去にこんな現象が起きたことは一度もない。

前例がないから対処のしようが無いのだろう。考え事をしながらひび割れた大地をひたすら歩くサーチアは、強風が吹き付け巻き上がる砂煙に視界を奪われた。唐突に地は激しく揺れ、無数の光が点滅し、視界が大きくぶれ、機械音が鳴り響く。災異は止まず、地に伏したサーチアは何が起きたかようやく理解はじめた。


「これが・・・改ざん・・・!?」


大地に指を地に食い込ませてしがみ付き、嵐の中で微かに目に映ったのは、

まるで影響を受けずに、平然と立ち尽くす映る謎の女性だった。

彼女は悄然とした眼差しで俯いてサーチアの元へ歩み寄り、両手を差し出した。


「・・・をお願いします」


目の前に両掌から差し出された小さく灯る光が、大きく膨らみ、あたりを吹き飛ばす勢いで、全てが浄化の光に包まれた。始まりと同じように唐突に、災異は収まり、元の荒れ地に戻っていた。心なしか、以前より緑がちらほら芽吹いたように感じられる。

意識を朦朧としながらも立ち上がったサーチアは、少し前の出来事を思い返し、頭の中に疑問符を浮かべている。 思い返そうとするほど、程記憶が遠のき、霞みの中へ消えていく。


私がここへ来た理由・・・寸前に起きたこと・・・以前との差異・・。

曖昧になった記憶の中で不思議とはっきり覚えている謎の女性・・・。

何者だったのだろう。どこか憂うような表情をしていなかったろうか・・


光を差し出し、何か言っていた・・そんな気がしてならない。



・・・光の力を託されたような・・・



サーチアは左手でコアに触れた。コアの中に薄っすらと、見たことも無い光彩が灯り、違和感を拭えずにいる。それでも、足を進めるごとに重い蓋が記憶に覆いかぶさり、少しずつ重みを増して封じていく。やがて頭の中の全てが一新され、新しい意識の中で世界を感じ取っていた。


改ざんとはこのように起こるのだとその事実に気づく者は少なかった。


サーチアは足を進めるごとに思い蓋が記憶に覆いかぶさり、少しずつ重みを増して封じていく。やがて頭の中の全てを一新され、新しい意識の中で世界を感じ取っていた。


急に風が強まり雲の動きが早くなり、地表の砂煙が舞う。

機械族は雨に弱いので、すぐシティへ引き返すか、雨除けをさがすところだったが、あの独特な雲の群がりには見覚えがあった。


雲は幾つもの塊となって集い、大きな雲塊を成している。


やっぱり、あの雲の集まり・・・!


「サーチア・・!」


天空からゆっくり旋回しながら降りてくる見慣れたシルエット。


あれは移動する「天空都市エアロキングダム」。そしてサーチアの馴染みであり、天空国の姫君、エアシャナだった・・・!

決して地上に降りることの無い空中都市には数多の自然の民が住み着き、自然を崇め共存することで暮らしている。

エアシャナは王国の姫君だが、しょっちゅう王宮を抜け出し行方をくらませる為、「迷い風の姫」と呼ばれ多くの民から親しまれていた。


「エアシャナ!無事だったのね!」


いつもは軽装のエアシャナが珍しく礼服で来ていた。重苦しく動きづらい重ね着で来たのは、急いできてくれた証だろうと、その心遣いが嬉しかった。


「サーチアこそ無事で良かったさ!あたしゃ心配で王宮を飛び出してきたさね!」


「それはいつものことじゃない!でも良かった!今は空も地上も危険な状況だから本当に心配してたのよ・・!」


「・・サーチア、空のこと知ってるの?あたしんとこよりもっと上の・・・夜空は大変なことになってるさ」


エアシャナの住む国は天空にあり、世界で言うなら中間層と言える。


「…やっぱり夜空だったのね。地上は今・・改ざんの嵐に襲われてるの、空は大丈夫・・?」


「あぁ、知ってる!自然エネルギーの高いエリアが狙われてるんでしょ?」


「自然のエリアから・・?」


「空から見てたら解るさ。なんというか・・力が高まってるエリアから、襲われてる感じさね。流石に大都市までは手に負えないんか、人口密集地にはあまり影響は出てないさ。・・・それにあの黒い雨・・」


「黒い雨・・?」


「夜空から大気の結界を突破して、地上に降りていく黒い影の集まり・・・なにかしらね、気味が悪いさ」


「初めて聞いたわ・・・・地上の荒廃と係わりがあるの?もしかして改ざんの嵐と・・・」


「空から見たら別々に起きてるように見えるさ。実は改ざんの嵐は黒い雨よりもずっと前から起こってたって噂さね。

あたしんちにも降ってきて、変な連中が湧いてきて、迷惑してるさ」


「黒い雨と改ざんの嵐・・・別々に起きる現象・・・どちらも調べる必要がありそうね」


「あたしの国の軍も手に負えなくてさ、王家を護る禁軍まで動かして対処してるさね」


サーチアは暗い顔を浮かべた。地上だけではなく天界も、そして宇宙までも、この世界の全てが大変な事態に陥っていたのだ。


「さっきここで酷い揺れがあったんだけど空からも見えた・・?」


「酷い揺れ?空からは光がチカチカして、蛍光色の砂嵐に見えたさね・・」


「・・・一体何が起きようとしてるのかしら」


サーチアは切なげに天を見上げて神様にでも救いを求めたい気分になった。


「あ、でも・・・少し前までこの地域には珍しい現象が起きてたさね。不吉な事じゃないさ、とても縁起のいいことよ!」


「あっ!もしかして・・・幻彩フィールドのこと?神域が現れてたのね!」


ふたりは互いの人差し指を合わせて


「正解さ!あれは空からみても美しかったさ!

でも・・・あっという間に消えてしまったさ。滅多にお眼に掛かれないとはこのことね」


神域とは幻彩フィールドにしか現れない、特別なエリアである。豊穣な恵みと癒しの泉が現れ、何よりも珍しいのは、「御神木」と呼ばれる、命の実る木が存在することである。神木の枝に浮遊するコアは、成長すると、神官達の伝統儀礼によって、世に送られ、その時初めて生を受け活動を始める。多くの個体は送られた場所で種が決まり、誰の手を借りることもなく、自身の足で歩きだすのだ。

シティの周辺に幻彩フィールドが発生していたなんて知らなかった・・・おまけに神域まで・・・


「神域が現れたのってこの辺りだった?仙木が一本も残ってないけど・・もしかして、このあたりの枯れ木は全部・・・」


「枯れた仙木さね。信じらないだろうけど、あちこちで現れては消えていってしまうのさ」


改ざんの嵐は自然のエリアだけでなく、神域まで犯そうとしているとは・・・


「サーチア、あたしゃそろそろ戻らないといけないさ、でもね・・・サーチア・・「影の民」には気を付けるさね!


黒い雨から広がる「シャドウフィールド」からあいつらは湧いてくるさ!奴らは粘り強いさね。見つけたらすぐに逃げるさ!」


「・・影の民・・!?そんな種族がいるの・・!?初めて聞いたわ・・フィールドまで・・?!」


「今は地上が荒れてるのは砂嵐だけじゃなく、影の兵と戦乱の民の戦いの末さね。奴らが来たところは荒廃の勢いが止まらない。地の再生が追い付かないレベルさ」


「そんな・・・それじゃあ戦乱の民は居場所が無くなる一方じゃない・・・そのうち私達の住処まで・・・」


エアシャナは目を背け荒れ果てた大地を見た。


「・・・戦乱の民は死に絶えるまで戦い続けるさね。でもそれは私達も同じさ。世界が終わろうとも最期までもがいて見せるさね。サーチア達もいずれはそうなるさ」


改ざんの嵐に追い打ちをかけるように出現した影の民・・・そして現れては消える神域・・・これらが全くの無関係とは思えない・・。エアシャナは複雑な表情を浮かべて天を見上げ、そしてサーチアに視線を移し、


「いざって時にはスカイキングダムに来るといいさ、いつまでも護れる訳じゃないけど、地上にいるよりはずっと安全さね」


「うん・・・有難う。エアシャナも気を付けてね!」


エアシャナは笑顔で手を振りながら、急浮上して天空都市へ戻って行った。


地上から見送るサーチアは、世界に起きた災異と凶事、その意味をやっと理解できた気がした。自分の至らなさを痛感し、酷く後ろめたい気持ちになった。

安全なところに護られて、起きている現実を知らずに過ごしていたなんて・・・。

振り返ると、砂煙の向こうに薄っすらと見える、半円形のセキュリティに囲われた、シティだけは綺麗に残されている。少しだけ安堵し、前向きに考えて、


「このエリアは襲われたけど、セキュリティのガードは越えられなかったみたいね。」




第3章  闇族と影の兵




無数にひび割れた大地。サーチアは砂埃を口を押えて凌ぎ、帽子が飛ばないように押さえ、視界の悪い荒野を真っすぐに進む。当てのない旅だった。

草原を住処としてた「新緑の民」はクローンに無事に避難できただろうか・・・。

方角を見失わないようにコアの中でマップとレーダーを起動し、警戒を怠らず、先へ先へと進んだ。何か掴めると信じて。倒木をまたぎ、枯れ木を横切り、裂けた地面を飛び越える。枯れた川にたたずむ大岩の上に登った。

突如レーダーに反応がでた!、サーチアが乗った大岩の下から、芽吹くように花が咲き誇り、黒から朱色に染まった花弁が舞い上がる。そして中から現れたのは「闇族」の少女。黒髪に赤い衣服の美しい女性だ。


サーチアは身構えた。右手でコアに触れプラズマハンマーを構えたが、


「警戒しなくていいのよ、驚かしてごめんなさいね」


闇族の少女は微笑み、


「私はカースネア。そんな物騒な物向けないで、貴方に危害を加えたりしないわ」


足元の歪んだ地表から、心地いい花の香りがする。


「あなたシティの住民でしょ?外は危険よ、今すぐ戻った方が良いわ」


初めて話す闇族は、意外にも優しそうな雰囲気だ。


「あなた・・影の民について何かしっているの・・?」


黒髪の少女は俯いた。


「私達、戦乱の民は地を荒らしてばかりで、土地を潤すことは不得意だわ。ごめんなさいね。でも、今起きてる事態は今までに無い、激甚災害よ」


「!!?」


「私の仲間だけでも甚大な被害がでたわ。それでも・・どんなに土地が荒れても戦うしかないの。自分の種族の為だけじゃないわ、全てを終わらせない為に、戦える者達が戦うしかないの・・!」


「それなら私達、シティの住民も一緒に戦えば良いじゃない・・!」


カースネアは憂いを込めた笑みで


「私達、闇族は戦いが全てだから、滅びても悔やまれない。あなた達には、安心して暮らして欲しいのよ」


サーチアはあまりにも切ない想いに堪えかねて、


「お願い教えて!影の民は何者なの!?何が起こっててどうすればいいの!?」


カースネアは暖かい笑みを浮かべ、目を閉じた。再び舞い上がる花弁の中へ溶け込み、花の香りと共に消え去った。何も教えずに去る闇族に、呆然とするサーチア。戦いを得意とする闇族までもが追い込まれているとは・・。

サーチアは顔を上げ、もう一度大岩に跳び乗る。何もできないはずない!絶対にヒントを掴んでやる・・!




第4章  天からの光柱





出掛ける前に戦闘の準備はしてきた。戦闘と言っても学生が野外実習する際に渡されるエネミー族と戦うために渡されたツールのみだ。


さっきは身構えたが、正直に言うと戦士族との戦いには備えてない。


戦乱の民達と遭遇すれば、即座に自室のワープパネルへ飛べる。戦わなくても手がかりが見つかり次第、戻れば良い。残念ながらこの考えは甘かったと後で思い知る。


枯れた仙木の達中に、一際大きな一本を見つけた。天を仰ぐ様に細い枝を伸ばし、乞い願っているように見える。


「これは・・枯れた御神木・・・」


初めて見る、命の木に対する不思議な気持ちに引き寄せられ、根元まで近寄った。

天に伸びた枝を見上げ、命の煌めきと神々しさを思い描き、物思いに耽る。その時、突風が吹き抜け、砂嵐に邪魔されて目を細めた時、眼前に光を感じた。片腕で風を遮り、目をなんとか開くと、太い幹が大きく音を立て、ひび割れた。小さな隙間から光の英数字が、浮き出ては消えていく。調べようと思い、傍に歩み寄ると、英数字は球状に纏まる。そして光り輝くそれは、サーチアの掌へふわりと寄って来た。

両掌に浮かぶ、不思議な文様が彫られた球体。胸のコアに当てると、ほのかに暖かい。

「何かしら?不思議な光だわ・・・」


その瞬間、天から光柱が降り注ぐ。サーチアは呆然と立ち尽くし、頭頂からつま先まで、何かが突き抜けたような感覚を残して、意識が弾けた。光柱は消え去り、掌の球体は無くなっていた。不可思議な現象にひどく困惑した。

光を浴びて、さっきの自分と違うような違和感を、拭えずにいた。そして辺りを見渡して、その違和感は確信へと変わった。


「・・・草原に戻ってる」


サーチアのよく知っている風景に変わっていた。

疑問符を浮かべたまま草原を見渡すと、遠くに黒い煙が上がってるのを確認した。


「あそこは・・・「おとぎ族」の住処だったかしら・・・」


傍まで近寄ると、廃墟と思しき集落のようだ。黒く焦げ、異臭を放っている。


「火災でもあったのかしら・・・」


燻った臭いの煙が立ち上り、暗雲を浮かべてる。そして廃墟全体が、薄気味悪い瘴気を漂わせていた。コアに触れて分析すると「シャドゥフィールド」という結果が出た。その言葉で一気に記憶が蘇り「影の民」という文字が脳裏に浮かんだ。


「これが・・・影の民に荒らされた跡だわ」


背筋が凍り、後退った。禍々しい瘴気と手招きでもするように蠢く影達。

生き残りがいるとは、とても思えなかった。何か居たとしても、それはもはや味方では無い。私の手に負えない・・!踵を返し、戻ろうとした瞬間!影が素早く腕を伸ばし、サーチアの影をしかと捕らえた。


「あっ・・・!」


サーチアは体の自由が奪われ、瞬時に周囲がフィールド変化が起こり始めた。

必死に逃れようと体をよじるが、湧き出る闇に纏われ、自由が利かない。

闇はどんどん膨らんでいく…!サーチアの影が足を伝って膝まで這い上がり、絶望的な気分だ。間に合わない・・・!


「お前・・・そのコアは何だ」


影の中から声がした。


「お前何者だ?コアを置いていけ。ここはお前の来るところじゃない。」


コアを失うということは死を意味する。

足元の影が渦を巻き黒い靄の中から、赤い目だけが覗き、サーチアを睨みつける。


「あなた達は・・何が目的なの?・・何故この村を襲ったの・・!?」


震え声で話しかける。

返答は無く、靄は大きく膨らみ、容赦なく飲み込もうとした。


「待って!私は知りたいだけよ!教えて!!」


恐怖心を振り払い必死で訴える本心。靄は一瞬動きを止め、渦巻く中から、上体だけを現した影の主と思しき少年。さっきの靄と赤い目は威嚇だったのか、少年の体は思いの外小さい。夜色のボサボサの髪に黒服を纏い、赤い目を光らせて、渋い顔をしてる。


「誰かが世界を変えようとしてるんだろ」

返答した。赤く光る眼は空色に変じ、黒服と黒髪が紺色に色褪せていく。


「改ざんの嵐のこと・・何か知ってるの・・?」


靄が薄れ、海色の髪をなびかせた少年は

「誰かが均衡を崩したんだ、それに乗じて闇族が勢力を上げている。そんなに驚くことか?」


そうか、そうだった。目の前の少年のコアは恐らく闇族のものだ。闇族は同種を集め疾風の勢いで勢力を上げるが故、長い迫害の歴史からを逃れて生き伸びていたのだ。

自分の中で、何故か合点がいった。


「あなたは闇族の生き残りだったのね。」


少年のコアは見たことのない色を讃えている。


「僕は闇の化身だ」


さっきよりもはっきりとした声で返答した


「化身?純粋な闇族ってこと?」


「‥‥」


少年は暫く考え込み、ずぶずぶと地に沈んでいった。


「待って!あなた達は何を知ってるの!?教えてよ!」


返答は無く、辺りを見渡すと瘴気が陽炎の様に歪み、溶けていく。


「‥‥フィールドが消えてる。」






第5章  闇の中の決死行 





瘴気が浄化され、廃墟から影の気配が去った。少々困惑したが、フィールドが正常に戻ったので、助かったのだと安堵した。

壊滅したエリアを回り、レーダーを頼りに住民を探してみる。けれども、反応は無く、住民は皆逃げ出したかコアを奪われたようだ。サーチアはため息をつき、ここで起きた惨劇を想像し、悲しくなった。両手でコアに触れ、温もりを求めた。

「コア」とは皆一つだけ胸に宿している命の結晶。失うことは死を意味する。

そして戦闘種族の間では、コアの力は身分そのものだ。

しかし居住地や種族ごとに思想は異なり、身分を尊重せず、階級を持ない種族もある。

クローンシティが戦闘を禁じているように戦いを好まない種族の多くは集まって暮らすのだ。最初の目的…街の外の調査を思い出したが、十分解った。私の手に負える事態じゃない…!

日が傾き闇の時間が迫ってくる。急いでシティに引き返そうとしたその時!

レーダーに強い反応が!すぐを目を凝らし、注意深く見回すと、


現れたのは枠だけを型取られた宙に浮く光の立方体―触れるとサーチアのコアへ一直線に駆け抜けていった。

ぼんやりした意識を戻し、瞬きをしてコアに触れても変わった様子は無く、夢でも見たような気分だ。不思議な出来事に困惑し、考え事に浸っている間に、辺りはすっかり闇の時間に転じていた。セキュリティの掛かっていない箇所で闇を越すのは死に直結する。さらに闇の中に光を放つのは自分の存在を晒すそれ以上の愚行である。


恐怖と不安に苛まれ、光を放つコアを開くこともできずに、記憶だけを頼りに、壁を伝いながら引きずるように歩き、通ってきたと思われる道を引き返した。

旺盛な好奇心が完全に仇となった。廃墟に入り込んだせいで完全に方角を見失った。

光は異形を吸い寄せる。存在を隠すため、コアに備えた能力を全て使わずに、息を殺し、気配を消した。闇の中を手探りに、せめて集落の外に出ようと歩き続けた。しかし、恐怖で委縮する体に、ついに足が止まり、膝をついた。

両腕で震える片を抱えたが、もはや歯の根が合わない程止まらない。

ぐっとこらえた瞳から雫が落ちていった。


「誰か助けて…」


コアに弾んだ水滴に呼応するように、足元から見たことも無い光輪が広がった。

それは主を中心に螺旋状に延び回転している。

何が起きたか解らず驚きのあまり立ち尽くす少女にどこかから声がかかる。


「何してる!速く走れ!」


さっき話した少年の声!?


「この先を真っ直ぐに進めばシティに着く。急げ!」


考える余裕も返答する暇も無かった。街に向かって一心不乱に駆け抜ける。

一か八かコアが破裂するんじゃないかと思う程に、力の限りセキュリティを目指して疾走した。息を切らし、ようやくセキュリティの掛かる街の門に辿り着けた。足元を見下ろすと、先程の光は薄まり光の円盤が弱く縮まっていた。

門番は心配して救援を呼び、病院に運ぼうとしたがサーチアは遠慮した。門の内側でしゃがみこんで休もうとしたところ、日中、強行突破された門番が駆け付け、


「現在シティを出ることは禁じられてます、今後二度とこのような真似をしないで下さい。それとあなた、お名前は?この件は上層部に報告します」


「・・サーチア。・・・IT総学部フィールド研究科1年生」


「学生か。今学校は閉鎖中なはず。自宅待機の指示がおりてますね、きちんと従ってください」


「はい・・すみませんでした・・」


心配して駆け寄ってきた住民には遠慮して、足を引きずるように寮に帰宅した。身勝手な行動が多大な迷惑を生み、酷く申し訳なく思った。


「生きて帰れた…」


安堵の声と共にどっと疲れが出て室内に倒れこんだ。






第6章 影の少年






部屋の窓から朝日が差し込み目を覚ました。昨日は疲れて絨毯の上で眠っていたらしく、散らばってる資料によだれが染みついていた。

まだ体が痛い。あんなに力一杯走ったのは生まれて初めてのことだ。

とりあえず顔を洗い、朝のコーヒーを淹れ、ゆったりとソファにもたれかかる。天井を見上げて昨日のことをぼんやりと思い返していた。

あの少年は何だったんだろう 何をしようとしていたのだろう あの光輪は一体…

思い返すと胸が悪くなった。コーヒーの湯気のように頭の中がもやもやする。当分は街から出ずに静かに過ごそうと決めた。


日に日に短くなっていく光の時間、学会はどう考えているだろう。上層部はどんな行動を起こすのだろう。

昨日の悪夢のような出来事を思い出すと、もうどうなっても良いような気がした。

街の中は今は昼時。陽光がこんなにも恋しいと思ったことは生まれて初めてだ。たとえ偽物の光でも。


「せっかく晴れているんだもの、外へ出て陽にあたって来ようかしら」


玄関前の鏡に向かい自身に変化が無いのを確認。赤い瞳に赤いコア。

強いているならコアの色が少し金色の光を放っていて、少し変わった気がするが何ともないだろうと、

乱れた髪を整えてベレー帽を被り、武装を解いてお気に入りのトップスとバールンパンツ、そしてロングブーツを着飾り外へ出た。

見慣れた街並みのお気に入りの通りをコツコツと石畳に音を立てて歩いていた。

とても心地良い気分だ。日向を歩き人通りの多い道を進み、公園へ立ち寄る。

こんな時だけセキュリティのガードの硬さと人口の日光に感謝した。都合の良い話だが。


今は少し日差しが強く照っていて、誰もいない時間だ。

いつもなら私も冷房設備のある所へ避難するところだが、今日は別!

日向に躍り出てブランコに駆け寄り腰かける。強すぎるくらいの日光が心地良くてしょうがない。さっきまで空ばかり見ていた為、首がちょっと痛くなる。少し苦笑して足元を見下ろし、呟いた。


「…昨日の光は何だったのかしら」


「あの光は燐晶のものだ」


「!?」


ドカンっ!!


