第24話 勇者たちの冒険
「ユウキー。また、サボってるー!」
「コーネリアさん、おはようございます。」
「おっはよーう。あ、あれっ?バドルさんも、えーっ!ま、まさか2人ってそんな関係?キャー!ヤダー!キャー。」
「朝からテンション高ぇな、あの姉ちゃんは。」
コーネリアさんが、高床式小屋のバルコニーから顔を覗かせ、ひとりでワーキャーしている。バドルさんは呆れ顔だったが、僕は微笑ましく見ていた。少し離れていたから、今実感する。こういう女性が1人いるだけで、場が明るく賑やかになる。ふと、昔のお母様や兄姉妹でワイワイやってた頃を思い出した。でも、コーネリアさんは、あまり薄手の寝巻のような恰好で歩き回らないで欲しい。目のやり場に困ります。
「おい、姉ちゃん。いつまでもそんな恰好で尻プリプリしてんじゃねぇよ。若いもんが悶絶して仕事にならねぇぜ。」
小屋の中から、ザックさんの声が聞こえた。ここからはよく見えないが、若いもんとはシンバルさんのことらしい。
「きゃー。シンバルさん、鼻から血が、ユウキ、ユウキ!薬師の出番よ。シンバルさんの鼻に薬草をぶち込んであげてー!」
救命士の方に意見するのは何ですが。コーネリアさん、それは違うと思います。
そういえば、コーネリアさんって救命士としては、どのくらいの実力があるのかな。まだ、戦闘がほとんどないから、救命士の出番がないものな。基本的には、救命士が傷病者の状況を判断し、薬師に薬の処方を指示するのが一般的な流れだから結構重要ファクターなんだよね。コーネリアさん自身が死にそうになったのは、目の当たりにしたけれど…。
そうなんだよね。僕らは所謂後衛職なんだけど、後衛とはいえ、自衛の手段くらいは持ってないと、前衛のみんなに迷惑をかけることになるんだ。
そう考えると、僕も持ち武器がナイフだけでは心許ないのかな。
ま、今考えてもしょうがないか。このミッションが終わったら考えてみよう。
そういえばゴートウォームがいないな。5匹くらいいたはずだけど?
いないならいないで良いのだけれど、またコーネリアさんが襲われても面倒だよね。しかし、彼女も少しは抵抗を見せて欲しいものだよね。
トンっと肩を叩かれた。
「大人気だな。」
バドルさんはそう言うと、ひとり高床式小屋に登っていった。?が付いたが、理由はすぐに分かった。僕の後ろにゴートウォームが、2匹増えて7匹整列している。移動してみた。するとゴートウォームたちは僕の後を、行進でもするかのようにピタリとワタワタしながら付いてくる。しばらく歩き回ってみたが、やはり離れずに付いてくる。よくよく見ると、ちょっとかわいいかも。
「おい、ユウキ。また遊んでんな。飯抜きにすっぞ!」
「わぁ、それは勘弁。すぐ行きます。」
チョイとバルコニーから顔を覗かせたトンプソンさんに叱られてしまった。
さて、この子等はどうしようか。殺すって選択肢はないよな。ホースちゃん泣いちゃうからね。どうにか撒くしかないか。
この子等は、梯子なんかは登れないようだから、そんな感じで撒けるかな。たしか6つの飛び出た島に、岩が垂直に立ったような場所がいくつかあった。よし、ひとっ走り行って来よう。
僕が走り出すと、ゴートウォームたちも走り出す。しかし、僕の走るスピードにはついていけないようだ。歩いている時よりもワタワタとしている感じから、子等の一生懸命さが伝わってくる。なんて、健気な子等だろう。
岩場に着いた。程無くして子等も到着する。みんなが僕の方を無垢な表情で見つめてくる。ダメだ。これ以上は、情が沸いてしまいそうだ。僕は、振り向きざま、一気に岩を這い上った。僕の身長よりも高さがある。1メートル程しかないゴートウォームでは、登ることはできないだろう。
僕は念のため、頂上まで登ってから降りるルートを通った。
ドボン、ドボンと何度も水に落ちる音が、背後から聞こえた。多少後ろ髪をひかれつつも、僕は振り返らなかった。
島を降りきったところで、足を止めた。
1度だけ、1度だけ振り返っても良いだろうか…。いやダメだ。
しかし、1歩がでない。
1歩がでれば、きっとこの未練も振り切れるはずなのに…。
…島の頂上だ。ワキワキと蠢く影が見えた。
