第12話

「すぐにでも吹いてみたい」


 はやる気持ちをどうにか抑えながら家にたどり着くと、とかげはお巡りさんのしたように、ハーモニカをガーゼで拭いて、力一杯、吹いてみました。


「ブー」


 思いがけず大きな音が響きました。


「音が出た!」

 

 嬉しくなって、今度はそっと吹きました。


「ピー」


 続いて、


「ビー」「ブブー」


 もっと吹こうとして、今がもう遅い時間であることに気がつきました。


「明日、また吹こう。でも、音、やっぱり変かもしれない」


 ハーモニカは、鳴ることは鳴るのですが、なんだか調子が外れているようなのです。

 それに、スースーと息が漏れるばかりで、音の出ない穴もかなりあるようでした。


「やっぱり、壊れているんだ。

 長いこと、誰も吹いてあげなかったから、すねちゃったのかな。

 素人が手を出さないほうがいいって、お巡りさん、言ってたもんな。

 明日、町まで出て、楽器屋さんへ行ってみるとするか」



「こりゃ、ずいぶん、手荒い扱いをしたもんだねえ…。

 …一体、どうしたの?」


 ハーモニカを見るなり、楽器屋のおじいさんは眉を曇らせました。


「すみません…。

 それ、拾ったんです。

 そのときはもう、こうなっていたんです。

 でも、捨てるの、可哀想で、どうにかできないかと思って、それでこちらに…」


「そうだったのかい!」


 おじいさんの顔は急に明るくなりました。


「それは嬉しい心がけだね。

 やっぱりわしらは楽器を大切にしてもらうと嬉しいものね。

 …それじゃ、ちょっとハーモニカを見てみようかね」


 おじいさんはハーモニカをちょっと吹いてみました。

 それから、ドライバでねじを外してふたを開けました。


「大分ほこりが詰まっているから、掃除をしよう。

 音の出ないところはリード(震えて音を出す弁)にごみが入っているんじゃろう。


 …でも、幸い、リードはどれも折れても曲がってもおらんみたいじゃな。

 …よし」


 おじいさんは綿棒でハーモニカの小さい窓をひとつひとつくりくりと掃除してほこりをたんねんに取り除き、汚れもきれいにしました。

 リードの汚れも、傷つけないように丁寧に取りました。

 それからまたふたをしてねじを締めると、口を当てて吹いてみました。


 ドレミファソラシド…

 ドシラソファミレド…

 ドレミファ…


「…直ったよ。

 リードがどれも無事だったのが幸いしたよ」


「お、おいらも吹いてみていいですか?」


「もちろんさ。これはきみのハーモニカなんじゃからな」


 おじいさんはハーモニカの口元を柔らかい布で拭いて渡してくれました。


 ドーレーミーファーソーラーシードー…

 ドーレーミーファーソーラーシードー…


 とかげも真似をして吹きました。

 まだうまく一音一音切り離して吹くことができなくて、音と音とのつなぎ目が重なっていました。


「これこれ、唇を尖らせて、一度にひとつの音だけを吹くんじゃよ。

 そうしないと、音が濁ってしまう」


 とかげははっとして、今度は唇を小さく尖らせて、気をつけて吹いてみました。


 ドーレーミーファーソーラーシードー…

 ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ・ドー…


 確かに今度はひとつひとつの音が明瞭に際立って聞こえます。


「よしよし、なかなか筋がいいじゃないか。その調子だよ」


 おじいさんはそう言うと、ハーモニカの吹き方と手入れの仕方をわかりやすく教えてくれました。

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