第10話 アベード村

「いやぁ、本当に助かりましたよアッシュさん。ここ最近、カルラとベックスの間に大規模な野盗が出るという噂がありまして、護衛の冒険者を探していたのですが、カルラにはなかなかいないんですよ。はっはっはっ!」


 儂は今、やたらと上機嫌な行商人カルタ・アデヴィッドの隣に座っている。


「そうなのか。ロメロに紹介されたときは、さも当然のように話していたんだけどな」

「ええ、普通の冒険者の主な仕事は、キャラバンの護衛です。でも、あの町の冒険者は街を離れて仕事をすることを極端に嫌うんですよ。北と東が森に面していて、魔物の討伐依頼や、薬草採取の依頼が途切れることなくありますからね。気持ちはわからなくもないのですが」


 カルラを出発してからアデヴィッドの話はとどまることがなかった。

 こいつずっとしゃべっているぞ。


「基本的にカルラを境に西側は安全なので、私一人でも普段なら問題ないのです。しかし、いったん賊の情報を掴んでしまったが最後、一人で荷物を積んで移動するのは自殺行為ですからね。だから、本当に助かりました」

「わかったから、礼はもういい」

「いえいえ、こればっかしは言っても言っても言い足りないですから!」


 儂はぷらぷらと手を振った。

 アデヴィッドはそれを見て、苦笑いで前を走るエルフィたちの馬車に視線を向ける。


「……ところでアッシュさん。あの馬車の上にくくりつけられた骨なんですが」

 その目が糸みたいに細くなった。

「私に譲っていただけませんか? 今なら、護衛を引き受けていただいたお礼に、相場の二割増しで買い取らせていただきますが」

「ん? うーん、具体的にはいくらなんだ?」

「そうですね。あれだけ大きな魔獣の骨ならば、強力な武器の素材として需要がありますから……30シーバくらいでしょうか?」

「へー。けっこう高いんだな。でも、ダメだ。あれは思い出の品なんだよ」


 なんせ儂の遺骨だし。


「そこをなんとか! 買値が不満なら、相場の五割マシでどうでしょうか?」

「いや、だめだ」

「六割マシ!」

「だめ」

「七割マシ!」

「だめだ」


「ええい!、では相場の二倍でどうですか!?」

「しつこいぞ。だいたいあれがそんな安値なわけないだろ。竜の骨だぞ、あれ。カルラの鍛冶ギルドでもう鑑定は済ませてあるんだ。へたな交渉には応じられない」

「な、そうですか。すみませんでした」


「……ところでおっさん」

「おっさん!? 私はまだ20代なんですが!」

「この先、一時間くらい進んだ場所に、大勢の人がいるんだけど、どうする?」

「——へ?」


 アデヴィッドが固まり、見えるはずもないのに目をこらす。しばらくして、笑いを引きつらせながら儂を見た。


「どうして、この先に賊がいる、と?」

「べつに賊とは言ってない。ただ、大勢の人が固まってざわざわしているのが聞こえるんだよ」

「魔法ですか」


 いいえ、自力です。なんて言ってもどうせ信じてもらえない。昨日もどうやってエルフィがいる方向がわかったのか訊かれて、正直に話したら今のアデヴィッドみたいな顔をされた。

