第2話 アウザーとの出会い
「何なんだよこの手紙は」
俺は家の近くにある公園のベンチに座って頭を抱えた。空は朱色に染まり、ジャンバー越しにも寒さが伝わる。
この手紙は間違いなく俺が今朝クシャクシャにして捨てた手紙だ、それなのになぜ捨てたはずの手紙が机の上に置いてある、破れ箇所は治っていて、シワもついていなかった。俺はお父さんや妹がイタズラで置いたに違いないと二人にメールをした、だが。
『ご飯の時にも言ったけど、そんな手紙は知らないよ?』
『手紙?知らんな〜。何だ?見られちゃまずい内容なのか?』
二人は手紙の事を知らなかった。嘘をついているようにも思えなかったしそもそも嘘をつくような人達じゃない。誰がいつどのようにして置いたんだ……。
家のドアにはもちろん施錠がしてあって窓にも全て施錠がしてある。外からの侵入は不可能だ。
「う〜ん.......」
俺は考える人のポージングで考えを巡らせた。
「……あの~紅松先輩じゃないんですか?」
「……!?」
いろいろ考えすぎて全然気づかなかったが、目の前に俺の事を鋭い目付きで睨んでいる女性が立っていた。
「あの、紅松先輩ですよね。私の事見えてないんですか?」
「あ!ごめん!いろいろ考え事してたから全然気づかなかったよ」
「あなたは紅松先輩で間違いないですか?」
「うん、俺は紅松だよ。俺に何か用かな?」
はい。と彼女が頷き肩にかけているカバンをカサカサと漁り始めた。何してるんだろう……もしかして告白!?急だなおい!!俺まだ心の準備出来てないっての、やっぱりモテる男って辛いな。カバンを漁ってるって事はラブレターかな??多分ラブレター探してるんだな!外見は悪くないな、むしろいい方だね、前向きに検討してあげよう。
うんうん。と頷いていると彼女がカバンから黒い封筒を取り出し、はいどうぞと俺に渡した。俺はその封筒を受け取り希望に満ち溢れた笑みで開封した。希望に満ち溢れた笑みが一瞬で絶望に満ち溢れた泣き顔になった。彼女が取りだしたのはラブレターなんかじゃなく、いやラブレターじゃないのは初めから分かってたけど。それよりも凄い手紙を彼女が取り出した。
「君、これって」
震える指でその紙を指さした。そこには見覚えのある文字、見覚えのある文書、そして
俺は、色々聞きたくなり頭の中がパンクしそうになったが深呼吸をして一旦その気持ちをリセットした。
「ここじゃなんだ、場所を変えて話をさせて欲しいのだが……急すぎるかな?」
「いえ、是非。私もこの手紙の事でお話したかったので。申し遅れましたが私の名前は
俺と遥は公園を離れてファミレスに来ている。俺はチョコレートパフェで遥はビーフハンバーグを頼んでいた、見た目によらずガッツリ系女子。
遥が最後の一口を飲み込んで、食べるために口を開くのではなく話すために口を開いた。
「色々聞きたいことはあると思いますが、順を追って話を聞かせてもらえますか?手紙を貰ったんですよね?」
俺はこくりと頷いて、遥は口周りについたソースをお絞りで拭き取りではお願いしますと言う。
「今朝机の上に見覚えのない手紙が置いてあったんだ内容は」
と俺は持ち出してきてた手紙を遥に渡して内容を読んでもらった。遥が読み終わるのを待ってから話しを進める。
「俺はこの手紙を読んで気味が悪いなと感じたんだ、だからクシャクシャにして捨てたよ。だけど学校から帰宅すると捨てたはずの手紙が机の上に置いてあったんだ。それで何が何だか分からなくなって家から飛び出したんだ。そして公園のベンチに座って頭を抱えていたら君が来た」
遥はなるほどと頼んだコーラをカランカランとかき混ぜながら言った。
「ならまだ
「来たよ『明日の朝九時までに担任の先生を殺せ逆らうと幼馴染が死ぬ』みたいな事が書いてあったな。あれってどうゆう事なんだろう」
「先輩それほんと!?」
バンッ!と両手で机を叩きながら遥が立ち上がった、俺は落ち着いてと宥めながら遥を座らせるが遥は頭を抱えて下を向いてしまった。どうしたんだろう?
