第14話

電気をつけ、窓を開ける。広がるのは緑と川。後ろで章が部屋を見渡していた。


「相変わらず殺風景な部屋だな」

「そう?」


私の部屋は全てここに来る人たちによって作られている。自分で買ったものなど、冷蔵庫と棚と机くらいだ。七畳の部屋は私そのものだ、と章は言った。


「あの辺は生活感あると思うけど?」

「俺の荷物エリアじゃないか」

「それでよくない?」


彼の持ち込んだ着替えや本、日用品。彼は何かにつけてこの殺風景な部屋に生活感を出そうとした。結局、それは住人の私によって却下されている。


「私の七分の一は章だよ」

「そのうち四畳分にはなるさ」


一畳分の荷物のことだと理解した章が横に並んだ。夜の川に街灯がうっすらと浮かび、暗い水面に橙が揺らぐ。


「全部じゃなくて?」

「そしたらゆかりじゃなくて俺になるだろ」


どこかとがめる響きが心地よい。それでと章が部屋を見回す。


「あれ、これ?例の蚕」


机の上、とらやの箱に入れた蚕種は蓋をしていると高級そうだ。温度計は二十六度。外出中はスタンドの明りを消していたから温度が下がったようだ。電気をつけると、章は箱を開けた。


「え、ゴマ?」

「子供と同じこといってる」

「なんだよ。ゆかりはそう思わなかったのか」


「思ったけど」


なんだよ。子供みたいな口ぶりに、共犯のような心地いい空気が漂う。ああ、この空気。左耳の横だけ少し跳ねる彼の髪の毛。興味津々に紅潮する頬。


その横顔と子供みたいにきらきらしたまなざしが、蚕種を見つめている。

ずっと刺さっていた「ご挨拶」の熾火、兄の結婚から波立っていた心が静かになるのがわかった。

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