第11話 ギーテン 結

「怖さには欠けるが、まずまずだ」


 小久保ファミリーを軸に、幽霊との関わり方をまとめた記事に、編集長から総評を貰う。


「で、ですね。写真なのですが」


 迷った末、美琴が変なポーズで壁際に立つ写真を編集長に見せる。掲載すべきか否か、俺には判断できなかったからだ。


「うん?!おお!こりゃ良いね!ちょっと鐘江!」


 一目見た編集長が鐘江を呼ぶ。写真を見た鐘江は目を丸くした。


「この人、知り合い?誰?」

「巫女の美琴さんです」

「ちょっと、連絡、して」


 スマホを取り出し美琴に電話をかけようとした時、編集室の扉が勢いよく開いた。


「おはようございます!巫女の美琴でーす」


 今日も巫女姿で登場・・・って、何でここに?!


「呼ばれると思って、来ちゃいましたー」

「どうして会社の場所を?」

「名刺もらってたから」


 こいつ、何でも分かるのか?俺が昨日、僅かに下心を持った事も気づいていたらまずい。取り消したい。


「初めまして。鐘江デス」


 編集長より先に鐘江が美琴を迎える。鐘江には羞恥心と常識がない為、これでもかというくらい、美琴をあちこちの角度から凝視している。キモい、さすがにキモいが、羨ましいの。


「巫女の美琴さん、ギーテンとの写真を見ました」


 編集長はニコニコして写真を美琴に見せる。俺には向けられた事のない、満面の笑みだ。


「あ!編集長さんも鐘江さんも、視える人ですねー」

「そこで、お願いがあります」

「はい!編集長さん、お考えの1.25倍で引き受けちゃいまーす」


 さっぱり話が理解できない。なんだ?初めて来たのに、なんか引き受けんの?


「さすがですね。では、それでお願いします」


 編集長はペコリと頭を下げる。


「何の事ですか?」

「あのね、写真は、ギーテンと私が握手してる所なの。でも、ギーテンが視えてないと、分かんないのね」


 あ、握手してたのか。って、全然俺見えてないし。鐘江と編集長は、視えるって事か?


「でねでね、私は奇々怪界の相談役になるのー」

「相談役?」

「そう。困った時の美琴ちゃんなのだー」


 それが1.25倍。ギャラの事か?!もしかして、ここに呼ばれる事も、相談役になる事も、全てお見通しだったのか。


「ところで、ギーテンの話も聞かせて欲しいのですが」


 編集長、俺、全部書いたよ。その内容で納得したはずだよね。俺の事、信用してない?


「ギーテンは、そのうち消えるよー」

「え?末長く家族を見守るんじゃないの?」


 はぁ、とため息をつきながら、美琴は椅子に座る。そこ、俺の席なんだけど。


「ギーテンはね、本当に植物みたいに生えてるの。植物も育ちきったら枯れるでしょ?そんな感じで消えるの。見守ってなんかないよ。ただ、そこにいるの」

「昨日の話は嘘なのか?」

「違うよー。人間は自分に都合のいい話しか聞かないの。そして、都合のいい解釈をするのね。だから、小久保さん達にとって、見守っている神みたいな存在なのは、変わらないのよ」


 屁理屈のようにも聞こえるが、美琴の言う事には一理ある。


「小久保さん家は安泰。ギーテンちゃんも安泰。ライターさんも記事が書けて安泰。編集長さんも心強い相談役が出来て安泰。私も、マルシェで小銭稼ぎしなくていいから、みーんなWIN-WIN!」


 この為に、空いた時間を俺に費やし、御礼も無料にしてくれたのか。丸っとお見通しってやつだ。


「なかなか良い人を連れてきてくれたね」


 満足げな編集長に反して、俺は美琴の能力を少し怖く感じた。

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