主人公、面倒事に巻き込まれる 5
異世界に突然放り込まれて、現地の人間を見つけて声をかけたら捕まって、閉じ込められた。
それから随分と時間が経ったような気がするが、最初にここにぶち込まれた日以来、ここには誰も姿を現していなかった。
最初の方こそ、誰かに助けて欲しいと願って声をあげていたけれど――それもそんなに長い間は続けられなかった。食事も水の提供もないのだから、当然の話だった。
……その割には耐えられている方なのかもなぁ。
飢餓状態になれば普通は喉が焼けるようになったりとか、空腹感で苦しむということもありそうなものだけれど、そういうものが一切無かったからだろう。体力が無くなっていく感覚はあるものの、逆に言えばそれだけだったから、精神的には随分と余裕が残ってしまっているのだ。
だから思考だけが妙に回っていた。色々な疑問が頭の片隅に浮かんでは消えていった。
たとえば、ここまでひどい扱いをするのならあの場で殺してしまうという選択肢もあっただろうにどうしてそうしなかったのだろうか、とか。
もしかしたら殺人を忌避するような文化があるのだろうか、とか。
……いくら考えたってわかりゃあしないんだがな。
ただ、現状において――ひとりで考えた結果として答えに近い何かがわかるとすれば、それは状況的に自分はもう詰んでいるということと、自分がどうして飢餓感に耐えられているのかという理由くらいのものだった。
……後者に関しては完全に妄想の類だが。
自分がここに居るのがこの世界に居る誰かに呼ばれたからなのか、あるいは偶然によって引き込まれたのかは判断がつかないが。ここに自分が存在する以上は何かがあったことだけは間違いないし、異なる世界から何かを持ってくるという出来事は尋常の範疇に収まるものではないはずだ。
だったら、それが起こってしまったときに、自分の身に何かしらの変化があっても不思議だと思うことはない。
それがたとえ、不都合な感覚だけが鈍るというものであったとしてもである。
……これじゃわかったというか、わかったつもりになっているだけだな。
そんな言葉が思い浮かんで、思わず笑ってしまった。
……まぁなんにしても、意味のない話だ。
寝て、起きて、こうやって何の益体にもならないことを考えて、どうにもならない状況を理解する――ただそれだけを随分と繰り返してきたように思う。
昼夜の感覚は既にない。気が付いたときに自分の意識が落ちていた事実を把握する。それだけだ。
「…………」
いつになったらこの状態は終わるのだろうと思い続けていたが、こうして無駄な考えを続けているのも辛くなってきたから終わりは近いのだろう。
まぶたを開いていることに意味を感じなくなってくれば、意識が覚醒していようがいまいが目を閉じることが多くなり。
次第に考えること自体も億劫になってきて、思考がゆっくりと閉じていく錯覚を得た。
……死にたくはないんだがなぁ。
感情が受け入れようが受け入れまいが、自分ではどうしようもない事実は必ず結果として訪れる。
終わる。終わる。自分が終わる。
その言葉が頭の中を占めていく。
その言葉に思考が食いつぶされていく。
ただ、それでも燻るように残る思いはあった。
それは――誰も許しはしないという、強い憎悪の意志だった。
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