第6話 味を占めた竜の蛮行
冒険者ギルドから紹介された宿屋『ログワードの入堂亭』には、どうやら朝食というものがついているらしい。
起きてボーとしていたワシは、部屋を訪れた給仕の少女にその話を聞いて、覚醒した。ベッドサイドに用意されていた着替え一式……綿のシャツと革のズボン、ごていにねいにとても丈夫そうなブーツまで、全速力で身につける。
腹が鳴った。
ドラゴンだった頃、あまり動かなかったせいか、それともドラゴンの生態なのか、食事といえば数週間に一度で十分だったが、今は気がつけば腹が減る。それが最高にうれしい。
食事は娯楽だ。
ここまでの二日間、馬車で移動しながらも、ときどき森に入って狩りを行い、ウサギなどの小動物をとってきて焼いて食べていた。一日一回も食事をしなければいけないというのは、なんて幸せなんだ! 冒険者最高! 人間最高!
と、思っていたら、朝食?
これは勇み足にならずにはいられない。
「おはよう! エルフィ。カエデ」
そんなわけで、ワシはうっきうっきしながら『お連れ様の部屋に用意してあるので』と言われ、エルフィたちの部屋に赴いた。
綿を詰めているらしい柔らかい寝床で泥のように眠り、たまっていた疲れがすっかり抜けて、ワシはある可能性もすっかり抜けていたらしい。
わりと分厚く頑丈そうなドアを開けて、ワシは中に入った。
ふわっと、花の甘い香りがした。
「え、あ、えっ?」
ぽかんとするエルフィになにか言われる前に、全力で部屋を出る。
ドアに背中を預けながら目にこびりついてしまった光景に大きく深呼吸した。きめ細やかでくすみのない背中だった。砂金のちりばめられているかのような肌に、ゆったりと渦を巻く金髪がかかり、薄い肩に羽の生えたような肩甲骨、まっすぐ芯の通った背は細く締まった腰へ続き、やがてふっくらと広がってまたすっきりと膝まで締まっていく。
もしワシが悪いドラゴンだったら、きっと自分のモノにしたくなったに違いない。そんな人間離れした、美術品のようなプロポーションだった。
馬車での道中に、絶対に見るなとカエデに念を押されていた理由が、なんとなく理解できる。
普通の雄だったら、あれを見て変な気を起こさないということはありえない。
ワシは……。
「アッシュ、そこにいますね。入ってきてもいいですよ」
カエデの声がドアの向こうから聞こえた。
半分握りつぶしていた取っ手を引いて部屋の中に入れば、着替えを終えて顔を赤くしているエルフィと、じとっとこちらをにらみつけてくるカエデがいる。
「みましたね」
「いいや、見てない」
「嘘なんていりません。ちょっと脈をとらせてください」
「なんでだ? ワシは健康だぞ」
「嘘がなければ、脈は正常でしょう。ちょっとでも脈が速ければ……」
じりじりとにじり寄るカエデに壁際に追い詰められるワシ。その向こうには、テーブルの上になんか見たこともないほど白くてカラフルな食べ物が置いてある。
カエデよ。ワシは腹が減った。
「なあ、カエデ。さっきはなんとなく反射的に否定したが、たしかにワシはエルフィの素肌を見てしまった。それは認めよう。認めるから、食事にしないか。ワシはあの白と赤と緑の平たいやつとか、湯気を上げている黄色い物体がどんな食べ物なのか気になってしょうが無いんだ」
「は? つまり、お嬢様の生肌より、あのサンドイッチのほうが、そそる、というんですか?」
「カエデ!?」
「端的にいって、そうだ」
「わかりました。食事にしましょう。そのあと冒険者ギルドに行って、アッシュのギルドカードを受け取り、適当なクエストを受けるついでに西門の詰め所へよる、という日程で良いですか?」
「じゃあ、それで」
カエデとエルフィはそれぞれのベッドに、ワシは用意された椅子に座り、すこし冷めた様子の朝食に手をつけた。
その瞬間、ワシの意識は……飛んだ。
カルラの街は、中央広場から伸びる四つの道でざっくり区分けされている。