予想外の返答に驚き、後ろに倒れ、思い切り地に頭をぶつけた。


「アイタタタ…」


頭を強く打ち目に涙を浮かべたまま、片手で服をほろうサーチアは、もう一方の手で頭を押さえている。


「あなた、その声昨日の・・」


「そうだよ、あの時から君の影の中に縛られてるんだ」


「影?縛られてるってどういう意味よ」


「君と接触したとき呪を掛けられた、早く解いてくれよ」


「呪いって…私何もしてないわ!」


「僕だって知るもんか!早くでたくてしょうがない。君が解けないなら僕は…いや僕達は世界の混乱から逃れられないぞ・・!」


「そんな…やっと生きて帰れたのに巻き込まれるなんて嫌よ!」


「僕だって抜け出せないんだ、どうしようもないだろ」


それじゃあ…と言いかけて止めた。甲論乙駁とはこのことだ、いくら言い合ってもキリが無い。受け入れ難い現実に幻滅したサーチアは言葉を失う。公園を照らす陽光だけが緩やかに傾いていった。


暖かな日差しに励まされ、気を落ち着かせて空を見上げたサーチアは、聞きなれない言葉を思い返し、足元に話しかける。


「・・さっき・・・燐晶って言ったかしら?」


足元からさっきの声が返答した。


「光族の力を高密度に蓄えた神石・・・光のコアだ。あんたのコアに取り込まれ、その時書き変えられた。あんたはもう光族になったんだ」


言われてみて、ずっと感じていた違和感にようやく気が付いた。

自分のコアは変わってしまった。それなのに不思議と心が落ち着く暖かな光彩・・・


「・・・私、光族じゃないわ。確か私は機械族で・・・」


「あぁ、僕の記憶でもあんたのコアは曖昧だった。だが今のあんたのコアからは光族特有の強い光彩を感じ取れる。・・・あんた光族の出来損ないか?」


「失礼ね!あなたこそ闇の化身って何者なのよ!」


足元の影は言葉を詰まらせ少しばかり沈黙し、


「・・・お前に会ってからそう感じた、ただ闇のコアを持つから闇族なんだと・・・」


「・・・なら私と同じじゃない」


「まぁ・・そうだな・・それより燐晶のことなんだが・・・燐晶を得たことであんたは光族になってしまった。光族が少数民族とはいえ、唐突にそれが現れるなんて本来あり得ない。わかるか?あり得ないことが起こった意味が 」


自分が光族に変わってしまった・・・昨日改ざんの嵐の中に見た光の女性の力が私に宿ったということだろうか。それとも枯れた木の裂け目から見つけた光からだろうか?それとも廃墟で見つけた光の封印を解いたせいだろうか・・?

不思議なことが一度に何度も起こった為か、あまり抵抗が無く自然と現実を受け入れることができた。


「理由はどうあれあんたはもう光族になってしまった。解ってないかもしれないが、神域が蝕まれている今、光族ってだけで世界を蝕む多くを敵に回してるんだからな」


「で、でも光の力があれば神域の汚染を修復できるかもしれないじゃない・・!」


「やめておけ、希少種である以上そのコアを狙っている輩は沢山いる。・・・自分で言うのも変だが、昨日僕にコアを奪われかけたことも忘れたのか・・?」


そうだった・・昨日コアを狙われて、影に取り込まれかけたんだ・・・・

思い出した瞬間身震いし、今後何が起こるか分からない現実に青ざめ、不安に憑りつかれた。


「わ、私が光族になってしまったから何が起こるというのよ!?」


影の少年は返答に困ったのか少し間を置いて、


「・・・まぁ それが起きたんだから世界に必要とされてるんだろうけど、君のコアに取り込まれた以上取り出せない。世界に起きてる事象から逃れられないだろう」


冗談じゃない。昨日命辛々逃げ出して来れたというのに、まだ何かが起こり、それに関わらなければならないのか。


「そんなの嫌よ!私はもう機械族に戻れないの・・?」


「燐晶はコアに取りこまれて完全にブロックされている。君自身が燐光体になったと言った方が良いだろう。さっきは言い方が悪かったが、君はもう機械族じゃない。光族として生きるしかないんだ」


・・・今朝から薄っすらと感じていた違和感にやっと気づけた。部屋を出てから誰ともすれ違っていない。誰もが私に寄り付こうとせず、街の住民全てが私を警戒し、避けて通ってさえいるような感じだ。

昨日は疲れ切っていた為、記憶がない。だが街へ戻った時、何やら慌ただしい声が聞こえたのを微かに覚えている。サーチアは小声で足元に問いかけた。


「街の人達の姿が見えないわ。話し声が全然聞こえない。皆私を警戒してるの・・?」


「当然だろ、光族に会えるなんて本来喜ばしいことだ。だがタイミングが悪かったな。世界が荒れて混乱しているこのタイミングで現れたから皆恐れおののくんだ。」


幸運と不幸は表裏一体、禍福は糾える縄の如しとはこのことか・・・。


さっき世界に必要とされて光族になったと言われたか・・・だとすれば自分には役割が・・・その為にはこの街には・・・


「私はこれからどうすれば良いの?光族になったところで何の役割があるのかも判らない。このままの暮らしを続けていいの?」


「・・・じきに問題が起こるだろう。あんたにはいずれ災いが降り注ぐ。この街はガードが堅いから当分は安全だろうけど」


サーチアはすっとブランコを降り、家路へと歩き出した。意を決したような眼差しで真っ直ぐ自室へ向かう。ドアを開け入室し、物置きから沢山の小道具を取り出して床に並べた。一刻も早くこの街から出なくてはならない。私が育ったこの街は絶対に守りたい。その強い想いが彼女の体を自然と急きたけた。

影の中の少年はその一部始終を見ており、


「お前、今から支度してどこに行くんだ?行く宛てあるのかよ?」


サーチアは少しばかり荒っぽい声で


「私が街にいたら皆が落ち着いて暮らせないじゃない!行く宛てもやることも判らないけどとにかく街から出るしかないのよ!」


影の少年は少し間を置いて


「あんたのコアは狙われてると言った、無暗に身を危険にさらすことはない。さっきの言葉は取り消す。当分はこの街のセキュリティに護られてた方がいいと思うぞ」


「皆を巻き込むなんて嫌よ!この街は絶対に護りたいの!」


少年は意気消沈したような口調で


「なぁ・・これは僕からのお願いなんだが・・・」


「・・・・?」


「当分の間はセキュリティから出ないでくれ。君が死ねば僕も死ぬ。それに君が役割を果たさないと、この街ごと世界が惨禍に飲み込まれると思うぞ」


サーチアは動かしていた手を止めて息を吐いた。


「私には役割があるけどそれは今じゃない、時が来るまで身の安全を確保しろ。そういうことね?」


「その通りだ。正直今のあんたが焦った所でどうにもならない。それにあんたはまだ疲れてるはずだから当分は今まで通りの暮らしをするべきだ」


・・・・今の今まで気が高ぶっていて気付かなかった。一度に多くの事柄を知って気が焦っていたらしく、昨日と同じように疲れがどっと肩から重く圧し掛かる。途切れそうな意識を何とか繋ぎとめ、サーチアはふらふらとソファへ向かい倒れこんだ。

目を閉じたまま弱弱しい声で呟いた。



「・・・もう以前の私には戻れないのね・・・今の私は機械族じゃないもの・・・」








第7章  偽りの日常








ー翌日


目を覚ましたのは昼過ぎ。あのままソファの上で寝込んでいたらしい。いつの間にか毛布がかけられている。

昨日までの緊張が解けて疲れとなってどっと押しかかり深い眠りに就いていたらしく、悪夢を見ていたようだ。重い体を持ち上げると足腰がギシギシと痛む。門番を気絶させ、強行突破し街の人達に多大な迷惑をかけた報いなのだと少しばかり反省した。僅か二日の間に起きた珍妙な出来事の数々。あのお喋りした影はどこへ行ったろうか。サーチアの頭は理解が追い付けず思考は停止し、二日前までの変わらない日常を営むことにした。

窓を開けて空気を入れ替え、ベランダに出て布団を干し、朝のコーヒーを淹れる。

記憶を無くしても、身に着いた習慣というのは無くならないらしい。

恍惚とした表情を浮かべて温かい息を吐き、夢心地気分に浸っていたサーチアは


「あの男の子・・・もういなくなったのかしら」


そう呟くと即座に足元から返答が返ってきた。


「んなわけないだろう」


サーチアは驚いてコーヒーカップを落としそうになり、慌ててテーブルの上に置いて足元に視線を下ろす。


「あなた・・まだいたの・・・!?」


「当たり前だろ、君の影に縛られてるんだから」


「どうやったら離れてくれるのよ!?」


「言ったろう、呪を掛けられたと。掛けた相手は君の周辺にいると思ったんだが・・・どうやらこの街にはいないみたいだな」


「それ・・どうして解るの・・?」


「昨日君が寝てる間に影を伝って街中を調べ回った。この呪いは陰陽を一対に括り付けているからどちらかが死ねばそれまでだな」


「陰陽一対・・・私たちはずっと離れられないってこと・・?」


「君が光族で、僕が闇族。昨日言いかけた一蓮托生とはこのことだ、


それよりもこの街の多くの種族が非戦闘種族で、災異とは無関係だと解ったよ。呪いを掛けることができる大層な奴は1人もいなかった」


「じゃあ・・いったい誰がこんなことに・・・」


少年は何を考えたか少し間を置いた。


「・・・この街の科学の発展具合に驚いた。だてに「科学の街」と呼ばれるだけのことはある」


「当然よ!ここには凄い学者たちが沢山集まってるんだから!」


「学会はこの現象をどう見解してる?対策は考えてるのか?」


「学会は街の住民を護ることと、不安を煽らないことばかり考えてて、ちっとも進んでいないわ。改ざんの嵐や影の兵に関しては機密事項、神域のことも伏せてあるわ」


「やっぱり神域か・・・」


「・・・?」


「科学が発展しても神域だけは判明していない謎が多い。神官達が口伝えで引き継いでいる秘密や伝承が数多く、漏らす奴なんていないだろうからな」


「・・・なんでも科学で解明すれば良いってものじゃないってことね」


「忘れてないか?お前、光族なんだから神域に入れるかもしれないぞ」


「神官たちはみんな光族だけど私は神官じゃないわ。入れてもらえるかしら・・・」


少年はしまったと言葉を詰まらせ、少しばかり落ち着いた口調で


「・・何度でもいうが今はシティの中にいろよ。僕も君も、まだコアの力が不完全だから戦おうなんて思うな」


「あなた随分事情通ね、そういえば・・お名前聞いてなかったわ」


「僕はフロフォス、当分は相方だ。お互い仲良くしようぜ」


サーチアは相方を置いて、いつも通り顔を洗い、身支度を整えて自室を出た。

寝坊をしてしまった為、すっかり日が傾き始めていた。外の風も偽りの陽光も造り物とはいえ良く出来ている。まるでクローンシティそのものが一つの世界を成してるようだ。フロフォスの助言に従って、暫くはシティ内にいようと思った。無暗に身を危険にさらす必要はないんだと。今世界に起きているのは自分の手におえない、きっと学者達が住民を護る方法を考えだすだろう。





第8章  星の彩り





数日経ち、同居中の影の少年は、すっかりサーチアとの暮らしに馴染んでしまっていた。認めたくないが、サーチアもまたすっかり影とお喋りするのが日常になり、歩きながら一人で会話する奇妙な光景に気を取られることなくなった。街の人たちの視線は相変わらずだが、話し相手もいるし一人じゃないから怖くない、そう思えた。

今日も窓を開け室内の風を入れ替える。作り物とは言え日差しというのは心地良く体を温めて、励ましてくれるものだ。サーチアは室内の円い窓の傍の本棚に、散らばってる本を纏めて押し込んだ。

大雑把な部屋の片づけがひと段落し、ソファに腰掛け、足元の本を読むとなくパラパラとめくっていた。光の民は神官だけではないが決して個体数は多くない。そして多くの謎を秘めている。学生であるサーチアでもそのくらいは想像がついた。

影の少年フロフォスの言っていた通り、昨日よりも、一昨日よりも、日に日にコアの中の光彩が強く灯ってるような気がする。


この世界に必要とされている・・・といっていただろうか・・。

光・・星明り・・・・・夜空・・・!


サーチアの頭の中で光のコアと夜空の国が結びついた。夜空の国とは地上と係わることの無い、特異な種族達の集まる隔離された世界・・・。私の役目は夜空を救うことではないだろうか・・・。何を思ったかふとコアに触れて光の力を確認した。

ついでにコアのツールの中身を確認すると、いつの間にか新しいフォルダができていた。


「何かしらこれ・・いったい何時から・・・」


新しいフォルダは「光の継承」と書かれており、開くとその中には見慣れないアイテムが幾つも入っている。一通り目を通すとその中で見慣れた言葉、「天象儀」を見つけた。

天象儀・・・・コア内でプラネタリウムと変換されたそれは、サーチアの自室にある屋内用の照明タイプとは違い、古びた金属でできた無数のリングと球体が絶え間なく円運動を繰り返し、それが天体達の運動を表していると一目でわかった。それぞれのリングが決まった速度で均等に動くのを観察すると、随分昔に失われたはずの「時間」の存在を思い出せた。


「これが・・本来の夜空の姿・・・本来の時刻・・・」


旺盛な好奇心を掻き立て、片手にプラネタリウムを浮かせたまま、もう片方の手でコアに触れた。フォルダの中に目を通していると、「終始の書 改変の錠前」という文字が見え、もう片方の手でコアから取り出した。掌に浮遊する神々しく輝くそれは分厚い本だ。錆びた細い針金が不思議な文様を描くように絡まり、中央に大きなペンタグラム-星形の錠で硬く封印されている。


「やぁ、大分光の力が身についてきたみたいだな」


すっかり同居生活に慣れた影の少年。相方の口調が移ったのか随分穏やかな口ぶりだ。


「フロフォス!・・・これ、「終始の書」っていうみたいなの・・・開け方解る・・・?」


「その分厚い本が・・?」


「錠がしてあるの。針金が頑丈に絡み合って堅牢に護られてるみたい・・・この本・・何なのかしら」


サーチアが足元に差し出すと


「・・・っよせ!その本は眩しすぎて僕には触れない。只の本じゃないのは見て解るがそっちは何だ?その変な形の動くリング・・」


「これは天象儀・・・夜空の運動を球体で表してるみたいなの。でも・・・」


「?」


「今の夜空はこんなのじゃないわ」


サーチアは手の中の天象儀をやんわりと床におくと、床から伸びた影の中から歪な形をした掌が現れそれを受け止める。


「本当だな、これは誰が見ても一目瞭然だ。この中心にある小さい球体・・太陽か?この動きじゃシティで開発された日周時計みたいだな。ん?違うか、逆だ。クローンの学者が過去の記録を元に再現したわけか。」


「やっぱりこれは本物の天象儀・・・いえ時空儀だわ!これが本来の星の運きなのよ!」


「時空儀は大袈裟、てか違うだろ。だがその球体は何の意味があるんだ?時空儀なんてのは実在しないと思っていたが・・」


すっかり忘れていた。時間という概念は存在そのものが曖昧だ。だからこそ世界に組み込まれ、干渉できなくされている。


しかし不規則な時間は時刻とは言えない。もはやあって無いだけの飾り物だ。


サーチアはまじまじと天象儀のリングを見ていた。あらゆる角度で回転し、速度も大きさもバラバラなリングの一つ一つを映像化した。頭の中で自然と計算が始まり、同時並行で幾つもの計算を進め、解答に辿り着くまでいくらも時間が掛からなかった。


「この天体リング・・・幾つか重なるタイミングがあるわ。この感覚・・過去に起きた大厄災に近い・・・・」


「お前・・・機械族に戻ったのか?この短時間でどうやってそんな結論に辿り着くんだよ」


「あら、見せてなかった?私の部屋には自作したハッキングマシンで常時情報を集めてるの。街の外が改ざんされても、過去の記録を残しておけば予測もできると思って、他所のエリアの情報は常時蓄えているわ」


少年は感服し言葉を呑み込んだ。光族となっても機械族だった習慣と能力は失われてないらしい。


「お前、えげつないことするな。そんなんじゃ好感度ガタ落ちするぞ?」


フロフォスの助言など耳にせず、会話を続けるサーチア。


「ねぇフロフォス知ってる?過去に七回大厄災が起きたの。どこかから溢れた強大な力を宿した人が、世界を滅亡に追い込んだことがあるの。七大悪人とも言われてるわ。

七つの大厄災が起きた時代とこの中のリングの角度が重なるタイミングが被ってる気がするわ・・・」


「・・・災厄が起きる周期が解るのか?それを知らせるためのアイテムってことか?」


「うーん・・・そこまでは・・・でもこれが本当の時間なら、学会に持って行って教えてあげたら良いと思うわ!次の災厄の予測ができるかもしれない!」


「僕は反対だ。お前、それがどういうことか解ってるのか?

自分達が特別な存在でその事実を教えることになるんだぞ。その後は実験体だ。僕はそんな目に遭うのは御免だぞ」


サーチアは返答せずに、両手に浮かせた2つを神具をコアにしまい、立ち上がった。


「おい、どこに行く気だよ!」


「ただの散歩よ。頭を使いすぎて疲れたから気分転換」


少年は沈黙し、静かにサーチアの足元へ戻って行った。





第9章  襲い掛かる影の兵団





サーチアは朝から室内にぎっしりと隙間なく並べられたマシンのメンテナンス中。

作業が一段落し、工具をしまい、冷たい水を飲みながら


「今日は資料室に行って調べたいことがあるの!街から出ないから大丈夫よね?」


「まぁ、そうだが・・変な行動起こすなよ」


「大丈夫大丈夫♪」


寮を出てすぐにある坂を駆け下りる。陽の照ったメインストリートに入り、いつものように軽快な足取りで学校へ向かった。

学校は今は休校中だが、資料室は図書室も兼ねてるので、行き場の無い住民達の余暇を過ごす場であった。


「そういえば、お前学生って言ってたな。学生ってなんだ?」


「私は未来の学者なのよ!今はその為の勉強しているの♪」


「ふーん・・何を研究したいんだ?」


「この世界の全てよ!この世界を構築しているメカニズムを解明したいの!どう?大きな夢でしょ?」


「スケールの大きい話だなぁ・・・その前に学者になれるといいがな」


「何よ、こう見えても成績はトップだし、それに試験の時はずるは絶対にしてないんだからね!」


「ははっそれはどうだかなぁ、あんだけマシンを動かしてるんだからテストの答案も盗み見できるんじゃないか?」


「失礼ね!私が情報収集してるのは世界の為なんだから!」


サーチアが口を尖らせてプリプリしているのを影の少年はケラケラ笑っていた。


その時である


「!!?」


セキュリティに囲まれた街全体が大きく揺れ景色が激しく点滅した。

異音の中に混じるやかましい警告音と、それを阻むように震える耳障りなノイズ、そして住民達の騒がしい声の中で、街を覆うセキュリティがまるでガラスが割れるように破れる音が鳴り響いた。


一度経験したことのある特有の変異、これは間違いなく改ざんの嵐だ。


地に伏せてなんとかやり過ごそうとしていたサーチアは、上空に露わになった血膿色の空を見上げて、街を護る人口の空壁が破壊されたことを察した。


「セキュリティが・・破られた・・!?」


「改ざんの嵐が攻めてきた!ここは危険だ!逃げるぞ!」


「逃げるってどこへ!?街はどうなるの!?」


「もうここのセキュリティは当てにならない、街を捨て置いて逃げ切るぞ!」


街全体を襲う揺れが唐突に止まり、血膿色に染まった街の上空に飛び交う無数の黒い点。破れた防壁に間髪入れずに攻め込んでくる黒い雨から飛び散る陰の兵、対処しようと無数に飛び交う無人捕獲機。

サーチアは立ち上がり街の外へ駆け出すも、異常事態に混乱した住民達で街の中は人で溢れかえり、人込みから抜け出せない…!力尽くで掻きわけて外へ向かおうとしたその瞬間・・!足元の影が体の表面を這いずりコアに入りこんだ!


!?


「これで飛べ!」


影の少年は人込みの中から掠め取ったオプションをサーチアのコアに押し込み、起動させた。

金属製の翼が2枚1対となっているオプション「メタリックエンジェルウィング」


唐突に出現した翼はサーチアの背に大きく広がり、足元から押し出されるように宙に浮き、人込みの中から飛び上がった。

突然の出来事についていけずに、サーチアは体の自由がままならない!


宙に浮いた体の安定を図ろうと一心に集中していたサーチアに、影の少年が


「前を見ろ!敵が来たぞ!」


あれは・・・あの黒い塊は闇族じゃない、・・・あれが影の民!?影のような塊がこっちに向かってくる・・!


「あれが影の兵団・・・!押し通れ!街の外へ逃げるぞ!」


「ちょっと待って!私飛びながら戦ったことないわ!」


・・・!?


サーチアの足元から這い上ってきた影は体表に纏わり、浸み込んだ。その奇妙な感触にぞっと背筋が凍り、その瞬間体の自由が奪われたことに気が付く。

体の内側にみなぎるが力が主人の体勢を立て直し、右手が勝手にコアに触れ、ビビッドハンマーを取り出した。


少女は青ざめた顔で必死に訴える。


「フロフォス!やめて!勝手に戦わないで!」


少年は主の悲壮の叫びを聞き入れず、真っ直ぐに意識を敵に向けた。

乗っ取られた少女の体は慣れた手つきで宙を蹴り、眼前を飛び交う影の兵を次々とハンマーで蹴散らしていく。


「サーチア、悪いがこの街は捨てて他所へ逃げる!」


「嫌よ!やめてフロフォス!」


ビルの上を軽々と跳躍し、浮遊機をかわしながら街の外へ向かっていたその時・・!

