いま!電柱の影に透明人間がいるんです!

ちびまるフォイ

あなたをずっと追いかける

「お願いです! 助けてください!!」


「助けてって……いったいどうされたんですか」


「さっきからずっと誰かにつけられているんです!」


警官はあたりをぐるりと見回す。


「誰もいませんが……」


「ちゃんと見てください!!」


もう一度、今度は見せつけるようにしっかりとくまなく、

どこにも隠れられる場所がないように念入りに調べた。


「いや、やっぱり誰もいませんよ?」


「ちゃんと見たんですか!?」

「見ましたよ」


「相手は透明人間なんですよ!?」


「は?」


「透明人間なんだから、ちゃんと見ないとわからないんですっ!」


警官は困ったように頭をかいた。


「えっと、つまり……透明人間にストーカーされていると?」


「そうです。ちゃんと見てください」


「いや……そもそも、どうして透明人間だとわかったんですか。

 あなたが透明人間にストーカーされていることよりも、

 あなたが単に思い込みをしているだけのほうが事実に近いような」


「どうしても信じないんですね。

 私がストーカーに刺されて死ぬまで動かない気ですか」


「そうは言っていませんよ……」


「これを見てください!!」


スマホの画面を出した。

画面には1枚の写真が表示されていた。


暗い夜道の街灯のしたに、人の影らしきものが映り込んでいる。

影が伸びている先には人がいない。


「この写真、私が昨日撮ったものなんです。

 ストーカーされていると知らないフリをして歩いて、

 すかさず振り返って撮れたまぎれもない証拠なんです」


「まあ最近は加工とかなんでもできますしね……」


「なんで透明人間に追われているって信じてくれないんですか!!」


「じゃあ、あなたは僕の口から明日世界が破滅すると聞いたら

 はいそうですねと信じられるんですか」


「私はストーカーの話をしてるんです!!」

「知ってるよ!」


「もういい! これだから日本の警察はっ!

 どうしていつも被害者の側に立ってくれないの!?

 あなた達の怠慢が大惨事になるかもしれないのに!!!」


「わかりましたよ……この近辺の警備は強化します。それでいいですね」


交番を出てからも透明人間の気配は残っていた。


家の近くに行くほどに距離は縮まり、家から離れると透明人間も距離を開ける。

私が家に入るのを防いでいるような様子。


「そうして暗い路地に入ったときに襲う気ね……そうはさせない」


いつでも対応できるようにスタンガンと催涙スプレーをスタンバイしておく。

かばんに入っている梱包用のひもで動けないようにして警察に突き出してやる。


そして、私が助けを求めなかったあの警官を名指しで文句言ってやる。

せいぜい炎上すればいい。


結局、その日は家に入ることもできず、近くのネットカフェで過ごした。


翌日、外を歩いているといつも以上に透明人間の存在を感じた。

それも複数。


(どうなってるの……)


あえて狭い一本道に入り、気付かれないようにうしろを撮影した。

写真を見ると、明らかに不自然な場所にいくつもの人の影ができていた。


「うそ……!? 昨日は透明人間がひとりだったのに!?」


透明人間の後ろに透明人間が重なることで、

透けて見える景色がかげろうのように歪んでいる。


その誰もが自分をついて回り、家に近づけば近づくほどに、私との距離を詰めてくる。


恋人に相談しようにも連絡がつかない。

もしかして、もうこの透明人間になにかされたのではと不安になる。


怖くなって駆け込んだのは前の交番だった。


「お願いです! ずっと透明人間がつけてきてるんです!」


「またあなたですか。言ったように、この周辺は警備を強化していますよ。

 あなたの妄言につきあうのにこれ以上のことはないでしょう」


「前よりも透明人間が増えてるんですよ! 逆効果じゃないですか!」


「そう言われても……なにか思い当たるフシはないんですか」


「あったらあなたになんか頼りません! もういい!!」


これだけ切羽詰まれば助けてくれるのかと思っていた。

それなのにどこか他人事すら感じる。


足早に降板を出ると家に向かって一直線。


とにかく家に急いで入って鍵を閉めれば一番安全だ。

家にいれば彼も帰ってきてくれる。


私がこんなに怯えていれば誰よりも力になってくれるだろう。

彼が同じ状況なら、私だって同じことをする。


競歩のように速度を上げて歩く。


家が近づくたびに透明人間はぐんぐんと差を詰めていく。


玄関を開けてすぐに鍵を閉められるよう手の中に鍵を握る。


家のドアにたどり着くと透明人間は直ぐ側まで迫っていた。

鍵を差し込み、家の中に入ってすぐドアを閉めた。


「うそ……」


ドアを閉めたのが間違いだと気づいた。

家の中にはすでに透明人間が待ち構えていることに空間のゆがみで気づいた。


透明人間たちの息遣いが静かな部屋に聞こえていく。


「きゃああああああ!!!」


悲鳴をかき消すように透明人間が私へと襲いかかった。



 ・

 ・

 ・


その後、交番にはひとりの男が訪れていた。


「こんにちは……」


「どうしたんですか。ずいぶんやつれたようですけど」


「最近、ずっと家に帰れてなくって……」


「良い知らせがありますよ。ついに逮捕されたそうです」


「本当ですか!?」


「ええ、どうやらあなたのストーカーの犯人は元交際相手だったようです。

 家の合鍵で勝手にあがりこんでいたところを現行犯で確保しました。これでもう安全です」


男はほっと胸をなでおろした。



「ああ、透明人間警察を雇って本当に良かった……」

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