ギルバード様の手柄です!
私の準決勝の対戦相手はアルベシード様らしい。ギルバード様から『頼むからやりすぎないでくれ!怪我するとまずいだろ?本当は試合前に棄権してもいいぐらいだぞ!』という激励のお言葉を頂いた。
正直に言ってギルバード様より強い相手ではないと思うが、もしかしたら私の知らない魔法や剣術を使うのかもしれない。気をつけておこう。
不測の事態に対応できるようにするため、全力でストレッチを済ませ、係の人に案内されるがまま入場する。
「「おおおおお!」」
観客席から歓声があがる。反対側からアルベシード様が歩いてくる。向かい合った時、スッと手を差し出された。私も手を出して握手の求めに応じる。
「やあ開会式前ぶりですね。お互い全力を尽くしましょう」
「よろしくお願いします、アルベシード様」
アルベシード様はにっこりと微笑み、所定の位置につく。私もナイフを抜いて試合開始の合図を待った。
「それでは剣術大会準決勝、エミリア対アルベシード様の試合をはじめます!試合、開始ィッ!!」
右足を踏み出したアルベシード様。彼は腰を捻りながら片手剣を横引き抜き、横なぎに振るう。たしかセバスチャンの話にあった『居合斬り』という技だ。
しゃがんで回避する。風を切り裂き、頭上スレスレに切っ先が通り抜けた。成る程、これはギルバード様も『棄権してもいいぐらい』と仰るわけだ。
「この技を初見で避けるとは!なかなかどうしていい腕前をお持ちですね、エミリア!」
「お褒めに預かり光栄です!ひとえにギルバード様の指導の賜物です!」
「そうかそうか!やはりギルバードか!」
ギルバード様のお名前を大層嬉しそうに連呼しつつ、決して攻撃の手を緩めないアルベシード様。最低限の動きで避け、攻撃の隙を狙うけれど好機は訪れない。
「気を付けろ、エミリア!頼むから気をつけてくれ!」
私の身を案じたギルバード様が応援してくれている。くっ、不安にさせてしまうとは不甲斐なし!
剣戟を捌きつつ、一瞬の隙を突こうとナイフを構えた、その時、視界の端にキラリと何が煌めく。
針だ!
慌ててアルベシード様に飛び蹴りをかまし、それを人差し指と中指で摘みとる。受け身を取りながら転倒したアルベシード様が怪訝な表情で私を見た。
「エミリア、何故飛び蹴りを……その針は?」
一部始終を見ていたアルベシード様の護衛の兵士が針が飛んできた方向にいた男性を取り押さえる。
兵士に両腕を掴まれた男性は私のよく知る人物だった。予選で戦ったチョビ髭男のベイズである。大声で喚き散らし、口汚く兵士を罵っている。その様子を見て観客席が騒然となった。
「離せ!離せよ畜生!」
「アルベシード殿下、この男のポケットからこんなものが……」
他の兵士がベイズのポケットから針の入ったケースを取り出し、アルベシード様に見せる。
「助けられた挙句、折角の勝負に水を差されましたね……これからだったというのに」
悔しそうに顔を歪め、苦々しく舌打ちをするアルベシード様。剣を鞘に納め、背筋を伸ばした時には凛とした表情になっていた。切り替えが上手なのは貴族の嗜み、ギルバード様もよく切り替えていらっしゃったなあ
「観客席にいるみなさん、もう心配ありません!大会を乱す不届き者は捕らえました。これから取り調べますので、どうかみなさんのご協力とご理解をお願いします!」
アルベシード様がそう呼びかけると徐々に会場は落ち着きを取り戻した。今では大人しく兵士の誘導に従っている。ベイズはそのまま連行されていった。
「すみませんが、エミリアにも聞きたいことがあります。どうしてあの針に気付けたんですか?」
「光ったのが見えたので」
「な、なるほど……?ではあの男に見覚えはありますか?」
こくりと頷く。ベイズのような剣の初心者が何を投げようと達人のアルベシード様には通用しなかっただろう。
それでもアルベシード様がベイズを取り調べるのはきっと為政者として王太子の命を狙ったことを見過ごす訳にはいかないからだ。
「予選で戦いました。なんでもベラドンナ様という人の為にこの大会に参加したようです。なんでこんな愚かなことを……」
暗殺未遂が起きた以上、大会は中止になるだろう。楽しみにしていたギルバード様との試合を台無しにされた怒りを込めて針を折る。
「ひえっ、こいつアダマンタイト製の針を平然と折りやがった……じゃなくて成る程、ベラドンナですか」
口に手を当てたアルベシード様。考え事を始めたようなので、邪魔しないように口を閉じる。
私の名前を呼ぶギルバード様の声が聞こえたので振り返ると、ギルバード様が駆け寄ってくるところだった。
「アルベシード兄さん、お怪我は?エミリアも何もしてないよな?そうだよな?そうだと言ってくれ!」
「ああ、ギルバード。丁度いいところに来てくれましたね。エミリアのお陰で助かりました。とても良い妾を持ちましたね……?」
ギルバード様が褒められた……!!
歓喜に震える体を淑女とメカケの嗜み(お義母様直伝)である根性で押さえつける。
「そうでしたか!よくやったぞ、エミリア!」
ギルバード様に褒められた……ッ!!!!
ボボボっと嬉しさと気恥ずかしさで真っ赤になる頰を手で抑える。お義母様、どうやら私はメカケとしてまだまだのようです……ッ。
「折角来てくれたのに申し訳ないですが、大事を取って大会は中止にします。このお礼は後日、必ず致しますね」
それでは、と言い残し兵士を連れて立ち去るアルベシード様。その背中を見つめていたギルバード様がため息を一つなさった。
「色々大変だったな、エミリア。今日はもう帰るか」
「はい、ギルバード様」
こうして剣術大会に参加した私たちは王太子暗殺未遂という大事件に巻き込まれたが、どうにかこうにか(エミリアの超人的な力で)解決したのだった。
後日、アルベシード様直々に将来王宮で働く時の後見人を紹介して頂いたり直接褒美を賜ったギルバード様が感激のあまり(王太子派と認定されてしまったおかげで)涙を流したりした。
『ベラドンナのことは私がどうにかするのでどうか剣術大会でのことは内密に』とアルベシード様が仰っていたけどどういうことなんだろう?
お義母様に尋ねたらアルベシード様に任せておきなさいと言われたからきっとなにか深い事情がお有りなんだろう。
とりあえずお義母様の言う通りにしておけば問題ないかな。平民の私は冒険者学園の入学に備えて特訓しなきゃ!
いつかギルバード様をお守りして御恩を返すのが夢なんだ!!
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