唐突に鳴り響く機械音が全ての音を掻き消し、街全体に響き渡った。

全ての住民が驚愕動揺し、宙を見上げる。

血膿色の空を晒すように破壊された防壁が内側へ修復され、絶え間なく鳴りはためく機械音と、ともにみるみるうちに再構築されていった。


街の宙を飛び交っていた影の塊が動きを止める。


改ざんではなく、書き換えられ強化されていくセキュリティ。街は完全に防壁に包まれ、穏やかな光の点滅を繰り返し、緩々と修復を進めていく。

静止した影の兵団達は苦しそうに蠢き、を次々と飛翔する無人捕獲機に捕らえられた。


「セキュリティの強化が改ざんを上回っただと!?」


少女はハンマーを抱えたまま翼の力でゆっくり降下し、着陸した。

体を乗っ取っていた影は拘束を解き足元に戻っていった。

生まれて初めて無茶な戦いを強いられ疲弊したサーチアは状況が理解できないまま、地に膝を付きへたりこんだ。


「サーチア、この街はひとまず安心だ。 勝手に乗っ取ってすまなかった、僕はしばらく休む。」


疲れ切った体を持ち上げ、周りを見渡すと街中は大混乱に陥っている。しかし、セキュリティと無人修復マシンが、怒涛の勢いで修復していく。

未だ騒がしい住民達は、街中に流れる避難勧告に従う。避難施設の中にあるエレベーターから非常用地下シェルターへ誘導され、一時避難した。

蠢く住民の波に揉まれながらサーチアは避難経路を進み、警備員の指示に従い、避難施設内にある、エレベーターで地下へ降下していった。


(何が起こってるんだ!?)


(この街は安全なのか・・!?)


(外が大変なことになってたわ)


(あの空から降ってきた黒い軍団は何!?)


(私達の街はどうなるのかしら・・)


避難した住民は、不安と動揺で落ち着くことが出来ず住民が詰め込まれた地下シェルターは騒々しい。サーチアはぎゅうぎゅうに詰められた部屋の中角で、今まで見てきた中でも取り分け厳重そうに造られたドアに目を留めた。


「住民の皆様ーもう大丈夫です、足元に気を付けて順々にエレベーターにお乗りくださいー」


避難勧告が解除され警備員の指示に従い、少しずつ地上に上がっていく住民達。

人が減って動きやすくなったシェルター内でサーチアはこっそり人だかりをくぐって重厚なドアへ向かった。

この部屋へ来る途中からずっと考え込んでいた。


・・・何の為の地下室だったのかしら。


ここへ降りる途中エレベーターの中で数えていたけど、地下5階以上あったわ。住民を護る地下シェルターにしては大きすぎる・・・。

壁や天井に沢山張られた電線が、なぜかこの扉には繋がらず、まるで独立しているように見える。どうみても電動ドアなのに室内のケーブルが一つも伝っていない。

サーチアは人だかりの中でコアから取り出した工具を使い、ドアの底辺の機器を解体、回線を幾つかちぎって電気を落とした。

そして警備員の目を盗み、力づくでドアをこじ開け僅かな隙間を通り抜け、急いで閉めた。


「もう安全ですから速やかに避難して下さーい」


「これで全員ですか?」


「・・・あれ、おかしいな。女の子がいたと思ったんだが、気のせいか?」


「誰もいないぞ?」


「こちら、地下避難室」


「住民避難完了、地上の整備に周ります」




第10章 夜空の闇ともう一つの世界





重厚な扉の先はどこまでも奥へと続く廊下だった。街が大変なことになってるのに停電しておらず、電力は問題なく動いているようだ。廊下と両脇に幾つも並ぶ電気扉に目配せし、反応しないように廊下の真ん中を気を付けながら歩き進んでいった。

人の気配が無くちっとも使われてる風が無いのに、天井に並ぶ照明と、無数の機械音に、屋内の全てに電気が流れていると察しがついた。

壁を見ながら足を進めるサーチアは、重厚な避難階段の傍に貼られたフロアマップを見て驚いた。


「非難所として使われたのはほんの一部だわ。他に沢山部屋があるわ・・・一体何の為に・・・」


周囲を見渡しながら当て所無く歩いていると、うっかり壁際に近寄り自動ドアが作動してしまった。今更後戻りできずに慌てて入室すると室内を見渡して少しばかり驚いた。床に大量に散らかり、室内の隅に無造作に束ねられた、沢山の資料と壁に貼られたグラフや図面。そして机や物置台に置かれた金属のパーツ。

サーチアはそのあまりの散らかりぶりに自分の部屋と重ねて、苦笑しながら足元の資料を手に取った。


「夜空に現れた大型の天体・・?・・ロストプラネット・・?」


影の兵との因果関係を考え込んでいた時、突然自動ドアが動き出し、中から赤毛を後ろに束ねた白衣の女性が入ってきた。


「あなた達何処から入ってきたの!?ここは関係者以外立ち入り禁止よ!」


サーチアは少しばかりちじこまり、


「ごめんなさい、帰り道が解らなくて・・・」


「・・・!!?」


赤毛の女性は、サーチアの返答など耳に入らないほどに驚愕し、少女のコアに見入っていた。


「あなた・・おかしな目にあったようね・・・」


「・・・?」


「さっきの言葉は取り消すわ。あなたは既に関係者となってる。聞きたいことが山ほどあるわ、ついてきて」


白衣の女性の案内に任せて、奥へ奥へと進んだ先にある部屋は、比較的綺麗にかたずけられている。壁際に一つの机と部屋の大半を占める本棚、そして部屋の中心に円いテーブルと三つの椅子が置かれていた。


「ここなら落ち着いて話ができるわ。あたしはステイラ。ここの研究員の一人よ。

まず聞いておきたいんだけど、さっきからあなたの足元に憑いてきてる物は何?」


サーチアは驚きを隠せなかった。フロフォスの存在に気が付くなんて、一体何者なんだ。


「何故気が付いたって顔ね。街中の監視カメラに映ってる、奇妙な動く影は私達の間では既に有名よ」


サーチアが寝てる間に街中を探りまわっていたことが仇となったようだ。

これ以上隠しても無駄だろう。フロフォスは観念して喋り始めた。


「あぁ、あんたの言うとおりだ。それより学会はどこまで進んでる?街の外が大変なことになってるぞ」


「えぇ、随分前から知っていたわ。でもね、私達はそれとは別にあることの研究を進めていたの」


「あること・・?」


「この世界を構築しているシステムよ」


「何を言ってるのかさっぱり解らん。この異常事態にそんな悠長なことしてていいのか?」


「改ざんの嵐が起こるたびに、地表に起きる現象を解析していたの。すると、私達の世界とは別のもう一つの世界の存在が浮き彫りになってきたわ」


話が大きすぎて、ちっともついていけないサーチアとフロフォス。もう一つとはどういう意味か・・?


「言い方が悪かったかしら。半分だけあるそれは、私達の世界を裏から支えてる・・・そうね暗転世界と言うべきかしら。改ざんの嵐が起こるたび、エリアに発生する歪み。そこから見える未知なるシステム、それでこの仮説が生まれたの。私達は何度も暗転世界への干渉を試みたけど、無数のロックが掛かっている。最終層は硬いガードに護られてて、解除できなかったわ」


「暗転世界・・・影の兵達と関係あるんでしょうか・・?」


「あぁ、そっちは別問題よ。全くじゃないけど」


「・・・?」


「夜空の国に超大型の天体が現れたの。余りにも強力な引力で他の天体達の軌道を狂わせ、幾つかの天体は吸い込まれ、消滅したわ」


サーチアは耳を疑った。が、驚きはしなかった。夜空の異変には気づいていたからだ。


「日周時計が狂ったのはそのせいだったのね・・・」


「正解よ。私たちはその天体を黒渦・・ブラックホールと呼んでるわ」


「影の民は黒渦とどう関りがあるんですか?」


「そうね、それにはまず星の民のことを知っておかないといけないわ。


星の民は夜空に生まれた天体を母体として、1つの化身を産み出し、母体とは別々で活動するの。滅多にないけど地上に来ることもあるわ」


「まさか黒渦は・・・」


「そう、あれは唐突に現れた巨大な天体。活動しながら、無数の化身を地上に送り込んでるの。それが私たちの言う影の兵の正体。黒渦は力が強すぎて幾らでも化身を産み出せるから厄介なのよ」


「黒渦はどうして現れたんでしょうか・・?天象儀の運動にもこんな予言はなかったわ・・・」


「・・・この世界の歴史には過去に7回災いが降り注いだと言われてるわ。今回ので8つ目かしら?」


「で、でも過去の7大厄災は災いを利用して、惨禍に陥れた人達がいたわ!今回のは誰が黒幕なの!?」


「・・・改ざんの嵐は自然の多いエリアに発生する神域を狙って蝕んでるわ。恐らく、地上を滅ぼして影の民が乗っ取るつもりのようね」


暫くの間室内は重苦しい空気に沈んだ。最初に口を開いたのはサーチアだった。


「神域にいる神官たちは皆光の民だわ。私も今は少しだけ光族のコアをしてる。私にできることがないでしょうか・・?」


「神域絡みなのは想定済みよ。ただ、相手が厄介だし、私達の手に負えないわ。でも・・確かにあなたのコアは光族のものね・・・。神域は、その都度場所を変えるから探すのは困難よ」


「そこは学者たちの間で解明できてないのかよ?」


「残念だけど神官たちの戒律は厳しくて、学会の手に負えないの。直接赴いても応えてくれるかどうか・・・」


「神域は幻彩フィールドの中に現れると聞きました。それを見つければ何とか・・・」


ステイラ博士は深く息を吐き、


「・・・残念だけどあなた達にできることは無いわ。ここまで頑張ってくれて有り難う。そこを出た廊下の突き当りに、非常階段があるからそこから外へ出られるわ。なるべく静かに出て行ってね」


「待って下さい!私達にもできることがあるはずなんです・・!これを見て下さい!」


サーチアはコアから星型の錠がされた「終始の書」を取り出して見せた。


「これは・・・興味深いわね。でも光の力で錠がされてるなら私達には解けない。それはあなたが持ってるべきだわ」


「そんな・・・」


「・・・あなた学生ね?門を突破して外へ出たと情報が入ってるわ。頑張って調査してくれて有難う、あとは私達にまかせて。もう個人の手に負える段階じゃないの」


「・・・すみません・・・ご迷惑をお掛けしました」


サーチアはとぼとぼと重い足取りで廊下を歩き。突き当りへ向かった。突然、思い至ったように足元の影に話しかける。


「フロフォス、街を出ましょう。さっきの改ざんも、影の兵達も、私のコアを狙ってきたんだわ。これ以上この街に迷惑を掛けられない。当てのない無い旅になるけど、取りあえず神域を探してみましょう」


足元の少年は暫くの間沈黙し、息を吐いて返答した。


「お前がそれを望むのなら従うしかない。とにかく急いで神域への情報を掴もう。何としても神官と接触するぞ・・!」


サーチアは心の底で安堵した。相方は思った以上に協力的で頼もしい。






第11章 神域への手がかり






サーチアは廊下をそそくさと歩いて一番奥にある扉を開け、階段を登り外へでた。

小さな部屋の窓から覗ける見慣れた風景、ここは街で一番大きな公園の封鎖された管理室の中だった。


「こんなところに繋がっていたなんて・・・」


管理室の戸を開け外に出るともう辺りが真っ暗だ。昼間の騒ぎで街全体が電力不足になり節電体制入ったのだろう。偽りの太陽を消灯し、本物の闇が街を包む。不安を煽られたサーチアは、街中に僅かに灯る死んだ光が模る道を不安げに歩いた。


「シティの外は闇の時間の様ね・・・さっきは光の時間だったのに本当に昼が短く感じるわ」


暫くの沈黙の後に足元から声がした。


「・・・なるほど、そういう仕組みか」


サーチアの傍に突如として現れたどこかで見たような姿。


「・・・フロフォス!?どうして!?」


目の前に現れた少年は海色の髪の毛をなびかせて、瞳は晴天の空のような青の輝きを放っている。


「君と同じで僕も闇のコアの力が強まってきたらしい。お蔭で闇の時間では実体化し、活動できるようになった。これで少しは自由が利くぞ」


あっけにとられていたが懐かしいような微笑ましいような気持ちで


「良かったわ、また会えて」


少年は照れくさそうにしながらへへっと笑みを返す。


「あぁ、僕もだ。これなら本格的に戦えるぞ・・!」


「神官達が行う神事については私も一度資料で見たことがあるわ。易を立てて決められた場所で決まった回数を行うの。お目に掛かれるのはとても有難いことだと聞いたわ」


「随分と持ち上げられているな。資料室は校舎の中か?」


「えぇ、でも神域の在処まで載ってるかしら・・・場所は吉凶を占って決めるみたいだし、殆ど公にはしてないはずよ」


「んなこと言ったって他に当てがない。神域への手がかりなんて皆目見当もつかないぞ」


反論の余地もなく黙り込んでしまうサーチアは、コアの中身をふと思い返した。


「コアの中にできた新しいフォルダーの中に何かないかしら。知らないアイテムが幾つか入ってたような気がするわ・・」


そう言って左手でコアに触れて中身を確認すると「光の羅針盤」という文字が目に留まった。取り出し、左手に浮くそれは、淵のついた丸い金属板でまるで小物入れのようだ。形は似ているが肝心な指針が無く、中央に穴が開いてるだけだった。


「おいおい、指針が無いんじゃ何の役にもたたないだろ」


「おかしいわ。羅針盤って書かれてるのに・・・」


サーチアは再びコアにしまい、深いため息をついた。


「とにかく街から出ないといけないわ。そうね、最初にフロフォスに会った廃墟へ向かおうかしら。ひょっとしたら何か思い出せるかもしれないわ」


・・・!!


「どうした?」


「あの時廃墟で何か見つけたの。何かが光ってコアに入ったの覚えてるわ!もう一度コアの中を見てみる!」


以前見た時よりもツールが増えている。否、ずっとロックされていた一部のツールが取り出せるようになっていた。


「光の鍵・・!これ!終始の書の鍵だわ!」


サーチアはコアからもう一度終始の書を取り出すと、鍵は溶けて光と化して錠へ迸り、音を立てて錠は砕けた。重厚な本は大きく開き、パラパラとめくるとどうやら膨大な記録が詰め込まれてあり、元機械族のサーチアでも解析しきれない度の情報量だ。


「何が書いてあるんだ・・・?」


「暗号になってる文字が多すぎて私にも解らないわ。」


「おいおい解らないなら何も意味ないじゃないか」


「今度ステイラ博士に見せましょう!きっと何か掴んでくれるわ!」


フロフォスは深く息を吐き


「仕方ない、じゃあ仕切り直して、シティの周辺からしらみつぶしに当たるとしようか」


2人は街の東へ向かい、街全体を囲う城壁の出入り用のトンネルへ向かい、門番の二人にサーチアはよそよそしく声を掛ける。


「あの・・・何度もすみません・・・」


いつの間にか姿を消したフロフォスは影の中から二つの拳を突き出し、ガツンと門番の頭部を殴打し、姿を現した。


「お勤めご苦労さん。さぁいくぞ!」


サーチアは苦笑し一礼して門を潜り、最奥の電流壁はフロフォスが大声をあげて城壁ごと強引に破壊した。崩れ落ちる城壁を呆然と見つめるサーチアは思わず吹き出し、遠慮なく通り抜けた。


「私達、もう街へ入れてもらえないんじゃないかしら?」


「出かける準備くらいしておくべきだったな」


2人は笑いながら街の外へ駆け出した。姿を現した相方はこんなにも頼もしい、そう思えた。サーチアにとっては2度目の門の強硬突破である。荒地だったシティの外は若草の草原が広がっていた。


「この前来た時は荒れてたのに・・天地の民がやってきたのかしら・・」


サーチアはすっかり潤っている、枯れてた川の脇に佇む大岩に飛び乗って、以前見た枯れ木を思い出した。


「あの枯れ木・・・今は何の力も感じないけど・・あれ、御神木よね?やっぱりここは神域の跡だったんだわ・・!」


「易っていうのをよく知らないんだが、またここに神域が現れることがあるのか?」


「私もそこまでは・・・」


そう言いかけた時、突然逆巻く嵐が襲い掛かる。天地は揺れ、空は赤褐色にくすみ、激しいノイズと点滅が二人の足元をすくい、地に叩きつけた。


「これ・・改ざんの嵐・・!?」


一度経験したから解る。だが以前と何かが違う。まるで私たちを中心に巻き起こっているかのようだ・・!

大きな揺れに態勢を崩し、地に倒れた二人の足元が硬い音と共に裂ける。ひび割れた大地の破片が宙に浮き、幾つもの層が剝がれるように地表から離れ、空に溶けていく。相方をかばい、抱きかかえたフロフォスは、これがまさにクローンの学者が言っていた、改ざんの嵐から起こるエリアの歪みだと察した。

抱えられたサーチアの、二人のコアが合わさり白と黒の異様な瞬きと、強大な力が渦を巻いて、地表を大きく吹き飛ばした。

ひび割れた大地が溶け、すり鉢状に窪んでいき、舞い上がる地表の破片。どんどん下層へ降ちていく二人。

最下層に点滅する無数の光の英数字に、二人のコアが、互いの姿が見えない程の光を放ち共鳴する。巻き起こる変異に二人の意識は途切れた。そして最後の強靭な結界を溶かし、二人は異界へ送り出した。






第12章    暗転した裏の世界





フロフォスはサーチアを抱きしめたまま暗い地面に倒れていた。

周囲を見渡し、自分たちのいた場所とは全くの異空間へ来てしまったことをすぐに悟った。見知らぬ異界。それでいて、どこかで体感しているような、奇妙な違和感を拭えない。


「おい、サーチア しっかりしろ!」


ゆすられて上体を持ち上げたサーチアは虚ろな目でフロフォスを見やる。


「・・・大丈夫か?・・気分はどうだ?」


相方は返答せずぐったりと体を傾けた。先程の強い発光にかなりのエネルギーを使ったらしく意識は朦朧としている。

フロフォスは自分たちを取り囲む世界を見渡した。

どこまでも広がる暗い空に、幾つもの小さな光が瞬く。よく見ると空は無数のケーブルが絡んで天井ができていた。自分達を取り囲む街並みもまた暗く、ケーブルが絡み、しかし街の形状はしっかり模っている。

そして地面は暗く平たく、表面を光が直線的に、目で追うのが難しい速さで駆け抜ける。少しばかり虚ろな記憶を辿り、つい先ほど誰かの声で聞いた「暗転した世界」という言葉に辿り着いた。


「まさか・・・な」


2人を取り囲む大きな街路樹と立ち並ぶ建造物。自分達はどこかの街の中の広場へ落ちたらしい。初めて来たはずなのにどこかで見知ったような景色・・・。


フロフォスがひとり呟く。


「ここは・・クローンシティだ・・・」


周囲を見渡し困惑するフロフォスに弱弱しい声が掛かる。


「フロフォス・・大丈夫・・?」


「サーチア、気が付いたか・・!・・・立てるか?」


「うん・・・」


サーチアは立ち上がったが、頭を抱えて瞼を落としている。

やがて自分達を取り囲む世界が、根底から変わってしまったことだけはぼんやりと理解していた。


「フロフォス・・・ここ・・」


「あぁ、・・・来てしまったようだ。・・暗転した裏の世界へ」


記憶を辿り、自分たちは街の中の小さな公園へ降り立ったことに気が付いた。

自分達の足元はケーブルではなく石畳が敷かれ、その敷石の隙間をやはり光が機敏に駆け抜けている。街中の街路樹も建造物も光を感じず、黒い塊にしか見えない。

天を見上げると、薄暗くて解り図らいが、やはり無数のケーブルが絡まり、いくつもの塊の一部がたるんで垂れ下がってるのが解る。


「不思議なところ・・・強いエネルギーがあちこちを走り回ってるわ」


「地上を支えてるってのはこのことか・・」


薄暗く見づらい世界はどこまで続いているのか、どれくらいの広さなのか検討もつかない。ただ、クローンシティを模していることだけが解った。

サーチアはコアの光彩を灯し、


「ステイラ博士は暗転世界への干渉はできないって言ってたのに・・・どうして来れたのかしら・・?」


予想外の事態にフロフォスも動揺を隠しきれなかった。

二人を取り巻く薄暗い世界を迸る光。樹木に紛れて感じる光る視線。


「フロフォス・・ここにいる人達・・みんな影の民だわ」


シティの上空で戦った時に見た、独特のコアの輝きを忘れはしない。


「あぁ、そうだ。それにしても・・街を歩いている連中・・・みんな同じ格好だな」


裏の世界の街を歩く人たちは皆姿を隠すように大きな外套と布を纏い、

街路樹の影から、ビルの影から、遠巻きに警戒するように二人に視線を向ける。


「ここが裏の世界のクローンシティだとして・・・ここへ飛んだ理由は何だ?何故こんなところに・・」


「それは私だ」


2人の目の前に地表から現れた謎の男。フロフォスは相方を護るように戦闘態勢をとる。


「私はネクローザ。ここ、裏の世界に住む影の民達を取り仕切っている」


「影の民って私たちの世界を脅かしてる人達じゃない!どうしてそんなことをしてるの!」


「すまないな、それは私ではない。影の民の中に地上を憎む者がいてな、そいつらが動き出したようだ」


「ちょっと待て、影の兵を送り出してるのは夜空に現れた黒渦だぞ。あいつは何なんだ!?何故突然現れた!?」


男は俯き、間を置いて、


「裏の住民の中には希に強い力を持って生まれてくる者がいる。あやつらは特別な存在だ、私の手に負えない程に力を宿している」


「影の民は一体何者なの?どうやってこちらの世界に生まれて、どうして私達の世界を侵略しようとするの!?」


「・・我々は本来は存在してはならない民だ。地上へ行く方法はあるが難しい。君たちの住む地上を脅す強力な力を持つ連中は、ごく僅かだ。多くの者は裏の世界で大人しく暮らしておる。だが、強大な力を宿したコアの持ち主は強固に張られた結界を越えてあちら側へ行くことができるようになった」


