非日常
今日も夜空はきれいだ。クリスマスの夜空、僕にはプレゼントをくれるサンタはいないし、いつも通り夜空を見上げていた。ダウンを着ていても、冬の公園は寒かった。ふと周りの住宅に目を向けると、いつもより明かりが多くついていた。
僕はその時、涙を流していることに気づいた。どうして僕はこうして、夜空を見上げているのだろう。あの日からまともに他人と話すことがなく、とうの昔に人との話し方も、声の出し方も忘れてしまった僕は、いったいどこで道を間違えてしまったのだろう。もうすっかり迷子になってしまった僕を、この空が見放す日がいつか来るかもしれない。
僕はこの先、どうするのが正解なんだ。
「正解なんてないよ」
近くから聞き覚えのある声が聞こえた。僕は驚いてベンチから飛び上がり、慌ててほほに伝っていた涙をぬぐって、声の主の方を見た。そこにはなぜか、ベージュのコートに身を包む
「やっと君の声が聞けた」
その時、僕は自分の声が出ていたことに驚き、顔が熱くなった。
「決定的な正解なんてない。何をしても失敗ばっかり、不正解ばっかり」
彼女は空を見上げながら、読み聞かせをする小学校の先生のように続けた。
「もし正解したとしても、きっとその人は満足しない。さらに完璧な正解を求めて頑張る。だから絶対これが正解っていうものはないんじゃないかな」
彼女は僕の目の奥をまっすぐに見た。僕は思わずたじろぐ。
「自分なりの正解なら見つけられるよ。きっと、君なら見つけられる。私はそう信じて今日ここに来たの」
彼女は再び空に目を向けた。
「ホワイトクリスマスよりも、私はこっちの方が好きかな」
僕もつられて上を見る。夜空にはいつも通り満天の星が輝いていた。
「てことで、はい。クリスマスプレゼント」
そういって彼女は手に持っていた紙袋を僕に差し出した。僕は受け取って中身を見ると、そこには黒いマフラーが入っていた。僕は取り出して、首に巻いた。彼女にもらったからなのか、単にこのマフラーがあたたかいのかわからないが、ポカポカしてきた。
「ありがとう」
僕はややかすれた声でお礼を言った。自分の声を自分の意志で出した実感が久しぶりに湧いた。
「よかった。そのマフラー、この夜空みたいでしょ? 君にあってるなって思って買っちゃった。あと、押し花が入ってたでしょ?」
僕は再び中を見ると、小さなファイルが入っていた。その中にあるぺちゃんこの白い花を取り出した。
「その花、ハクチョウゲっていうの。その……私の気持ち」
「えっ?」
夕海は照れくさそうに小走りで公園から出ていった。僕は手にしたハクチョウゲをじっと見た。
―――ハクチョウゲ。別名「満天」。花言葉は、純愛。
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