第5話 夜の訪問者 結
マンションは存在しており、福山が住んでいた308号室もあった。チャイムを押したが不在なのは、仕事に行っているからだと判断した。
念のため、マンションの入り口にある看板に、管理会社の連絡先があったので、連絡をしてみる?
「308号室ですね。入居希望ですか?」
「いや、福山晶さんが住んでますよね」
「恐れ入ります、308号室は1年ほど空き部屋になっております」
「でも、昨日、お邪魔したんですよ」
「申し訳ございません。そちらは空き部屋で、どなたもいらっしゃらないです」
電話口の女は押し問答を繰り返しても丁寧に答えてくれる。だが、確実に俺は「何言ってるかわかんない」客だった。
昨日訪れたモデルルームみたいな福山の部屋は、普段から全く使われておらず、ただの空き部屋だと言うのだから。俺の頭も混乱しっぱなしだし、その吐口を電話中の女に求めるのも、迷惑な話だと思った。
「あの、最後に。リスが・・・」
「お客様!リスがいますか?!」
こいつ訳わかんないみたいな空気を醸し出していた管理会社の女が、初めて強い反応を示した。
どうやらこのリスは、昼以降からしかいない管理人室で飼われていたが、1週間前にケージから逃げ出したものらしい。
リスを迎えに行くとの事で、俺はマンションの管理人、アルバイトの人と会える事になった。
「いやぁ、助かりました」
マンションから一番近い喫茶店に、アルバイト管理人がやってきた。歳はゆうに80歳くらいの、優しそうなお爺さんだ。
リスをケージに入れるや否や、お爺さんは紙袋を差し出してきた。
「お礼に、受け取って頂けますか」
「とんでもない。それより、もし良かったら、少しお話をさせて頂けませんか」
快く引き受けてくれた爺さんだが、話が長い。とにかく長い。
「あそこはずっと空き部屋でね。前の人が自殺しちゃ、そりゃ、借りてもなかなかいなくてねぇ。リス太郎」
時折、ケージのリスに話しかけるから、余計長くなる。
「人様にお名前は言っちゃいけない法律があるから、言えないけど、福山さんじゃ、なかったな。なぁ、リス太郎」
じれったい。日が暮れても終わらないんじゃないかってほど長い。
「まぁ、記者さんが言う事を信じない訳じゃない。部屋の間取りも、記者さんが言うのと同じだしねぇ。こうしてリス太郎も帰ってきたし。リス太郎が呼び寄せてくれたんかのぅ」
実際、日も傾き始めてまったのだが。要約すると、そんな感じだった。
では、俺は一体誰に会って、誰と話をしたのだろう。
喫茶店を出た俺を、黄昏時が包み込んだ。
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