男は天井を見上げ問いかける。


「あれが何だか解るか?次なる力を宿す者のコアだ」


無数に絡むケーブルとはまた異質の、奇妙な力の集う植物の根の様なそれは、

天から垂れ下がり先端には、裏の世界を薄っすら照らす輝きを放つ、大きな結晶を護るようにしっかりと絡み吊り下がっている。


「あれは枯れた御神木・・始祖の木の根だ。地上では枯れていても地下で根が集まっている。」


サーチアは以前資料で見たことがある。

クローンシティにも遠い昔、神域が現れたことがある。その時の御神木の根が残っており、各地の御神木と地下で根が絡み合って繋がってるとか。


奇妙なコアを宿す神木の根に枯れ果てた神木を重ねるように思い返し、胸の中にたまらなく熱いものがこみ上げてくる。


「地上の御神木は殆ど枯れて、民は減っていく一方です。地は荒れ果てて住める場所がどんどん狭まっています。どうして裏の世界では御神木の根が生き残ってるんですか・・?」


「裏の世界は元来地上の世界を支えるためにある、地上で木が枯れても根が残っているのは当然だ。世界は変わり始めている。あれは失われた全てを宿して膨らみ続けるだろう」


2人はあの巨大なコアがただものじゃないことだけを理解した。



「力とは事象を動かす可能性だ。良いことにも悪いことにも転ずる危険なものだ。だが、正しく使えば全てが救われる。我々はあのコアを宿し、選び抜かれたその者の誕生の為に、できる限りの力を注いでいる。」


「あんたも結局は地上に攻め込む気なんだな」


「とんでもない。我々は地上へ赴き、地上の民と共に暮らしたいだけだ。我々は枯れかけた御神木の根の一部を持っていき、地上を、世界を救おうと思っているだけだ」


「あの巨大なコアの主が孵化したら世界はどうなるんだ・・?」


「さてな・・それは孵化した者にしか決められない」


「あの巨大なコアを宿して生まれるなんて只者じゃないわ、世界が救われるなんてとても思えない・・!」


「その考えは最もだな。だがあのコアは我々にもどうすることもできない、我々が言うのも変だが、それこそ天が決めることだろうな。過去に7回程強大な力を持った者が生まれ、地上を脅かした者達がいる。あやつらは地上を惨禍に陥れたようだが、我々は心を改めると信じ、祈ることしかできなかった」


サーチアは少しだけ不安げな表情を浮かべ


「地上では多くの学者が力を合わせて荒廃する世界に抗ってます。私達には出来ることが無いのですか・・?」


「さてな。地上の民のことは良く知らないから何とも言えん。流石に神域の者達は動き出しているだろうが」


「神域!?やっぱり神官が関わってるのね!?」


男はしまっととでも言うように、一瞬言葉を詰まらせた。


「我々の力では地表に貼られた結界から出られない。だが地上の神官ならできることがあるかもしれん」


「なぁ、一番聞きたいことなんだが・・・僕たちをこの世界に招いたのはあんたか?一体何の目的で僕たちを連れてきた?」


男はサーチアに視線を移し、


「お前さんのコアに入っているリターンギアを届けて欲しかったのだ」


「リターンギア・・?」


サーチアはコアに触れフォルダーの中を確認すると「巻き戻しの歯車」という文字を見つけた。左手に浮かべたそれは星形の歯車が幾つもかみ合って繋がっており、例えようのない色を纏っている。


「これ・・どうやって使うんですか・・?」


「この街の中央にある広場にマザーボードがあってな、その中に組み込む為に渡して欲しい」


「時間を巻き戻す気か!?一体何の為!?」


「世界が荒れる前まで時を巻き戻したいだけだ」


サーチアはすぐに気が付いた。


「・・・嘘!あの人は改ざんの嵐の中で消えてしまったわ!光のコアは託されたの!無くして良い筈がないわ!」


サーチアは咄嗟にフロフォスの手を引き、ネクローザから逃げ出すべく走り出した。


「フロフォス!私たちはあの人の企みで呼ばれたんだわ!」


「随分察しが良いな、じゃあ早く地上へ戻る方法を探そうじゃないか」


意気投合し、広間を抜け出しケーブルの敷かれた道路を駆け抜け街の入り組んだ小道に駆け込んんだその瞬間!視線の外、はるか上空から赤い雷が迸り遠雷の音が響き渡った。


「思い通りにはさせないぞ、ネクローザ!」


裏の世界に低く湿った声が広がる。


「何!?」


「お前の狙いはもう一度週末の惨禍まで巻き戻し、影の民も住める世界へ作り直す気だろう!」


「何を言うか!?私は全ての民を救うべく2人を呼び寄せ、リターンギアで災異の起こる前まで・・」


「二人を呼んだのはお前じゃない!巻き戻したところで同じことの繰り返しだ!光の者をこちらへ招いたのは、神木の根に実った世界のコアだ!」


「まさか!コアが力を求めて結界を破ったとでも言うのか!?」


「光の者よ!世界のコアは力を求めている。取り込まれたくなくば大人しく我に従うがよい」


正体不明の2人の言い合いを聞き、困惑するサーチアの手をフロフォスは強く引き、駆け出した。


「フロフォス!?」


「あいつら何者か知らねぇが信用ならねぇ。一端離れるぞ!」


2人は記憶を頼りに街のメインストリートを駆け抜けた。

唐突に、不自然な動きで二人を捕らえようと襲い掛かる影の民達。それらをかいくぐって細い通りに入り込み、大きな壁が阻む行き止まりのところで足を止めた。息切れして膝をついたサーチアに休憩を促すフロフォス。


フロフォスは天井を見上げ眉間にしわを寄せた。


「気のせいか?さっきの雷、天井のコアから降ってきたように見えたぞ。それはどうあれ、僕たちの邪魔をする奴がいるらしい。影の民が急に襲い掛かって来たんだ間違いない」


必死に逃げ惑い、疲れ果てた二人に近寄る影。


「こんにちは。異世界の住民さん」


2人は驚いて振り返ると、そこにいる者は頭に被った布を持ち上げ顔を表した。


「さっきの二人は影の民達を束ねていて、長い間対立しているんだ。僕はシャドルガ。君たちを招いたのはあの2人じゃない。天におわす新たな可能性だ」


「やっぱりそうだったのね!私達の力を狙って・・!」


シャドルガは切ない笑み浮かべ、二人を見つめた。


「僕たちは本来いてはならない存在だ。地上だけじゃない、裏の世界でもだ。だが存在してしまっている。それはある者が地上へ攻め込む為に、地上の民の知らないこの裏の世界で兵力を増やしているんだ」


「そのある者は・・?」


「呪術師アノルダヌフ。さっきの声の主だ。奴は地上から堕天してこちらにやってきた。破滅のコアが君達を招いたのは計算外だったようだな」


「あの巨大なコアが私達を狙っているの・・・?」


「その通りだ。だが君たちのコアはまだ完全じゃない。君のコアが真の力を得た時、再び裏の世界へ招くだろう」


隣で腕を組んで話を聞いていたフロフォスは


「あの巨大なコアはどうにかならないのか?あんなもの放っておくなんて気が知れないぞ」


「あれはどうにもできない。アノルダヌフは遅かれ早かれ地上に攻め込む気だ。既に兵力は集まっている。君達は一刻も早く眠っている力を目覚めさせた方が良い!」


「そいつもさっきのネクローザって奴も倒しちまえばいいだろ」


「倒すなんて簡単に言うけど、奴らは誰にも倒せない。何故ならアノルダヌフは元々地上にいた神官だからだ。夜空に現れた巨大な黒渦・・・・あれはアノルダヌフの計画の一つであり、君たちがここへ来た時点で既に計画は進んでいるんだ」


「私達は掌の上で踊らされてたの!?世界のコアが私達の敵なんて・・」


「僕達の手に負えるかよ・・・それに元神官ってどういうことだ・・?」


「天帝に背き、戒律を破り世界から追放され堕天した。実は僕も堕天した神官の一人なんだ」


「あなたも・・!?」


「今の世界だから僕は意識を残してる。だから君達に協力してるんだ。これを」


シャドルガが手渡したのはデータディスクと自身が纏っていた布きれだ。


「こちらの情報を知ってる限り入れておいた。地上へ持って行ってくれ!」


「・・・有難う。アノルダヌフはもう動き出してるのね?私達は地上を荒らす影の兵とエネミー族と戦うしかない。とりあえずこれはシティの学者に見せてみるわ!」


「奴は動き出してる、あまり猶予はない。くれぐれも気を付けてくれ!」


「地上ごと世界を支配する気ね!企んでることはネクローザと変わらないわ」


「そうとも。ネクローザもまた影の民だ。地上へ侵略する計画を立ててはいるだろう。だが、それでも力関係ではアノルダヌフの方が上だ。あいつらは対立しているようで、その実ネクローザの方が押されてる。今の君たちの手に負えない。早く地上へ帰るんだ!」


サーチアは唐突に先程聞いた言葉を思い出し、コアの中のフォルダに目を通し、リターンギア「巻き戻しの歯車」を取り出した。


シャドルガはその輝きを見て閃いたように、


「解ったぞ!その歯車を使ってあの巨大なコアを戻せばいい!小さい脆弱な時まで!」


「それは一理あるけど、どうやって使うの・・?」


「この世界・・裏のクローンシティの中央広場には巨大なホストコンピューターがある。そこへ急いで運ぶんだ・・!」


その時、裏の世界が大きく揺れた。天井のあちこちから無数の光柱が地上へ降り注ぐ。


「地上にいる者が君たちに呼び掛けてる!急いで中央広場へ行ってリターンギアを!そして地上へ戻ってくれ!ここは僕が時間を稼ぐ!」


シャドルガは掌を天に向け何かを呟いた。


その瞬間天に深く絡まり食い込んだ黒いケーブルが火花を放ち破裂し、その幾つもの太い幹を地上へ振り下ろした。太い幹は振り子のように大きく揺れながら街中に火花を撒き散らし、降り注ぐ光柱を遮った。


「シャドルガ、有り難う!私達行くね!」


掌に集中しているシャドルガは薄っすらと笑みを浮かべ、頷いた。

恩人を置いて二人は街の中央広場へ向かった。

広場の高台に街中を走るケーブルと光が集中する巨大な四角い箱がある。

2人は階を駆け上がると、サーチアのコアから出てきた歯車は吸い込まれるようにマザーボードへ向かっていった。

裏の世界が大きく震える。天に吊るされた結晶は根元から大きく脈打っている。

コアの変異を見届ける間もなく、天から注ぐ光柱は二人を捕らえた。

暖かな光の中で、地上に呼ばれるようにゆっくり二人は上昇し、天に瞬く光明の中へ消えていった。


光の中で半身と手をつないだサーチアは呟いた。


「元の世界で誰かが私達を呼んでる」


「あぁ、僕たちの役目がまだ地上の世界にあるってことだな」


そうして二人はいるべき場所へ帰った。地上に戻った場所は闇の時間に転じたばかりであった。





第13章 星の民





見慣れた夜空。嗅ぎなれた風のにおい。心地よく吹く風と頬をくすぐる草の感触。元の世界へ呼び戻された二人は互いの存在を確認し、安堵する。

その瞬間、その二人を見つめる見知らぬ二人に気が付いた。


サーチアは驚いて目を丸くした。眼前いる2人は滅多に地上に降りることのない星の民だ。


「こんにちは、私は水の惑星のコスモレナ。この子はロストプラネット・・・生まれたばかりでまだ名前が無いの」


コスモレナと名乗る少女の後ろに隠れて顔を覗かせている幼い少女の姿が見えた。


「あなた達が私たちを呼び戻してくれたの・・?」


「えぇ、どうしてもあなた達に会っておきたかったの。羅針盤はちゃんと持ってるかしら?」


サーチアは左手でコアに触れ、確認した。


「勿論あるわ。指針が無いままだけど・・・」


そういってサーチアはコアから羅針盤を取り出してみせた。


「本当ね、これじゃあ神域へは辿り着けないわ」


「・・この羅針盤、神域へ行く為の物だったの!?」


「その通りよ。でもそれには光の指針が必要だわ」


「光の指針?コアの中には入って無かったわ・・・」


「えぇ、光の神具の一部はこの世界に散らばってるの。光の指針は星の民達が大切に受け継いでるの。どうか私たちと一緒にフラットシティへ来てください。それに・・」


「・・・?」


「あなたは何か大切なものを持っているんじゃないかしら?」


「大切なもの・・・星の民と関係があるもの・・?」


サーチアはコアの中を注意深く目を通し、そして奇妙な文字を見つけた。


「太陽の心臓・・・?」


「そう、今太陽の母体は非常に弱っているわ。ずっと昔に光族との契約で、指針と交換して護ってたの。無事に見つかってよかったわ」


「太陽に力を与えれば・・・光の時間が増えるってこと!?」


「そうなるわ。とにかく見つかってよかったわ、さぁ行きましょう」


星の民に案内されて二人はフラットシティへ向かった。名前の通り草原の窪地にできた坂に囲まれた大きな街である。


「星の民が地上に集まることなんてあるんですか・・?」


「あまり知られていませんが、フラットシティの「夜空の城」には沢山の星の民が住み着いてます」


「私達はどうやって夜空へ行くのでしょうか・・?」


「行けば解ります、既に準備は済ませてあります」


サーチアは視線を移し、


「そういえば・・どうしてロストプラネットって呼ばれてるの・・?」


「それは・・・」


コスモレナは足を止め、憂うように幼女の頭をやんわりと撫でる。


「黒渦の発生によって多くの天体が吸い込まれ、犠牲になりました。しかしその反面、吐き出された天体の破片が集まって、新たに生まれた天体がこの子なんです」


「それでロストプラネットと呼ばれてるのね・・・」


「この子は大きな役割をもって生まれてきた、私はそう確信してます」


コスモレナにしがみつく幼女は何とも複雑な表情を浮かべていた。


フラットシティはクローンと比べると自然が少なく、石造りの綺麗な街並みと沢山の水路、そして巨大な螺旋階段の見える大きな城が街のシンボルのようだ。建物は皆、同じ高さで、城だけが極端に高く大きい。沢山の水路が迷路の街並みを造っており、しかもどこを通っても、城の前の大広場へ辿り着ける造りだそうだ。


4人が向かったのは、巨大な4つの螺旋の塔が並ぶ豪勢な城。太い川を挟んだ先にあり、向こう岸へ渡る橋が無い。


「このお城は本来星の民しか入れないことになってるの、ロスト、手を握って」


幼女はコスモレナと手を繋ぎ、二人は自身のコアに触れて何かを唱えた。

その時、4人を阻む川の上空に現れた美しく揺れる光の帯。オーロラは、ゆっくりと降下し、太い川に淡い色の足場を作った。


「オーロラの架け橋。これができるのは水の惑星だけだから、私が迎えに来たの。ね?ロスト」


幼い子は小さくうなずいた。

彼女もまた水の惑星なのだろうか・・・?


「さ、入りましょう」


城門をくぐり、重厚なドアに触れるとドアは静かに音を立てて開き、4人を招き入れた。


「お帰りなさいませ」

「御無事にお戻りで何よりです」


城内にいるのは皆星の民だが、その多くは使用人らしく、この二人とは身分が違うのだとすぐに分かった。廊下を昂然とした態度で歩くコスモレナと、おずおずとついて行くロストプラネット。そして左右に平伏する星の民達。


「星の民がこんなに地上にいるなんて思ってもみなかったわ・・」

「そうでしょうね、実際他の種族とは殆ど関りを持たないので」


廊下の先に進むほど大層な礼服をきた者達が待ち構えていた。その中の一人が礼をし、

「お帰りなさいませ。お怪我は有りませんでしたか?」

「えぇ、光の者を無事に連れて来たわ。それと太陽の心臓が無事に見つかりました。こちらの準備は整ってるかしら?」


「長は賢人達を揃えてお待ちしております、どうぞこちらへ」


使用人達に招かれ、4人は廊下を歩いた。サーチアは星の民の身分について興味があって聞いてみた。


「あの・・・あなた達はどういう関係なのでしょうか・・?」


「地上の民には解りにくいでしょうね。我々、星の民の身分は、母体である天体が生まれる際に、要したエネルギーで決まるんです」


「それってまさか・・・!」


「よくお気づきですね、そうです。ここにいるロストプラネットが次の長となります」


こんな幼い子が長だなんて・・・判らない世界だ・・・


「あの・・この子のお名前は・・・」


「長が決めます。そろそろ決まってる頃じゃないかしら・・。さ、こちらになります」

廊下を突き当り巨大な扉の前で道を開け、礼をする二人の使用人。

コスモレナは扉に触れ、

「コスモレナです。光の者を連れて参りました」


すると扉に描かれた、天体を表す文様が動き出し、錠前の錠が動いていくように固い音を幾つも鳴らし、最後に重い球体が落ちた。

重厚な音を立てて開く扉、中にあるのは巨大な傾いた円筒形のマシンと、周囲に浮遊する金属製のリング。

大型の球体や正四面体が繋がれた特殊な装置だった。

天井には夜空を表現した無数の石を散りばめられた文様が光を帯びている。


コスモレナは歩きながらマシンに触れ、それに呼応するように装置は発光し、光の円が幾つも映った。

そして無数のリングと繋がれた円筒形、正四面体、球体のそれぞれが独自の動きで回り出す。まるで眠る古代兵器が目覚めたように動き出したようだ。


「これ・・転送装置?まるで巨大な天体望遠鏡のようだわ・・」


「えぇ、似てるわね。でも違うの。これは星の民達の心象空間へ送るためのもの。しいて言うならば意識の転送装置ってところかしら」


マシンを起動させたコスモレナはサーチアに向き合い、膝をついた。


「遅くなりました、太陽の心臓をこちらへ」


サーチアはコアから取り出した赤く炎が渦巻く球体を、両手を差し出すコスモレナに託した。

マシンは無数のリングがサーチアのコアに入った天象儀のように、

中央の球体に集まって回転する。そして円筒形の機器は半分に割れ、リングと球体は真ん中に収まった。浮遊する正四面体の結晶が発光する。そして大きな球体が下に目の前に降りてきて、扉が倒れ、折れ曲がり階段となった。


「その小部屋は夜空の間と言います。お二人を「夜空の地平線」へ送ります。どうぞお入りください。我々は後から参ります」


サーチアとフロフォスは手を繋いだまま階段を上り、球体の小部屋に入室した。

天井が見えず、星明かりが散りばめられた、果てしなく広がる夜空にいるようだ。

二人は目を見合わせ、星の民を信じ、瞼を落とし意識を集中した。

すると意識は、瞬時に球体に繋がる円筒形の機器に吸い込まれ、体だけがに力無く倒れ、動かなくなった。


外でマシンを作動させているコスモレナとロストプラネットはその場で姿を消した。


どこまでも広がる夜空の地平線、暗いのに少しも不安にならないのは無数の星光が暖かいからかもしれない。

二人の周囲に強大な光が幾つも現れ、二人を取り囲むそれは収縮し、人の姿に形を定めた。

「初めまして、光に選ばれし者達。我々は星の民、そして私が長を務めているプロテウスだ」

「お父様、光の者を連れて参りました」

二人の傍に突如現れたコスモレナ達。

「二人とも、ご苦労だったな。そうそうロストプラネットよ、お前の名前が決まった。光栄に思うが良い」

「父上、有り難く存じます」

「さて、光に選ばれし者よ、まずは礼を言わせてくれ。よくぞ太陽の心臓を届けてくれた。深く礼を言う。そして本題だが、我々星の民は、光の民との契約により代々の宝物を受け継いできた。宝物は見ることも触れることもできず、その正体を知らずに密かに引き継がれてきた。だが夜空に浮かぶ啓蒙を司る星が、告知の瞬きを以って我々に知らしめた。宝物がその力を果たす時が来たのだ。光の者よ、我々の想いと共にこれを受け取るがよい。そして夜空を救ってくれ。それが我々星の民の全ての願いだ」


二人を取り囲む星の民達の全てのコアが輝き、宙に光が集い、1つの大きな輝きとなってサーチアの元へゆっくり降下する。

目を閉じたサーチアのコアは星光を纏い激しく輝く。サーチアは自分自身が書き換えられ、新らたな意識に目を覚ました。コアに触れ、心の中で何度も呟いた。溢れ出る想いと託された役割に涙が止まらない。


「任せて下さい。必ず夜空を・・いえ世界を救ってみせます。有り難うございます、星の長。それに星の民達・・・」」


階段の下に横たわっていたサーチアは、胸からコンパスを取り出し掌に浮かべた。光の指針を宿し、完成した羅針盤を見つめ、涙を拭った。


「その指針は闇を払う光の聖地・・・神域へとお主らを導くだろう。神官から全てを授かるが良い、その先に未来はある」


未来を変える役目とその責任の重さ、支えてくれる多くの星明りがサーチアの心の中に灯っている。

もう何も怖くない。自分は一人じゃない。多くの人達に託された想いを果たす為にここにいる。

そして行かなくては。全てを秘める神の領域へ。


「お目覚めですか」


声をかけてきたのは心配そうに見守るコスモレナだった。


「・・無事に受け取れたようですね。我々も役目を果たせて安心しました」


「なんだか夢みたいだな」


サーチアの後ろで手を組んで相方の目覚めを待っていたフロフォス。サーチアはコスモレナに向き合い手を握った。


「有り難う!あなた達にも・・・」


「正直、初めは不安でした、果たして未来を託せるか。でも、もう心配しません。全てを照らす光と全てを吸い込む闇。相反する力を宿す半身を受け入れ、共に歩くあなたなら何が起きても半身が護ってくれるでしょう」


フロフォスは得意げに


「あぁ、それが僕の役目だからな!これでやっと神域へ行ける。世話になったな」


手を放した時サーチアは視線をずらして呟いた。


「あの・・・一ついいかしら・・?」


「・・・?」


「あなたのお名前を教えて欲しいの」


幼い少女は照れ臭そうに笑い、


「託世の星のワクセルス。いい名前でしょ」


「立派な名前ね。あなたならきっと明るい未来を見せてくれるわ」


ワクセルスは喜び甘えるようにサーチアに抱き着いた。

それを見守るコスモレナは、この二人には近い未来に再び会うと確信し、今はただ見守ろうと胸に誓った。


「お前ら、僕の存在を忘れていつまでイチャついてんだよ!」


二人の星はフロフォスとも握手を交わし


「ありがとな。あとは僕達に任せてくれ」


サーチアはフロフォスと意を決したように目を合わせて了承した。

城外は太陽の力により闇から光の時間へ転じた。フロフォスは再び影に戻り、サーチアと共にフラットシティを後に神域を目指した。



一方ここは暗闇の中で無数の光が高台へ向かって迸り、僅かに明かりを灯す裏の世界。


「我々は地上を生きることを許されずに、世界に見放された種族だ!地上に君臨すべく、世界を創り変えるのが使命だ!全てを覆す「改新の力」は我の元へ向かっている。時は近い。皆戦意を燃やし戦場へ赴くのだ!」


