ギルバード様のようになりたい!

ギルバード様はパーティーにご参加なされるということで今日は一人で特訓だ。


目標は魔法を使いこなすこと!昨日のギルバード様のような威力を出せるようになりたい!


まずは魔法の練習からだ。やるぞ、えいえいおー!


「ウォーターランス!」


水の槍が幹に突き刺さる。昨日よりは威力が上がったようだ。木の皮が剥がれ、中の白い部分が見える。


「あれ、昨日よりも魔力の減りが少ない?」


一発撃てばヘロヘロになったが、今日は様子が違った。この魔力の調子ならあと四、五発は撃てそう。きっと成長したに違いない!


もしかして毎日魔法を使えばもっと魔法を練習できるようになるかな?早くギルバード様のようになりたい!


魔法の練習を続けようとしていると木陰からコボルトが飛び出してきた。ひょいと爪撃を交わして距離を取る。


丁度いいところに練習相手が来た!


動く的に当てられたらギルバード様も褒めてくれるよね!


「ウォーターランス!」


ちょっと魔力を込めて魔法を打つ。発射した水の槍はコボルトの胴体を穿ち、その背後にある大木を伐採した。


「きゃー!威力が上がってるやったー!」


ぽっかり穴の空いたコボルトの死体に手を突っ込んで魔石を取り出す。ぴょんぴょん飛び跳ねながら魔石を光に透かして見る。ゴブリンの魔石は緑色だがコボルトは白濁した色が特徴的だ。


人生で生まれて初めて獲得した魔石をポケットにしまう。後で商人に買い取ってもらおう。


『ででででれれーん!』

「ひゃあ、魔物!?」


突然何処からともなく響いた音にびっくりして周囲を見回す。特に何もいない。首を傾げていると人間の声とは違った声が空から聞こえてきた。


『レベルアップおめでとうございます、エミリア様。現在のレベルは5です』

「レベルアップ?」

『次のレベルアップまであと300の経験値が必要です』


確か魔物を倒すと強くなれると冒険者の人が言ってた。レベルというのは絶対的な力の差だとかなんとか、最低でも20は必要らしい。


『レベルが5に到達しましたのでステータス魔法を習得しました。呪文はステータスチェックです。続いてパーティーに参加できるようになりました』

「え?え?え?」


いきなりぶわーっと情報を告げた声はぱったりと途絶えてしまった。呼びかけてみても返答はない。


どうしよう、とりあえずステータス魔法というのを試してみよう。


「ステータスチェック!」


呪文を唱えてみたけど何も起こらない。適性がなかったのかな?


私は首を傾げて掌を見てみる。そこに黒くて四角いものが現れていた。片方の手で突いてみるけれどもすっと通り抜ける。


「なんだろう、これ?」


じっくり観察してみると白字でなにか書いてあるようだった。


____________________

名前:エミリア

職業ジョブ:無し


レベル:5


能力値

筋力:20

俊敏:23

魔力:9

知性:9

体力:17


習得魔法:

水魔法 ウォーターランス

____________________


これが私のステータス?うーん、他の人のステータスを知らないから強いのか弱いのかわかんないなぁ。


唸りながら掌を見つめているとフッと消えてしまった。どうやら時間制限で消えちゃうみたい。


うーん、悩んでいても仕方ない!とにかく今は練習あるのみ!


背後から奇襲をかけようとしたコボルトの頭部を魔法で吹き飛ばし、首から手を突っ込んで魔石を取る。


何故かは知らないけど心臓の近くに魔石が出来るんだって。昨日帰り道にギルバード様が教えてくださった。


博識なギルバード様の教えを胸に刻みつつ、3体目と4体目のコボルトを水の槍で殺す。


ゴブリンならともかくコボルト程度なら余裕だね!それもこれもギルバード様が魔法を教えてくださったからだ!


逃げようとしたコボルトの背中に魔法を打ち込む。木の幹に突き刺さった哀れな魔物は数回痙攣したあと血を吹き出して動かなくなった。


「GUAAAAAAAAAAA!!!!」


上空から現れた大きな狼の爪を避ける。影が見えてなかったら当たってたかも、危機一髪だったね!


そういえば一昨日狩人さんが『あの森には魔物がいるから無闇に入っちゃダメだぞ!』って言ってた気がする!


どうしよう!ギルバード様が居たならどうにかなったのに今はひとりぼっちだ!


唸り声をあげた狼はよだれを垂れ流し、腐臭の漂う息を吐き出した。きゃー、気持ち悪いし怖いよー!


ガパッと顎門を開けると鋭くくすんだ象牙色の牙が見えた。飛びかかってきた狼に死を覚悟して目を瞑って魔法を唱える。


「ウォーターランス!」




ドパァン、と何かが弾ける音がした。


ビシャビシャと生暖かい液体が全身に掛かる。恐る恐る目を開けると首から上がない狼が血を吹き出しながら地面に膝をついていた。


『レベルアップおめでとうございます、エミリア様。現在のレベルは7です。次のレベルアップまであと1,000の経験値が必要です』


プシュッ、プシュッと噴水みたいに血を吹き出した後ゆっくりと地面に倒れる。


「倒しちゃった」


ぶつけちゃった手がちょっとヒリヒリする。でもそんなことより勝利した喜びが心を支配した。


血溜まりのできた地面に膝をつき、両手を組んで空を見上げる。


「ありがとうございます、ギルバード様!私に魔法を教えてくださったのはこの為だったんですね!この命、ギルバード様のために捧げますッ!!」


きっとギルバード様は私が魔物と遭遇エンカウントすることまで想定していたんだ!なんて素晴らしいお方なんだろう!!


