第20話 ダブレスレット④
ーーピンポーン
チャイムが鳴る音に、俺は目蓋を開いた。どうやらまた寝てしまったらしい。
重たく、あちこち痛む身体に鞭打ち、玄関へと向かう。
「イトー、イル?ワタシ、ミコトニ タノマレテ キタヨー」
中華料理をデリバリーしてきそうな声が、ドアの向こうから聞こえた。
ドアを開けると、これまた中華料理を作らせたら本格的な物が作れそうな、太めの中年女性が立っている。
「アナタ、イトーネ。ワタシ、ワン。ワンサン、ヨンデネ」
俺のことは呼び捨てなのに、ワンサンと呼ばせるのか。ワンは目が合った途端、マシンガントークを始めた。
「アアー、ヤバイヨー、イトー、ヤバイヨー。ウチ、クルト、イイヨ。カレモ、ガンバッタ、ツカレテルヨー。カラダ、イタイー?ダイジョブ、イエ、チカイカラ」
もうね、カオス。身体は痛いし、寝起きで思考回路が停止してる時に、片言のマシンガントークってイミフメー。
「ワンさん、美琴さんに言われて来られたのですね」
「ソウヨー、イクヨー、ワタシノイエ」
「俺の家にいたら、駄目なんですか?」
「ハァッ?!ダメヨー!ワカラナイ?」
「そうなんですね」
うーむ、疲れてきた。このまま流されてワンの家に行くのがいいのか。でも、もっと疲れそう。
「俺、家にいたいんですけど」
「ナニイッテル!イトー、イクヨー。ハイ、ヨウイシテ」
ぜんっぜん俺の意思を尊重してくれない。
「イトー、チカクニ、キテルヨー。ウチ二、コナイト、タイヘンヨー」
なんだか分からないけど、結局ワンの家へ無理矢理連れて行かれた。
車で15分、確かに近かったが、こんな所に中華料理店があったとは。
「エンリョシナーイ、ハイッテー」
年季の入った暖簾をくぐり中に入ると、昔ながらの丸椅子とカウンター、それにテーブル席が3席の店だった。
「サテ、ハズスヨー」
「何をですか?」
「ソレ、ウデワネー」
ちょっと待て。まだ検証は終わっていない。ボトル入れただけで、飲んでないのにお会計しないだろう?!
「もう少し時間が欲しいんですけど」
「ジカン イラナイネー。スグ、オワルヨ」
どうしよう、日本語のニュアンスって難しい。ここはズバッと言うところだな。
「呪いがあるなら、体験したいんです」
「タイケン?ナンデー?」
もうね、宇宙人と交信してるみたい。山にトンネル掘るくらい、国境の壁は厚い。理由をガッツリ説明してみるが、見事に反論を食らった。
「ナーニイッテル!バカカ!」
馬鹿って酷くない?せめて、仕事熱心ですね、ぐらいに濁して欲しい。とにかく説得し続けて、俺は後1日だけ猶予を貰った。
とはいえ、後1日でどうなるかは、俺も分からない。
「ココデ ネロヨー」
中華料理をたらふく頂いた後、2階にある部屋へと通された。布団しかない殺風景な部屋である。普段は使用していないのだろう。
俺は着てきた私服のまま布団に入り、電気を消した。外からは、酔っ払いの笑い声が聞こえた。
少しの油の匂いが染み付いた布団は、それなりに気持ちのいいものだった。
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