第12話 尻にしかれる予定です。
「よっ。がんばっているかい?」
お泊り特訓の4日目。
元気のよい、気持ちのいい声、そして僕の待ちに待った声。
「ジャンヌ!」
とりあえず、拝んでおこう。僕は両の手の皴と皴を合わせる。
「何だい?それは。気持ち悪いな。」
「ん、こちらの事情だから問題ない。」
「そうかい。ま、いいさ。これを返しに来たよ。」
ジャンヌは懐から、ナイフを取り出した。確かに問題なく受け取りました。
「返してくれると思っていたよ。」
「なんだ、疑ってたのかい?」
「ん、少しね。」
「心外だな。…君とは縁がありそうだからな。悪いようにはしないさ。」
僕は笑顔を作って見せた。そうだな、こういう縁なんだ。何となくそう感じるものが、最初から僕にもあった。そうでなければ初対面の人に大事な物を貸したりはしなかっただろう。逃げられただけともいうが。僕はナイフを帯革に留めた。
師匠には残念なことだが、5位に降格決定だ。
「ジャンヌ、君のアドバイスのおかげだ。この2日間すごく充実した研究になったよ。」
「ん、私?何か言っ…」
「君はすごいね!見たところ僕と同い歳くらいだろう?君はその魔法をいったい誰に習ったんだい。」
「…魔法?…あぁ、マナ操作のことだね。あれは魔法とはいわないのさ。魔法を使う準備みたいなものだね。ま、人間は皆そこをすっ飛ばしていきなり呪文を詠唱しちゃったりするけどね。確かに見えないものは、理解しにくい。でも基本は基本。」
「マナ操作できなくても、魔法って使えるの?」
「ん、ユウキ、君もそうっだったじゃないか。この世界にはマナが満ちている。君も見えるのなら、わかるだろ。何も考えなくたって周りにあるものなんだ。あると言うと語弊があるかな。何も考えなくても、マナは生き物自体から湧き出している、というのが正しいかな。だから正しく呪文を詠唱できさえすれば最低限の形にはなる。マナはそこにあるんだからね。でも、それではコントロールはできないけどね。」
「…!」
ジャンヌってば、今すごいことを言ったよね。
”マナは生物自身から湧き出している。”…か。
「なんだい?ユウキ。うれしそうな顔して。」
「やっぱり君はすごいよ。ジャンヌ。そうか、そういうことなんだ。」
僕はなんて勘違いをしていたのだろう。マナは定着させるなんてことが、そもそもおかしな話だったんだ。生きているからこそ、マナはそこにあるんだ。死体からマナは生まれない。
つまり、生きたまま薬にする。
「ふふふ…。」
「…なんだかわかんないけど、お役に立てたようで何よりだ。」
まずは、生きたままとは、どういうことかということになるが。マナを使って、改めて薬草を分解してみよう。
ある程度マナを集約させたところで、見えてくるのは薬草も世界の例外にはなく、小さな粒の集まりだということだ。葉も茎も根もすべて、粒の集合体だ。
さらにマナを集約する。流れが見えてくる。血の流れ、水の流れ、そしてマナの流れ、ゆったりとしている、まるで大河を泳いでいるかのように錯覚する。
マナは、いったいどこから生まれているのだろう。流れを遡る。
そして、僕は気付いた。マナの源泉をひとつに特定することはできない。マナは薬草を構成するすべての粒から溢れ出ているから。どの部分でもない。全体で生きているのだ。
小さな小さな光の粒達が、流れ、寄り、紡ぎ、極彩色の曼荼羅を描き出す。これが命。向かい合うとそこは、優しい光に包まれる。
手のひらには、マナを宿した小さな種があった。
「ユウキ、君はえげつないことをするね。」
「ん?なに?」
「…まさか知らずにやっているのかい?君はやっぱり面白いやつだな。天然かい?君は天然なのかい?」
「僕、なんか変な事した?」
「君は今、命を虜にしたのさ。」
「とりこ?」
「つまりさ、君がその命に関して、一切の生殺与奪の可能性を任されたということさ。その命は君の命令とあらば、命を賭してでも君の剣となり、また盾ともなる。言い方をかえれば、薬草は、君に服従を誓ったということになる。」
…ツッコミどころが満載なのだけれども…。
だって薬草だもの。
テッテテー。
ユウキは、スキル?『薬草剣』、『薬草盾』を手に入れた?
…。
どうすんのさ、これ!
「とりあえず、飲んどきな!」
僕は不意を突かれて全く抵抗できなかった。この薬草の種のようなものを、ジャンヌに口の中に突っ込まれた。僕はただ飲み込むしかなかった。(泣)
テッテテー。
ユウキは薬草を虜にした。
んー、何が何やらさっぱりわからない。
「…っていうか、ジャンヌも同じ事やってただろ。なんで僕だけ?」
「私がやったのは、薬草を小さく固めてマナを練り込んで定着させただけだよ。」
「え、マナを練り込んで定着?それ、できるんだ。」
「まさかこんな結果になるとはね。ユウキ、君は僕の想像を斜め上に2段ジャンプで越えてくる。…ほんとにおもしろいよ、君は。…欲しくなっちゃう。」
ゾクリとした。一瞬のことだったが、ジャンヌを取り巻く空気がドス黒く豹変したように見えた。自分の目を疑った。目を擦って再び目にしたジャンヌは、元の通りのジャンヌだった。
ジャンヌは、どこかの国の貴族のご令嬢のような容姿で、それでいて裏表の無い闊達な話しぶりで僕を魅了する。
「ユウキ、ゲームをしよう。」
そして僕は、ジャンヌには逆らえない。
主導権を握られっぱなしだが、それもまたいいと思う。
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