群衆に囲まれ、高台で語る黒い外套を纏った男。

段上で語る影の支配者。そして段周を取り囲む影の兵達。


「アノルダヌフ様万歳!」


観衆達は歓声を上げ喜びの声が裏の世界の隅々まで響き渡った。

壇上で佇む男は不気味な笑みを浮かべていた。


人だかりを遠巻きに見ているしゃどシャドルガは何を感じたか複雑な表情を浮かべていた。






第14章 隠された神域へ





フラットシティを後にして光の指針を頼りに歩き続けた。が、神域への侵入は決して楽ではないと強く納得させられた。

というのは、羅針盤の指針が中々安定せず、時が転じるごとに方角を変える為、神域へたどり着くことができず振り回されてばかりだ。

道中数え切れない程、影の兵やエネミー族と戦い2人共憔悴しきっている。

武器であるビビッドハンマーは劣化してボロボロになった。

サーチアは岩場で、コアから取り出した工具と、道中で拾った素材を使って改良し、上位性能の「プリズムハンマー」を作り上げた。

嬉しさと共にどっと疲れがでて、深いため息をつく。


「サーチア、少し休め。お前の体がもたないぞ」


コアの光が弱まり、汗で視界が滲んでいく中で、四肢に力を込めて歩きだすサーチア。

「そんな時間無いわ。一刻も早く神域へ行かないと・・!」


影から何度も出入りしているフロフォスも疲れ声になっている。


「それにしても不思議だな・・」


「何が?」


「あっちこち振り回されてるが、影から見れば解るが、クローンシティを中心として移動してるように感じるぞ」


そういえば裏の世界もクローンシティの形をしていた・・・。


「一度シティに行ってステイラ博士に報告しようかしら。影の民のことや星の民のことも・・・そうだ!終止の書を見せなくちゃ!」

「そうだな、少しくらい寄り道しても良いだろう。それに休んだ方がいい。僕も君もこれ以上戦うのは危険だ」


サーチアはシティの自室へ戻り、自作したマシンから研究室にいるステイラ博士と連絡を取り、研究所へ呼び出され、事の経緯を説明した。


「本来行くことの出来ない裏の世界、そして影の民・・・全てを記す終始の書・・・なるほどね」


「何か解ったんですか?」


「過去に起きた七つの災厄を知ってるかしら?あなた達の話を聞くと全て辻褄が合うわ。改ざんの嵐と黒渦、そして影の民達は良くない偶然から始まったみたいね」


「意味が解りません!解るように説明して下さい!」


「この間のシティが改ざんの嵐にやられかけたの覚えてる?あの時ギリギリデータのバックアップを護り通せたんだけど・・・七つの災厄は起こるべくして起こったのよ」


「!!?」


「そしてこの前話した、今現在起きてる8つ目。これは全くの別物だわ」


少し書に目を通しただけで直ぐに察したステイラ博士に驚愕し、口を上げ下げしてるサーチアとフロフォス。


「これは極秘情報だけど、あなた達は知る権利がある。落ち着いて話を聞いてね」


ステイラ博士は少しの間考え込み口を開いた。


「黙っていたけど、本当のことを言うと、この世界に時間は存在してないの。仮の時刻を設けてるだけで、時代も歴史も万民の記憶も初めから定められてるの」


「言っている意味が解りません・・!初めから歴史が作られてるなんて・・・」


「この世界の住民は全て管理されてるのよ。私達、学者も含めて。過去に起きた出来事は全て必然だったの。改ざんの嵐って自然現象だと誤認されてるけど、発生する場所を分析した結果だけど、神官を恨んで起こしてる者がいるわ」


「神官に恨み?神官が何をしたって言うんですか?それに目的が解りません!」


「私達は世界に管理されてる。その現実に不満があるようね、真相を知っている神官らしいじゃない」


サーチアは裏の世界で聞いた話を思い出した。堕天した神官が生き延びている。私達を助けてくれたシャドルガもそうだと言っていた。


「・・・神官でさえも例外じゃないわ。神官は基本的に結界から出ないし戒律を破らない。戒律を破っても違う形で世界に存在を許されているんだわ」


「全て管理って一体誰にそんなことが出来るんですか!?そんなこと神様にしか・・・」


「そう、だから神官が怪しいのよ。天帝を崇め、戒律を守る神官だからこそ、世界の核心に最も迫っているの。裏の世界から地上を蝕む、そんなことが出来るのは裏切り者の神官だわ」


二人は意気消沈し室内が静まり返った。神官の印象そのものが覆った気分だ。


「ステイラ博士は天帝を・・いえ神様を信じているんですか・・?」


「神って言葉だと仰々しいけど、この世界は誰かに意図的に作られてると思うわ。私達の為の世界というより、世界の為に民がいるって感じかしら」


「私達はどうしたらいいんですか・・?一体誰と戦えば良いんですか・・・!?」


足元の影が返答した。


「神官を寝返らせればいいんだろ」


「!?」


「その通りよ。神官を利用すれば世界の真相に迫り、ひょっとしたら改ざんごと無かったことに出来るわ。恐らくは影の民も」


「そんな!それじゃあ影の民は!?あそこには私の恩人がいるんです!あの人たちは・・・」


「この世界に必要無い。自分の口でそう言ってたじゃないか。


・・・残念だがサーチア、その女の言う通りだ。まぁ地上の民にとっては、黒渦が今起きてる最大の問題だから、そっちは後回しにできるかもな」


「黒渦を放った裏の世界の権力者・・・そいつらだけは野放しにできないわ。とは言っても私の予想だと裏の世界は既に変わり始めてる。あちらでも変化が起きてるんじゃないかしら」


サーチアはどんな表情をすれば良いか解らず、俯いて


「・・・この世界はどうなってしまうんですか?」


「さてね。所詮私達学者も民の一部なのよね。とりあえず、あなたが持って来てくれた裏の世界の物質と影の民の衣服とデータ、そして終始の書を解析してみるわ」


自宅に帰ってベッドに倒れこんだサーチア。余りにも壮大すぎる事象に関わってしまったことを、思い返すと具合が悪くなる。


「地上と裏の世界・・・救うには神官と接触するしかないってことね・・・」


「面倒だがそう悲観することないだろ」


「・・・フロフォスあなた何を隠してるの?」


・・!?


「気づいてないと思った?あなたがやけに事情通なのと、さりげなく私を誘導してることを!」


長い沈黙の末、言葉を発したのは影の方だった。


「・・・僕は元々は影の兵だった」


「・・・・」


「地上を荒らし、燐光を探し出しだすために黒渦から放たれた影の兵の一人だった・・。燐光を宿した君と接触した時、闇の化身へと変異し、君を裏の世界へ誘導する任を担った・・・初めから呪いを掛けられたのは僕の方だったんだ」


「・・・・・」


「もうどこにも逃げ場が無い。君を護りたくても、僕は僕を放った主には敵わない。ごめんよ・・・本当に役立たずのただの影だ」


「・・・違うじゃない」


・・?


「今日まで一緒にいて私を支えてくれたじゃない。私のこと、護ってくれてたじゃない・・・」


・・・・


「フロフォスがいなかったら私、本当にひとりになるんだから、悪いと思うならしっかり護ってよね・・!」


・・・・


「あぁ、僕を生み出した主に直談判する気だ。君を全てから護る。だから・・・」


・・?


「君も全てから目を背けないでくれ。どんな結末になっても最期まで傍にいる。だから決して諦めないでくれ。君が悲しむ世界になるのは嫌なんだ」


「・・・フロフォス」


「何だ?」


「お願いがあるの。私と世界を天秤にかける時が来たら、絶対に世界を選んでね」


「・・・解った、約束するよ。その時は僕も一緒に朽ち果てるだろう」


「それまで一緒よ、何があっても」





一週間ほどシティに留まり、それから街を後にし、再び神域を探し始めた。

相変わらず指針は安定せず、戦乱の民と影の兵、そしてエネミー族が邪魔ばかりする。何も知らない連中に苛立ちが募る2人は世界に抗う現実に苦悩した。


サーチアは休憩中、過去の記録を見て何かを感づいた。


ひたすら指針を頼りに進んでいたがよく思い返すとシティを中心に五芒星の形に直線的に動いていないだろうか。


スタート地点から今日までで何回星形を辿ったろうか。方角を大きく変えたのが29回くらいだから3つくらいだろうか・・・


「・・・あれ、ここ前にも来たわ」


「あぁ、僕にも解る。何度も同じところを通らされてるぞ」


「一体何処へ行けば神域は現れるのかしら・・・」


深いため息を吐いて目を閉じたその時・・・!

胸のコアが発光し、大きく瞬いた。


隠されていたフォルダーの中から現れた「夢幻の香木」が景色を捻じ曲げ、

自分を取り囲む周辺のフィールドが、神域を護る為に現れる「幻彩フィールド」へと変じていく。あたりの風景が淡い桃色の霞の奥へ消えていき、ほのかな甘い香りと、ぼんやりとした灯りに包まれていった。

「これ・・・まさか・・・」


サーチアの目の前に現れた女性、光族固有のコアを見て


「あなたが・・・神官・・・・?」


「左様です。私の名前はミコトキア。あなた方をお迎えに上がりました」


いつか、どこかで会ったような気がしたサーチアは、記憶の中から過去に起きた改ざんの嵐の中で会った女性を探り当て、


「あなたは荒野で会った!あの時私に光をくれた人よね!?」


女性は目を閉じて憂うように


「それは私の姉です。姉はあなたの勇気ある行動と、強い心に全てを託し消え去りました」


「やっぱりあの人はもう・・」


「姉のことは気に病まないでください。姉が信頼したあなたを私も信じます。信じてお迎えに上がったのです」


「教えて!神官達は何を隠してるの!?」


「それは・・・神官にはこの世界の秘密・・・核心ともいえる大事を知ることができます。しかし・・それを教えることは戒律で禁じられてます」


「世界の核心・・・裏の世界・・・!?」


「裏の世界は、本来認知されることが許されない禁忌の地です。それ以上は申し上げられません」


「私達は裏の世界へ行ったわ!影の民にも会った!あそこは一体なんの為にあるの!?」


ミコトキアは2人に向き直り、


「戒律に背き堕天した神官・・全てはそこから始まりました。我々、神官は天帝を崇め、信仰を代々引き継いできました。しかし・・我々は真実を知っています。それを利用し、世界を変えることが出来てしまいます」


「やっぱり神官だったのね!」


「・・・認めざるを得ません」


「ならさっさと教えてくれよ!僕達どんだけ大変な目にあったと思ってんだ!」


ミコトキアは沈黙した。


「我々は・・・過去を知ることができます。自ら古の時代へ、栄華の時代へ赴くことが出来るのです」


「それってまさか・・歴史ごと世界を変えれるってこと!?」


「違います。過去の偉人に会えるだけです」


「古の民に会えるってこと!?それって凄いことじゃない!」


「左様です。我々の間でも少々揉めました。が、私どもは天帝に背き、堕天を覚悟のうえであなた方を過去へ送るべく、出向いたのです」


サーチアは唖然とした。神官達にも意思があるのは当然だが、もはや天にすがることもない状況なのか。

フロフォスはサーチアを見やり、


「・・・堕天する覚悟ができてるのはいいが、僕たちが元の世界へ戻れる保証はどこにもない、一方通行だ。それでも行く気か?」


「・・勿論行くわ。神官たちの覚悟を無駄にはできないもの!」


「・・・覚悟はおありのようですね。シティの北の神隠しの森の中に月詠の祠があります。そこへ向かって下さい。我々は易を立ててお待ちしております」


「ちょっと待て、聞きたいことがある」


フロフォスは強い口調で


「あんた達神官の中でも燐光結晶は秘宝のはずだ。それを何故あんたの姉が持ち去ったんだ?」


全然気が付かなかった・・考えてみればその通りだ。


「・・・裏切り者が現れ、世界が傾いていく中で、天帝を疑い、独自の考えで行動を起こすものが現れました。私の姉もその一人です。姉は、代々引き継いできた光の神具を、改ざんの嵐の中である者に託し、堕天しました」


「あの時、偶然いた私にくれたっていうの・・・?本当に偶然なのに・・」


「私も姉の行動が理解できず、ずっと不信感を抱いていました。しかし、あなたの目を見てすぐに姉の気持ちを感じました。今ではその英断を素直に認めます」


ミコトキアは人差し指の上に、人型に切りとられた紙を浮かせた。

紙はゆっくりと浮遊してサーチアの指の上に乗り、くるくると回っている。


「これは式神・・・我々神官と意識を繋げる物でございます」


「これでいつでも連絡が取れるってことね・・!」


「時渡りの儀式が済むまで少しばかり時間が掛かります。準備が出来次第、式神を通してお呼び致しますので、あなた方も準備をお願い致します」





第15章 壊滅したクローンシティ





神官の支度が整うまでの間、ステイラ博士の意見を聞こうとシティに向かった。

そこに見慣れたシティのシルエットは残されておらず、広がっていたのは瓦礫の山と、煙の立ち込めた廃墟と化した、大災害に見舞われた街の姿だった。

あちこちで救いと人手を求める声、火災により燻る煙、街の外から来る救急隊員達と浮遊搬送機の機械音が飛び交うその光景はまるで地獄である。


サーチアは悄然と立ち尽くし、そしてしゃがみこんだ。両手で抑えても涙が止まらない。隣に佇むフロフォスも辛い思いに、眼前から目を背けた。


「・・・・セキュリティが破られたようだな」


サーチアは口を押え、こみ上げる嗚咽と涙を必死に堪えた。

その様子にフロフォスはかがみ、相方を慰めようと優しく背中を撫でていた時、ある人物を思い出し周囲を見渡した。


「研究施設は・・・!?学者たちはどうした!?」


サーチアは相方の言葉に耳を貸さず、涙を拭って急いで怪我人の元へ駆け寄ろうとする。


「サーチア落ち着け!街の復旧は他の奴に任せて、まずあの学者を探すんだ!地下施設にいるかもしれない!」


そうだった。初めからその為に来たのだった。

四方から飛び交う救いを求める声と、こみ上げる涙を振りきってサーチアは地下への階段のある公園へ向かった。

芝生の緑が赤茶色にくすんだ公園に、管理室として置かれていた小さな小屋は完全に崩れ、階段には瓦礫が流れ込みとても入ることなどできなかった。


他の通路は・・・あの時の地下シェルター・・!!

踵を返し、以前避難した場所・・・避難施設の階段を降た広間にあるエレベーター・・!

オプションのウィングを取り出し、疾風の勢いで駆け抜け辿り着いた先にある筈の避難施設は跡形もなく崩壊していた。

他に入る道は・・!とにかく急いで研究室へ・・!


その瞬間地面が大きく震えた。シティに降り注ぐ災異が収まらない・・!

サーチアの飛翔中、足元に潜っているフロフォスが呼びかける。


「サーチア!自室に戻ろう!研究所のシステムに侵入して、入り口を探すしかない!」


サーチアは了承し、急いで自室のある寮へ駆け抜ける。その時上から声が掛かった。


「遅かったな、やっと来たか」


警戒したフロフォスは瞬時に姿を現し、臨戦態勢をとる。

巨大な住宅街の成れの果てのゴミ山の上に立つ、見知らぬ影は跳び上がり、二人の傍へゆっくりと降りたった。

その姿はフロフォスと瓜二つだがどこか凄みを感じさせる。風になびく黒髪に黒い衣服、そして朱色の瞳とコアを輝かせている。


「何だお前!?」


「・・・仮にも上位の俺様に向かって無礼な物言いだな」


「上位・・・お前まさか・・・!?」


「あぁ、そうだ。俺は黒渦の化身、インフィニティシングラー。俺が送った刺客は無事に燐晶を誘導してるみたいだな」


「ま、まさかあなたが街を破壊したの・・!?」


「その通りだ。様子を見に来たついでだが、余計なことされても困るしな」


フロフォスは激昂した。相方を想う気持ちが、より一層強い怒りとなる。


「・・・何が狙いでこんなことをした!?」


「何も。しいて言うならお前達の行動を見ておくのが俺の役目。街の破壊はただの気まぐれだ」


「役目だと!?お前は一体誰に仕えているってんだ!?裏の世界のネクローザか!?」


「いいや、もっと上におられるお方だ。お前だって少しは覚えているだろ?俺達を生み出した影の支配者だ」


フロフォスは一瞬記憶が蘇ったように呆然とした。口を挟んだのはサーチアだった。


「ただの気まぐれでシティを壊滅したの!?何故!?私達に用があるなら皆を巻き込む必要無かったのに!!」


「・・・もっともだな。お前だけじゃない。知識の民は皆未来を作る素質を備えている。だから危険なんだ。新しい事象を知りたがる心と行動力が未来を作り、そして世界を破滅させる可能性を大いに秘めている。それは「全て」にとって邪魔なことだ」


・・・?!


サーチアは言っている意味が解らず頭の中で疑問符だけが渦巻いていた。


「お前の・・・いや、お前らの主の目的は何だ?世界を滅ぼすことか?そんなことをすればお前たちだって」


「違うな。そんな愚かな考えをお持ちじゃない」


黒髪の少年は踵を返して


「お前たちはいずれ主と対立することになる。俺の役目はそのステージへと誘導することだ」


そう言い残して少年は揺らめき、陽炎となって溶けるように闇に消えていった。

その場に残り沈黙する二人。


「インフィニティシングラー・・・影の民でありながら夜空に君臨している、影の兵の統率者・・・」


「さっきの人・・・挑発的な態度だったけど私達と戦う気が無さそうだったわ。一体何を企んでるのかしら・・・」


騒がしい街に積み上がる瓦礫をオプションのウィングで飛び周り、サーチアは一直線に自室へ駆け抜けた。地上の奇妙な物が目にとまり、飛翔を止める。


「フロフォス!あそこ!学校の跡だわ!」


立派な校舎が佇んでいた場所は上から押しつぶされ、瓦礫の山が横流しになっている。その奇妙な光景に二人は動揺した。校舎も教室棟も屋内運動場も痛ましく崩落している。それなのに資料室だけが不気味にも不自然な綺麗さで残されている。

資料室は円柱形の外壁に半円形の屋根の造りをしている。

サーチアは資料室の校舎側ではなく、一般客の利用する反対側の入り口付近に降り立った。

本来自動で開くはずのドアが動かず、コアから工具を取り出し、上辺と底辺、そして四隅を解体し、力づくでドアをこじ開けた。


円形の室内に中心から外側へ向かって放射状に本棚が密集し、通路は隙間か壁際しかない。そして壁も全て本棚と化していて、横移動できる梯子が置かれている。


「何でここだけこんなに奇麗なの・・・?」


「いくら何でも不自然すぎるぞ・・」


「設備が強いのは大切なものを護っている証だわ!きっとこの部屋の中のどこかに!」


「あぁ、研究施設への入り口があるはずだ。急いで探そう!」


サーチアは本棚や梯子に仕掛けがないか造りを見て回っていた。

フロフォスは影に溶け込み室内と周囲を探る。

幾つかの本を取り出しヒントが残されていないか探していたところ、本棚の内側に知らない文字が彫られてるのを見つけ、

乱暴に本棚から全部本を床に下ろし、内側にびっしりと書き綴られた文字に釘付けられた。

文字と記号、規則性、法則性、全てを映像化しコアの中で時間を置き去りに、最速で解析していった。何処かで見たような文字・・・。


「あ、これ・・・プトロス円盤文字といったかしら」


コア内で文字が全て解読され、アルファベットと数字に変換された。それは、以前、博物館で見た分厚い石の円盤。あれは始祖の民が天帝と交信する際に用いられる古代文字と書かれていた。!

サーチアは早速本棚に綴られた長文の解読に掛かった。


「全てのものは一つから生まれ、行きつく先で形を変えて分岐し、世界を成していく」


長文は翻訳すると、たったこれしか書かれておらず、ため息をついた。

影と同化し地下への入り口を探していたフロフォスは姿を現し、


「地下へ続く扉は見つけた。だがその先が暗号になっている。それに地下へ降りても研究所へに繋がってるのか解らない」


「・・・?その暗号多分解けるわ。どこにあるの?」


「この部屋の真下だが、その扉にもロックが掛かっていて開けれない・・・何かヒントは見つかったか?」


フロフォスは影に溶け込み、物理的な錠の掛かった部屋でも通過できるが、サーチアにはそれが出来ず、ロックを解除する方法を探すしかないのだ。


サーチアは何を思ったかふと丸く窪んだ天井を見上げ、夜空を描いた天井画に暫くの間、見とれていた。

青い宇宙の海で沢山の星達の集まりから新たに生まれ、飛び出していく流れ星が一周し、海の外へ向かおうとする。そう表現しているんだと一人、思い耽っていた。

その時気が付いた!半円形の天井には全部で8つの溝が通っている。そして底辺の溝と溝の間に8つの色が異なる天体が描かれていた。

あの天体・・・全部知ってる!覚えてる!夜空の地平線で見た星の民達・・!


