3章
第12話 廃病リポート①
今回のミッションは、打倒山田だ。
山田とは、売り込みも強気な、体を張って記事を作ってくるフリーのライターだ。ちょっと顔が良いの自慢したいのか、必ず心霊プラス自分を写した写真を持参するのも、鼻につく。
更に言えば、愛読者の中に山田ファンも存在する。ヤマダーと呼ばれるファン層は、山田の記事が無いと雑誌も買わないという徹底ぶりだ。
山田の癖に、ヤマダーに好かれやがって。俺だったら、自分のファンのことをイトーとか呼ばない。俺の名前そのまんまだし。
「山田と同じネタで行くんだ。負けたら、分かってるよな」
編集長の恫喝ともとれる言葉を受け、俺は万全を期し事に臨む準備をしている。
あんな、チャラい男に俺が負ける訳がない。俺よりうんとキャリアが長く、心霊現象にたけてるだけの山田なんて。
真夜中に廃病院に潜り込んで、よく出ると有名な首のないナースの霊を写真に納めるなんて、ちょろいもんだ。なのに、なぜだろう。目から汗がジワジワと溢れてきて、視界が滲んでくる。
「これ、何?お清めスプレーって、お前、マジか?」
大丈夫、大丈夫、うまくいくさ、と、いつか聴いたJ-POPの歌詞のような呪文を唱えつつ、ナップザックに懐中電灯を詰め込む俺に、呑気に声を掛けてきたのは丸岡だった。
「マルよ、備えあれば憂いなしだぞ。油断は禁物である」
「お前って、そんな奴だったっけ」
丸岡英二、29歳独身。通称マルは新聞記者時代からの戦友のカメラマンだ。俺が記事を書き、マルの写真が掲載される、そんな関係だ。
「そんな事よりマル、カメラは準備できてるのか?」
「休日なのに準備した俺って天才」
幽霊福山の家での失敗(もちろん写真撮影の事)を活かし、今回はガチのカメラマンに、助っ人を頼んだのだ。
「どんなカメラを選んだんだ?」
カメラに精通している訳ではないが、やはりプロが使うものは、見ておきたい。
「一つは、赤外線カメラ。そしてもう一つは」
マルは勿体ぶりながら、鞄からカメラを取り出し、天高く掲げた。
「アイポンの最新モデル!ナイトモードも、めっちゃ綺麗に撮れるんだぜ」
それ、最新機種のスマートフォンやん。欲しいヤツだけど、プロが使えば良い写真が撮れるのも分かるけど、スマホで撮影かぁ。ノーギャラだから仕方ない。
「あ、今、マジかーって凹んだやろ?なめんなアイポンを!」
「分かった、分かった」
本当なら美琴も呼びたかったのだが、相談役となった彼女の依頼料は、かなり高かったため、今回は諦めた。
「よし、準備できたぞ」
しかし、幽霊は見たいものの、あからさまに「出る」と言われると尻込みしてしまう。
「マル、塩は持っていけよ。さっき買った粗塩な」
例えるなら、袋とじだとワクワクするが、いきなり見開きでバーンと出てると書いてあると、萎えるのに似ている。
「ああ、粗塩ね。ちょっとキッチンで探してくる」
どうしてこんな仕事についちゃったのかなぁ。勢いって怖い。
「任せたぞ」
こうして俺たちは、深夜0時、廃病院へのドライブに立った。
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