一度ならず二度も私ごとき平民の命を救って下さるなんて、神に等しき慈悲深い心を持っているなんて!私はギルバード様にお仕えするために生まれてきたに違いない!!


「ギルバード様に出会えて私、とっても幸せですッ!!」


立ち上がって狼の胸骨を両手で裂き、心臓を引き千切ってそこらへんに投げ捨てる。


腕を突っ込んで魔石を取り出した。


「あ、2個ある!ラッキー!」


取り出した魔石は燻んだ灰色をしていた。体が大きいと魔石の数も増えるんだ、覚えておこう。


視界の端でチラリと逃げ出したコボルトを捕らえる。残ってる魔力はもうないから素手で殺るしかないや。


「まあ、魔法で打ったカンジだと木より柔らかいから大丈夫かなっ!」


逃げ出したコボルトの背中の毛を掴んで地面に叩きつけて馬乗りになる。


「がうっ、きゅーん。きゅーん?」


なにやら瞳をウルウルさせてるけどどうしたんだろう?首を傾げて上目遣いで私を見てる。私も釣られて首を傾げた。


「きゅう、きゅーん」


うーん、なにがしたいのか分かんないや。でもこのまま見ているわけにもいかないから手っ取り早く殺そう。


ドスッと手刀を胸に差し込み、そのまま魔石を抜き取った。


手についた血をブンブン振って周囲を見る。


「魔石が7個!やった、今日の夜ご飯が豪華になる!」


取り損ねていた魔石も回収した私はルンルンと鼻歌を歌いながら家に帰った。


◇◆◇◆


エッテルニヒ公爵夫人からの依頼でしがない冒険者の俺は今日も森に入る。


なんでもコボルトロード率いるコボルトの群れが最近森に入り込んで定住しちまったらしい。


息子を送り届けたということで伝手を得られた俺は他の冒険者を出し抜いて指名依頼を獲得したってわけだ。


「実際、15レベル以下のヤツじゃ相手にもならねぇ魔物だ。20レベルの俺に依頼して正解だぜ」


ふと一昨日の子供達を思い出す。遭遇エンカウントしなかっただけ幸運だったな。子供達ではなすすべなく殺されていただろう。


いくらギルバードの坊ちゃんの職業ジョブ上位ハイクラスの剣聖だったとしても太刀打ちできないだろうな。


足音を立てずに森の中を進む。地面についた足跡は新鮮なもので如実にコボルトロードに近づいていることを示していた。


コボルトはゴブリンよりも集団戦に特化していることが特徴だ。肉食のコボルトは雑食のゴブリンに比べて必然的に狩りの経験が多い。


冒険者の登竜門とも呼ばれている魔物だ。一体何人の冒険者がこの魔物に殺されたことか。過去に苦戦を強いられたことを思い出し、気を引き締める。


「気配が……ない?」


長年の冒険者としての俺の勘が告げる。この辺りにコボルトは一体もいない、と。


木々の隙間から黒い毛皮が見えた。吹いた風から血の匂いを嗅ぎ取り、弓矢を構えつつ接近する。


「な、なんだこれは!?」


飛び込んできたあたり一体血の海と化した景色を眺める。報告にあったコボルトの数よりも2倍多く、その中央にあるコボルトロードと思われる死体が事態の異様さを語っていた。


「惨い……」


どの死体も魔石が抜き取られており、数本の木が地面に転がっていた。


「誰の仕業だ。……足跡は一つ、この大きさは子供?」


足跡は俺の足の半分ほど、靴跡は一種類しかない。靴の種類は街でよく見る子供用のものだ。


「子供が魔法を使って倒したのか?信じられん」


驚愕の思いで人物を特定するための手掛かりを探す。子供ながらに魔物を倒すなんて、伝説の勇者に違いない!


死体の傷口を調べる。指についた液体をしげしげと観察し、一つの魔法に行き着いた。


「水魔法を使う子供、たしかエッテルニヒ家は代々水魔法でこの領地を統治していたな」


俺は自分で出した結論に鳥肌がたった。


そう、コボルトの群れを残らずぶち殺した人物とはッ!コボルトロードの頭を吹っ飛ばした子供とはッ!水魔法を使った子供とはッ!



ギルバード・エッテルニヒに違いない!!



妾のエッテルニヒ公爵夫人の息子というだけで王宮を追い出された不遇の王位継承権第43位、ギルバード・エッテルニヒ。その父はクラン王国、国王陛下その人である。


王族の祖先に勇者がいたという、その血を引く国王陛下も類い稀な髪の色と瞳を持っていた。常勝無敗、戦さ場に出れば誰もがその鮮血の如き瞳と髪を恐れたものだ。今は歳を理由に内政に力を入れている尊く、我が国の象徴たるお方。


魔王を封印する力を持った人でありながら人ならざる存在、勇者。御伽噺によれば珍しい髪の色と瞳を持っているため、だれもがその人を見れば勇者と気づくらしい。


星のように煌めく髪、鮮血の如き瞳を受け継いだギルバード・エッテルニヒ、あのお方こそが勇者に違いない!


「まさか御伽噺の存在があんなにも近くにいたなんて、いいや、いらっしゃったなんて!早くご報告しなければ!うおおおおお!!」

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