主人公、追手の身柄を引き取る 1-1
不慮の事故などの予想外の事態に巻き込まれて意識を手放してしまった後で、再び意識を取り戻すことができるということは、大変幸運なことだと頭では理解しているのだけれども。
いきなり頭に水をかけられて無理矢理覚醒させられたら、どんな状況であろうとも腹は立つし、文句のひとつやふたつ言ってしまったとしても仕方ないだろうと、女は強くそう思った。
●
――意識の覚醒というものはいつだって突然だ。
自ら眠りについた場合でさえ目覚めるきっかけを選べないのだから、誰かに襲われた結果として意識を失ったのであればなおのことだ。
とは言え、どうやって目を覚ましたのか、その過程というか手段というものは重要だった。
傷つけられた痛みで起きるとか、ヤられている最中にその衝撃で起こされるとかに比べれば大抵のことはマシに思えるのは確かだけれど――文字通り冷水を頭から浴びせられて起きる羽目になれば、誰だって不満や憤りを感じて当然ではないだろうかと、そう思う。
それがたとえ、自分を助けにきてくれたであろう相手がやったことだったとしても、である。
「……っ!?」
唐突に訪れた冷たいという感覚に驚きと共に目を覚まし、意識を失う直前の状況をすぐさま思い出して、現状を把握するべく視線を動かした。
本来であれば焦りを覚える場面であるし、事実その瞬間までは状況を解決する術が思い浮かばなかったらどうしようという不安で頭がいっぱいだったのだけれど――それを見てしまって思わず身動きを止めてしまった。
それとは何か。
目の前に居る一人の男だ。
もっと詳しく言えば――今もわずかに水滴を落とす空桶を片手にぶらさげている、見知った顔の青年だった。
それを見れば誰だって、誰が何をしたのか、自分が何をされたのかなんてのは一瞬で理解できたことだろう。
少なくとも私はすぐに理解できた。
なんてことをしてくれるのあんた。
私は身動きを止めたままで彼に視線を固定した。
視線の先に居る彼も彼で、こちらがすぐに目が覚めるとは思っていなかったのか、視線がばっちり合ってしまったことに驚いた様子で固まってしまっていた。
――そのまま無言で見つめあうことしばし。
先に動きを作ったのは彼の方で。
「……あー、目は覚めたか?」
いたずらが見つかったときのような、何とも言えない曖昧な笑みを浮かべながらそんなことを聞いてきてくれやがったもんだから。
「ええ、おかげさまでね!」
思わず、時間を考えれば大迷惑必至の大きな声でそう応じてしまったのだった。
状況を考えればこれほど失礼な態度もないとは思うのだけれど。
……私は絶対に悪くないでしょうこれ。
どう思う?
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