ギルバード様との約束!
雲ひとつない快晴の空と穏やかな街並み。
私はギルバード様に連れられて王都クランティアにやって来た。
「ギルバード様、あのここはどこでしょう……?」
今の私はギルバード様に薦められるがままに白いワンピースを着ている。いつもの着慣れた麻のものと違ってサラサラとした感触にソワソワしながらギルバード様に話しかけた。
「ここは冒険者学校だ。入り口にいる連中も俺たちと同じ受験者だろう」
ギルバード様の目線の先、空高く聳え立つ白亜の建物。その入り口には見るからに貴族や商人の子息と分かる子供達が立っている。
「ギルバード様、つかぬことをお伺いします。私も受験するんですか?」
「そうだ。言ってなかったっけ?」
「き、聞いてません!お金とかどうしようッ!」
「俺の母上が代わりに支払ったから気にしなくていいぞ、エミリア」
昨日ギルバード様に誘われて屋敷に泊まった時。
エッテルニヒ公爵夫人様に『うちの息子をよろしくね』と言われ、訳もわからぬまま使用人のメイドさんに体を洗われ、気づけば共に馬車に乗って王都に来ていた。
冒険者学校の試験が近いとギルバード様から伺っていたからてっきり見送るだけだと思っていたのに、どうしてこうなったの!?
困り果てているとギルバード様が笑った。笑ったお顔も素敵です!!
「本当にお金のことは気にしなくていいぞ、エミリア。どうしても気になるなら、そうだな……」
ギルバード様からパンフレットを受け取る。
指差した箇所には表と共に『入学試験成績上位者特例制度』と大きな文字で書かれていた。
ざっと内容に目を通す。
入学試験ではその成績に応じて合否を決定する。その結果に応じてクラス分けを行う。さらに成績上位者は受験料や学費も免除されるらしい。
「エミリアなら学費の半額免除ぐらい狙えると思うぞ」
ギルバード様の太鼓判もあって瞳が潤む。エッテルニヒ家の方々は本当に慈悲深く、まるで神様のように寛大な心で孤児の私に接してくださる。
もしやエッテルニヒ家は神の血を引いているのでは!?
「私、頑張ります。必ずや学費半額を勝ち取ります、ギルバード様ッ!!」
「さすが俺のメカケ!その調子で勝ち取ってこい!」
敬愛するギルバード様に励まされ、私のテンションはもはや天元突破ッ!!もはや恐れるものは何一つない!
「あ、だからと言って俺との約束を破るなよッ!!」
ギルバード様の忠告に頷きながら振り分けられた試験会場に向かった。
◇◆◇◆
試験会場はなにやら大広間のような場所だった。
壇上の奥の方ではバインダーとペンを持った職員達が椅子に座りながらヒソヒソと何かを話している。
ギルバード様に励まされ、意気揚々と入場したのはいいものの、試験について何も知らないことを今更思い出した。
会場に入ってしまった以上、外に出てしまうと失格扱いになるから気をつけるようにと張り紙が目に入る。
私の馬鹿ッ!会場に入る前にギルバード様に聞いておけば良かったッ!!
自分の失態に泣きたくなっていると前にいた二人組の受験生がコソコソとお喋りをしていた。
「おいロック、入学試験ってどういうことをするんだ?」
クルックルの茶髪を後ろでまとめたいかにも『ボンボンの御坊ちゃま』といった格好の男の子が横にいるパッツン黒髪の男の子に話しかけていた。黒髪の子はロックというらしい。
「上級生が召喚した魔物と戦う、という対戦形式の実技になります。エドワード様、くれぐれも油断されませぬようお気をつけ」
「ふん、たかが魔物ッ。王位継承権30位のこの俺、ディンセント・ダーワークが遅れをとる訳ないだろう!」
うわ、自分で王位継承権をひけらかしてるヤツがいる。可哀想に、その程度の王位継承権では碌に威張れる相手がいないのだろう。
その点ギルバード様は本当に素晴らしいお方だ。常に謙虚で思いやりがあって、その上自分よりも王位継承権が高いフレデリック・ブラウンさんからも尊敬されてる素晴らしいお方なのだッ!
このディンセント・なんとかもいずれはギルバード様の素晴らしさに屈服するに違いない!
