第5話 彼女の旅行会社

「どこか良い旅行先はないですか?」

 渋子は無職になったので、ファミレスで稼いだお金で趣味のパワースポット巡りをしようと考えた。

「この前の島根県の出雲大社も良かったよ。空気も温泉も最高。シジミ汁なんか100杯は食べれたわよ。」

「いつもありがとうございます。えっと、えっと。」

 渋子の行きつけの近所の旅行会社の社員さんリョウコさん。いつも渋子の相手をする時はオドオドしている。

「大丈夫? リョウコさん、新入社員だからって、そんなに緊張しないで。」

「私が緊張しているのは、あなたが原因なんですけど。」

 説明しよう。なぜリョウコさんが渋子の相手をする時に緊張するのか。それは・・・・・・。

「はい、お金。」

「こ、これはなんですか!?」

 旅行会社の机の上に札束が1億円くらい積みあがってピラミッドを作っている。

「お金よ。今から、この町の小さな旅行会社は私が買い取りました。いい、家が近所だからと私の娘が、この旅行会社にやって来ます。絶対に就職に御利益のある神社やパワースポットは進めないように。それから、うちの子は正義感が強く、パワハラ、セクハラ、いじめなどは匂いで分かります。絶対にしないでくださいね。もし娘に私が関与していることがバレたら、ここにいる全員には死んでもらいます。」

 全ては渋子ママの仕業であった。

「伊勢神宮なんかどうですか? 日本のナンバー1、パワースポットです。」

 ただの縁結びの神社です。

「ナンバー1!? すごい! それにしよう! 旅先はリョウコさんに聞くのが一番だわ。ニコッ。」

 こうして手続きを終えた渋子は旅行会社を去って行く。

「ふう~。助かった。」

 深く息を吐きだすリョウコ。

「リョウコくん、入り口に塩を撒いておいて。渋子ママが怖くて、うちは倒産することもできないじゃないか!? うおおおおー!」

 リョウコの上司は泣いていた。


「やったー! 伊勢神宮か。ここでお参りすれば、きっと私にも良い就職先が見つかるはず! わ~い! ニコッ。」

 家出ゴロゴロ旅行のパンフレットを見て楽しそうな渋子は、旅行会社の苦労は知らなかった。

「そうだ! 赤福餅をリョウコさんのお土産に買って帰ろう! きっとリョウコさん喜ぶぞ! ワッハッハー! ニコッ。」

 渋子の辞書に不可能はない。

 つづく。

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