ワシらが泊まっていた『ログワードの入堂亭』はカルラ役場から南東方面にすこし入った場所にあった。冒険者ギルドまでは歩いて5分くらいだ。
多くの馬車が行き交い、町人がその間を早足で歩き回る。広場の外周に出店した露天商たちの呼び込みの声が響き、子供達の笑い声がこだましていた。明るい中央広場は昨日とは全く違う景色に見える。
ワシたちは馬車や人混みを突っ切って、大きく開かれた役場の入り口をくぐる。
役場の一階、右半分のフロアが冒険者ギルドのスペースになっているため、その入り口周りにも無骨な鎧を身につけた冒険者らしき男達がたむろしていた。
エルフィとカエデが彼らの視線を集めるのを感じながら、ワシらはギルドの中に入っていく。
「おはようございます。冒険者ギルド、カルラ支部へようこそ! ご用件は何でしょうか?」
受付カウンターの向こうにいたのは、昨日のアンティネラでは無い別の受付嬢だった。ウサギを連想させる二つにまとめた亜麻色の髪形の少女だ。アンティネラとは違いネームプレートはつけていない。
ワシは二人の前にでる。
「おはよう。昨日、冒険者登録したアッシュ・フォートロイだ。本物のギルドカードを受け取りに来た」
カウンターの上に昨日もらった仮のギルドカードを載せて見せる。
「はぁ……あ、はい! 承っております。少々お待ちください!」
一瞬首を捻って、思い出したらしい受付嬢はぴょこぴょこと事務所の奥に入っていくと、間もなく戻ってきた。その手にはカードの他に一枚の紙切れが握られている。
「どうぞ!」
「あ、ありがとう」
受け取った冒険者カードを観察してみる。白くつるっとして磨いた石みたいだが、とても軽く堅くなおかつ紙のように薄い。
「なんだこれは、何も書かれていないぞ?」
「はい、説明させていただきます! 冒険者ギルドのカードには、最新の生体情報記録魔術が施されています。カードの表面に血を一滴注いでいただければ、フォートロイさんの相貌の写し、名前、年齢、性別、種族、そのほか身体的な性能を数値化したステータス、そしてなんと! 『ギフト』まで調べてくれるんです!」
「す、すごいなそれは。ところで『ギフト』とはなんなんだ?」
「はい、フォートロイさんが創造神様から授かっているかもしれない隠れた才能の事を私たちは『ギフト』と呼んでいます! このカードは『ギフト』を明文化してくれるんですよ! ほんとにすごいですよね!」
「ああ、すごいな。……あれ、こんなモノがあるなら、昨日の試験は何だったんだ?」
「このカードで表示されるステータスとギフトは本人以外は見えなくなっているそうです。そのため、ギルド側が冒険者の実力を把握するには、別で試験を行うしかなくなったそうですよ? とりあえず、この新しいカードでわかる情報は、登録者の見た目、名前、年齢、そして冒険者ランクです!」
「それまでは盗み見ていたから試験がなかったのか?」
「さあ? 私はただの受付嬢なのでそこまではわからないです〜!」
「いやまあ、いいけど。じゃあ、やるか」
「どうぞ!」
受付嬢が針を刺しだしてくるが、剣が通らないワシの肌に針なんか通る訳がない。
なんとなくいけそうな気がして、ワシは親指でかみ切って、滲んだ血をカードに塗りつけた。
血に混じったワシの魔力が、カードに刻まれたえらく複雑な道を流れていくのが見える。カード自体がぼんやりと赤く輝いたかと思うと、カードの表面にワシの名前、年齢、性別……と次々文字が浮かび上がってきた。
名前 聖城竜アッシュ・フォートロイ
年齢 15(1000)歳
性別 男性
種族 人間(ドラゴン)
ステータス:
耐久力 100000
筋力 10000
俊敏 5000
知力 57
魔力 999999999999(測定限界)
ギフト:
神々の祝福:???
創造神の加護:???
神造人間:???