 そんなわけで、儂は肩をすくめてみせる。


「——すみません。余計な詮索を」

「で、どうするんだ」

「この先には迂回路がいくつかありますが、かなり遠回りになります。馬を走らせなければ、予定よりも2日はベックスへの到着が遅れることになるでしょう」

「儂らは急ぎの旅じゃないからそれでもかまわないけどな」

「……すみません。私はこの荷の期日が迫っているので」


「じゃあ、突っ切るしかないな」

「だ、大丈夫でしょうか」

「さあね。やってみないとわからない」

「そんな、無責任な!?」

「まあ、もうちょっと近づいて、相手がどれくらいの規模か確かめてから、具体的なところは決めれば良いだろ」


 儂は不満げなアデヴィッドの肩を叩く。明らかに年下の儂にやりこまれて、彼は不満そうな顔をしていた。




「それでアッシュくん、どうするんですか?」


 儂は、エルフィ達の馬車に戻ってきている。

 この先に野盗っぽい集団が待ち伏せしているとわかったのだ。パーティーメンバーであるエルフィとカエデに相談しないといけない。


「依頼主が迂回はできないってさ」

「じゃあ、賊に待ち伏せされている中を突っ切らないといけないんですね」

「私は反対ですお嬢様!」


 御者台から、カエデが抗議の声を上げた。儂が壊した部分は綺麗に修復され、新たに小さな出入り口がつけられている。


「わ、私もです。アッシュさん! 待ち伏せされているのがわかっているのに、わざわざ突っ込むなんて自殺行為ですよ! いくらアッシュさんが千年樹ゴーレムを一撃で倒せても、多対一では被害は免れません!」


 アンティネラも猛抗議してきた。

 まあ、ただの受付嬢で、全く戦えない彼女からすれば、その通りだろうけど。


「えっと、アンティネラ。一応、戦えるのは儂だけじゃないだろ?」

「いいえ、エルフィさまとカエデちゃんはこの場合、モノの数に入らないです! アッシュさんのいう大勢って、ぜったい私たちの感覚とずれてますから! ほら、大体で良いから教えてください。大勢っていったい何人ですか!?」

「お、落ち着け。ちょっと数えてみるから」


 儂は詰め寄ってきたアンティネラを突き返し、儂は目を瞑る。

 そして、かなり近づいてきて、明瞭に聞こえるようになった声に耳を傾けた。


「一つ、二つ、三つ——20人くらいか」

「ほらぁ! 1対20とか普通に考えて自殺でしょ! 私たちは勇者パーティーじゃないんですよ! 一人で何百体も魔物を討伐できる一騎当千の伝説には遠く及ばない、一般人なんですから! アッシュさん以外は!」