「先輩。そこに書いてある事は本当に起きるのよ、先生を殺さないと幼馴染は死ぬよ。逆に先生を殺すと幼馴染は生きる。紅松先輩は究極の選択をせめられてるんですよ」
冗談だよねと不安な顔を見せるが遥は真剣な顔立ちのまま首を振った。
「私も依頼が来てるのそして依頼がもうすぐ始まるからついてきて。見せてあげる、その依頼がどれほど恐ろしいのか」
『午後八時三十分。この裏路地を通る若い二人組のカップルのどちらかを二分前以内に殺せ。逆らえばその両方が死ぬ』
これが私の依頼。
何だこれ、いい事なんてひとつもないじゃないか。殺しても死ぬ、殺さなくても死ぬ。最悪だ。だけ俺は依頼が本当に起こるなんて信じていなかった。
「もうすぐよ」
俺と遥は三十分の五分前に来てそのカップルを待っていて残り十秒でその時間になる。
三秒、二秒、一秒、三十分。
「来たな」
「来ましたね」
三十分になるや否や二人組のカップルが路地裏に入ってきた。怖いほど時間ピッタリだったが俺はまだ信じていないこの依頼時間にたまたまカップルが来ただけだ、俺はそう自分に言い聞かせて青色の大きいゴミ箱から頭だけ出してそのカップルを目で追った。
「こ、殺すの?」
と震え声で遥に聞くと遥は首を降った。
「殺さない、今回は紅松先輩に依頼に書いてある事が本当に起こるんだって事を見てもらう」
依頼は確か『カップルのどちらかを殺さないと両方が死ぬ』だっけ、このままだったら二人とも死んじゃうってことだが……ふっ、それはないな。この後死ぬと言われているカップルは今HTMLな音を出しながら濃厚なKISSをしている。それを見ればこの後死ぬなんて思えない。やっぱりあの依頼は嘘だったんじゃないか、もしかしてあの手紙は遥が置いたものなのか?高校一年だったら俺の妹と同い年だしありえない話じゃない。
「三、二」
なんだ、ならこれは茶番か、フッ。面白いことを考え
「一」
バタンッ。
遥の声と共に二人組のカップルが血を吐きながら床に倒れ込んで体をクネクネさせながらもがき苦しんでいた。時刻は三十二分。まさに依頼の時間と同じ、依頼に書いてあったことが本当に起こったのか?いや、これもたまたまだ、たまたま依頼と同じ時間に苦しくなって倒れ込んだだけだ!!それなら!!俺が助けに行こうと立ち上がると遥が俺の腕を掴んだ。
「もう遅いよ」
二人組のカップルは先程と違い静かになっていた。死んだのだ。
「これで分かったでしょ、依頼に書いてあることは本当にに起こるって事が」
「分かったけど、そんなやり方はないだろ!!」
人の死を使って俺を納得させた、その行為が何故か俺を腹立たせ、つい大声を出してしまった。
「こうでもしないと先輩信じないでしょ!多分だけどあのカップルが倒れた時、たまだだとか思ってたでしょ!?」
「すまない、取り乱した。遥の言う通りだな、このやり方じゃないと俺は信じれなかったと思う」
俺は冷静さを取り戻し遥の話を聞いた、でもこのカップルはどうなるんだろう、家族の方は?友達は?みんな悲しむ……どうにかして助けてあげたかった。
俺の気持ちを察したのか遥が。
「カップルの事は気にしないでください。家族や友達は悲しんだりしません」
「悲しんだりしませんってどうゆう事だ?」
その意味は明日分かりますよと遥が言い二人で路地裏を出た。明日になれば?明日は俺の依頼の日だぞ?その日に何がわかるって言うんだ?また色々気になる事が増えた。だがこれから考えるのはもっと難しい事だ。
路地裏を出た後二人で前いた公園のベンチに腰掛けた。人生これまでにない大きなため息の後、『明日どっちを殺す』のかを考えた。十分、二十分、三十分、一時間、二時間。気づけば辺りが真っ暗になり電柱ランプがベンチに座る二人を照らしていた。雪も降り始め体が寒さによって小刻みに震えている。唯一暖かいものといえばベンチに座ってからずっと離さず手を握ってくれている遥の手だけだ。
「決めたよ、俺は」
その後長い沈黙が続き俺は名前を言った。
「先生を殺すよ」
この世に存在するのは悪魔。神などとっくの昔に死んでいる りぃ @sukairoto
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