サラマンダーソウル(究極):火系統魔法への完全適性。太陽の創造が可能。
首筋を一つ冷や汗が流れた。
なんだよ「人間(ドラゴン)」って……。あきらかに、見られたら騒ぎになる奴じゃないか。どうにか表示をいじれないかな、と思いワシはカードの魔力の流れを追う。あった。
「どうかしましたか?」
カードを睨んでいたら、受付嬢の少女が体を乗り出してのぞき込んできた。ぎりぎり、変な表示を見られる前に、表の表示だけ書き換える。
「なんでもない」
「では、ギルドの帳簿に情報を登録するので、一端カードを貸してください!」
ワシはギルドカードを受付嬢に渡した。今のワシのカードの公開情報はこうなっている。
名前 アッシュ・フォートロイ
年齢 15歳
性別 男性
種族 人間
「はい、登録完了です! 後はこっちの契約書に書かれている事項に同意して、サインをいただければおしまいです! これは、商業ギルドが管理している銀行の口座開設とか、国への税金の納付などなど、面倒な手続きに関して、冒険者ギルドへ代行依頼をするという契約書です!」
「うん、よくわからんがわかった」
ギルドカードの改ざんで集中力をけっこう持って行かれたワシは、面戸くさいことを代わりにやってくれる契約ときいて二つ返事でサインをしようとした。
「あ、それちょっとまってください、アッシュくん」
今まで黙っていたエルフィがワシの肩越しに顔を出してきた。
「とりあえず、冒険者の駆け出しで銀行口座なんて持っていても何の役にも立たないので、そこら辺の手続きはいりません。そもそも、アッシュくんはこのダース皇国の国民としての国籍を持っていないのでなおさらです。必要な手続きが今のところはないはずなので、この契約は不利益ですよ」
そうなのか? と受付嬢に視線で問いかけてみた。
「え、いやぁ、どうなんでしょう? 一介の受付嬢にはそういう難しい話はちょっとわからないです〜」
視線をそらすということはそういうことなのだろう。
「じゃあ、ワシはエルフィの言葉を信じるぞ」
「はぃ……」
いかにも落ち込んだ様子だが、口元だけが舌打ちをする感じでゆがんでいた。賄賂を要求したり、不利益な契約を結ばせたり、油断のならない場所なんだと再認識する。
「ところで、アッシュくんのギルドカードが白色なんですが、これは何かの間違いじゃないんですか?」
と、受付嬢の持っていたカードをみて、エルフィがにっこりとここまで見たことのない笑みを顔に貼り付けて言った。
「いいえ、ギルドの規定通り、『ウッドゴーレム』一体と同等の実力という報告ですので、最下位からのスタートで間違いありません」
「昨日の試験では、アッシュくんは千年樹ゴーレムを一発で倒して見せたのですけど?」
「すみません、そのような記録は『存在しません』ので」
ビキっとエルフィの額から何かにひびが入る音が聞こえた気がした。残念ながらその音はワシ以外には聞こえていなかったらしい。
「昨日の受付嬢がその事実を確認しているはずです!」
「その受付嬢が、当該の記録を残しているのですが?」
エルフィの額からさらに罅割れたような音が聞こえた。
「え、エルフィ。そんなに怒らないでくれ。ワシは最下位からのスタートでも、冒険者になれさえすれば十分だから」
「アッシュくん、それでは不公平でしょう。君の実力は少なくとも『銀』クラスでなければおかしいのですよ!?」
「ワシはただ、冒険者になって冒険がしたいだけなんだ。だから、ランクとかどうでも良いんだが」
「むぅ……」
むくれるエルフィを宥めるよりもワシは早く冒険者として仕事がしたいんだがねぇ。
「とりあえず、ランクについてワシに文句はない。本人が納得しているのに、君が文句をつけるのは違うと思わないか?」
「……そうですね。出過ぎたまねでした。すいません」
「カエデも、それでいいよな?」
「もちろん」
「じゃあ、早速冒険者活動を始めようか!」
カエデは何やら別の手続きがあるらしいので、エルフィとワシの二人で掲示板に貼り付けられたクエストを見に行った。
「これなんか、良いんじゃないですか? 最初のクエストですから」
カエデに渡された依頼票をみて、ワシは首を傾げる。
