花屋の娘

昔、ママからこんな話を聞いたことがある。悪い魔女は火刑台に吊るされて、火で炙られて死んでしまうのよって。私の住んでる町のシンボルでもある火刑台の下で、祈りを捧げながら、泣きながらママはこう話していた。


ママ、なんで泣いてるの?


それはね、悪い魔女がママに呪いをかけたからよ。


悪い魔女さんはここにはいないよ?


そう、ね。でもママの心の中にはいるのよ。悪い魔女が、ずっっとね。


あの時、あたしはママの言っていたあの意味が全然分からなかった。だってあの時は9歳で何も知らなかったんだもの。おばあちゃんの事なんて。おばあちゃんが、火刑台で吊るされた、あの伝説の英雄ジャンヌダルクだったなんて。今なら分かる、あの言葉の意味。

きっとママは___

*******************

「_りー!エミリー!あんた聞いてるの!?」

「は、はい!きちんと聞いています!」

「もう!あんた、ただでさえ人の話聞かないのに……そんなんじゃ花屋としてやっていけないわよ。」

「……。」


春の麗らかな日差しが窓から差し込む、優雅な春のひととき。皇帝貴族であれば庭園でカモミールティーを飲んでいるであろう、午後三時。花の都パリのとある町の一角の花屋からその怒号は聞こえてきた。その怒号の主であるエンゼル・ダルクは娘であるエミリー・ダルクに向かって思い切り顔を顰めていた。対するエミリーはと言うと、少し眉尻を提げ、綺麗な金色の髪をクルクルといじり、不貞腐れたようにそっぽを向いていた。

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