サーチアは目を閉じてコアに星彩を灯し、意識を集中した。

ある。全部で八つの本が僅かに星彩を纏っている。

目を閉じたまま足を進め、一冊づつ手に取り重ねていく。8冊抱えるともう一度天井を見上げ、


「フロフォス、あなた影を実体化して動かせたわよね?この室内に並ぶ本棚を全部、部屋の中心に向けて押し出せないかしら?」


「・・・・?いいが・・何か判ったのか?」


「うん、お願い」


室内の床は漆黒の影に埋まり、現れた無数の触腕が、放射状に配置された本棚を中心に押し出した。真ん中に現れた正8角形。

すると天井画が突然輝き、動き始めた。回転する流れ星と点滅する星達。


そして底辺に描かれた8つの天体が発光する球体となって現れ、ゆっくりと降下してく。

サーチアは浮遊する光の一つに近寄り、抱えていた本に記された星座記号が表す天体に本を差し出した。取り込んだ光は点滅し、元の位置まで急浮上する。

残りの7つの天体達にも相応しい書物を差し出し、全ての光が天井へ昇って行った。

8つの光が互いに共鳴し合い、点滅し、やがて「ガタンっ」と重い音が鳴った。


「・・・何が起きたんだ?」


「ちょっと待っててね」


サーチアはそう言い残して本棚をよじ登り、慎重に上を歩いて部屋の中心を見下ろした。


「やっぱりそうだったわ!この部屋の本棚の配置は変だと思ってたのよね」


放射状に並ぶ8つの本棚は均等な力で押し出され部屋の中心に正8角形の隙間を作り出し、さっきのはその床が外れた音である。


一つ目の閉扉を難なく突破したサーチアを見て、フロフォスは先程、黒渦の化身に言われた機械族の恐ろしさを垣間見たような気がした。


「じゃあいくわよ!」


サーチアは本棚に囲まれた8角形の穴に飛び降りた。フロフォスは再び影に潜る。

降り立った先は、先程までいた部屋とは全然雰囲気の違う、真っ白な部屋だった。

足元にびっしりと彫られた古代文字と白い壁には6つの白い扉がある。


「フロフォス、どれが本物の扉か解る?」


「・・・正直に言うが、どれも研究室に繋がっていない。本物の扉は」


「・・・世界の基盤となるべく生まれたこの地には、かつて始祖の木がありました。神木は地下に大きく根を広げ今も尚、力を集め街を支えています。

地上の多くが集う大都市まで成長した今、失われたのは始祖の木ともう一つ、その答えは・・・」


しゃがんでぶつぶつと音読しているサーチアは突然立ち上がり、足元に連なる文字の上を歩き、足を止めたヵ所の文字を指でなぞる。

そしてまた歩き出し、3回止まって床の文字をなぞって天井を見上げた。


「答えはあらそい。エネミー達から街を護る為の研究施設だものね」


天井に空いていた8角形の穴は閉まり、二人を閉じ込めた白の間は、垂直平行に移動し、止まると同時に、6つある扉のうち、一つが瞬時に溶けて出口となった。


資料室と同様に、地上の建造物よりもずっと頑丈な造りで、出口を抜けた先は以前と似たような造りの、果てのない廊下だった。


2人は地下施設の頑丈さから、住民への対応を比較してシティの優先順位を想像し苦笑する。

廊下を駆け出し、部屋という部屋を見て回り懸命に博士を呼びかけた。

そして幾つもの自動ドアを開け、ようやく見つけた部屋には椅子に腰かけ優雅にコーヒーを飲んでいる、探していた女性だ。


「ステイラ博士!無事ですか!?」


「あらあなた達・・・来てくれたのね・・・」


「セキュリティが・・!」


「えぇ、破られたわ。でも街の地下はそれ以上にガードが堅いから平気よ。それより・・あなた達が来るのを待っていたの」


女性は立ち上がり、踵を返して何処かへ行ってしまった。ハイヒールの音が遠ざかる。

暫しの間を置いて隣の部屋から扉が開き、大きなものを抱えて戻ってきた。それを見て、サーチアとフロフォスは目を見合わせた。


「フロフォス・・・これ・・・」


「あぁ、やっと終わりが見えてきたな・・!」


「あなた達が来るまで、これを護り通すことに徹していたわ、無事に来てくれてよかったわ」


「先生!私達、神官に会えたんです!過去へ送って貰えるって」


女性は考え込んだ。


「神域への侵入を許したのなら、神官達はもうあなた達を疑わないわ。そして私達もあなた達に全てを託す。これを」


差し出されたのは圧縮された高密度のデータディスクだった。

受け取ったサーチアはそのデータの容量に驚き、


「先生・・これは一体何の記録が入ってるんですか・・?」


女性学者は敢えて問いかけに堪えなかった。その時が来れば解る、そういうことだ。


「恐らくあなた達はもう一度、裏の世界へ行くことになるわ。そこにあるものにどう使うのかよく考えて」


サーチアは裏の世界のホストコンピューターを思い出した。世界の中枢・・もう一度あそこへ向かうのだろう。博士達は街の復旧をそっちのけにして私達の為に、未来の為に頑張ってくれていた。ならばそれに応える義務がある。胸の中で熱いものがこみ上げてきた。


出発の時は近い。


サーチアとフロフォスは神官の呼び出しが来るまで街の復旧を手伝っていた。

科学の街と呼ばれるだけはあって、電力が無くては街全体が機能しない。

しかし、それでも他所から来た救助隊のお蔭で、思った以上に復旧が早く、街に明かりが戻ってきた。


サーチアは休憩中、何度も式神を見つめ、神官から連絡が来る時を辛抱強く待っていた。そして数日が経過。道角で、復旧の手伝いに疲れて、瓦礫にもたれかかったまま寝ていた時のこと、


「申し上げるのが遅れました。時渡りの支度が整いましたので日没までに神隠しの森へ向かってください!」


この連絡を待ちわびていた二人は、シティを置き去りにして北へ北へ、一直線に駆け抜けた。


「なぁサーチア」


「何?フロフォス」


「あの神官の姉は堕天した。以前裏の世界でも堕天した奴が影の民を束ねてるって言ってなかったか?」

「呪術師アノルダヌフ・・・あの人は堕天して来たと言っていたわ。それにシャドルガ・・・他の神官も・・・」

「過去に起きた七つの災厄を起こした主犯は裏切り者の神官だと思うんだ。今となってはどうでもいい話だがな」

「ミコトキアや他の神官達は戒律を破ったら裏の世界へ行ってしまうのかしら・・?」

「シャドルガのように影の民になって生まれ変わってるかもな。僕が言いたいこと解るか?」


「・・・元神官が敵でも戦いを躊躇うな、でしょ?」


「解ってるじゃないか。約束しただろ、最後まで目を背けないと」


「今更何が起きても驚かないわ。いい加減慣れたわよ!」





第16章 神官たちの思惑




指針の示す方角へサーチアは駆け抜けた。コアが裂けそうなほどに力いっぱい駆け抜けた。その先にある未来を信じて。

周辺は闇の時間へ転じ、コアの中の光彩を灯して枯れた草原を進んだ。

草原の先には「迷子になると帰れない」と噂の「神隠しの森」と呼ばれる深い森が広がっていた。


「いよいよだな」


いつの間にか隣に現れた影の少年。じっとしていられずに出てきたらしい。

相方の姿を見て安堵したサーチアは手を繋ぎ、コアの灯りを頼りに森の中を進んでいった。風に騒めく木々と、道の無い森の中をコンパスを頼りにひたすら歩いた。そしてぼんやりとした明かりが見えてきた。


「フロフォス、あそこ見て!幻彩フィールドだわ!」


「改めてみると神々しくて近寄りがたいな」


灯りを消し、息をひそめて近寄る。樹木の影から覗き見ると、穏やかな光が宙を舞っているのが見えた。

根元に生える草の中に伏せていると、数名の神官が泉の上を優雅に舞い、

他の神官達は泉の向こうで、奥の階の上にある小さな祠に向かって平伏している。


泉の中央に佇む巨大な御神木が神々しい光を纏っていた。

伸ばした枝の周囲には、幾つもの結晶が浮遊していて、あれが新たな命の輝きだと誰が見ても解る。

神官達の舞は御神木ではなく、その奥にある月詠の祠に力を注いでいるようだった。

サーチアは酔いしれたように神官達の舞いに見とれていた。


フロフォスは小声で


「ミコトキアはどこだ?あいつが一番話しやすいんだが・・」

「あそこ!御神木の前で神楽鈴を持ってるわ!」


「何者か!」


神官の1人が近寄ってきた。その瞬間、足元から頭頂まで電流のような衝撃が走る。全身が金縛りにあい、体中がこわばる・・・!これが神官の力・・!


「う・・動けない・・・」


全身の痺れは瞬時に解かれた。

サーチアは草陰から立ち上がって両掌を上げて見せ、戦う気は無いことを示した。

フロフォスも立ち上がり、両手を上げている。


「私達は敵じゃありません。決して危害を加えたりしません」


寄ってきた神官は二人を窺うような目線で見た。しかし、何者なのか直ぐに察したようで、深く礼をし、


「大変失礼致しました。あなた方が来るのをお待ちしておりました、ご無事で何よりです」


「過去へ行く支度は・・・」


「転送の儀は既に済ませてあります。我々も全霊を込めてお送りする次第です。さぁどうぞこちらへ」


平服している神官達に囲まれて二人は泉の上を波紋を生みながらゆっくりと歩いた。


「お待ちください」


神官の一人が立ち上がり近寄ってきた。


「ご無礼を、我々神官が受け継いできた神具をお渡しします」


そういって朱色の布にくるまれた物を差し出した。

中から覗いたのは綺麗に磨かれ、神域の幻想的な風景が見事に映しだされた鏡のような物だった。


「これは転写封印御鏡といい、邪を捕らえ封じます。それから、こちらもどうぞ」


そういって差し出したのは不可思議な文様が描かれたお札だった。


「こちらは五行奉神札。これは我々が邪と戦う際に使う札でございます。必ずや貴女方のお役にたつでしょう。・・・話を割って失礼致しました」


ミコトキアはこちらへ歩いてきて礼をし


「これから転送の儀を始めます。お二人共、祠の御前へ」


祠の前で手を握るサーチアとフロフォス。


「・・ねぇ、怖い?」


「怖がってる暇ないだろ」


「私は一人じゃないから怖くないわ」


「僕だってそうさ、最後まで君といる。でないと影とは言えないからな!」


サーチアは最初に出会った時を思い返した。あの時は籠の中に護られた鳥だった。

無知蒙昧な自分が身勝手な行動を起こした結果、影と出会い世界を掛けた戦いに挑むことになってしまったのだ。


あの時、廃墟でフロフォスに出会えなかったら、こんな生き方はあり得なかったし、ここまで1人で来るなんてことは出来なかった。


フロフォスはサーチアの背を叩き、


「心配すんな!こちとら負ける気なんてないからな!」

「望むところよ!」


神官達はサーチア達の背を見て、深く平伏し、符呪を唱え始めた。

ミコトキアだけが二人の後ろに立ち両手で印を組む。


「世界を宜しくお願い致します・・・」


祠の扉を封じる閂式の錠が重く動き、扉が開いた。中から強力な光が放たれ、同じく体を光と化した、二人を吸い込み、瞬時に扉は閉まる。閂が動き再び固く閉ざされた。


神官達に全てを託され2人は過去へ飛んだ。栄華を極め惨禍に散った古の時代へ。




第17章 古の民と世界の真実




私達の暮らしは古の民の崇高な英知によって現代の基盤が作られ、

その英知は、神官によって引き継がれ、現代の暮らしを支え続けている。


古の世界は溢れんばかりの豊穣の地と、安寧な世を約束された常世の世界。

少女はそれを本で知り、沈まぬ太陽に護られ、万民の至福に包まれた淡い夢の世界を想像していた。


消えゆく光の中で実体を得て、辺りを見渡した時

周囲に広がる世界と自身の空想との大きな差異に困惑し目を瞬いた。


自分を取り巻く全てが黒い。地面も天井も不自然なほどに黒く、

地表には方眼紙の様な正方形の光の線が規則正しく敷かれ、その線路の上を白や黄色の幾つもの光が、目にも留まらぬ速さで駆け抜け、直線的な移動を繰り返している。

白い線の上を迸る光の動きから、ここは天井の低い大部屋で、いつか見た裏の世界に少し似ている。

見渡すと幾つかのマスが白く光り、人の形をしたシルエットが見え、それだけが唯一存在してるものだった。

サーチアは隣のマスで佇む青いシルエットを見て、自分の視覚を疑い、目を凝らす。


「フロフォス・・?色は似てるけど・・なんだかカクカクして見えるわ・・・」


「・・・僕からも同じように見えるぞ。それよりここが古の世界か?聞いてたのと大分違って見えるぞ」


見た目が違っても声だけは変わらず、それを聞けただけで安堵できた。


「あそこにいる人に聞いてみましょう。えっと・・・」


足を動かしたいが斜めには動けず、歩幅も選べずに、一マスづつ縦横にしか移動できない。

近くで立ち尽くす人物・・・人の形を成した光に歩み寄り、声を掛けた。


「あなたは・・・古の民ですか・・・?」


声を掛けられた相手は唐突に顔が現れ、立体感の無い平面的な表情が何とも不気味だ。口は笑っているように見えるが、何を感じてるのか伺い知れない雰囲気で、


「えぇ、そういう設定になってますね」


「設定?どういう意味ですか?」


「そのままですよ。私達は古の民という設定にしてあるだけです。


あなた方は・・・なるほど・・・よくここまで辿り着けましたね、勇気ある心の持ち主だとお見受けします」


周囲を見渡すと他のマスにも何人か白く模られた人の姿がある。


「ここは古の世界じゃないんですか!?私達は過去へ飛んだんじゃなかったんですか!?」


「その通りです。そう設定してありますからね」


聞けば聞くほど訳が分からなくなる。


隣で聞いているフロフォスは痺れを切らし、ついに怒鳴った。


「設定設定ってなんなんだよ!全部あんたたちが造ったとでもいうのかよ!?」


「その通りですよ。ここにいる者、全てがこの世界を作った製作者達です」


「!?」


「正確には製作者として残した記録に過ぎませんがね」


サーチアは言葉の意味を頭の中で何度も反芻したが、靄のように意味を掴めず、

抑揚の無い返答に、二人は走馬灯のように今までを思い返し、意識が遠のいた。


予想を大きく上回る現実に不安に駆られたサーチアは動揺した声で


「古の世界は至福と安寧を約束された地だと聞いたわ。ここは滅びる寸前の世界なんですよね・・?」


「あはは、それもそういう設定にしてあるだけです」


抑揚の無い機械的な笑い声は実に不気味だ。


サーチアはじわじわと不安と悪寒が這い上がっていき、期待していた夢と大きくかけ離れた現実を否定して欲しかった。が、


「あなた方の世界は全て我々の設定したものです。元来この世界に歴史などありません。過去を造る機能は備わってないのです」


クローンの学者が似たようなことを言ってなかっただろうか。この世界に時間は無いと。

時間が無くては今までの出来事は一体なんだというのだ。今まで必死になって駆け抜けた時間は一体どこへ行ったというのだ。

サーチアの頭の中で時計が逆戻る。

学者に憧れて勉強していた日々、外への憧れから生まれた偶然の出会い、影という半身と共に戦った日々、シティの学者達の研究、天体達の、神官達の、全ての民の暮らしは何だったというのだ。


強引にシティの外へ飛び出し、偶然にも影の少年と出会い、多くの敵と戦いながら冒険してきた全ては一体なんだったというのだ。


サーチアは目に熱いものがこみ上げ、瞳から滴るのを・・・滑り落ちる感覚だけを憶えていた。


「隠しルートを幾つか用意しておいたとはいえ、神官でない方が本当に通って来るとは感心ですね・・幾つもの困難を乗り越えて来たことでしょう。

それにしても・・・光族と闇族・・・陰陽一対で来るとは初めてのこと・・そんなことがあり得るもんですかね・・・」


人を模った光は顔面に浮かぶ平面的な表情を変えた。


「おや?・・あなたは光族じゃないですね。それにそちらの方も闇族ではない。

これは一体どういう不具合でしょう・・・種族が変わり相対する筈の種が、対立せず同じ目的で来られるとはとても数奇な巡り合わせですね。予想だにしてなかったことです。成程、あなたは機械族でしたか・・・」


「何かおかしいの・・?」


「いいえ、納得がいったのです。我々の間でも機械族の設定は少し悩みました。あなた方の探求心と好奇心はいずれ世界を滅ぼすでしょう。光族となった今でも眼前の問題に歯向かいますか?」


「どういう意味なの・・?」


「何事にも支える力があって、それはこの世界も例外ではありません。そしてその支えには限界があるのですよ。

我々の間ではメモリー、SSD等と呼んでいますが、この世界にも出来上がった時から容量という限界があります。

我々は種族に条理を組み込み、制限を設けることで、この世界をメモリー内に収め、成り立たせているのです。

機械族の特徴である探求心は新しい未来と時間を作りだし、やがて容量が尽き、世界は硬直した後、消滅。始まりから再スタートするように作られています。あなた方の知的好奇心は、世界の存続にかかわる大きな可能性を秘めているんですよ」


「それが・・この世界の真相・・?神官達に他言を禁じた知ってはいけない真相なの・・?」


サーチアは俯き、


「私の好奇心が世界を壊してしまったの・・・?」


製作者はそってなく


「そのようですね。あなた方には全てに制限を設けてるので、定められた生き方しかできないようにしてあります。すでに気づいておられるのではないでしょうか?種族間で争う理由や、エネミー族という荒くれ者の存在理由を」


少女は意気消沈した。

隣で聞いているフロフォスは、本来正すべき問題について問いかけた。


「なぁ、この世界を作ったんなら黒渦も影の兵もあんたの言う・・・設定なのか?」


「黒渦?なんの話でしょう?興味深いですね、お聞かせ願えますか?」


二人は元居た世界に起きた惨劇の全てを話した。

黒渦の発生、時間の乱れ、影の兵団、裏の世界、改ざんと言う現象、研究者の出した仮説。


「私達は神官達から世界を託されて来たんです。私達のいた時間は大変なことになってます!これも時空儀のうちなら滅びるしかないんですか?!」


「はて・・・時空儀にそのような規格外の天体など設定していないはずですが・・・少し待ってください、確認してみます」


浮かび上がった表情が消え去り周囲を迸る光が集中し始め、電子音と足元の点滅が激しくなる。


製作者・・眼前の相手もまたチカチカと点滅し始めた。


「これは・・・全くもって予想外な事態ですね。あなた達は本当に幾つもの奇跡の末に辿り着いたのですね。設定者の私にも驚きを隠せません」


白く発光する人物は再び表情を浮かべ、空を見上げながら語り始めた。


「あなた方の世界で神官と呼ばれている者達は、本来は物語を動かすための敵として存在し、禁を犯し世界の均衡を崩すことで、戦の火種、即ちエネミー族として物語を動かす。そういう設定だったのです」


「物語の為・・?」


「神官が戒律を破った時、コアが分裂し傀儡を成して世を荒らす。通称堕天と呼ばれ、その傀儡があなた方のよく知っているエネミー族ですね。

しかし・・堕天した神官がエネミーとなることなく、偶然ホストコンピューターへ辿り着けてしまったのが、一番大きな不具合ですね。

世界の中枢、暗転世界から幾らでも改ざんし、均衡を崩すことが出来るでしょう。これではゲームとして成り立ちません。


神官としての設定に不満を持ち、世界を作り変える・・・その野望にあなた達は巻き込まれてしまったのですね・・・。

それと、影の民などという種族は本来設定されておりません。

我々の間で案を出したものの、話し合った結果採用されなかったわけですが、残っていたデータが作動してしまったようですね・・・

そんな種族が動き出したとは、大変な混乱に陥ったことでしょう・・・」


「ゲーム・・?私達の世界で多くの種族がエリアと恩恵を求めて戦ってきた、今までの全てがゲームだというのですか!?」


「その通りです。あなた方は争い、勝ち取って強くなっていく、そう造られた世界なのですから」


サーチアは全てが仕組まれた世界だと知っても、未だ希望を捨てきれず


「で、でも・・・そうだとしても、成り立たないのなら直しますよね・・?さっきも不具合だって・・・」


製作者と名乗る人物は暫く考え込んだ後、


「これは不具合ですね。私共の落ち度です。」


「あなた達は製作者なんでしょ?なら元に戻してもらえませんか・・!?本来の・・あるべき姿に・・・」


「我々には正せません。この世界はもう作り終えているのです」


隣で話を聞いていたフロフォスは激昂し、大声で怒鳴った。


「滅びようとしてるのにどこが作り終えてんだよ!不具合が多いって言うなら直せよ!助けろよ!あんたら製作者なんだろ!」


相手は姿勢も空気も態度も何一つ変わらない。抑揚の無い口調で


「我々は外の世界の住人なんです。この世界は我々が造った云わば箱庭のような物なのです」


サーチアは耳を疑った。いつだったか誰かに言われなかったろうか、世界の為に私達がいると・・。

今までの言葉を何度も何度も反芻し、意味を考え、胸の中の不安が次第に絶望へと膨れ上がり、ついに心が折れてしまった。


そんな相手の気持ちを汲むことも無く、製作者は語る。


「私を含めて、ここにいる全員が製作者として残した記録にすぎません。ゲームに起きた不具合に関してはお詫びしますが、我々はこの世界にはおらず、もはや干渉することもないのです」


フロフォスは相も変わらず激しい口調で


「だったら僕たちはどうしたらいいんだよ!?消えるのを覚悟でここまで来たのに、大人しく世界ごと消えろとでもいうのかよ!

