第16話 廃病リポート 結

 俺ってどうしてこうなんだろう。


「まぁ、記事はそれでいい。だが、お前はどうして肝心な時に、凡ミスをするんだ?」


 編集長は、落ち着いた口調だが、明らかに端々に怒りの感情が溢れている。


「赤外線カメラでも何でもな。シャッターを押したり、レックボタンを押さないと、撮影は出来ないんだよ。知らないのか」


 知っています。マルも言ってました。ただ、俺がレックボタンを押し忘れて、何も写ってませんでした。


 2階ではカリカリの音に惑わされ、3階ではパニックになり、何も撮れていませんでした。


「まぁ、お前が一番落ち込んでるのは分かる」


 後ろからブフッという笑い声が聞こえる。鐘江め、いつかギャフンと言わせてやる。


「後は、カメラマンの友人君が、何か撮影してたら、御の字だな」


 そうだ。マルがまだいる。あの日は、俺もマルもぐったり疲れて無言のまま帰宅したのだった。


 マルが何を見たのか、俺は聞けなかった。彼も同じく、俺が何を見たのか聞かなかった。それくらい憔悴していたなかもしれない。


 デスクに戻りメールチェックをすると、マルからメールが届いていた。



『この前はお疲れ。伊藤ちゃんのおかげで、なかなか面白い体験ができたよ。


あの日撮影した写真の中で、怪しいのがあったから送る。


それと、一つ確認なんだけど、1階に誰かいたよな?


俺が1人で先に降りた時、誰もいなかったから、1階だけ見て帰ったのかなと思ったんだけど、、引き上げるのが早いというか、何か引っかかって。


その上、こんな写真が撮れたから怖くてさ。


何か起きたら怖いから連絡する』



 そんな筈はない。マルが1階に降りた後も、複数人の足音や話す声が2階で聞いた。


 ただ、あれだけ床に物が散らばっている中、走るのは困難だと、気がついた。


 俺はゴクリと唾を飲み込み、添付ファイルを開く。


 マルがしゃがみ込みながら撮影した写真が、PC画面いっぱいに表示される。


 瓦礫だらけの長い廊下。光が届くか届かないかの所に、視点が釘付けになった。


 そこには、ボンヤリとだが、足が写っている。正確には足首まで。それより上は、暗いせいか、消えている。


「編集長!」


 ガタンと椅子を鳴らしながら俺は呼んだ。歩み寄った編集長は、画面に顔を近づける。


「どうした?・・・ふぅん、悪くないね」

「心霊写真ですか?」


 恐々聞くが、返事は無い。


「どうなんだろうか。それを知ってるのは、お前自身じゃないのか?」

「では、心霊写真です!」


 自信を持って言うと、編集長はフッと笑った。


「お前さ、何の取材に行ったんだ?」

「首なしナース、です」

「だよな」


 ふうと深呼吸をし、編集長は続ける。


「首なしナースは?タイトルも首なしナースの霊、だよな。お前が取材したのは、複数人の幽霊と、首から上のナースか?首なしナースは、何処に行った?」


 ああ、怒ってる。幽霊より怖い。


「た、タイトル変えま・・・」

「そうじゃないだろ?結果オーライじゃ、行き詰まるのは目に見えてる。お前だって、分かっているだろうが」


 マルのおかげで記事の掲載は決定したが、俺の評価は下がったままだった。


 幽霊より仕事の厳しさのほうが、恐ろしいものである。打倒山田の道は、とんでもなく程遠い。

 


 

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