第18話 ダブレスレット②

 届いたそれは普通のブレスレットだった。8005円、経費で落としてもらえる事を願いつつ、とりあえず腕につけてみる。


 左手首は、黒い数珠と金のダブルブレスレット。どう見てもオシャレじゃないし、変人のセンスだ。


「どう?付けてみて?」


 興味津々に編集長が聞いてくる。


「今のところ、特には」


 以前の持ち主に尋ねたところ、これを貰ってから怪我をしたり、夢見が悪かったりしたそうだ。


 以前の持ち主に、このブレスレットをプレゼントした人も、同様だったらしい。


 曰く付きと知っていて貰った以前の持ち主もどうかと思うが、実物を見ると、特に変わった所はないので、恐らく当初は気にもしてなかったのだろう。


 初日、夢見も悪くなく、全く普通の日常だった。左手首はおかしな事になっている以外は、だが。


 2日目も特に何もない。3日目も同じ。


 こうなってくると、俺が超鈍感なのかと、疑いたくなる。


 4日目、残念ながら昨夜もグッスリ眠れて、気持ち良い目覚めだった。


 5日目、いい加減、何かしらアクションがあってもいいんじゃない?風呂に入る時も、寝る時も、24時間ブレスレット付けてるんだし。


 6日目、何もない。むしろ平穏過ぎて暇なくらいだし、ネタも全く落としてくれない。落ちるのは編集長の雷だけ。


「あの、もしかして、その数珠、原因かも」


 鐘江に言われて俺はハッとした。美琴の数珠の効果が凄くて、異変が起きないのか!


「そういう事か!」


 俺は美琴の数珠を外した。これで、何かしら起きるはずだ。


 7日目、期待に胸を膨らませ、スッキリした朝を迎えた。変わんねーじゃん。


 やっぱり、曰く付きとか呪われるとか、そもそも気のせいなのだろう。


 出勤しながら、何故、俺には何も起こらないのかを考えた。


 一つは、俺が鈍感だから。可能性としてはあるが、鈍感が呪われないという理論が成り立つのかは疑問だ。


 二つ目は、このブレスレット自体、曰く付きではないという事。たまたま不幸が重なったのを「曰く付き」というジャンルとしてしまった可能性もある。これなら、俺は鈍感とは言えない。


 三つ目はーー


 考えながら横断歩道を渡っていた時、曲がってきた車が俺に突っ込んでくる。


 マジかと思った時には、俺は海を漂う海月のように、空中を飛んでいた。


 そう、三つ目は、このブレスレットは曰く付きだったという事。ただ、不幸が起こるタイミングは様々で、もしかしたら美琴の数珠に、ずっと俺が守られていただけだったという可能性。これが一番リアルな仮説だな。


 とにかく、最初の期待が値高かったにも関わらず1週間何も変化がないのに、たかを括ってしまっていたんだな。


 通販のCMを見てダイエットサプリを衝動買いしてしまったものの、1週間経っても痩せないから解約しようとした時に言われた言葉が頭を過ぎる。


 お客様、この商品は継続しなきゃ効果はでないですよー。


 あれと一緒だ。


 アスファルトに叩きつけられながら、俺は意識を失った。




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