世界を変えれるなら教えろよ!隠しルートでもなんでもいいからよ!」


製作者は暫くの間考え込み


「教えてしまっては隠しルートでもなんでもなくなってしまいます。

しかし既に不具合を利用し、ゲームが成り立たなくなっているのなら・・・」


製作者は回転し向きを変え、後をついてくるように促した。

足を動かさず体制も変えずにマスを縦横に機械的な動きで移動し語っていく。


「不具合の大本は、神官とはいえ住民がホストコンピューターへ辿り着けたことでしょう。

裏の世界で生き伸び、影の民という兵力を集め地上に放たれたのが「黒渦」という影達の統率者ということですか・・。

システムの集中する裏の世界でなら造作もないでしょうね・・・しかし、

それだけでは世界を塗り替えることはできません、そう簡単にゲームを壊されては困りますので、我々の間でも手を打っております。


実はホストコンピューターのキーもまた、陰陽一対、光の力無くしては完全には働きません。だから改ざんという現象でしか改変出来なかったのです。

我々はマザーボードに2重にロックを掛けました。光と闇とういう相対する力でなくては世界は改変できずに、イニシャライズ・・・初期化されます」


足を止めて向き直り、再び表情を浮かべ


「あなた方は自分達の居た世界を救う為にここへ来られたのですね。今の荒れ果てた不具合だらけのゲームを正したいのでしょう。

同じ時を繰り返す箱庭に護られた道を選びますか?それとも箱を壊し、条理を崩してまで新しい未来を作りますか?世界の硬直と引き換えに」


サーチアは涙を拭い、迷わずに向き合って答えた。


「あなた達にとって時間が無くても、私達には記憶も歴史もきちんと残してるの。同じ時間なんて2つとして無いわ」


「なるほど、あなた方は世界の綻びを閉ざし、我々の作った箱庭を望むですね。ならば私からできるのは、不具合を正すチャンスを与えることだけです」


「世界を・・救うをことができるの・・?」


「不具合の元である裏の世界へ送りましょう。少々お待ちを。今急いで解析しております・・・」


状況が上手く呑み込めない2人だったが、やっと希望が見えた気がした。


「見つけました。もとの時代の黒渦の特異点・・・「事象の地平線」と呼ばれる場所から行けます。しかし、そこであなた方を待ち構えている者がおりまして、少々厄介でしょう。ですがここを避けては通れません、健闘を祈る他無いです」


「事象の地平線ってなんだ?」


「黒渦の核ですね、強力な引力により外と断絶された「全ての最果て」とも言われています。裏の世界の番人はそこにいます」


サーチアとフロフォスの目の前に色の異なる二つの光が現れた。

光は収縮し、形の違う鍵が現れ二人の前で回転しながら浮遊している。


「これをあなた方に託します。改変のキーです」


「改変のキー・・・?」


「あなた方の望みを叶えるには、全てのシステムが集中するホストコンピューターへ赴き、起きてしまった不具合を全てを書き換えることです。

それ以外に方法はありません。そしてそれは我々、製作者達の唯一の願いです。

本来はゲームを改変されないよう存在しない設定にしてたのですが、やはりデータが残っていたお蔭で隠しルートとして存在してしまいました。

あなた方が正そうとしている・・完成された世界は我々の望みです」


「世界を完成させれば良いのね!でも・・それをしたら私達の居た元の時間はどうなるんですか・・?」


「あなた方のいた時間は既に消えかけています、否、護るべき世界が無くなったというべきでしょうか」


「ど、どういうことですか!?私達は皆を救いに来たのに・・!?」


「おい、それが本当なら何故、僕達は消えずに残ってるんだ?元の世界の住人だぞ?」


「ここへ来る経過に夜空と神域の改変という事象があったはずです。

先程仰った秘宝とも言える神具と力を託されたのと、多くの神官が堕天した結果がそれです。

その瞬間からあなた方は時空の特異点となり、時間を超えてきたことで元居た時代を保持するものがいなくなり、地上は滅び、僅かに残された特異点と裏の世界だけが残っています」


サーチアは意味を考えることなく、知らず知らずのうちに瞳から滴る涙が、涙の感覚だけが増していった。

自分達が時間を超えたことで、護りたかった大切な時間を滅ぼしてしまったのか・・・滅ぼす為に時を超えて来てしまったのか・・。


「おい、ちょっと待て、世界を救うも変えるも裏の世界に行くしかないってことじゃないか!それじゃあ裏の世界で待ちかまえてる、影の支配者に改変のキーを届けに行くようなもんじゃないか・・!」


「その通りです。あなた方の行く先は特異点である夜空に残された僅かなエリアと、裏の世界しかありません。僅かなエリアと言っても事象の地平線と小惑星しかないので、光の世界はもはや存在しないと言っていいでしょう。

しかし、多くの因果を集めた裏の世界は消えません。今のあなた達のいた世界を成した最大の特異点は、初めに裏の世界へ行った者ですから」


「私達は裏の世界のホストコンピューターまで行って、全てを書き換えるしかないのね」


滅びたも同然だから作り直すしか道がないということか・・・そんなところまで来てしまったなんて・・・


「・・・箱を壊されてはメモリーの上限が無くなり、いずれゲームは硬直するでしょう。そうならないように、ゲームという世界を完成させて頂きたいのが我々の切なる願いです」


「誰にも改ざんされない・・・生き方の定められた世界・・」


「現実がどうであれ、それが僕達の世界なら護らないとだな・・!」


「フロフォス・・・」


相方の想いがこんなにも嬉しく、頼もしい。


「・・・不具合の責任は私共にあります、今から送って差し上げましょう。

裏の世界へと続く「事象の地平線」まで。どうか改変の権を勝ち取ってきてください」


機械音が鳴り、製作者は再び表情を消した。

サーチアとフロフォスは転送の光に包まれ、消え去った。製作者達と自分達の願いを叶える為、事象の地平線へと送られた。


「・・良い結末を」





第18章 黒渦の特異点




光が淡く溶けていき視界がはっきりした天地・・・

目に映るのは星明りのない吸い込まれそうな暗い宙だった。

天を見上げたサーチアが一人呟く。


「・・・ここが・・事象の地平線・・?」


光の中で意識が飛びそうな凄まじい速さで転送され、全身が引き裂かれそうな激しい痛みに心身が弱まり記憶が少し曖昧だ。来る時にはっきりと感じとった。黒渦は無限の重力だ。

私達は黒渦の周囲を超高速で回転する、引力の波を貫き、「特異点」呼ばれる核へ辿り着けたようだ。


「フロフォス・・・無事?」


目を開けたまま呆然と倒れていた相方は、意識を取り戻し、立ち上がる。


「あぁ、大丈夫だ。それよりも・・来れたのか・・?」


どこまでも平坦に続く赤茶色の地面。まるで終わりが無いかと思わされるような、果てしなく続く地平線だ。

天を見上げると、光を一つも逃さない「暗闇」という無限の引力に勝てなかった星達を想像し、悲しい気持ちになった。


視線を下ろすと二人を待ち構えていた二人の星の民。どちらも見覚えのある姿だった。サーチアは駆け寄った。いつか世話になり名を与えられ、親しくなった星の民のもとへ。それは幼くして大役を担って生まれた夜空の新しい長、ワクセルスだった。


「よかった、ここに来てくれると信じて待っておりました」


少し見ないうちに随分大人びた姿と落ち着いた口調に変わっている。


「無事だったのね!コスモレナは!?他の天体達は・・!?」


ワクセルスは目を閉じて俯いた。


「残念ながら生き残ってるのは我々だけです。私とそこにいる・・・黒渦の化身」


サーチアはみるみる目に涙を浮かべ、眼前の新しい友、星の民を抱きしめた。


ここは外の時間と断絶された世界。一体いどれだけの時間が流れどれだけの犠牲をと変異を見届けてきたというのだ・・!


「私は失われた星達の想いと最後の力をあなたに託す為にここにいました。そして・・・そこにいる黒渦も同じです」


「・・・何だと!?」


フロフォスは視線を黒渦の化身へと向けた。

最後の星より少し離れてこちらに背を向けて立ち尽くす少年・・自分を生み出した親であり、影達の統率者・・・。

黒髪の少年は吸い込まれそうな天を見上げ、どこか虚ろな雰囲気を纏っている。


「・・・俺はお前が妬ましかったよ」


はっきり聞こえた。が、耳を疑った。


「偶然とはいえ役目を与えられ生かされているお前がずっと羨ましかった・・・」


「俺の主である、影の支配者は光の力・・燐晶を手に入れるべく、俺を生み出し、統率の任を与えた。そして俺はお前達影の兵を世界へ放った。

偶然にもお前は燐晶体と接触し、主のもとへ届ける新たな任を与えられた。


これがどういう意味か解るか?お前が光の者と出会った時点で俺の役目は終わっているんだ。

今、俺が生かされているのは、お前たちを主のもとへ送り届ける為だけで、それが済めば本当に用済みになる」


「シングラー・・・お前・・・!」


「俺に残された唯一の自由は,俺の力をお前に託すか,主に託すか、それだけだ」


黒髪の少年は振り向いた。眉間にしわを寄せ、憎しみと嫉妬にまみれた眼差しでフロフォスを睨む。

改めてみると、本当にフロフォスとよく似ている。強いて言えば統率者の方が少し長い髪と黒い衣服を纏っているだけ。


影の兵と統率者、以前は完全に上下関係にあった力が、今はフロフォスのコアが碧玉の輝きを纏い、相手と対等か若しくは全く異質の力を宿している。


「お前・・過去で一体何を見た?本来俺達影の民は存在しない。世界を正すということがどういうことか解ってるのか?俺達が存在しえなくなるんだぞ」


言葉には出さなかったが、当の本人は過去へ飛んだ時から覚悟はできていた。

サーチアもまた気づいていた。気づかないふりをしていた。

初めは存在に不満を抱いていた相方は、今となっては狂おしい程に愛しい存在となっている。相方のいない世界を望む自分の心の中で、大きな葛藤に苛まれていたことをずっと隠し通していた。が、

もはや隠しきれない、想いが熱くなって目元から涙となって滴っていった。


フロフォスは冷静に


「サーチア、泣かないでくれ。約束しただろ、どんな現実からも目を逸らさないと」


「はっはっは・・感動の名シーンという訳か。大したもんだ。大役を任せれ、自身の存亡が賭かった現実に向き合うとはな!」


冷静に向き合うフロフォスと同じように相手を見据えるシングラー。まるで同じ人物が時間を越えて出会ってしまったような不思議な光景だ。


怒りと共に熱気を纏う統率者は手をかざし、フロフォスを自分の手元へ引き寄せ、首を掴み上げる


「ぐっ・・・・」


フロフォスは焼けつく痛みを堪え、相手の憎しみ、そして嫉妬心をあえて受けとめた。


「シングラー・・・僕を傷つけて満足なら続けてくれ」


統率者はやるせない気持ちと、己の情けない言動に激昂し、掌に力を込め熱気を放ち、そして地面に突き飛ばす。


「やめて!!」


地面に横たわる火傷したフロフォスと心配して駆け寄るサーチア。フロフォスはすぐさま立ち上がり、シングラーに向き合った。眼前にいる者が抱く、葛藤と怒りと憎しみを全て受け止めようとした。

何度も何度もフロフォスの胸ぐらを掴み上げて殴り飛ばした。その度に瞳にじわりと涙が浮かび上がる。

フロフォスは自身と瓜二つでありながら生き残る未来の無い相手に、切ないような虚しいような例えようのない感情を抱いている。


「シングラー・・!僕は何度でも立ち上がる!お前より強くないといけないからだ!」


フロフォスは立ち上がり、目つきを変え、シングラーの元へ駆けだし拳の一撃を食らわせた。相手は地に叩きつけられながらも表情ひとつ変えない。

今まで報復のように、何度も立ち上がるシングラーを息切れがするほど殴り飛ばすと同時に不思議と涙が浮かび、静かに滴った。

シングラーは地表に大の字に倒れ、意外にも冷静な口調で


「そうだ、それで良い。それぐらいの気概でないと主に歯向かえない。お前達二人でなくては世界は変われないんだ。そこのお前、」


シングラーはよろめきながら起き上がり、サーチアに視線を送る。


「よく堪えていられたな。悔しいが、本当に良い相手と出会ったもんだ」


「シングラー・・・」


再びフロフォスに視線を送り、


「何をしてる、俺に勝たなくてはお前は力を手に入れられない。本気で世界を救う気でいるなら、俺を殺してでも力を奪って見せろ」


フロフォスは涙を振り切った。


「うっ・・・うがぁっ・・・!」


シングラーの足へ触手のよう伸ばした影を実体化させ縛り上げた。身動きがとれなくなったシングラー。

そして捕らえた相手目掛けて勢いよく飛び掛かり、思い切り殴り飛ばす。


シングラーは地にバウンドし仰向けに倒れた。立ち上がったシングラーは


「俺を壊れるまで殴れ。それが出来ない根性無しなら消え去る現実と向き合えない。力尽くで俺のコアを砕いて見せろ!」


フロフォスは何度も立ち上がるシングラーに果敢に挑み、両者共あえて術を使わずに殴る蹴るの応酬を繰り返している。


「はぁ・・はぁ・・・やるじゃねぇか」


シングラーは遂に立ち上がれなくなり、天を見上げた。

星明りが一つも無い果てしなく広がる闇を見て、何もない世界を感じるかのように物思いに耽っている。


「なぁ、闇の化身。俺達の居ない世界に意味なんてあるのか・・?世界を完成すれば俺達は存在できなくなるぞ」


「・・・世界を正したことが僕達がいた証となる!記憶が無くても、無に帰す訳じゃない・・!」


「ははっ物は言いようだな。お前は俺の一部、お前の願いは俺の願いだ」


そしてシングラーは両手を挙げて降参し、元部下だった闇の化身が光と出会い、自分以上の、自分とは異質の力に目覚めたことを認めた。


「・・・こんなものくれてやる。今のお前にとっては大したものじゃないだろうが、この選択が俺の意志で、俺の存在を証明していることを忘れないでほしい」


そう言い残してシングラーの体は揺らめき、朱色の炎となって燃え上がった。

僅かの間に燃え尽き、溶けて地に焼き付いた影はフロフォスの足元目掛けて迸った。フロフォスは唐突の衝撃に驚き、膝をつき、熱気に包まれ、やがて陽炎はコアの中に収縮していった。シングラーの想いと力が、胸の中から溢れ出て、涙となって頬を濡らした。


「シングラー・・・お前・・・」


泣いてんじゃねぇよ!そんなじゃお前、相方を護れねぇだろうが!


解ってる!つべこべ言わずに大人しくそこにいろ!


へっ!元部下の癖に生意気だな!だったらやりとげて見せろ!途中で泣き言を言い出したら承知しないからな!


一部始終を見ていたサーチアは、悄然と立ち尽くし、フロフォスのコアを見てシングラーの想いに言葉を失った。

そして自身の傍にいる最後の星に視線を向けた。今度は自分の番だと互いに了承している。最後の星も、また全てを覚悟した上でこの地にいた。これが役目だと。


「私もまた、言わせて頂きたいことがあります」


「いいわ。言ってちょうだい」


「全てはあなたの勇気ある行動から始まり、そして現在に至っています。私は世界の全てに変わってお礼を申し上げます。本当に有り難うございました。あなたのコアとなって最後まで見届けさせていただきます。未来を・・お願いします」


ワクセルスは例えようのない色の輝きを放ち、そしてゆっくりとサーチアのコアへ向かい光を放った。これが世界の全ての想い。そして僅かに残された未来に抱く希望の力。

コアの中に現れた目覚めた「星光の万華鏡」


サーチアとフロフォス。相対する二人のコアが共鳴し瞬いた。

そしてその瞬間目の前の地表から光の英数字が浮かび上がり、回転しながら地を溶かし、大きな光の隧道が出現した。

2人は全てに決着をつけるべく光の隧道に溶け込み吸い込まれていった。




第19章  世界の中枢




隧道の中は無数の英数字が周囲を渦巻き、発光と点滅を繰り返している。

落下しているかと思っていたら急上昇、横移動、縦移動、旋回に急降下。

光の英数字に取り囲まれ、高速で送り出される2人は、

唐突に周囲から何度も叩き付けられるような、蹴られるような衝撃と、高速で転送される勢いに、繋いでいた手を、繋ぎとめられた呪術を大きな力で引き裂かれてしまった。

サーチアは目が覚めた時横たわり、起き上がろうにも、自身を絡める赤黒くくすんだ根に、力を孕む始祖の根に、体の自由を奪われ、身動きがとれない。


意識を戻しすぐさま気が付いた。今日まで行動を共にした相方が、ここまでの苦難の道を共に乗り越えた半身の気配が無い・・!

周囲を見渡し、少しばかり動揺した。ここは暗転世界で間違いないだろうか・・・以前来た時と随分景色が変わっていないだろうか・・・。

薄暗い世界を記憶していたが、自分を取り囲む全てが赤黒く、そして世界が脈打ってるようだ。

それは天井に吊るされた巨大な結晶が、世界のコアのが脈打つ音だとすぐに分かった。

サーチアは切り離された相方、フロフォスを探すべく、

コアの中の星光の万華鏡を起動し、自身を中心に光の円盤を出現させ、黒く染まった始祖の根を溶かした。


「フロフォス・・フロフォスはどこ・・!?」


サーチアは一気に、不安がこみ上げ、体を震わせた。一人になるのがこんなにも恐ろしい。しかしすぐに立ち上がり涙を拭って、目を閉じてコアに意識を集中し、相方のコアが放つ碧玉の輝きを探り始めた。


「待ってて!今行くからね!フロフォス・・!」


ここは・・どこだ・・・

僕達が世界を・・・サーチア・・・サーチア・・!!


赤黒い不気味な世界・・・天井と地を這う無数の始祖の木の根。

体に絡まって身動きが取れない。ここへ来る途中、強大な力で誰かに引き寄せられた。主・・影の支配者でしかない。

呼び出されたのだ。そして僕を餌にもう一人の自分・・・相方を呼び寄せる気だ。周囲を見渡した。自分が根の絡まる柱上に延びる太い塊に、捕らえられてること、天井の膨れ上がった巨大なコアが地上へゆっくり降下していること、脈動が激しくなる世界と眼前に佇むホストコンピューター。その奥で笑みを浮かべる生みの親であり、最後の敵である呪術師が見えた。


フロフォスは目を朱くし、シングラーの力、「群青大火炎」を巻き起こし、自分を捕らえる根を溶かして疾走した。相方の発する光の下へ。

呪術師は逃げ出したフロフォスを見やり、高笑い、


「ふはは、この状況下でまだ逆らうか!」


サーチア、今行くぞ!待っててくれ!天井のコアがマザーボードに届く前に決着をつけるぞ・・!


サーチアは朦朧とした記憶を辿りながら無意識に道を歩き、そして遠い記憶を思い返していた。

以前何かの書物で読まなかっただろうか。

現在のクローンシティには御神木とも言われる始祖の木が無い。その代わり各地に現れる御神木の根が地下で広がり、

その力の全てがクローンシティに集い、災厄に荒れ果てた土地を急速に再生し、潤った土地を基盤に街が造られたと。

「科学の街」であるクローンシティが、科学の街であり続けるには、膨大なエネルギーが必要だ。その全てが豊潤な土地から頂いた力を変換して、今の巨大な都市が成り立っていると。そう・・全ての始まりはクローンシティからだったのだ。


それが各地から集まった優秀な学者達で見出した答えだ。世界の中枢の上に我々の生活は成り立っているのだ。


赤黒く染まった裏の世界のどこか遠くに光を感じ、感じるままに足を進めるとそこは地上にある学校の資料室を模した建物だった。

サーチアを招く光はすぐ傍まで歩み寄った彼女のコアに共鳴した。そしてコアが発光し、ある物が現れた。


これは・・・ステイラ博士がくれたデータディスク。世界の全ての種族とエリア、その構築を解析、圧縮したデータだった。


欠けていた裏の世界への入り口と、幾重にも張られた結界のデータが、未完成の記録を呼び寄せたのだ。その力を以前にも何処かで感じたことがあるような気がし、記憶を辿ってた。そして無意識に言葉が出てきた。


「・・・ありがとう・・・シャドルガ」


こんなことが出来るのは元神官であり、サーチア達の役目を知るあの人しかいない。サーチアは瞼を落とした。本当に大勢いの人達に支えらえて、今ここにいるんだと改めて実感し、静かに涙が頬を伝う。


「博士・・みんな・・・私達・・ここまで来たよ・・・あと少し・・・あと少しで終わるから・・・待っててね」


その瞬間、サーチアの背後で群青色の業火が巻き上がる。周囲を取り囲む障害物を焼き払い、炎の中から探し求めていた者が現れた。


「そうだ、僕たちはその為にここへ来た。持って行こう、全てを担う中枢へ」


サーチアは即座に駆け寄り、フロフォスの胸に飛び込んだ。長い旅を共にした相方に再開できた幸せを感じた。

フロフォスはサーチアをなだめ、肩を掴んで向き合い、二人は何も言わずに歩き出した。

もう言葉にする必要などない。行く場所も成すべきことも全て解りきっている。二人はクローンの模造である裏の世界を駆け抜けた。

世界は揺れ、天井に吊るされた巨大なコアは絶え間なく嘶き、その度に地上に雷が迸り天地を振るわせる。


以前来た時に沢山住み着いていた、影の民が見当たらない。兵を束ねていた筈のネクローザも姿を現さない。今だから解る。皆、全てがこの世界の本質であるシステムに還元されたのだ。自分達もいずれそうなる。そんなことは最早どうでもいい段階まで来てしまっている・・!

世界の全ての記録はあのコアの中に取り込まれ、そしてホストコンピューターと融合しイニシャライズ、世界の初期化を始めようとしている。


二人は全ての始まりである世界の特異点、影の支配者、呪術師アノルダヌフが待ち構えている街の中央の大広場へと向かった。





第20章 世界の覇者アノルダヌフ




街の広場はホストコンピューターを中心に朱く光る触手を血膿色の地表に伸ばしている。

広場へ辿り着いた二人と、それを見据える世界の覇者、アノルダヌフ。

天地が揺れる中で平然と立ち尽くし不気味な笑みを浮かべている。

階の上から満足そうに見下ろす長身の黒衣を纏った男は


「よくぞ改変のキーを手に入れ、我が元へ戻ってきた。闇の化身よ、褒めて遣わそう」


フロフォスは憎しみを込めた眼差しを向け、


「あんたの為の僕じゃない・・!」


サーチアは恐ろしく強大な威圧感に、震える体を励まして問いかけた。


「元神官・・・呪術師アノルダヌフ・・・あなたは世界をどうする気なの!?」


「ふはは、その様子だと過去へ行き真実を知ったということだな。ならば我の野望も解るはず」


「・・・!!」


「この変わらない箱庭の世界を閉ざす箱を切り拓く。そして我々の事象を真実とする正しい世界へと開闢する」


「やっぱりそうだったのね!真相を知ってるなら、そんな世界はいずれ崩壊し、戻れなくなることだって解ってるはずだわ!」


「その通りだ。だがしかし、変わらない世界に意味などない。

私が最初に疑問を抱いたのは神官の教えからだった。戒律を破り、神官が堕天した果てがエネミー族という、世界にとって絶対的な敵となるのなら、

我々は初めから倒されるために世界に存在していたのだ。そして戒律もまた破るために存在し、それが世界に刻まれたシナリオそのものなのだ」


「・・・・・!!」


「お主・・・光の者は機械族だった時のことを覚えているか?定められた生き方に疑問を抱いたことないか?」


サーチアは思い返す。

自分は学者を目指して日々勉強していた。世界の全てを解き明かしたくて。しかし他の者たちはどうだったろうか・・?正直言うと幼かった時の記憶は無い。

ただ学生として勉学に勤しむ日々と、室内にある記録だけが残っており、燐晶を得る以前の記憶はあまり残っていなかった。

そうだ、燐晶を得る前から私の生き方は定められていたのだ。


「少し昔話をしようか。私が世界を脅かそうとした、その始まりの話だ」


影の支配者は天井を見上げ、心なしか憂いを込めた様子で語り始めた。


「全ての始まりは真相を知ろうと、堕天した神官、即ち私だ。

戒律に背き自らの力で過去へ赴き、世界に見放され、地上の敵となる寸前、神官として残された力、呪術を用いて暗転世界へ逃げ込んだ。

そして世界の全てがここにある箱だと知った時、失望した。私の意識も記憶も感情も、私を含めた全ての正体がこの箱なのだ。

私は失笑し、落胆した。だが、やがて見出した光と、抱いた野望に、全てを賭けて今日まで動いてきた。

こんな箱に全てを管理されるなら箱を壊せば外へ出られる。箱を無くせば時間を作れる。

初めは、この世界を完全に書き換えるには、ある物が必要だと知り、箱の中身、構築システムを調べ上げた。

ようやく見つけた答えが、自分一人の力では到底叶わぬと理解し、光の者を見つけ出す任を担う影の兵を放つべく夜空に黒渦を出現させた。

そう、一番最初に起こした改ざんが影の民の出現だ。我が目的を果たすためのコマと兵力が必要だった。思惑通り影の兵は燐晶体と接触し、陰陽一対が過去へ行き、「改変のキー」を持ってきた。全ては計算通りだ!


