第10話 彼女のハワイ

「ハワイ!?」

「そう、ハワイ。1万円で。」

 渋子は近所の旅行会社にやって来た。そして専属担当のリョウコに無理難題を言う。

「ちょうど良かった! 今、モニターさんを探していて、飛行機の座席はファーストクラス、泊まるホテルは9つ星、お食事はハワイの香川うどん店で天ぷらロコモコうどんセットというプランが先着1名様であるんだけど、もし良かったら渋子さん、それにしてみない?」

「マジで!? ラッキー! それにします!」

 渋子ならハワイも1万円で行けてしまうのだ。

「ちょっと待った!」

「え?」

「貴重な1万円だし、ハワイに使うか、それともガス代の滞納分を支払うか、どうしようかな?」

 渋子は1万円の使い道に悩んでいた。

「何悩んでいるんだよ!? おまえをハワイに連れていかないと、私たちは、おまえの母親に殺されるんだよ!?」

 笑顔で対応するリョウコの心の声は渋子には聞こえない。

「渋子ちゃん、私、ハワイの呪いのカメハメハ大王の像が欲しいな。」

「分かりました! ハワイに行って、お土産に買ってくるね!」

 おねだり作戦のリョウコを友達だと信じている渋子。

「塩を撒け! バリケードを作れ!」

「はい! 店長!」

 渋子が帰った後のお馴染みの旅行会社の光景である。


「ハワイも決まったし、お腹もすいたな。お弁当でももらって帰ろう。秋だし、サンマの開き弁当とかないかな。サンマって高いのよね。」

 旅行会社で書けるなら、他のお店でも書けるだろうと、渋子はお弁当屋さんに行ってみた。

「おばちゃん、今日も残飯ある?」

「あら? 渋子ちゃん。あるわよ! 今日も賞味期限が切れて捨てる前のお弁当が。」

「やったー! ラッキー!」

 金欠に苦しむ渋子は近所のお弁当屋さんで廃棄のお弁当を貰って、なんとか生きているのだった。

「はい、さんまの開き弁当だよ。」

「ちょうど食べたかったのよ! さんまの開き弁当!」

「私と渋子ちゃんは以心伝心よ! 毎日でもお弁当を貰いに来なさい!」

「なんて優しいおばちゃんなんだ! ありがとう!」

 渋子は気づいていなかった。お弁当屋のおばちゃんの服装が最近少しづつ派手になっていることを。

「娘に1弁当渡す度に、10万円を差し上げます。」

「ええ!?」

「足らない? なら20万円にしましょうか?」

「ありがとうございます。奥様に忠誠を誓います!」

 もちろんお弁当屋のおばちゃんも渋子ママに買収されているのだった。

「さんまの開き弁当、美味しい!」

 そうとは知らない渋子はお腹いっぱいにご飯が食べれて幸せそうだった。

 つづく。

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渋子の何でも屋 渋谷かな @yahoogle

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