「そういえばギルバードのやつも今年受験するはずだったな……。まあ、ここにはいないようだな」
ディンセントが周りを見回し、残念そうに肩を竦めた。
「ディンセント様、後衛職なのでどうかお気をつけ下さい。俺が食い止めている間に」
「しつこいぞ、ロック。貴族の上、魔法使いの
ディンセントは手に灯る炎を見つめ、ギュッと握りしめる。指の隙間から煙がぶすぶすと上がった。
「しかし残念だな、貴族のくせに前線で戦うギルバードをせせら笑うつもりだったのだがここにいないとは。フレデリックもいないじゃないか」
「もう、好きにしてください」
忠告を聞こうとしないディンセントに呆れ果てたロックがさじを投げた。
それにしても聞き捨てならない台詞を聞いた。『貴族のくせに前線で戦うギルバードをせせら笑う』だとォ?
思わずその無防備な後頭部を殴るところだったが拳を握ったところで思い留まる。
『いいか、エミリア。殺していい人間というのは俺が決める。俺が殺せって言わない限りはなるべく殺すな』というギルバード様との約束を守らないと!
自分の怒りを宥め、ギルバード様のご尊顔を思い出していると一人の職員が椅子から立ち上がった。
「えー、皆さまご静粛に。これより試験を開始します。ご存知の通り、試験の内容は多数の魔物を相手してください。討伐、足止め、他の受験生との協力、逃亡など手段は問いません」
職員が合図をすると、床に魔法陣が現れた。中央に魔物が出現する。見慣れた魔物、ゴブリンが奇声を発している。
「討伐数によって成績が加点されます。リタイアさえしなければ合格になりますので受験者の皆さまは死なない程度に逃げてください。試験は3分後に開始します」
良かった、リタイアしなければ合格なんだ!それにゴブリンを倒すだけで成績が加点される方式でよかった。
周囲もザワザワと騒ぎ始めた。どうやら
前に立っていたロックが振り返って私に話しかけて来た。
「すみません、お嬢さん。もし宜しければ私達と一時的にパーティーを組みませんか?」
いきなり話しかけられて思わずびっくりする。どうやら腰にある短剣で前衛だと判断したようだ。
『嫌なことをされない限りは優しく接しろ。嫌なことをされたらすぐに俺に言え。後でこっそり俺が殺しておいてやる』ってギルバード様の約束に則って頷いておこう。
「ありがとうございます。私はロック、
紹介されたディンセントがちらりとこちらを見た。目があった瞬間、ぐわっと目を見開き私の両手を掴んできた。
「やあ、俺はディンセント。よければ貴女の名前をお聞きしたい」
「エミリアです。試験頑張りー」
「エミリアッ!なんと麗しいお名前、貴女と知り合えた今日という日に感謝します!」
なにやら熱の入った様子でディンセントが捲し立てる。なんでこの人顔が赤いんだろう?
ロックに引き剥がされ、渋々といった様子で離してくれた。
クルクルの前髪を触りながらディンセントがチラチラこっちを見てくる。そんなに前髪が邪魔なら切ればいいのに。
「あ、そろそろ試験が始まるようです。エミリアさんと私で前衛を担当ー」
大まかな役割を決めようとしたロックの発言をディンセントが遮る。宝石でごちゃごちゃと飾られた杖を振り回しながらヘラヘラと笑う。
「二人は下がってな。ここは俺が華麗ッ、かつ優雅ッな炎魔法で殲滅してやる!」
いやそれはとっても困るよディンセントさん!私は一体でも多くのゴブリンを殺さなきゃいけないんだ。
でもいくらムカつく王位継承権30位を押し除けてゴブリンを殺しに行くのはまずいかも。
『エミリア、目的のためなら手段を選んじゃダメだぞ。結局は結果が全てなんだ。貴族社会では結果よければ全てよし、だぞ!』
ですよね、ギルバード様!!
成績上位者特例制度を獲得するためなら王族を出し抜くのは、決して悪いことじゃないですよね!!
不合格にする訳でもなく、見た感じ弱そうな二人はあんまり頼れなさそうですし!
よし、ゴブリンをたくさん殺そう!!!!
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