私の野望は意味の無い連鎖を繰り返す、偽りの世界を、我々の全てを真実とすべく「輪廻の理」という外壁を開くことなのだ!

そして改変の権を授かった者が今、目の前にいる!

全ては思惑通りに進んだのだ!闇の化身、そして光の者よ!お前達も気づいていた筈だ!同じ時を繰り返す無意味な現実を!」


「意味は私達が見出す!あなたが決めることじゃないわ!」


「僕達が旅した時間は本物の時間だ!」


「ははは、己の正体に気づいてもまだ抗う意志があるとはな」


「あぁ、刺し違えてでもあんたを止める気でここまで来た!改変の権は渡さない!・・・世界は救うのは僕達だ・・!」


「下部が主に逆らおうとは愚かな事よ、黒渦までもが裏切るとは予想外だ」


天井にひび割れる遠雷の音と共鳴するように高笑いが裏の世界へ響いた。


「闇の化身よ、よくぞ改変のキーを届けた、もうお前に用は無い」


フロフォスを指差し赤褐色の雷で足元から体を縛り上げ、


身動きが取れず、階を転げ落ち、横たわり苦しみもがくフロフォスを、サーチアが涙を浮かべ、駆け寄り抱きかかえた。


「フロフォス!しっかり!」


影の支配者は二人を見下し嘲笑う。


「世界を救おうなどと愚かな事よ、この世界は救う価値すら無い無意味な箱だ。お前達も過去で知っただろう、我々は箱庭の中の人形なのだ。

役者は舞台を選べない。我々は舞台上の人形のままだ、ならばどうすれば箱から出られると思うか?」


・・・?!


「私が指揮者になれば良いのだ。舞台も役者も全て用意し私が幕を開ける。

私が目指すのは、創造主の作りし条理に縛られない真の自由の世界だ。

何事にも囚われない、新しく作っていく世界へ・・・!」


体の自由を奪われ、苦痛に耐えながらも尚抵抗し、主に訴えるフロフォス。


「やめろ!そんなことしたら世界ごと消えて無くなるぞ!」


「この世界の事象には限界があるの!条理を外してしまっては本当に世界は滅びてしまうわ!」


「同じことを繰り返すことに何の意味がある!たとえ滅びの道へ向かおうとも変わっていくことを受け入れるべきだ!」


サーチアは言葉を無くした。

自分達の世界を尊いと感じてくれているフロフォスと、不変を無意味とするアノルダヌフ。アノルダヌフの言うことはもっともだ。そんなことはとうに解っている。

自分達のしてきたことを無駄にしたくないエゴだとも、皆の気持ちに応えようと、正当化していたのもずっと前から解っていた。

どちらを選ぶこともできずに、胸の中の葛藤に堪えきれずに涙を零した。

言っていることは正論だ。発展することも進展することも許されない、閉ざされた箱に囚われるのはあまりにも辛い現実だ。


「我々を創りし創造主は、既にこの世界から離脱している。ならばこの世界はもはや我らの世界。私の理想は私自身が創造主となり、条理を施し、世を収めることだ。闇の化身よ、そして光の民よ!偽りの歴史を語り継ぐこの世界を無意味だとは思わぬか?」


もはや力では敵わないフロフォスは、懸命に主に訴えかけた。


「あんたは世界を何度も書き変えることに飽き足らず、神にでもなろうと言うのか・・!」


「それこそが我の願いであり、ただ一つの野望なのだ!

お前は十二分に役に立った。さぁ、闇の化身よ!光の者を消されたく無くば大人しく改変のキーを光の者に渡すが良い!そして光の者は我が元へ来るのだ!」


赤雷に拘束されたフロフォスの碧玉のコアは、音を立てずに裂け、破片が宙に舞った。そして中から渦巻く闇が漂い出た。

それはサーチアのコアへ入っていく。彼女のコアは今や光と闇が渦巻く改変の力を宿した特異点となった。


アノルダヌフは高笑い、サーチアに手をかざし手招いた。


圧倒的な抑圧力に、全霊を込めて抗おうとも体が言うことを聞かず、救いを求める必死の叫びも喉を通らず、静かに階を登り始めた。


少しずつ足を進めるサーチアはアノルダヌフに向き合った時、一瞬油断し、呪縛が緩んだ瞬時に星光の万華鏡を作動させ、コアに触れ、神官から託された五行奉神札を掌に取り出し、自身を中心に周囲に放つ。5つの札はサーチアを中心に五芒星の形で取り囲み、上空から光の御柱を召還した。

現れた光柱は五芒星の光の線を結び呪術師を結界内に閉じ込め、強烈な光を照り付ける。

サーチアの眼前に出現した転写封印御鏡が、アノルダヌフを映し、ひび割れる。それは投影するように、呪術師の片目と体に傷を負わせた。

アノルダヌフは出血した半面を抑え、全身に迸る傷によろめく。声が一層荒々しくなり、


「元神官の私にそんな小細工が通用すると思ったか!」


音を立てて散らばる支配者を写した鏡の破片、そして息を荒くした呪術師は、


「ふはは、無駄な足掻きだったな、光の神具といえども、光の世界でしか真の力は発揮されない!」


呪術師は眼前にある長きにわたり望み続けた野望に掌をかざした。

サーチアは両腕を広げ胸を突き出すように上体を逸らし、コアを差し出す。

引き裂かれそうな意識の中で、死に物狂いで抗う彼女の胸の結晶は、音を立てずに表面からひび割れ、中に灯る眩い光と闇を、コアの中から浮遊する、二つの改変の鍵が現れた。

アノルダヌフは光り輝くキーを両手に浮かべ、破顔し、裏の世界に高笑いが響きわたった。


「素晴らしい!まさに全ては計画通り!我の手に陰陽一対の「マスターキー」が届いた!フハハハハハ!」


両手を合わせ、1つになったマスターキーを浮かべ、もう片方の手で引き寄せたサーチアを突き飛ばした。階に突き落とされたサーチアを、フロフォスは自身を縛る赤雷を力尽くで破り、受け止めた。

フロフォスにもたれかかり、赤い瞳にじんわりと涙を浮かべるサーチア。

ひび割れた相方のコアを見て、胸に額を当てて震えている。

そしてフロフォスも同じようにコアを裂かれ、力を失った相方を、眼を閉じて強く抱きしめた。

及ばなかった。二人で力を合わせても、世界の特異点であるアノルダヌフには敵わなかった。必ず勝つ気でここまで来た筈が、現実はあまりにも残酷だ。私達がしてきたことは全てはかない足掻きに過ぎなかったのだ。


「お前達はそこで見ているが良い!新たなる世界の幕開けだ!」


踵を返しアノルダヌフは階の上の広場の中央に置かれた、この世界の全てを管理するホストコンピューター向き合った。

掌に浮く二つのマスターキーは回転し、発光しながら膨れ上がり何重にも重なった球状に、回転する光と闇の英数字へと形を変えた。

掌をマザーボードにかざし、マスターキーの本質、無数の英数字で構成される改変のコードを入力する。

ホストコンピューターを中心に、地は大きく震え、裏の世界の脈動がより一層激しくなる。そして、世界の終わりは始まろうとしていた。


天井を見上げ、揺れる大地に立ち上がり、互いを庇い合うように体を支え、全てを見届ける決意をする二人。

世界は激しく揺れ、天から吊るされた全てを取り込み、膨らんだ巨大な結晶は、マザーボードの間際まで接近していた。このままホストコンピューターが世界のコアを取り込んだ瞬間から、改変は始まるのだろう。


変わらない世界に意味を見出せないアノルダヌフは、

箱から出る為に、ここまで周到な準備をしてきたのだろう、なんという執念だ…。


世界の仕組みを知った時、正直私も絶望した。私達は意味の無い永遠の中で生かされてると知って、心底悲しくなり、虚しくもなった。


それでも…


私とフロフォスの駆け抜けた時間は…


二つと無い掛け替えの無い時間だった…


「何だとっ!?」


マザーボードが七色に発光点滅、しフロフォスとアノルダヌフ目がけて閃光が迸る。光に撃たれた2人は傷口から溢れ出る光の英数字に拘束され、体表に浮かぶ光の鎖が体に巻き付き、命の証、コアを蝕もうとしていた。


「な・・なんだこれは・・!」


「キーに細工をしたわ!キーを使った時自動で作動するように、セキュリティシステムを仕込んでおいた!それが今作動したわ!

クローンの学者達が作ってくれた世界の全ての構築データ、そして本来存在しえない者達を除外するシステム・・!新しい世界にあなた達はいないわ・・!」


クローンシティの研究者達が命懸けで作ってくれた、不具合から生まれたこの世界を蝕む影の民を消し去る力・・・!


「何だと!?キーは闇の化身が見張りについている、そんなことは絶対にありえん!」


フロフォスは支配者を見据えた。


「僕も初めは嫌だったさ、自分のいない世界に創り変えるなんて冗談じゃないと思ってたよ。でもそれ以上に・・サーチアが泣いて悲しむ世界は嫌なんだ!僕はサーチアが笑って暮らせる世界を選んだ!」


「僕が主に歯向かい、消滅を選ぶだと!?馬鹿な!そんなことをすれば我々は・・!」


「あぁ、残念だが僕達は世界から抹消される。そして裏の世界へは二度と行き来できなくなる」


「巻き戻るだけよ、始まりの夜明けまで。もう邪魔なんてさせないわ!私達は箱庭の中の自分達の世界で生き続けるわ!」


大きく揺れる世界の中で、サーチアは光に拘束され、苦しむフロフォスを抱き起こした。フロフォスは苦しそうな顔で相方を見上げ、薄っすらと微笑んでいる。


「サーチア・・今まで有難う・・・君に出会えて嬉しかった。あの時コアを奪えなくて本当に良かった。この僕が、自分を犠牲にしてまで世界を護ろうなんてね。君と冒険出来た時間は本当に幸せな時間だった・・・」


「幸せな時間・・・代わりの無い、掛け替えのない時間・・・そう・・この世界は・・」


確かにこの世界に発展も進歩もない。私のしてきた勉強も学者たちの研究も全ては無意味だと解った・・。

それでもここまで冒険してきた私とフロフォス、そして大勢の犠牲を払って辿り着いた時間に代わりなんて無かった・・・!

時が定められても、二つと無い瞬間を作ることができることを解っていた・・!


この世界には時間が無いのではなく、記録の容量に限界がある為、制限を設けられたのだ。


「フロフォス・・・これで良かったのね・・・あなたはもう・・!」


「あぁ、これでいいんだ!マザーボードにキーは途中まで入力された!あと少しで世界は完成する!サーチア頼む!あるべき姿に変えてくれ!」


影の支配者は苦痛の唸りをあげる。


「ぐあぁぁぁ・・・!やめろおぉぉおぉぉおああぁぁぁあ!!」


サーチアは歯を食いしばった。零れる涙を振り切って相方を置き去り、階を駆け上り、ホストコンピューターへと向かう。

クローンの研究者達が死力を尽くして調べ尽くした、「世界の創り」、その記録をシステムに全て入力し、ホストコンピューターをアップデートした。


この世界の全ての種族、全ての地域、今日まで紡いできた事象と全ての研究記録。不具合から生まれた私達の時間が終わろうとしていた。


天から始祖の根に絡まれて吊り下がる、失われた全てを取り込んだ世界のコアは、マザーボードの元へ落ち、触れた瞬間、融解し、取り込まれた。


まさにその瞬間ホストコンピューターに世界を構築するシステムと不具合の記録の全てが揃った・・!

世界は製作者の望む形へと完成すべく、巻き戻ろうと動き始めた。


マザーボードが点滅しながら絶え間なく七色の光を放ち、裏の世界が激しく震え、騒然たる音を立てて崩れていった。崩壊した天地の亀裂から眩い光が差し込む。


サーチアは激しい揺れに、階から転げ落ち、地に伏した。そして共に終わりを見届けるべく,死に物狂いでフロフォスのもとへ這い、寄り添った。

全てをやり遂げた二人は別れを惜しみ、手を重ねる。

サーチアの瞳からこみ上げ、あふれ出る涙は光となって漂い、消えていく。弱弱しく消えそうな声で、


「フロフォス・・・あなたはもう・・」


「・・・あぁ、もう会えない。それが僕達の選んだ答えだ」


フロフォスを包む光の英数字が強く輝き、体が焼けるような痛みで実態を透かしていく。呪術師は光の中でもがき、消えていった。

そして、もう一人は失いかけた実態に力を振り絞り、弱弱しく手を差し伸べサーチアの手を握る。


「・・サーチア・・・今まで有難う、新しい世界を・・・大切にしてくれ」


共に戦い、連れ添った半身を失うのは、五体が裂けそうな程に辛く痛ましいことだ。

記憶ごと無に帰すのがどれほど残酷なことか。せめて心のどこかに刻み付けておきたい。改変された新しい世界でも思い出せるように。


揺れと共に亀裂は増していく。天から溢れ出る改変の光が強大に輝き、瞬く間に広がり、視界が薄れていく。

サーチアは相方を見下ろして、最後の雫が落ちていった。

しかと重なっていた筈の掌の感覚が無くなり、完全に失われてしまった。


改変の光が全てを飲み込んだ。世界を構築する英数字は逆走し始まりの夜明けまで巻き戻っていく。

不具合から起きてしまった数々の不祥事を改新し、あるべき姿となって再び歩き出そうとしていた。




最終章  改変される光の中で




目が覚めた時、辺りは薄っすらと白く、ぼやけた世界にいた。

ここはどこ?霧の様にぼんやりして何も見えない。なんだか記憶も霞んだように曖昧だ。


見渡すと、遠くにしゃがみこんで泣いている女の子がいた


周囲には薄暗い影達が少女を取り囲み笑っている。


思わず駆け寄ると、霧が薄れて見えてきた。泣いていたのは他でもない私だった。


あれは・・・私。影の兵達に襲われ、成すすべもなく蹲っていた最初の私・・・。


突然胸を突くような悲しみに襲われた。


そうだ、最初は私が身勝手な行動を起こしたのだ。


それから幾つもの奇跡と、偶然が重なって今の私が出来たんだった。


ほんの少しのミスで新しい世界は成り立たなくなった。


嫌だ、こんな大切な記憶忘れたくない・・狂い出す世界に抗った記憶を忘れたくない・・・涙で視界が滲んできた時、すっと現れたのは、私の傍にいてくれた影の少年。


影達はそれを見て逃げ出していき、少年は、蹲る少女に手を差し伸べて笑っている。


そうだ・・私は影の少年に助けられたんだった・・・

私一人では何もできなくて、勝手な行動ばかり起こしては周りを振り回して、それでもいつも傍で支えてくれていたんだ・・。


あの少年の名前は・・・確か・・・


「僕達のいたこの時間も消えてしまう。・・これはこれで結構寂しいもんだな」


振り返ると少し前まで遠くに見えていた筈の影の少年が、目の前で優しい目で微笑んでいた。


サーチアはすくっと立ち上がり、求めるように両手を掴み、引き寄せた。


そうだった。私達は世界を変えようとしたんだ。そして今まさに変わってるんだ。

改変される光の中で、お互いに別れの時が来たことに気づいてしまった。


フロフォスは薄っすらと笑んで


「君に会えて嬉しかったよ、僕が自分の存在よりも世界を尊いと思えるなんて夢にも思わなかった」


サーチアの目に熱いものがこみ上げてきた


「フロフォス・・・私、あなたがいないと何もできない。もう会えないの・・・?」


涙声で問いかける少女に少年は頬を優しく撫でて


「僕らは敵同士だったんだぞ。また会ってどうするんだよ、まったく君の頭はいつもお花畑だ」


「それはそうだけど・・・でも・・・」


「新しい世界に僕はいない。君と過ごした時間も記憶も消えて無くなるだろう。それでも一つ言っておく」


「何・・?」


「門番を殴って勝手にセキュリティの外に出たら駄目だからな!」


サーチアは苦笑し、目じりから雫がこみ上げた。


「そうね・・全部そこから始まったものね・・・」


少年は体が透けて薄まり、辛うじて残っている手でサーチアの髪をくしゃっと撫で、


「ごめんな、僕はもう行かないといけない・・」


「待って!嫌よ!フロフォスがいなくなるなんて嫌!行かないで!フロフォス!!」


「僕は消えるんじゃない、不具合とはいえ僕も君もこの世界の一部だ。僕は・・世界に還るだけだ」


寂しそうな顔を見せ、両手を離そうとしないサーチアの手を振りほどき、優しく頭を撫でる。サーチアは涙声で、


「・・また・・・会えるかもしれないわよね!私達が世界の一部なら、いつかまた会えるわよね・・・!?」


少年は了承し、満足そうな笑みで


「新しい世界で君を待ってる。今度こそ、本物の世界を歩いてくれ」


サーチアは号泣した。もう言葉にならず、前も見えない。


フロフォスは相手の両肩を強く掴んだ。切ない笑みから今まで見せたことの無い、屈託のない笑顔となって、手の感触ごと消えてしまい、視界に溶けていった。

自分の体も透けていき、意識も薄れてきて次は自分の番だと感じている。


薄っすらと途切れ、消えそうな意識の中で抗うように何度も頭の中でその名を呼んだ



ー フロフォス  もう一度   あの場所で待ってる  必ず来てね  フロフォス ー




世界は改変の光に包まれ、再び創始者の意に沿ってー天地の開闢が始まった。世界を揺るがす天変地異は数多の種族とエリアを生み、創始者の定めた条理に基づいて、民は己の役割を果たし自らの暮らしを築いていった。

この世界を維持する為に敷かれた条理は、世界を留める為だけではなく、民を失わない為の理だと知るものは少なく、民は皆、日々を駆け抜けることが全てとなった。

不祥事を牽制する裏の世界への入り口は封印され、古の民は再び伝説となって語り継がれる。

全ては世界を終わらせない為の、輪廻の理の中で万民は代え難い瞬間を見つけ出す。その為に今日も昇る朝日と共に務めに励むだろう。



エピローグー




ここは平和な世界イノセンツワールド。

科学の発展した街クローンシティ。


研究員を目指す学生のサーチアは日夜勉強に励み、夜空の小論文を書いているところだった。

今日は休日なので街の外へ出掛けようと身支度を整えて行った。きちんと警備員の許可を頂き、門をでるとそこは緑一面の草原の海だった。


海原を走る風に緑の臭いと雲一つない晴天。日が照って心地良い時間帯だ。緑の上を跳ねるように進み、くるりと回って緑の上に転がる。

草の臭いが舞い上がり、頬をくすぐる感触がなんとも心地良くこのまま眠りに就いてしまいそうだ。


遠い昔にここで誰かと会ったような気がしている。とても大切な人と出会って別れたような、そんな気がしてならない。寝転んで風の臭いと陽の光を浴び、物思いに耽っていると、サーチアの足元で草を踏み、歩み寄ってくる音がした。

上体を起こして振り返ると海色の髪を風になびかせて空の色の瞳でこちらを見下ろす少年。

いつか、どこかで会ったような少年に一瞬頭の中を何かが駆け巡り 自然と涙が零れ落ちた。



「やぁ、また会えたね。君は相変わらずだな」



言葉を置き去りに駆け寄る少女を両手で抱き留めた少年は優しく少女の背中を撫でる。


「遅くなってごめんよ、ちょっと用事を済ませてたんだ」



変異に大きく関わったフロフォスは闇族として生を受け、二度とあのようなことが起きないように改変の任を授かった。そして月詠の祠へ向かい、裏の世界への入り口を完全に封印する。それは製作者の願いから与えられた、世界を完成させる役目であった。全ては光と影の偶然の出会いから始まった1つの奇跡である。




・・・・・end





後書き 


最後まで読んでくださって有難うございました!

私は言語力も語彙力も低いのでとても難しかったです。

この物語にはストーリーに殆ど関わらない要素が多々ありますが、

それらは全てキャラを考え作って下さった知人への想いです。


解りづらいと思うので要約してしまうと、この物語はゲームの住人が不具合を直しゲームという世界を完成させる話です。

サーチアは最初に得た光で光族になります。次の天からの光は御神木に残された、神具の封印を解き、膨大な力で草原を蘇らせます。次に廃墟で得る光もまた神具です。最初は自覚が無く、少しづつ力に目覚めていきます。

物語の中で説明しきれなく、大変申し訳ございませんでした。

サーチア達はゲーム内の住人なので、現実の私達の価値観とは真逆です。

その辺は共感しづらいと思いますし、ラスボスの言い分は最もだと私は考えます。

ぶっちゃけると、2人が仲良くしてる話が書きたかっただけの、自己満足な物語でした。


キャラを貸して下さった知人と、添削してくれた母と姉、そして最後まで読んでくださった読者様に深くお礼を申し上げます。


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