第2話 夜の訪問者②
福山と何度か連絡を取り、ファミレスで待ち合わせをした。
待ってる間に、お払いをしてくれそうな神社を検索する。厄払いは多いが、リアル悪霊退散なんて、どんな神社がやってくれるか、皆目見当もつかない。
試しに鐘江にもメールで質問してみたが、返信が来るはずもなく、時間だけが過ぎてゆく。
「寺の方がいいのか?霊能力者を探すべきか?」
ブツブツ言いながら調べ直していると、福山からメールが届いた。
『もう少しで着きます!お待たせして、すみません(>人<;)』
クライアントとの待ち合わせだが、絵文字が入ると、どうしてもワクワク感が拭えない。
27歳独身ーーメールの文面が頭を過ぎる。
今日は、グレーのジャケットに紺の綿パンと、俺的には比較的清潔感のある服装で良かった。ささっと短い髪の毛を整え、まだ見ぬ福山との出会いを妄想する。
どうしよう。可愛いOLだったら。
万が一、潤んだ瞳で、今晩は泊まって行ってください、とか言われてもジェントルマンとしてスマートに対応していかねば。
仕事が片付いた後にデートをし、事故物件カップルとか冷やかされるから、結婚式では、精霊が結んだ絆ですとか言ってみたりして。
すっかり検索する手も止まった俺の前に、いつの間にか紺色のスーツを着た眼鏡をかけた男が立っていた。
「伊藤さん、ですか?」
「はい?あなたは?」
以前どこかで会った人物だろうか。記憶を遡るが、スーツの眼鏡男なんて腐るほど会いすぎて、全く思い出せない。
「遅くなりました。福山晶です」
「え?男?」
自分でも気持ち悪いくらい高い声が、頭のてっぺんから出た。
「はい。アキラって女っぽいですよね」
いや、福山君。名前だけじゃない。メールの丁寧な文面も、可愛らしい顔文字も。全てを女に結びつける俺が悪いのか。福山のうちに秘められし繊細な面を女性的と勘違いした俺が悪いのか。
とりあえず、今までのワクワク感を返して欲しい。
「失礼しました。私は奇々怪界のライター伊藤一哉と申します」
名刺も出来ていないため、自己紹介だけ済ました俺は、早速本題に入った。
「ご自宅で、何か変な出来事が起こるとの事ですが」
「はい。どこにお払いをお願いしたら良いですか?」
お払い・・・失念していた。
「その前に、状況を知りたいので、お宅にお邪魔してもいいですか?」
「なるほど。確かに事情が分からないと、どこにお願いしていいか、判断出来ないですよね」
残念だが、俺が状況を知ったところで、お払いできる場所を紹介できるか定かではない。
「分かりました。今日は半休取っているので、ぜひウチにお越し下さい」
すんなり承諾した福山の後ろを、俺はついて行く事にした。
市内某所の古びたマンション、と思いきや、比較的新しく綺麗なマンションの308号室が福山の家だった。
「広いですね」
3LDKの部屋は、日当たりも良く、木目調の家具が配置され、ちょっとしたショールームのようだ。
「はい。事故物件と知っていたのですが、家賃も相場より2万円ほど安くて決めたんです。元々家にもあまり帰らない仕事なんで」
福山に気づかれないようスマホの事故物件サイトで調べてみる。俺の家と同じ、自殺があった物件だ。
「失礼ですが、お仕事は?」
「SE、システムエンジニアです」
部屋だけでなく職業も小洒落ている。
「全部のお部屋を拝見してもいいですか?」
断りを入れ、俺は幽霊の痕跡を探す。何かをみつけなければ、クビになってしまう。
丁寧にチェックしていく。リビングは異常無し、福山の自室も異常無し。ベッドルームも問題無し。トイレも綺麗で問題無し。
そして風呂場。事故物件サイトでは、ここで男は自殺したらしい。
ガラッと浴室の扉を開ける。幽霊どころか、カビ一つない真っ白な浴室だった。霊感0な俺には、ハイソサエティな住居見学にしかならない。
「異常は無さそうですね」
リビングに戻ると、福山はコーヒーを煎れて俺を待っていた。
「昼間は比較的静かで、過ごしやすいんです」
どうぞと勧められるままソファに座り、コーヒーを頂く。
「夜に何かが起こるんですね」
「はい。最初は、凄く小さな変化だったんです」
ふうと息を吐き出しながら、福山は教えてくれた。
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