第11話 研究成果


 ケリーの再生計画が始まってから半年が過ぎた。


 整形の術後経過観察は終了し、専属医師は契約通り他国へ移住した。

 移住先の開業資金など、多額のお金を口止め料としてもらっていたので満足げに出て行ってくれた。

 ジョーゼルカ家を裏切ることは恐ろしいことだ、と医師は十分理解していたので情報漏洩の心配はないはずだ。

 今はそんなことを心配している暇はないほどにケリーの忙しさは激増していた。



 アリスは、ケリーがいる実験室の扉をノックした。


「入ってー」 

「はい、失礼します」


 ケリーは机の上のモニターに向かって文章を入力しているところだった。

 アリスは邪魔にならないよう、届いた薬品類を魔法で運び入れる。


「ありがとう、いつもごめんねー」

「いいえ。ケリーさんは研究に集中してください」


 アリスはそう言った後、試薬棚に運び入れた薬品類を並べる。


「そういえば……、アダム様が魔法学院の優秀教員賞をとったという記事が出ていましたよ」

「え!? 見たい!」


 ケリーはアリスの方へ慌てて体を向け、目を輝かせる。


「ふふふっ。もう端末機に送信しておきましたよ」

「さすが、アリス。本当に仕事が早いよね〜! 愛してるよ〜」

「まあ、ケリーさん。それは私に言うべき言葉ではありませんよ?」


 そう言いながらも、アリスは嬉しそうにしていた。


「きゃー! かっこいい……アリス、アダムが凛々しいよ。全てを浄化してくれそうな神々しいものを放っているよ……」


 画面に映るアダムは左胸に勲章をつけ、笑顔で花束を抱えていた。


「アダム様は優秀な方と伺っていましたが、本当にすごいですね。苦労が報われたのではないでしょうか」

「うん。本当に報われたと思う……」


 ケリーはうっすらと涙を浮かべて頷いた。


 ——アダムは魔法の才能が高い上に努力を惜しまないからね……。アダム、本当に良かったね。


「よし、ボクももっと頑張らないと!」

「はい! 頑張ってください!」


 ケリーとアリスは拳を上げた。



 


 1ヶ月後。


 ようやく研究が一段落したケリーは、アリスを連れて中心街へ出ていた。

 道にはうっすら地面を覆う程度の雪が積もっていた。


「アリス、今日は行きたいところへ連れて行ってあげるから」

「私は特に……」


 アリスは遠慮して首を振ったが、その途中で甘い香りにつられ、思わず視線をそちらへ向けてしまう。


「ふふっ。美味しそうな香りがするよね。そこのカフェに行って暖まろうよ」


 アリスのわかりやすい反応に、ケリーは隠れて吹き出していた。


「え!? はい!」


 アリスは目を輝かせて返事をした。


 店内に入ると、暖かい空気が一気に2人を包み込んだ。

 それに加えてパンや菓子の香ばしい香りが漂ってきたので、2人は顔を緩ませる。


「いらっしゃいませ。席はご自由にどうぞ」


 店員は忙しそうに他の客の相手をしながら、2人に声をかけてくれた。


「いい香りですね!」

「うん。ショーケースの近くの席に座ろうか」

「はい!」


 2人は席につくと、それぞれメニューを手にとる。

 アリスはショーケースとメニューを何ども見返し、何を注文しようか悩んでいた。


「迷ってるなら全部頼んでいいよ。食べきれないものは持って帰ればいいんだから」

「ですが……」

「遠慮しなくていいから。日頃のお礼だと思って」

「では……」


 アリスは嬉しそうに頷き、ケリーの後に続いて店内用にケーキと紅茶のセット、持ち帰り用に2種類の焼き菓子を注文した。


 しばらくすると、注文の品が運ばれてきた。


「わぁ!」


 真っ白のクリームケーキにアリスは目を輝かせる。


「手をつけるがもったいない美しさです! ケリーさんのチョコレートも細工が綺麗ですね」


 ケリーは一口サイズのチョコレート3種類、小さなパン、コーヒーを注文していた。

 チョコレートは花の形をしているもの、表面に複雑な模様が描かれているものがあり、見るだけでも楽しめるデザインだ。


「うん。すごく綺麗な模様だよね」


 アリスが喜んでいる顔が可愛くて、ケリーは目を細めていた。


「はぁ〜。とても美味しいです!」


 一口食べたアリスは頬に手を当ててうっとりしている。


「よかった。街にわざわざ食べに来るのも大変だろうから、家で作ってみれば? せっかく街に来てるんだから、材料を買って帰ろうよ」

「え!? いいのですか?」


 料理好きなアリスは目を見開く。


「もちろん! 代わりに、私の買い物にも付き合ってね」

「はい! もちろんです!」


 2人はカフェを満喫した後、本屋、服屋、食料品店などを巡り、買い物を楽しんだ。





 2人は大きな荷物を抱え、家に戻ってきた。


「はぁ〜。結構買い込んだね」

「そうですね。荷物は私が整理しておきますので、ケリーさんは論文の続きをどうぞ」

「ありがとう。あと2週間で論文を書き終えないといけないから、それまでは頼らせてもらうよ」

「2週間と言わず、その先も頼っていただいて構いませんよ?」

「だーめ! 次はアリスが忙しくなるんだから」

「ですが……」


 アリスは眉尻を下げていた。





 3週間後。


「アリス! アリス!」


 ケリーは血相を変えて2階から駆け下りてきた。

 アリスはキッチンで昼食の準備をしているところだった。


「どうされました? きゃあ!!!」


 ケリーはアリスを思いきり抱きしめた。


「アリス、やったよ! 採用されたよ! 魔法学院の研究員として!」

「ケリーさん、おめでとうございます!」


 アリスは嬉しさのあまり、ケリーの腕の中で涙ぐんでいた。


「アリスのおかげだよ。本当に今までありがとう」

「私は大したことはしていません。ケリーさんが一生懸命頑張ったからですよ」

「ありがとう……。これからもよろしくね」

「こちらこそ……」


 2人はしばらく抱き合ったまま喜びを分かち合った。

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