ギルバード様はすごい!
パーティーから帰る馬車の中でフレデリックこと俺は涙を拭う。
王位継承権を剥奪され、決闘に敗れた王族の末路は奴隷か鉱山労働というのは有名だ。
これまで散々43位であることをダシに侮辱し、決闘を申し込んだ俺に異母兄弟の弟は優しくハンカチを差し出してくれた。
勝負がついたその場で殺したとしても誰も咎めないだろうに、あの銀髪の弟は微笑みながら俺と対等な立場になりたいと告げた。
その時、俺は確信したんだ。
今まで俺に反抗しなかったのは処刑に怯えていたわけじゃない。兄である俺の立場を尊重し、甘んじて低い立場を耐えていたに違いない!
俺を許し、弱気になっていた心を叱ってくれた優しい弟。怯むことなく攻撃をかわし、人生で一番重いパンチを放った男。
決闘が始まる前から俺は男としても王族としても負けていたんだ。
「俺の完敗だよ、ギルバード……。いや、ギルバード様。これからは貴方のために働かせていただこう」
◇◆◇◆
王位継承権第43位、ギルバード・エッテルニヒの情報をまとめ終えた私は資料を持って国王陛下に報告する。
「ギルバード王子のレベルは推定でも5、エッテルニヒ公爵夫人の報告によりますとコボルトロードを討伐したとあります」
報告を受けた国王陛下は暫し顎に手を置き、考える仕草を見せる。ため息をつくと手をヒラヒラと振って口を開けた。
「メリケン宰相、よきにはからえ」
国王陛下からの許しを得た私は一礼して執務室から退室する。
前線から退いて三年、すっかり国王陛下は腑抜けてしまった。
戦があれば出陣し、わずかな平和な時に内政もこなす国王陛下は私の憧れだった。それが今はどうだろう?
実務は部下に丸投げし、監視をつけることさえしない。辛うじて裏から手を回し、不正がないよう私が管理している事態だ。
三年前ならば資料を受け取って目に通すほど疑り深い国王陛下の見る影はない。理想の君主から離れていく国王陛下を前に私は無力だった。
手に持った資料を見る。ギルバード・エッテルニヒの詳細な経歴が記載されたそれには当然、ギルバードの顔写真も貼り付けられている。
「類稀なる髪色、鮮血の如き眼……。おまけに単独でコボルトロードを討伐するほどの大胆さ。加えて前日の決闘で勝利し、敗者に情けをかけるほどの器の持ち主」
国王陛下の腑抜けた顔と凛々しい顔つきのギルバードを比べる。写真のギルバードと視線が交わった時、頭頂部から爪先にかけて電撃の如き衝撃が走った。
ギルバード・エッテルニヒこそがこのクラン王国の君主にふさわしい!
王太子のアルベシード、長女のベラドンナは権力争いに固執するばかりである。国内の有力貴族、商会は軒並み派閥争いに巻き込まれた。その結果国内の物価は高騰、優秀な技術者の暗殺が相次いだ。
過去に魔物大発生が起きた際に王族の誰を派遣するべきかという会議が停滞したのも勢力図が変わることを恐れた彼らによって妨害を受けたものだ。事態が深刻になる前に国王陛下を説得してようやく直属の騎士団を向かわせたことで沈静化させた経緯もある。
アルベシード、ベラドンナのどちらが王になろうと国は荒れるだろう。最悪な展開として反乱を恐れて王族を全員処刑することもありうる。
だがきっとギルバードが王となればこの国の内政は安定し、地に落ちた王室の権威も復活するだろう。
「権力争いに参加するのは見積もって冒険者学校を卒業してから、ならばそれまでは基盤強化に尽力せねば……!」
これまで国王陛下に押し付けられ、理想が地に堕ちゆく姿を見せつけられた私の心に光が差す。
「この宰相メルケル、必ずやギルバード様を王にしてみせましょう!!」
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