主人公、発見される 2


 何の成果も得られず、士気に問題が出たからと捜索日数は追加されたが期限が決まった。


 ただ、残念なことながらと言うべきか、そのまま何の成果も得られずに時間は過ぎてしまった。


 気が付けば、追加された期限の二日前という状況になっていた。


 相変わらず道具の示す先はいくつもあり、どれを目指せばいいかわからない状況が続いていて。このまま見つからずに終わるかな――なんて思っていたのだけれども。

 状況が変わったのはその日の夜半だった。


 道具に示された目印のうちのひとつが、にわかに周囲のものとの差を明確にし始めたのだというのだ。


 示す位置に一番近い部隊は自分の所属している部隊であったから、すぐさま向かうように指示が下った。


 どうしてこのタイミングで変化が発生したのかという疑問は湧いたのだけれど、その疑問を解消する術はこの時点では存在しないと、そう割り切って。命令に従って道を急いだ。


 そうして指示に従って全速力で進み、たどり着いた先は山奥にある小さな村だった。


 夜半に騒がしくするのは少々申し訳ないと思わないでもなかったが、こちらも仕事である。町長そのほかの住民をたたき起こして、ここ二週間で変わったことがないかを聞いて回った。


 すると、住民のうち数人から、外の世界から来たなんて抜かしたキチガイを一人放り込んだままだという情報が得られた。


 これは当たりか、と。すぐさまその場所に向かえば、牢屋の奥で衰弱した様子で倒れている一人の青年を発見することができた。


 急いで彼を連れ出して、勇者であるか否かを判定するための道具で確認すると、どうやら探している勇者は彼らしいこともわかった。


 そうなれば、やることは決まっている。


 すぐに本隊に報告を入れてから、衰弱している彼の体を乗せてすぐさま移動を開始した。残念ながらというべきか、怪我人や弱った者に治療等を行える人間は捜索隊の中にはいなかったからだ。


 肝心の勇者は見つけたけれど、見つけるのに時間がかかって死んでしまいました――なんて報告をすれば、自分たちの首が物理的に飛ぶ可能性が出てしまったからと、相当急いだものだ。


 ……見つけちまったからな。


 間に合わなかったじゃあ済まされない状況になってしまっていた。こんなことで死ぬのは御免だった。それだけはなんとしても避けたかった。


 幸いにして――報告の際に衰弱している旨を伝えたのが功を奏したのか――本隊と合流する前に衛生班の人間と合流することができた。


 おかげで想定していた最悪の事態は免れたわけだが――自分の命を心配する不安が無くなったことで無視していた違和感が疑問となり、頭の中に言葉として浮かんできた。



 ――勇者を探すための道具は、勇者が持つ力の大きさによって他との差を判断しているらしい。

 それはいい。原理やら何やら疑問に思うところは尽きないが、そういうものだと納得しよう。


 ――ならば、なぜ彼は衰弱しきった状態になってからようやく発見されたのだ?

 衛生班からは、あと少し処置が遅ければ手遅れになっていたかもしれないとまで言われたのだ。

 つまりそれは、彼がそんな状態になって初めて、勇者としての力が目に見えるほど大きくなったということにならないか。


 ――そんなことがありえるのか?

 勇者は私たちと違うものだ。彼は間違いなく、特異な体質と特殊な能力を備えているだろう。

 あの道具が、彼らの能力を周囲に与える影響度の大きさとして見ているのかもしれないのだとすれば。


 ――それは、彼の持っている力が、死にかけたときになって初めて発揮される類のものということにならないか?



「……っ」


 そこまで考えが至ったところで、体中にぞわりと怖気が走り、考えることを思わず止めてしまった。


 ……考えすぎた。


 そう思う一方で、一瞬だけ浮かび上がったその考えはおそらく正しいのだろうという直感のようなものもあった。


「…………」


 天幕の中に設けた寝台に横たわる彼を見る。


 これから彼は城に連れて行かれて、その処遇が決定されることになるだろう。


 ……彼はいったいどのように扱われることになるのだろうか。


 彼はおそらく歴代の勇者の中で、やってくる時に備えていた力の大きさは最も小さいのだろう。勇者としての力を示す道具の反応から、きっとそう判断されているに違いない。


 しかし、だからと言って扱いを間違えれば、痛い目を見るのは我々のほうになるという予感があった。


 もっとも、それを誰かに言おうとは微塵も思わなかった。


 ……言ったところで、誰も信じてはくれまい。


 現時点でのこれは、ただの想像で、妄想で、直感でしかないのだから当然だ。


 ただ、例外が発生することにもそれ相応の理由があるとすれば――彼がこんな形で現れた理由は何なのだろうかという疑問が、城への帰路の最中、頭からずっと離れなかった。



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