新学期

「おはよう、桐山きりやま


「ああ、おはよう」


「しかしお前、最近になってから急にしゃべるようになったよな。授業中に手を挙げて答え言った時にはクラス中がざわついていたし」


 あの日から僕は学校でなるべくたくさん言葉を発するよう心掛けるようになった。すると案外周りはすんなりと受け入れ、話しかけてくれるようになった。

 事故以来転校で友達と離れ離れになってしまったり、祖父母からあまり愛されなかったりして、周りが怖くなったというのもあまり口を開かなかった一因だった。

 今ではこうして友達と話しながら駅から学校の道を歩くほどの仲になった。彼とは最寄り駅が一緒なので、年が明けてから徐々に一緒に登校するようになった。


「それにしても、なんでお前はこの季節もマフラーなんか持ち歩いているんだ?」


「ああこれね」


 僕は締め忘れていたカバンの中から飛び出していた黒いマフラーを大事に中にしまって、「お守りだから」と返した。


「ふうん。マフラーがお守りね」


 友達はあまりピンと来ていないようだった。


「にしても今日から、俺たちも高校二年生だな。後輩が入ってくるとどうなるんだろうな」


 後輩。正直部活動に入っていない僕からしてはそんなに気にするようなことではない。学校で会う顔ぶれが増える程度だ。

 まず僕はそれより、今日から始まる新しいクラスで話したことのない人とも積極的に話さなければ。僕は自分に言い聞かせて校門をくぐった。


 新しい教室に入ると、まばらに人が座っていた。黒板に貼ってある座席表を見て、自分の席を見つけた。僕の席は、教卓から見れば右手後方だった。僕は席に着き本を開いた。

 しばらく本の世界に没頭していると、肩をちょんちょんとたたかれた。桐のいいところだったが、しおりを挟んで本をしまい、一息吸ってから手の主の方を向いた。そこにいたのはポニーテールの華奢な女子生徒だった。しかし、その顔はよく知るものだった。


「……夕海?」


「そういえば、互いに行ってる高校の名前、言ってなかったよね」


 彼女は気恥ずかしそうに言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る