君とかくれんぼ

@happy_song

君とかくれんぼ

 君といつも待ち合わせしていたのは、車が何台も置けるとても大きな公園で、その中央には人工的に作られた大きな山があり、階段で登れるようになっていた。山の頂上には展望台もある。遊具は、丸太で作られたブランコや大きなジャングルジム、そして小さな子供が喜ぶような動物の乗り物まであった。その大きな山の周りには芝生の広場となっており、外周は遊歩道となっていた。


 僕は君の気配を感じているけれど、いつもの通り予定の時間になっても君は姿を見せない。中学生三年生だった僕らは別の学校に通っていて、君と会うためには、いつもこの大きな公園でかくれんぼをしている君を見つけないとダメだった。それは君が決めたよく分からないルールだった。


「どこにいても私を見つけて欲しいの」そう言って君は公園のどこかに隠れている。親の転勤でいつも寂しい想いをしている君だからきっとそんなことを言うのだろう。僕は君を探し出すのに本当に苦労するときもあった。とにかく君は本気で隠れているから、僕も本気で君を探さなければならない。彼女はそれを面白がっていた。早く見つけられた時には僕を褒めてくれるし、時間がかかった場合は、「はい、今日は時間切れね」と言って少しほっぺを膨らませた。そんなことが半年くらい繰り返された。だけど半年も経つと、だいたい君が隠れそうな場所も分かってきたので、君は「見つかっちゃった」と嬉しそうに言う。僕はその顔を見るといつも笑ってしまうのだ。


「すごいでしょ、もう君の隠れる場所なんてすぐに分かっちゃうんだ」僕がそう言うと、「今度もちゃんと見つけてね、約束だよ」と真剣な顔で言った。でもその時の僕はその本当の意味がよく分からなかった。


 ある日、君は隠れたまま出てこなかった。時間がどれだけ過ぎても姿を見せなかった。僕は最初は君に嫌われたのだと思った。だけど探しているうちに、ジャングルジムに袋が縛ってあるのを見つけた。それを開けてみると、今はまだ夏なのに、紺の手作りのマフラーと手紙が入っていた。


『私はまた転校することになりました。だけど、あなたなら私を探してくれる。そう信じてます。あなたの誕生日は11月なので、プレゼントはマフラーにしました。何か身につけるものを作ってプレゼントしたかったの。私の故郷は、この公園。高校はそっちの受験するつもりだから、私が戻ってきた時には、私を見つけてもらいたいの。あなたになら分かってもらえると信じてます。ユカより』


 そこには住所も電話番号も書いていない。そのくらい書いてくれてもいいじゃないかと思っていたけれど、ユカのルールは今と変わらないのだ。


 オレンジ色の夕日は僕の影を薄くして伸ばしていた。君の居場所なんてすぐに分かるさ。いつもみたいにすぐに見つけてあげるよ。紺のマフラーを巻いて、君を探しに行くからさ。だから隠れて待ってて。僕は小さな声でそう言った。

(了)

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