「とりあえず、落ち着け」

「あふっ」


 儂はアンティネラの口を塞いで、エルフィを見た。困った顔をして、一つうなずきかえしてくる。


「カエデも、同じ意見か」

「ええ。ただ……」

「なんだ?」


 いつも言わなくてもいいこともずけずけというカエデが、意見をはっきり言わないなんて。


「アッシュ一人で、待ち伏せをする野盗に突撃して、殲滅するというのならアリだとおもう」

「カエデ! なんてこと言うの!」

「エルフィ。カエデの言っていることは間違っていない。儂も、それアリだと思ったし」

「アッシュくん。でもそれじゃ、あんまりですよ。危ないことは全部アッシュくんに押しつけるなんて……。確かにアッシュくんはすごく強いけど……。でも……」


「うーん。じゃあ。一緒にくるか? たぶん、何もやることないぞ」

「う、そんなことないですよ。アッシュくんが思ってるより、私、できますからね!」

「お嬢様、止めてください」


「カエデ、これも修道の一環よ。避けて通ってはいけないの」

「お嬢様……。アッシュ! お嬢様にキズ一つつけてみろ、地の果てまで追いかけてくびり殺してやるから!」

「こわっ、エルフィのこと溺愛しすぎだろ」

「うるさい! エルフィお嬢様を完璧に守り切ると誓え! 今! ここで!」

「わかったわかった。誓うよ。エルフィにはキズ一つつけさせない……これでいいか?」

「守ってよね」


「はいはい、行くぞエルフィ」

「え、きゃ——」


 儂は、エルフィを抱えて、馬車の屋根の上に飛び上がった。


「おーいおっさん。ちょっくら今から、先行して野盗を片付けてくるから! ゆくり来いよ〜!」


 儂の報告を聞いたアデヴィッドは、ぽかーんと間抜け面を見せている。放っておこう。


「エルフィ、しっかり捕まってろ。跳ぶぞ」

「あ、アッシュくん、ま、心の! キャアァァァァァァァァァ」




 ちょっとした林の中。汚れた身なりの男が二人、ひそひそと話している。


「なあ、本当にこれでだいじょうぶなのか?」

「なんだぁ、おめスキャッソの言ったことが信じられねえのか」

「そうじゃねえけどよぉ。おらたちなんも知らんし、心配でよぉ」

「そうか、そんなに心配ならもういっそやらなきゃ良いんじゃないか?」

「そ、そうはいかねぇよ。でないとおらたちもじじたちも、めっこどもも飢えて死んじまうし、めっこどもひもじい思いさせたら、しんだかかあに申し訳がたたねぇ」

「んだぁ」

「そうか、大変なんだな。でも、野盗に身を落とすのはいかがなものかとおもうぞ、儂は」

 男たちは顔を見合わせる。いまさらながら、後ろに見知らぬ誰かがいることに、気がついたらしい。


「「ふぉおおおおおおおおおおおお!? だれだおめぇ!?!?!?」」


 男達が絶叫し、周りで潜んでいた他のやつらも立ち上がってこちらを見る。


「儂ってそんなに影薄いかな、エルフィ」

「何言ってるんですかアッシュくん。魔法で気配を消したら、普通の人に見つけられるわけないじゃないですか。ほんとに、もう」

「この前エルフィを誘拐しようとした奴らのまねをしてみたら、けっこううまくいったみたい」

「はぁ。もう、君にはなにも言えません」

「はは」


 たしかにな。


「おおおおおおおおい! なに暢気に談笑してんだこのやろぉ!」


 儂らを取り囲む薄汚れた男達より一歩前へ、儂の今の体とそう変わらない年頃の少年が、剣を構えて出てきた。

 他の男達は、歯の欠けた鍬や鋤、鉈などで武装しているのに、彼の得物だけ血がこびりついた大ぶりの両刃剣だった。


「お前がこの野盗のリーダーか?」

「へっ、ふざけた野郎だ! 多勢に無勢の状態で余裕かましてバカじゃねえのか」

「まあ、あれとかあれに比べたら、全然余裕だな〜とは思ってる」


 出会い頭にブレスを放ってくるドラゴンとか、毒針を飛ばしてくる黒ずくめの奴らとか、そんなのに比べたら。いや、比べちゃダメだなこれ。次元が違うし。


「どこの誰だか知らねぇが、のこのこ俺らの縄張りに入ってきたのが運の尽きだ! やっちまえ!」

「「「お、お、おおおおおおお!」」」


「……ひっ」

 エルフィの小さな悲鳴が聞こえた。

 薄汚れたおっさん達が大声を上げながら突撃してくる。しかも、四方八方から。

 まあ、なんだかんだ言ってても、エルフィはお嬢様で、いつも護られる側の女の子だから。


「やっぱり、馬車で待っておけばよかったんだ」

「——っ! 嫌です! シリンダー、オープン『彼の者の手を弾けシルフ』!」

「お、魔術」


 エルフィの召喚した不完全なシルフが、儂らの周りに突風を巻き上げる。おっさん達はそれに吹き飛ばされた。


「なにくそぉ!」

 ただ一人、剣の刃と突進の勢いで突風をのり切ったリーダーの少年が、儂めがけて飛び込んでくる。


「うん、儂を狙うのは良い心がけだ」

「ふざけんなぁ!」


 駆け込み体重と勢いに乗った突きの一撃は、防具に護られていない腰を狙っている。