僕はハッとする。1匹しかしない。他の6匹はどうした。その1匹は、こころなしか力無く見えた。
…。
「くそぅ、だめだ。この壁は、ひとり(1匹)では登りきれない。」
「…お、おれが踏み台になる。みんな行け!」
「そんな、お前だけを置いてなんて、いけるわけないだろう。」
「そうだ。みんなで一緒に。」
「たったひとり(1匹)、犠牲になるだけでいいんだ。わかるよな。」
「くっ。わかった。お前の思いは俺が届けてやる。」
「ああ、頼んだぜ。」
…
「次は俺だな。」
「ここは、ひとりじゃ無理だ。俺も残ろう。」
「お、お前たち。」
…
…
「最後の壁だ。」
「わたしが残るわ。あなたは行って。」
「し、しかし」
「ここまで来て、後戻りはできないわ。」
「きみを、きみを…」
「わたしね、あなたのことが好きよ。」
「お、俺もだ。ずっと…。ずっと…。」
「だから、お願い。あなたはやり遂げて。」
「う、うわああああああ。」
そして、お前はここまでたどり着いたのか、ひとり(1匹)で…。
「僕は馬鹿だ。なんて大馬鹿野郎だ。」
僕は走った。疲れ切った子を胸に抱き、来た道を走った。僕の通った道々に散らばり、ワキワキ、ワキワキしている子等を、7匹全員まとめて抱きしめた。
「ホースちゃん、出てきてくれるかい。」
「パパー。」
「ホースちゃん。この子等も連れていきたいのだけれど、いいかい?」
「いいよー。たくさん、たのしー。いっしょー。」
「そうか、よかった。」
ゴートウォームたちはみんな、ホースちゃんの開けた口に入っていった。初めからこうしておけばよかったんだ。そうなのだ、ゴートウォームたちは僕に懐いていたわけではなく、ホースちゃんに懐いていたのだから。
(また増えたね。)
「エルコ、…仲良くやっていけそうか?」
(さぁ、お腹減ったら、食べちゃうかもよ。)
「た、食べるのか?」
(冗談だよ~。でも、たまには私も呼んでくれないと、本気になっちゃうかも。)
「うん、このミッションが終わったらゆっくりね。」
(うん、待ってる。)
ホースちゃんたちが消えるのを見送って、僕は高床式小屋へと戻った。
「「「「「あっ!」」」」」
みんなどうしたのかな?僕の方を振り返るなり、声をそろえて。
ひと仕事終えて、お腹減っちゃった。朝食は、昨日の夕飯の残りである。口が勝手に昨日の味をプレイバック、涎が止まらない。僕は自分の器を、炊事場の脇にある盥の中から取り出して、みんなが囲む囲炉裏へ向かった。
みんながスッと視線を逸らす。構わず僕は鍋の蓋を開けた。
「…。」
「あ、あのね、ユウキ。これ、すごくおいしかったの。時間を置いてね、野菜にもお肉にも味が染々でね。すごくおいしかったのよ。」
「…。」
「だから、全部食べちゃった。」
「…。」
「だって、すんごいおいしかったのよ。最初は私だっておかわりする気なんてなかったのよ。でも、そんなわけにはいかないじゃない!だって、染々なのよ(本気)。」
「…ひどい(泣)。」
「いねぇのが、悪ぃんだよ。」
「楽しみにしてたのに。グスン。」
コーネリアさんの逆ギレからの、トンプソンさんの正拳突きに、僕はしたたかにノックアウトされた。カリカリサクサクのトラさん、力が出ないよぉ~。
僕が部屋の隅で拗ねて体育座りをしていると、背後に近づく足音が、そして一緒にとても良い香りが漂ってきた。
「ユウキ、食べな。みんなお前の分ちゃんと取っておいたんだ。」
「バ、バドルさん。みなさん…。」
バドルさんの手には、椀によそった昨日の夕飯の残り物の朝食があった。
やっぱり、バドルさんは良い人だ。みんなで居ると、おじさんクサい下ネタが止まらないけど、とても良い人だ。トンプソンさんもザックさんもおじさんたち、みんな良い人だ。メイヤーさんは別格ね。もはや神域に近づいてるね、僕的に。
「先程のゴートウォームはどうした。」
「ふぁい。ハグっ、い~ふぁへはふぉいふあふぉふふぇいふ(みんなで楽しく遊んでいます。)ッバグ、ハグハグ、。」
「そうか。お前、そういう才能があるのかもな。」
「ふぁい!ハグハグ。」
とても、おいしいです(泣)。
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