第41話 事後報告


 サラの屋敷。


 エリーゼとアダムはサラの部屋に通された。


「失礼しま——」

「——ようこそ! その様子だと、昨晩はあまり熟睡できていないようですわね。このお部屋は防音効果がバッチリですので、早速お話を伺いますわ! ほほほほほっ!」 


 エリーゼが挨拶する途中、サラはまくし立てるように言葉を連ねた。

 エリーゼは圧倒されて目を見開き、アダムは苦笑しながらため息をつく。


 2人は馬車で仮眠をとったが、睡眠不足は解消されていない。

 まだ寝ぼけた状態なので、これからされるであろう尋問に耐えられるか不安を感じていた。


「サラ、翌朝は急すぎるよ……」

「あら、アダムは私を邪険に扱うのですか?」

「そういう意味じゃないよ。せめてもう少し後とか……」


 サラは呆れて首を左右に振る。


「ここまでお膳立てしたのですから、私に合わせて頂いてもよろしいのでは? おふたりからは、最初に感謝の言葉が頂けると思ったのですが……」


 サラは悲しげな表情を浮かべた。

 明らかに作った表情だが……。


「サラさん、本当にありがとうございます! おかげでアダムと結ばれることができました!」

「まぁ! エリーゼさん、おめでとうございます!」


 アダムには冷たくするサラだが、大好きなエリーゼには甘い。


「サラのおかげだよ。本当にありがとう!」


 3人は幸せな笑みを浮かべた。


「おふたりとも苦労が報われて嬉しいですわ! ゆっくりお話を伺いたいので、そちらの大きめのソファーに座ってください。寄り添って頂いても構いませんわ。ほほほほほっ」


 エリーゼとアダムは3人掛けのソファー、サラは対面の1人掛けソファーに座った。


「それで? 体の相性はどうでしたの?」


 サラは座るなり、前のめりになって質問してきた。


「サラ! なんてことを聞いてくるんだ! 淑女として恥ずかしくないのかい?」


 アダムはど直球の質問に対して顔を真っ赤にしていた。

 エリーゼも顔が熱くなり、両手で顔を扇ぐ。


「まあ、今さらですわ。私は知識欲が尋常でないことはご存知でしょう? 科学者として当然の行動ですわ。同業者のエリーゼさんも理解してくれているはずです」

「一緒にされると困ります!」


 エリーゼはすぐさま否定した。


「あら? 残念ですわ」


 サラは白けた表情になった。


「ゴホッ。そんなことより、サラが帰った後の話をするよ——」


 サラはアダムが説明している間、口を挟まずに黙って聞いていた。

 自分のことのように感動して涙を浮かべながら。


「——状況はよくわかりましたわ。いろいろ策を練りすぎて時間はかかりましたが、全て苦労は報われたのですね。私もおふたりの友人として、とても幸せな気分ですわ」


 サラは幸せそうな笑みを浮かべていた。


「サラ、本当にありがとう。サラがいなかったら、きっとこうはならなかった」

「友人ですもの、助けるのは当然ですわ」


 エリーゼは友人思いのサラに感動し、目に涙を浮かべる。


「それで、イタリ王国移住の件ですが、お手伝いできると思いますわ。知り合いや親戚がいますの。いろいろ情報を聞いておきますわ。移住しても、共同研究を続けられるように口添えも可能かと」

「サラさん、ありがとうございます。でも、しばらく研究はやめようと思ってます」


 サラはショックで目を見開いた。


「エリーゼさん! なぜですの!?」

「今回のジョーゼルカの一件でわかったんです。あの人たちは自分の都合で私を探し出し、連れ帰ろうとするでしょう。サラさんに迷惑をかける可能性も捨て切れません。目立たないようにする必要があると思うんです」

「それは一理ありますわね……。でも、とても残念なお話ですわ。共同研究が順調に進んでいましたのに……」


 サラは肩を落とした。


「本当にすみません。今後どうしようかは、ゆっくり考えるつもりです。いつか研究者として復活できればいいな、と思ってます」


 事前に聞いていたアダムは反対しなかった。

 ジョーゼルカ家のことはアダムが一番よくわかっている。


「何かやりたいことをみつけたら、相談してくださいね。お助けしますので」

「はい、ありがとうございます」

「そういえば、アダムはイタリ魔法大学院の推薦状を上司から出してもらえるのでは? ジョーゼルカ家の件で、以前から打診を受けていましたわよね?」

「うん、たぶん大丈夫だと思う」


 エリーゼはそれを聞いて、あることを思いつく。


「サラさん、私の妹がその大学院に入学できると思いますか?」

「今は学生ではありませんでしたね?」

「はい」


 サラは考えながら説明を始める。


「確か……、特例で入れたはずです。代わりに、かなり高難度の試験を受けなくてはなりませんが。最低でも、私たちの魔法学院卒業レベルが必要でしょう。入学してからも授業内容は高難度ですから、進級すら難しい、と聞いたことがあります」


 エリーゼは満足げに頷いた。


「その点は私がサポートできると思います」

「さすが私のエリーゼさんですわ」


 サラはエリーゼをうっとりした表情で見つめる。

 エリーゼはどう反応していいかわからず、作り笑いを返した。


「サラ、エリーゼは僕のものだから、その言い方はやめてくれ」


 アダムはエリーゼの肩を引き寄せる。

 サラは唇を突き出す。


「アダムに嫉妬する日がくるなんて……。でも、エリーゼさんと私の間には、アダムの入る余地がない友情が芽生えてますから。負ける気がしませんわ」


 アダムは眉間にしわを寄せる。


「それは悔しいね。エリーゼの全てが欲しい僕としては……」


 ——アダーム!? 独占欲丸出しな感じが堪らない! 幸せすぎて失神しそう!


「ほほほほほっ」

 

 サラは勝ち誇った表情を浮かべていた。


「サラ、僕は負けていないからね」


 2人はそれ以降も謎のにらみ合いを続けた。

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