主人公、面倒事に巻き込まれる 4


 物陰に隠れるのを止めて、見つけた二人に話しかけた。


 こちらとしては普通に話しかけただけだったけれど、そうやって得られた二人の反応はそりゃあもうひどいものだった。


 端的に言えば、なんだこいつはと言った感じで明確な敵意を向けられた。


 具体的に言えば、彼らが携帯していた武器――一人は刀身の短いナイフを、もう一人はなにやら虚空に光る文字が浮かぶいかにもな魔法陣を、それぞれこちらに向けてきたのだった。


 誰がどう見ても、二人の警戒心が上限いっぱいであることは明白だった。


「…………」


 だから、こちらから相手を刺激しないように、武器は持っていないと示すために、その場に止まって両手を上げて見せた。


 世界観が違う相手にこの行為の意図が伝わるかどうかは賭けだったが、若干気勢が緩んだように見えたので効果はあったのだろうと思う。


 ゆえに、それを好機と見て、畳み掛けるようにこちらのことを説明したのだ。


 まずは自分に害意はないことを示した。次に、突然この場所に来てしまったことと、どうやら自分はこことは違う世界から来てしまったことを説明した。そして最後に、自分にはここで生きていく手段が無いから何かしら助けが欲しいと懇願した。


 懇願してしまった。


「「――――」」


 言葉の選択を致命的に失敗したと気付いたのは、彼らの態度の中身が変わったことを察した時だった。


 表面上は警戒を解いたようには見えないし、武器を構えられている状況も変わらない。しかし、舐められた気配だけは感じられたからだった。


 出目が悪い方に出ないで欲しいと、そう祈るだけの状況で何か行動を取ろうとすれば失敗する典型である――なんて、回想できる状態で居られることを幸いとするべきかどうか迷うところだが。

 それはさておき。


 自分よりも下だと判断した相手に譲歩を示す人間はそういない。


 少なくとも、それが見知らぬ誰かであったならば、どんな行動に出るかは決まっている。


 魔法陣を向ける一人はその場に留まったまま、ナイフを構えていた一人がこちらに近づいてきて――その後、こちらの体を拘束してきた。目隠しのおまけつきだった。


 その時点で、こりゃあもうどうにもならないなと諦めた。


 いやまぁ、その場で抵抗をしようと思えばできたかもしれなかったけれど。

 体力も既に尽きかけていたし、仮に彼らをどうにかできたとしても状況は好転しないことは明らかだった上に、魔法みたいな得体の知れない何かを使う相手に勝てるとは到底思えなかったというのが大きかった。


 あの状況で出来ることがあるとすれば、それは、彼らの良心が自分の望む最低限以上であることを祈ることくらいだっただろう。


 そうやって拘束されたまま歩き続けて、どれくらい経ったかわからない頃になって――空気が変わる感覚を得た。


 その変化が建物の中に入ったから生じたものだとわかったのは、見えないまま歩かされたせいでどこかに転がり落ちたからだった。土とは違う硬い何かに何度もぶつかったから、階段を転げ落ちたのだろうと予想したのだ。


 その予想が正しかったとわかったのは、無理矢理起き上がらされて押し込められた後で拘束を解かれたからだ。


 押し込められた場所は、地下に作られたと思われる暗い牢屋の中だった。


 そこは石畳の壁に、目の前にある頑強そうな鉄格子で蓋をしただけの簡素な牢屋だった。作りが甘いのか、所々にある壁の隙間から光が漏れていて。それが明かりの代わりになっていたから、自分をこの場に連れてきた彼らが去り際に見せた、こちらを嘲る貌もはっきりと見えた。


 その表情を見てしまえば、自分がどういう扱いになったのかなんて、誰かに確認するまでもなくはっきりと理解できてしまったのだった。




 意を決して、見つけた二人の人間と接触する選択をした。行動にも出た。


 ……その結果が、このザマだ。


 考えていた中でも最低で最悪な結果――奴隷にされたり、拷問の類にかけられたり、あるいはその場で殺されたりといった結果にはならなかったものの、言ってしまえばそれだけだ。


 現状を鑑みればそうなってしまうのも時間の問題で、単純に、そうなるまでに時間が空いてしまっただけだった。


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