第6話 彼女の支払い

「いや~湯の山温泉も気持ち良かった! 伊勢海老も最高! 充電完了って感じね。」

 渋子は伊勢神宮から帰ってきた。これも撮影経費の削減のために行ったことになっている。バブル崩壊後、ドラマの撮影にお金はかけられないと地方ロケは割愛される。

「お土産の赤福餅を渡したらリョウコさんも泣きながら喜んでたし。また買ってあげよう。」

 リョウコさんは「もう来るな!」と泣きながら、お土産を貰ったのだった。もちろん渋子が帰った後に、出入り口に塩を撒いたことは言うまでもない。

「さあ、どこで働こうかな?」

 渋子は求人情報誌を見て仕事を探している。

「時給1000円、安いな。夜まで働きたくないしな。何か良い仕事はないかな。でも、できれば家の近所がいいな。満員電車に乗りたくない。」

 わがままに思える渋子の仕事探しだが、実際には誰もが求めている条件であった。なかなか、そんな好条件の仕事はない。

「しかし、生きていかなければいけない。何か食べていかなければいけない。家賃を払わなければいけない。税金を払わなければいけない。他の人はどうやって生きているんだろう?」

 親の援助が期待できず、自分一人で生きていかなければいけない人間は、とてもじゃないが、20万くらいの給料では生きていけない。

「ああ~生活保護を受けたいわ。ダメダメ! 親にバレちゃう! 自分でなんとかしなければ!」

 生活保護を受けると一人暮らしでも約13万円貰える。内訳は、食料品、光熱費、家賃である。特典はNHKの料金を払わなくても良い。病院代が無料。無理して勤労するのが馬鹿馬鹿しいのだ。ただし申請窓口で「親にばらすぞ!」と脅される。生活保護を諦めると風俗やキャバクラで体を売るしか生きていけない。

「よし! これにしよう! 新規オープンの高層ビルの展望台フロアの警備にしよう!」

 渋子は、日給2万円と朝から夕方までの仕事ということと、無料で高層ビルから富士山を見ることができると軽い考えで警備の仕事に申し込んだ。

「10日で20万か、1カ月で60万。これで止まっている電気を復活することができる! やったー!」

 渋子は家賃だけでなく電気ガス水道の光熱費を滞納しているのだった。

「よし! 警備員がんばるぞ!」

 渋子は小さなワンルームに住んでいる。電気がつかない時は、アロマキャンドルを100均で買ってきて暮らしている。今の時代、100均があれば、なんとか生きていけるのだった。

 つづく。

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