「ホーンラビット?」
それは白い皮紙に書かれたFランククエストの『農作物を食い荒らすホーンラビット3匹の駆逐』だった。
「でも、アッシュくんならもっと強い魔物でも余裕で!」
「でも現状の彼のランクではFランクしか受けられません」
「それは、そうだけど。そもそも!」
「それは、もういいっこなしではないのですか、お嬢様?」
膨れるエルフィにギルド中の視線が集まっていたので、ワシらはそそくさと依頼を受けて宿に預けたままの馬車に飛び乗って、出発した。
「エルフィ。ワシは全く気にしていないから、それよりも……」
膨れるエルフィとそれを宥めるカエデには悪いが、今はそれより気になることがある。
「見たことも聞いたこともない動物だな」
カエデの操る馬車に揺られながら、ワシは受けたクエストの獲物について尋ねた。
「ホーンラビットは動物ではないですよ。魔物です。普通の野ウサギに角が生えていて、角は魔力の凝縮した魔石になっています」
へー、そんな生き物がいるのか。知らなかった。
「普通の野ウサギよりも俊敏で、とてつもなく大食いで尋常じゃなく早食いです。そして、個体によってはクマ並みに巨大になります」
それは、早く行った方が良いのかな。
「と、その前に詰め所に顔を出さないといけないんだった」
「そうでしたね。さっさと事情説明をしてクエストに向かいましょう」
依然と、箱の全面が壊れた箱馬車でワシらは検問の詰め所を目指す。じゃっかん、馬車の流れが渋滞していたが、たいした時間はかからず呼び出されていた番兵の詰め所についた。
「ああ!? アッシュ・フォートロイ!? こんなくそ忙しいときに何の用だよ!」
「いや、ワシが『山河の民』だということで、いろいろと事情聴取されるときいて来たのだが」
「『山河の民』だぁ!? いちいちそんなのに事情なんか訊いてられるか! もう良いから用がないならどっか行け! 邪魔だ邪魔! シッシ!」
そういって、追い出されてしまった。正直腑に落ちなかったが、呼び出した方がそう言うならそれでもいいか、とクエストに向かうことにする。
「アッシュ、これを」
カエデが馬車のシートの下から一振りの剣を取り出し、渡してきたが。
「いや、今はいらない。ワシは剣なんか使えないからな」
それを断ったことを、ワシはのちに後悔することになる。
「やあ、よく来てくれたなぁ。早速、頼むだぁ!」
どうやら、刈りかけの麦畑にくだんの魔物は出没するらしい。片手用の鎌を持った訛りのあるおっちゃんだった。
「獲物は、どこら辺に出没するんだ?」
「そらぁもう、至る所に出てくるんだよぉ! 見つけたら片っ端からヤってもらいたいんだぁ!」
「わかった」
依頼者の農民のおっちゃんから、かなり大雑把な情報収集をして、ワシはその場で目を瞑った。
ドラゴンのときから鋭く、この体にも受け継がれた聴力で、畑を荒らしに来る獲物を捕らえようというわけだ。
「……あのぉ。何をしているんですか?」
「黙って。……見つけた」
背の高い麦に隠れて茎を食んでいる何かを見つけたワシは、走り出した。金の穂が風に揺れる中を、走り抜ける。
「キー!」
まずは一匹、逃げようと飛び跳ねた瞬間につっかみとって、手に纏った魔力を流し込んだ。
すると、こんがりとウサギ肉の焼ける旨そうな匂いが漂う。これがおわったら肉祭りといきますか!
ワシは足を止めず、次の獲物に向けた走った。そいつも同じように仕留める。たった三匹仕留めるのなんかあっという間だ。
「なんか、あっけないな。もっといないのか?」
と、思ったところで、そいつは現れた。
「ギィーーーーー!」
「アッシュくん!」
さっくり丸焼きに仕上げてきたホーンラビットとはスケールの違う巨体。
「どっから現れた!?」
「ホーンラビットは穴を掘って地中を移動する習性があるそうです!」
「そんなの、いくら何でも限界があるだろ!」
ワシの背後から突如現れた巨大なホーンラビットは今のワシよりも大きかった。こんなものが地中をすすむなんていくらなんでも限度がある。少なくとも人が見つけられないような小さな穴ではとても潜り込めないだろう。こんな、激しく音を立てそうな巨体で、どうやってワシの背後に回り込んだ!?