 儂は足を開いて腰を落とし、突き出された剣先に、ファイアーフィストの手のひらを置いた。


「がっぁ!?」


 少年が突進の威力をかえされて吹き飛び、地面を転がる。

 儂は不意を打たれなければ、子供の突進なんかに負けはしない。

 両手を抱え込んで震え、動かない少年に、エルフィに吹き飛ばされたおっさん達が駆け寄っていく。

 剣の刃がファイアーフィストの刃でとかされ、はじき返される威力が少しでも減衰すればいいなとはおもったが、あんまり効果はなかったらしい。

 俺は少年の周りに固まって震えるおっさんズに歩み寄っていく。


「ゆ、許してくれぇ。見逃してくれぇ! 仕方なかったんだぁ! おらたちの村がオークど——」

 おっさんの一人が悲鳴を上げて、少年を庇いながらそういった。

 うん、わかった。

「なあ、違うだろ」

「アッシュくん?」

「悪いことをしたらまずは、ごめんなさいが先だろうが!」


 あ、やばい。ちょっと叱ったら何人か泡吹いて気絶した。少年も白目を剥いている。


「ひっ……すまねえ。ごめんなさい。許してくれぇ」

 少年を庇っていたおっさんと数人が、頭を土につけて平謝りしている。ちょっとやり過ぎた感が否めない。

「ふー。まあ、わかった。事情を聴いてやるから話せ」




「で、これは一体どういう状況?」

「あまりに不憫なので、儂のできる限りで助けることにした」

「は? 私には、どういう思考経路でその結論に至るのか理解できないんだけど?」

「私もです、カエデちゃん。初めて意見が合いましたね」

「そうね。で、どういうことアッシュ。ちゃんと説明して」


 数十分前、カエデたちが合流したので、儂は狩った獣を捌く手をとめ、アデヴィッドに交渉しにいった。

 儂が持っている竜骨を売却し、それを村の復興物資で支払うという契約を結んだところで、さっきのカエデの質問だ。

 林の一部を切り開き、今は煮炊き場として使っている。底には、老人が8人、まだ小さい子供が22人、おっさんと青年が合わせて30人、しめて60人の大所帯が、獣肉の焼き肉に群がっていた。


「いや、なんかつい最近、彼らの村にオークの軍勢が攻め入ってきて、老人と子供を抱えて、命からがら逃げ出してきたんだと。で、野盗になったらしい。子供も老人もいるっていうから、連れてこさせたら案外多くてな。とりあえず飯を食わせてやってる」


「うん、何を言ってるのかわからない」

「わかりませんね」

「なんでだ!? ちゃんと説明してるだろ」

「なんで、一文なしのアッシュが、野盗に恵むなんて考えられるのか、わかんないっていってるの!」


「え、だって不憫じゃないか。それに、金はないけど、それに換わる物は一応持ってる。あ、もう売ったから持っていた、か」

「アンティネラ。このバカどうにかして」

「え!? 私に言われても困ります! ただの受付嬢にはどうにもできませんよ!」


 なんか儂、変なことしてる?

「まあまあ、二人とも良いじゃないですか。アッシュくんが悪事に手を染めたわけじゃないんですから」


 エルフィの取りなしで、カエデは納得していない感じで儂を睨みつつ矛を収めた。


「まあ、とりあえず。みんなが合流したし、儂はまた先にいって、村に居座っているオークの軍勢ってのをどうにかしてくる。エルフィたちはこいつらをぼちぼち連れてきてくれないか?」

「はぁ、好きににすれば」


 ……エルフィ。なぜ儂の腕を抱く。


「そういうわけだからカエデ。村人たちの引率、お願いね」

「お嬢様? ダメですよ?」

「うん。エルフィも、村人の引率だ」

「いいえ、私もいきます」

「だめ」

「だめです」

「いきます!」


 カエデが儂からエルフィを引き剥がしに掛かる。儂もエルフィから腕を引き剥がそうとする。

 あ、こら、指を絡めてつなぐな!


「聞き分けてください! 逃げ延びた村人たちの中で、若い女性が一人もいない事がどういうことかわかりますよね!? お嬢様がついて行っても、アッシュの足手まといにしかなりませんよ!」

「それは……」


 カエデの言葉で、エルフィの手が緩んだ。

「あ、アッシュくん! 待って!?」

 儂は彼女を振りほどき、跳ぶ。




 その村は食い荒らされていた。

 外周を囲った柵も、家屋の柱も、茂みも、地面に生えた雑草に至るまで、ことごとく食い荒らされていた。

 村の入り口には、石で作った粗末な鎧を着た二足歩行の豚が、木の枝をかじりながら見張りをしている。

 儂は、その目の前に着地した。


「ち、ちょっと距離が足りなかったな」


 目の前できぃきぃ、豚がいななく。


「ちょっと、お前達のボスに用があるから、会わせろ」

「なんだお前!」


 お、しゃべれるのか。


「うーん。この村を開放しに来た。冒険者だ。ボスに会わせろ」

「バカが! 通すわけ無いだろうが! しね!」

「うん、まあ、そうなるよな」


 二匹のオークがこんがり焼けました。

 オークって旨いのかな?


