5章
第22話 みっちゃん①
「こんにちはぁ。みっちゃんでぇす」
第一声に、全身の鳥肌が立つ。さすが鐘江の友達。丸々した巨体は黒いゴスロリの衣装で飾られている。大きな顔の割に小さな目は、間違いなく俺を見つめていた。
「はぁ、こんにちは」
「やだぁ、伊藤さんは恥ずかしがり屋さんですか?」
編集長は、苦笑いを浮かべているが、本当にこの人が、凄い霊媒師なのだろうか。
「では、光永さんと伊藤で、朝霧さんの所に・・・」
「編集長さぁん、みっちゃんって呼んでよぅ」
「みっちゃんと伊藤で、朝霧さんの所に取材に行ってください」
うざい。ウザすぎる。こんな人とコンビを組む羽目になるとは。
時間を遡る事4時間前。鐘江から声をかけられた。
「伊藤さん、行く?」
一通のメールには、霊障に悩んでいる朝霧家の事情が認められており、これを解決して欲しいとの要望だった。
「美琴さんを呼びます?」
「そう思ったんだが、彼女は忙しいそうだ」
俺が取材に行った所で、解決は無理だ。そう思った時、鐘江が口を開いた。
「知り合い、凄い霊媒師が、います」
「そうか。鐘江、呼んでくれ」
渡りに船かと思った話だったが、来てくれた凄い霊媒師は、ある意味凄かった。
それが、みっちゃんだ。
「あのぅ、このリボン、可愛いくないです?」
「そうですね」
「このスカートも、お気に入りなんですぅ」
「そうですか」
「今日は、可愛く髪も巻いてきたんですけどぉ」
「可愛いですね」
棒読みで答える俺の心は確かに泥水なのだろう。朝霧邸に着くまで、ゴスロリトークが続き、俺はゲンナリしていた。
朝霧邸は豪華なタワーマンションの一室だ。
「家賃高そうぅ」
テンション上がるゴスロリを連れ、俺はタワーマンションのインターフォンを押した。
「はい」
「月刊奇々怪界の伊藤と申します」
オートロックが開き、シャンデリアと豪華な生花の飾られたロビーが視界に広がる。
「うわぁぁ、お金持ちだぁぁ」
「そうですね」
冷え切った心のまま、エレベーターに乗り10階を目指す。しかし、こんな新築のハイソサエティな場所に幽霊が出るものなのだろうか。
訪れた朝霧邸は、広く、まるでショールームのようだった。お洒落な間接照明を駆使した広々としたリビングに、依頼人の朝霧はいた。
「わざわざお越し頂き、ありがとうございます」
「初めまして、奇々怪界の伊藤です。こちらは、霊媒師の」
「みっちゃんでぇす」
もうね、誰にも彼女は止められないよ。朝霧さんも、目を丸くしてるし、フォローし切れない。
「それで、状況を教えて頂きたいのですが」
「あ、あ、はい」
みっちゃんにガン見された朝霧は、我を取り戻し、俺の方を向いた。
「毎晩、ベランダや寝室に、女が立っているんです」
「やだぁ、こわい!」
光永はオニギリのようなグーにした両手を頬に当て、体を左右に振った。
みっちゃん、それを解決するために来たんだろう。ていうか、怖くないのに怖がるなよ。
「朝霧さん、失礼ですが、お一人でお住まいですか?」
「はい。独身なもんで」
「いつ頃から幽霊は出てきたんです?」
「ここ1ヶ月くらい、でしょうか」
「幽霊とか、こわーいぃ」
光永が口を挟むたび、俺と朝霧の間に微妙な空気が流れる。
「最初は幻覚かと思ったんです。仕事も忙しいし、睡眠時間も短いし。それが幽霊なのかは、今も分かりません」
アシンメトリーの前髪をかきあげ、朝霧はため息をつく。
雑誌から抜け出して来たのかと思うほどシュッとしたスタイルに、部屋着もお洒落。彫りの深い顔立ち。俺とは月とすっぽんだ。
30代前半、働き盛りだろう。ましてや高級マンションに住める仕事をしているということは、かなり多忙な日々を過ごしているはずだ。
「では、幽霊が見えた所を、見せて頂けますか?」
夕陽が差し込む部屋の中を、朝霧は案内してくれた。
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