第11話 コンデコマン印って、なんなんだろう。
できた。
特訓開始3日目のこと、マナの操作ができるようになった。
両の手の間を左へ、右へ、集める、散らす、僕の意志で自由に動く。まだ何ができるわけでもないけど、楽しい。
ひとつ何かできるようになると、何か発見がある。発見があれば疑問が生まれる。僕は魔法のことを何も知らなかったのだ、ということがわかる。
マナを集中させる。ほとんどが僕の中から出るマナだが、ほんの少し空気中に漂うマナも手助けをしてくれる。
両の手の間にこぶし大のマナの塊ができる。
この塊の中には、空気がある、眼に見えないほどの塵や埃、それに極小サイズの生物がいる。小さな世界が拡がった。マナの操作が出来て得た発見だ。
限定された空間内に存在する物の詳細がわかる。目で見えているわけではないが、頭の中にははっきりとした映像で認識されている。
すごくワクワクする。何かいろんなことが、今までできなかったことが出来そうな気がするよね。よね。
空気中には水が含まれてる。この水を固定してみる。そして、周りの空気を入れ換える。あたらしい空気中の水も固定する。また周囲の空気を入れ換える。これを繰り返すとどうだ。予想通り、マナの塊が実体を持ったように、微細な水玉が目に見える形にまで大きくなる。湯気をよくよく見ていると、小さなブツブツが見えるあれだ。その小さな水玉を集めれば、大きな水玉になる。
テッテテー♪
ユウキは水魔法を手に入れた。
みんな、魔法はこんな風に使っていたのか。目から鱗とはこういうことかと思う。今までの感覚と全く違う。魔法で氷を作るときに、こんなに空気中の水に注目したことはなかった。というか、空気中に水があることを知らなかった。今までの僕の魔法は氷を召喚するような感じだったのだ。
僕の魔法を1回見ただけで看破した、そして的確な助言をくれたジャンヌとは、実はすごいやつなのではないか。
今度会ったら拝んでおこう。
ていうか、ほんとに来るのかな。ちゃんとナイフを返してくれるのかな。来ないなら呪うけどいいかな。いいかな?いいのかな?勇者の息子として…呪いとかいいのかな。やらないけどね。
さて、あとは何ができるだろうか。
風魔法はいけそうな気がする。両手の間、マナを左へ、右へと移動する。そこに空気を乗せてやる。丁度近くに小さな虫が飛んでいた。空気の流れにその虫を巻き込んだ。虫が空気の流れに溺れて、僕の良いように回されている。
ここで、ひとつひらめいた。
マナを集め玉の形に膜を作る。そしてそのマナの膜を小さくしていき、中の空気を圧縮する。拳大から砂の粒ほどの大きさに圧縮したマナの塊を水の中に投入。
パァーン!
マナを開放すると、甲高い音と共に僕の背丈ほどの水柱が上がる。
テッテテー♪
ユウキは風?魔法を手に入れた。
まだまだ、他にもいけそうな気がする。魔法研究おもしろい。世界で初めて魔法を使った人はこんな感じだったのだろうか。
…と、そこでハタと気づいた。僕の本分は薬師。求めるのは薬草学、薬学、調合学の研鑽の、より深みである。僕はこれでも薬師ギルドの会員なのだ。ここは本分に立ち返ろう。いかにもオアズケを食らった犬のような心持ではあるが、このモヤモヤは薬の研究にぶつけるのだ。僕は大人なのだ。
パァーン!
風魔法の応用で、薬草を圧縮して固めたら、薬草爆弾が出来上がった。これはやばいな。どんなドッキリだ。顎が外れるくらいでは済まなそうだが、1度マットで試してみようか。フフフ…。
いたずら心は置いとおいて…、やればやるほど発見がある。楽しい。ホントに何でもできそうだ。
って、言ってるそばから壁出現。
マナが定着してくれない。ジャンヌの作った薬草豆(勝手に命名)には、マナはそのまま残っていた。あれが理想だ、…たぶん。
ジャンヌが薬草豆を作った時、僕は直感でこれだと思った。これは薬草の新しい可能性だ。これを使えば、きっと今までにない画期的な薬を作ることができると予感したのだ。そう、それは師匠の、コンデコマン印を上回る、はず。
ジャンヌの薬草豆と同じ大きさの豆を作ることには成功した。薬草爆弾から空気を抜けばいいのだ。だがそこに重要な問題が1つ。空気を抜くのと一緒にマナも抜けてしまう。それでは意味がない。
物を圧縮して固めるのは、意外に簡単にできる。物だからだ。世の中のほとんどは物だ。この目には見えない、手で触ることもできない空気ですら物なのだ。だから固めることができる。
マナは違う。マナは物ではない。だから固めることができない。
改めてジャンヌという通りすがりの女の子の、技のすごさに脱帽する思いだ。
これでちゃんとナイフを返してくれるのならば、僕の中の尊敬する人ランキングで、お父様とお母様、それと師匠の奥さんのシャティアさんに次ぐ第4位に昇格してあげよう。当然、師匠は5位にランクダウンだ。だって師匠ってば何考えているのかよくわかんないんだもん。スケベだし…。酔っぱらって鼻の下が伸びている時なんて、最低なのだ。
…
んー。どうしてくれようか。
目の前には、僕の薬草豆が200個程山積みされている。様々な試行錯誤の副産物だが、これらは結果的にはすべて同じものでしかない。
嵩張らなくて良いよね。とても良い仕事をしているよね(現実逃避)。
ゴリゴリゴリゴリゴーリゴーリー。
僕は薬師だからね。基本だよね。傷薬を作るよね(現実逃避)。いくらでも作るよね。カリカリ豆になっているから加工も簡単だよ(現実逃避)。胡椒少々、塩少々(仮)。ゴリゴリゴリゴリー(現実逃避)。
傷薬がたくさん出来上がった。薬草密度濃いからコンデコマン印と同等品でイケちゃいそうだよ。とても良い仕事ぶりだよ(泣)。
お泊り特訓も、もう半分を過ぎてしまった。
なんでだろう。たぶん駆け出し薬師としては、なかなか充実の結果だと思うのだが、何か納得できない。高望みしすぎだぞ、僕。
欲をかくは、身の破滅…。
およそ1回のダンジョンアタックでは使いきれないほど大量の、そして高品質の傷薬。
さて…、何が足りないのだろう…。
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