第5話、夜ノ雨

「えっと、酒のことは別にいいんだけど、その、何で膝枕?」




「ん?この方が話しやすいかと思って」


いや、恥ずかしくてそれどころじゃありません。




こんなとこ誰かに見られたら‥‥


そう思い、辺りを見渡すと遠くで宴会をしてるような騒がしさを感じる。


俺達の周りは森の入り口のような場所、あるのは小さな小屋と小屋にくっつくように作られたベンチ。


そして、そのベンチの上で俺は膝枕されていた。




「ここドコ?」




「村の入り口からちょっと出た森の入り口。静かで星も観えるし、ベンチもあってちょうどいいだろ」




「そうだな」




それから俺達は静かに夜空の星を観上げていた。




どれくらい経っただろうか。


静寂を破るようにリーサは口を開いた。




「あの村、あたしの故郷に似てんだよね」




夜空を見上げたまま、少し哀しそうな声で彼女はそう言った。




「ここよりももっと東にあって何にもないような村だったんだけど、大家族でさ、兄妹が5人居て毎日騒がしいったらありゃしない。


長女だったからホント弟達の世話すんのが大変だったよ」


そう言いながらリーサは夜空を観あげたままだった。




「弟達は今何してんだ。」




俺がそう訊くと、しばらくの沈黙の後「皆、死んだよ」


小さな声でリーサはそう言った。




「父さんも母さんも、ルイス兄さんにマルコ、アスターシャにシフォン。シフォンなんてまだ産まれたばっかりだったのにさ‥‥」




それから憎しみのこもった声でこう言った。




「あたしの村は魔王によって滅んだ…いや、あたしだけじゃない、アルクもエルフの村を滅ぼされてる。


たぶんアイツに滅ぼされてる村はそうとうあるだろうね。


それに親族を殺された人達だって数え切れない」




ごくりとツバを飲む。


今更だが魔王はそれほどまでに恐ろしい男だったのだ。




「あたし今でも夢に出てくるんだ。


おつかいから帰ってきたら村が燃え、魔獣の群れが人を襲い、悲鳴が飛び交う。


家にはバラバラになった家族がいて、いつもそこで目が覚めるんだ。




この10年間ずっとアイツを殺すことだけを考えて生きてきた。


そして、やっと皆の無念を晴らすことが出来た。




あたし、コーイチとアルクとマオに会えて本当に良かった」




そう言って夜空を見上げたままの彼女の表情は分からなかったが、俺の頬に一滴の雨が落ちた。


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