「あとで食ってみるか」


 そんなことを考えながら村の奥へ歩を進める。

 村の中心からは、きぃきぃと甲高い鳴き声が聞こえていた。そのほかの音は、ちょっと聴きたくない感じだ。

 村はそこまで広くないので、音源の光景にはすぐついてしまった。

 地面は、大きく円を描くように赤く染まっている。

 さっきオークが旨いのかとか考えていたが、やめだ。こんなゲテモノを食ったらきっと腹を壊す。


「おい。今すぐその女性から離れろ。化け物」


 鼻息荒く腰を振っていたひときわデカいオークが、のっそりとこちらをむいた。


「なんだぁ、お前」

「今すぐ村を開放しろ、さもなくば……」

「おまえらぁ! 新しい餌だ! 出てこい!」


 怒声と共に、オークは抱えていた女性を掴み、まるで棒を放るようにこちらに投げつけてきた。

「くそっ」


 衝突の瞬間儂は後ろへ跳んだ。柔らかい肢体が絡みついて、踏ん張ってしまえばこの女性の体はちぎれてしまう。そんな音がしていた。

 背後にファイアーベールを展開し傘のように広げる。突っ込んだ家が燃えたが、女性は護れた。


「おら、あっちに行ったぞ。女は食うなよ! まだ途中だ!」

 そんな声が聞こえた。

 そして、かなりの数の豚の鳴き声が、こちらに迫ってくる。女性の意識はない。


「儂がこの女性を護ったのが見えていたのか」

「ああ? なんだまだ生きてやがった。死ねよ。死んどけよめんどくせぇ」

 ざっと100匹ほどの武装したオークに囲まれている。

「もう一度、言うぞ。今すぐ村を開放しろ、さ……」

「うるせえよバーカ! てめぇこの状況でなにいってやが……ん……だ?」

「さもなくば、殲滅だ」

「くそ、なんだ。なんで体が震える!?」

「おい、どっちだ。答えろ」


 女性を地面に横たえ、その周りにドーム状のファイアーベールを張る。

 儂はその中から出た。


「く、くそが!」


 ボスオークが殴ってくる。拳を合わせてやったら、あっちの拳が潰れた。

「しゃべれるだろ、言葉で答えろ」

「くそが! なんなんだお前! なんで人間がハイオークの力に勝つ!?」

「騒がしい、さっさと答えろよ。開放か、殲滅か、だ」

「うるせえ! 誰がお前の言うことなんか——」

「わかった」


 儂は、ボスオークの頭に飛びかかり、膝蹴りを喰らわす。すると、頭が潰れてしまった。

 それを見た雑魚オークが我先にと逃げ出そうとする。

 儂は、そのオーク達を、高さ三メートルほどファイアーベールで囲った。そして、女性を護るために張っていたベールに魔力を足して、儂と女性を囲う壁をつくった。あとは、それを同じ大きさの円にするだけ。二つの高温の壁に挟まれた豚どもは、悲鳴を上げながら、焼き尽くされていく。


「殲滅だな」




 ありがてぇ、ありがてぇと村人たちは儂に礼を言った。

 しかし、なんとももやっとした感じが胸の内に残っている。


「なんだか、すっきりしないって顔ですね。アッシュくん」

「ああ、なんでかな」

「……アッシュ・フォートロイは彼らを救ったんです。それは、誇って良いと私は思います」


 エルフィは優しく微笑み、儂の頭をなでてきた。


「そうですよ。うだうだしてないで、面倒ごとがすんだらさっさと次にすすむ。太陽は待ってくれませんからね」


 アデヴィッドはにかっと狐面に似合わない笑い方をして、儂の背中を叩いた。


「さあ、急ぎましょう。ベックスの門兵は時間にうるさいですから!」

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