第24話 みっちゃん③

「これは、何ですか」


 リビングに入った朝霧が、間髪を入れず光永に聞いた。


「野菜炒めですぅ。みっちゃん、頑張りましたぁ」


 テーブルに置かれた野菜炒めと呼ばれたそれは、やや黒みがかり、食べられる物なのか定かでは無い。


「料理は、あまりしないのかな?」

「みっちゃん、普段はお菓子がご飯だから。でも、男の子って、お野菜とかお肉とか好きなんでしょ?」


 優しい口調で朝霧が質問すると、光永が体をクネクネさせた。


 そんな光永の話を聞かず朝霧はアイランドキッチンに立つと、手際良く料理を始める。すると美味しそうな香りが漂っきた。


「料理は愛情というけど、美味しい方がなお嬉しいものですよね」


 否定してないけど、明らかに光永をdisってる。


「うわぁ、燃えてる!」

「フランベですよ」


 絶対旨い肉が焼けているのを嗅覚が感じ取った。


「野菜がありので、お肉も食べたいですよね」


 出来上がったステーキを朝霧はリビングには込ぶと、ナイフで切り分ける。焦げた野菜炒めも一緒に。痛い優しさだ。


「朝霧さん、お料理上手ぅ」


 誰よりも先にフォークを手にした光永が歓喜の声を上げたかと思うと、リビングのテーブルに倒れ込んだ。


「みっちゃん?みっちゃん?!」


 慌てて声をかけるが、フォークを持った光永は、リビングのテーブルに頭を乗せたまま動かない。


「みっちゃん、大丈夫?」


 朝霧が光永の肩に手をかけた瞬間、光永が顔を上げた。


「来るぞ」


 聞いた事のない低音ボイスで光永が呟いた。


 香ばしい肉の匂いに混じり、生臭い臭いが鼻をつく。なんだ?

 

 疑問に思って朝霧に目をやると、彼は固まったまま、バルコニーを見つめていた。


「あいつか」


 すっくと立ち上がった光永がバルコニーの方へ歩き始める。が、オレには綺麗な夜景しか見えない。


「キサマ、誰だ」


 出すの効いた声で光永がバルコニーに向かい話しかける。今までに無い強い眼差しの光永に、朝霧は硬直したまま、動けなくなっていた。


「ふっ、雑魚が。消えるとは情けない」


 言い終えた光永が、膝から崩れ落ちた。


「み、みっちゃん?!」


 俺は駆け寄り光永を抱き抱えた。


「やだぁ、伊藤ちゃん、ハグしてくれるのぉ?」


 先程の勇ましい雰囲気が消え、いつもの光永が俺に抱きついてくる。


「いや、ちょ、違いますから」


 光永を引き剥がし、俺は逃げるようにリビングの定位置に戻った。


「分かったぞぅ!朝霧さぁん、写真見せてくれますぅ?」


 光永の一言で我に帰った朝霧が、目を瞬かせている。


「写真、ですか?」

「スマホの写真でもいいしぃ、インスタとかでも良いよぅ」


 訳が分からないと言った表情の朝霧は、言われるがままにスマホを差し出した。


「うーん、違うなぁ。あ、ご飯食べてて良いですよぅ」


 俺と朝霧は、キョトンとしたまま光永を見つめた。


「さっきの聞きたいですかぁ」

「何があったんです?」

「幽霊さんがいたので、それを探しているんですぅ」

「でも、俺の周りで最近亡くなった人はいませんよ」


 不思議そうな表情を浮かべた朝霧に見向きもしない光永に、俺は見入ってしまう。

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