突進してきた巨大ホーンラビットを受けとめる。
「触ればこちらのモノだ」
「ギッ!」
ワシは魔力を注ぎ込んだ。その瞬間、にわかに巨大ホーンラビットの角が青い光を放つ。
「弾いた!?」
「アッシュくん!」
ワシはドラゴンの時の筋力をこの体に受け継いで怪力だ。しかし、どうしても軽かった。ホーンラビットの巨体に押し負けて、後退してしまう。柔らかい畑の上では余計に踏ん張りがきかない。
押し込まれる!
「サスペンダ・オープン! 『鞭となって打ち付けなさいウィンディーネ』!」
ワシに拮抗する巨大ホーンラビットにむけて、エルフィが魔術を放つ。虚空からあらわれた水鞭が巨体を打つが、鞭は弾けて霧となった。
「カエデ!」
「はい!」
その霧を突き抜けて、カエデが小剣を腰だめに突進する。小柄ながら、かなりの速度で突き込んだカエデの一撃は。
「ぐっ! 氷!?」
自らの魔力で体毛を凍らせた巨大ホーンラビットに通らなかった。
「デカい分、頭良いなこいつ!」
あー、ワシも剣持っとけばよかったなぁ! ここでぶっ刺せばよかった!
「魔法も強力です。アッシュくん、気をつけてください!」
次の手を考える。しかし、ワシには今のところあの触れた対象に魔力を流して、炙り焼きにする以外、周囲に被害をださない攻撃手段がなかった。この体勢からじゃまともに殴りかかる事もできないし。
巨大ホーンラビットの角が青く輝き、ワシをとてつもない冷気が包んだ。
「ええい、ままよ!」
『ファイアーボール(微笑)』!
ワシの目の前に、小さな小さな小粒ほどの火球が現れて、次の瞬間巨大ホーンラビットの脳天から臀部まで貫いた。そこで目の前の敵は力尽きる。その巨体の先で。
ゴワァ!
「うん、そうなるよなぁ。いきなりやって成功するわけ無いよなぁ」
「あ、あ、あ、アッシュくん!? 何をやったの!?」
「うん? ファイアーボール(微笑)」
指先ほどの大きさで、300平方メートルもある広い畑を野焼きしていく火球魔法の威力をみてエルフィがきゃーきゃー騒いでいた。
問題はその横でプルプル震えている農家のおっちゃんだ。
こんなことになって、本当に申し訳ないと思って——。
「おめぇすっげえなぁ! これならちまちま松明で焼くなんてしなくていいべぇ!」
「え? お、おう」
「頼むぅ。他の所もその魔法? でドバァッとやってくれぇ! お礼はするでなぁ!」
ワシはエルフィたちをみた。よく考えれば、わしの初クエストに付き合ってもらう必要も無かったこの二人を、これ以上付き合わせても良いのだろうか。そんな疑問がいまさら浮かんでくる。
「どうする?」
「いいのでは? アッシュはとにかく資金が必要です。受けられるクエストはどんな形でも受けておいて損はないかと」
なんか騒ぎすぎて白目を剥いているエルフィの代わりにカエデが答えてくれたので、ま、いいかと緊急クエストを受けることにした。
「いいぞぉ! もっとやれぇ!」
「よっしゃぁ! こっちもだ、こっちにもくれぇ!」
「腹減った……」
「お、アッシュ坊、腹減ったならぁ。これ食え!」
「お、ウサギの焼き肉か。ありがたい!」
「この調子で、どんどん頼むだぁ!」
「任せろ!」
湧き上がる農家のおっちゃん達にたまに焼き肉やらジュースやらをもらいながら、ワシはひたすら『ファイアーボール(微笑)』を打ち続けた。焼き肉は、穴の中に潜っていたホーンラビットらしい。
肉は旨いし、練習になるし、報酬は出るし、非常にナイスな緊急クエストだった。
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